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私はマップを見ながらシュティの後ろを飛んでいる。
寝てたからか満腹度がそこまで減ってないけど…。
『そういえばお昼は食べたの?』
『特訓の合間に』『私達だけで悪いと思いましたが頂きました』『食べたよー』
私が寝てる間に食べていたみたいだ。
と言うか特訓の合間って事は結構早い時間に着いていたのかな?
あれ、後ろから結構な速さでこっちに来るのがいる?
『みんな後ろから凄い速度で来るのが…、緑表示?』
『味方ですか?』
私に続いてシュティも振り返り辺りを窺っている。
ルナは一応武器に手をかけて後ろを見ている。
羽音と共に一匹の蜂が飛んでくる。
アレはタイラントクイーンワスプ・ガード?
『女王様の使いですかね』
『そうみたいだね』
「チュウカン チテン アキチ アンナイ キタ」
どうやら森の中間地点に拠点に良さそうなアキチがあって案内してくれるみたい。
私達は頷き合うと。
「「「「お願いします」」」」
頭を下げてお願いをした。
そこからはタイラントクイーンワスプ・ガードの案内でグネグネと曲がったりしながら進んでいく。
敵に会わないのは避けてくれてるのか避けられているのか微妙なところだけどね。
道は私達が進みやすい道を選んでくれてるみたいだ。
おかげでのんびり付いていくだけになっている。
今度メギーアー女王様にお土産もって御礼にいかないとね。
『そういえば二人はどんな成果があったの?』
『私は統率系スキルがポイントなしで取れるようになりました。効果はPTリーダーの時メンバーのステータス小アップみたいです。他にもちょっとした効果があるみたいです』
『私の方は連携スキル!同時攻撃や援護攻撃する時にちょっと威力上がるみたい。同じスキル持ってる味方だとさらにアップ!』
メギーアー女王様が言ってたスキルが手に入ったみたい。
言い方的にルナの方は予想してなかったみたいだけどね。
『へー、そうするとリーダーはシュティの方が良いのかな?』
『普段からシュティだけどね~』
『そうですね』
何言ってるのみたいな顔でルナが私の方を見て言いシュティが苦笑しながら頷いていた。
そういえばそうだったっけ?
ルナの連携はPTメンバー増えて来ると効果が出そう?
連携できる相手じゃないと効果が無いかな。
「そういえばシュティー」
「何でしょう?」
私がログインする前に考えてたことを話してみる。
内容はこの島のお金に関することだ。
ルナはちょっと提案を聞いてたから思いだしたみたい。
現状買い取りが安いのはギルドにお金が無いからだって言ってたと思う。
そこでギルドにお金を貸すか為替が使えないかなと言う事。
「すみません。私では判断できません」
「あ、そうだよね。変な事言ってごめん。ギルドで相談してみるよ」
うーん、こういう事は誰に相談すれば良いのかな?
ギルドマスターさんは見たことないしルガードさんでいっか。
そうこうしているうちにマップの端に着いたみたいだ。
「ドウゾ」
そう言われて進むとボス部屋では無く広い開けた空間に出た。
タイラントクイーンワスプ・ガードも一緒に来ているが端からこちらへ来る気は無いようだ。
「うわー、広いねぇ!」
「ホントですね。あの辺に花畑とかどうでしょう?」
「農業やる人誘って畑も欲しいよね!」
「卵などの安定供給に畜産もでしょうか?」
二人は色々欲しいものを話し始める。
とりあえず私は中心に飛んでいく。
『此所で使えば良いんだよね?』
『うん!』『そのはずです』
二人にPTチャットで確認してからアイテム欄を開く。
・結界珠
選択すると《使用可能なエリアを確認しました。結界を展開し拠点を設置しますか?》と表示される。
YesかNoが出るので迷わずにYesを選択する。
すると草地になっていた広い空間が光り始める。
一応私はある程度後ろに下がっておく。
結界珠を使用した広場の中心に小さな芽が出る。
それは爆発的に成長を遂げ大きくなっていきワジオジェ様と比べてもかなり大きいのではないかというくらい立派な大樹となった。
私この光景昔の映画作品で似たようなのがあって見た事ある気がする。
「おー」
それにしても水をかけるどころか何もしないでここまで一気に育つとゲームだなぁって実感するね。
ルナ達の方を見ると二人は大樹を見上げて惚けている。
「うわー」「大きいですね…」
二人とも口が開きっぱなしになってるので写真を撮っておいた。
後でこれを見せてからかおっと。
ガードは表情変わってない…と言うかわからないね。
でもちょっと雰囲気が優しそうな感じ?
ファエリは…あれ?
何か口をパクパクさせて驚いてるね。
そこまで驚くことが…って、いきなり小さな芽が大樹になったら驚くよね。
私は管理権限でどうなるか事前に知ってたしそこまで驚きは大きくなかったかな。
んーと、入り口は幹の此所かぁ。
思ったより広いし高さもあるね。
体格の大きい人や背の高い武器を持ってても普通に通れそうで良いね。
私が入り口を確認していると二人が近づいてきた。
あ、ファエリはシュティの肩に腰掛けて頭抱えてるね。
そんなリアクションされるとちょっと申し訳なくなるなぁ。
タイラントクイーンワスプ・ガードはこっちに来て私の方を向き頭を下げると帰るようで森の方へ飛んで行ってしまった。
あ、御礼に何か渡せばよかったかな?
私がちょっと考え事をしていると。
「ユキ様!自分がどれだけ凄いことをしたかわかってるの!?」
急に飛んできたファエリに肩を掴まれ揺さぶられながらそんな事を言われる。
何だかわからないのでとりあえず首を横に振る。
「何でわかってくれないのー!」
理不尽にもわからないことをわからないと伝えたら肩を掴む手の力が強くなり勢いよく揺さぶられることに。
ぁ、ちょっと気持ち悪くなってきたかもしれない。
ファエリの様子を驚いて見ていた二人が慌てて私とファエリを引き離す。
うぅ…、助かったよ。
もう少しで口から色々と出ちゃダメなモノが出てしまうとこだった…。
「ファエリ、私達はこの世界のことは詳しくないんです。何が凄いのかわからないので、説明してくれませんか?」
シュティが落ち着かせるようにゆっくりと言って伝える。
息を荒げていたファエリも落ち着いてきたのか私の方を見て失敗したと言うような表情をして目を彷徨わせる。
飛んでるのがちょっと辛かったのでルナの手に乗り氷像を抱えながら座り込む。
氷像大きくした分ちょっと抱え難いや。
「私は大丈夫だよ。それよりも教えてくれるかな?」
私がそう言うとファエリは目に涙を浮かべて上目遣いでこちらを伺うように見る。
笑いかけてあげると少し安心したのか涙を拭って顔を上げる
「だってこの大樹は世界樹だよね?他の大陸のは知らないけど北の大陸にあったのは戦争で失われたって言ってたのに」
「世界樹かぁ、このゲームだと複数ある可能性もあるんだね~」
「元ネタは神話の樹でしたか。多くの物語でも1本の方が多かった気がします」
ファエリが言うには失われたはずのモノが簡単に出てきたから驚いたって事かな?
シュティとルナが言ってるのは他のゲームと比べてって事みたい。
「失われたモノが蘇ったのはいいことじゃないのかな?」
あまり良くわかってないからファエリに聞いてみる。
私の言葉にがっくりとしながら歯痒そうにしている。
「う~。どうしてこの凄さがわかって貰えないのー!?世界樹だよ?世界樹!」
「世界樹はどんな役割をしているのですか?」
「えっと…、確かマナを生み出すの!」
あー、ファエリもあまり把握してないみたい感じかな。
世界にとって大切なモノなんだろうというのはファエリの反応で何となくわかった。
詳しく知らないのはきっと失われてから生まれたからなんじゃないかな?
所でマナって何だろ?
「マナって言うと大気中に漂う魔力みたいな感じだっけ?」
「そんな感じー」
疑問に思ってるとルナが答えを出してくれたみたい。
魔力を生み出す木って考えておけば良いのかな。
何か色々と用途がありそうだね!
「人間が世界樹を奪い合って戦争した結果失われたって聞いてるよ」
そう言われて私達は黙ってしまう。
人間の欲が原因で失われたモノはリアルでも沢山あったはずだ。
「1度は失われたモノが此所にあるんだね」
と言っても他の大陸には残ってる可能性があるんだっけ?
それでもやっぱり触れるくらい近くにその存在を感じられるというのは大きいんだろう。
「大事にしていかなくちゃいけませんね」
シュティの言葉に私達は頷いた。
「もしかしたら新しく妖精が生まれるかもしれないもんね!」
「「「え?」」」
「え?だってマナの濃いところで妖精って生まれるんだよー。ワジオジェ様は老いてマナを生み出せなくなってきたって言ってたしこの島だと此所ぐらいじゃないかな」
「えっと、その時はどうしましょう?」
「「その時考えよう」」
シュティの質問に私とルナが揃って先送りを選択。
妖精が生まれるとか今どうこう考えられないからね。
でもそうなってくると植物や生物にも影響が出てくるんじゃないかとちょっと不安になってくる。
それが身体に害があるかなんてわかんないからなぁ…。
ってそうだ、鑑定があるから良いのか。
さてとりあえず中に入ってみないとね!
「入ってみようか」
声をかけてから中に入る。
灯りはないと思ってたのに中に入ると天井にある水晶の様なモノがほんのり光り出して暗闇を照らす。
高さは3メートルほどだろうか思っていたよりも高いね。
それに通路の幅も2メートルぐらいあるかな?
人が二人並んで歩いても余裕がある感じ。
「魔水晶がこんなにあるよ!全部マナの影響を受けてできたんだよ」
ファエリのおかげで灯りは調べる必要もなく教えてくれた。
早速マナの影響ですよ?
もしかしてこの地下掘ると良い素材出てきたりしないかな?
と言うか世界樹さん育ってまだそんなに経ってないんだけど仕事しすぎなんじゃ?
「土…、この場合鉱石が変化したんでしょうか?」
「そうじゃないかなぁ…。もしかしたらミスリルなんてのも出てくるかも!」
シュティの疑問にファエリが相づちをうつ。
内容が気になったのか二人が反応した。
「「ミスリル!?」」
「シュティ、ミスリルと言えば魔法金属だよ!」
「えぇ、現状じゃ加工出来ないでしょうけどできるようになればエンチャントに耐えれる剣ができるはずです!」
余程嬉しかったのか二人は手を取り合って喜びはしゃいでいる。
「ミスリルってそんなに良いモノなの?」
「わかんないー。私達は金属類使わないからね~」
ファエリに聞いてもミスリルがどれくらい良いモノかわからなかったよ。
そのうちわかるかな?
どうしても気になったらルガードさんに聞けばいっか。
とりあえず通路を進んでいくと設定した通り大部屋がある。
高さは同じだけど広さは思っていたよりも広くて25メートルプール二面分くらいありそう。
広すぎる気はするけどエントランスには丁度いいかな?
大部屋の左右には通路がありこちらも高さが3メートル、幅2メートルほどある。
まずは左の部屋に行ってみることに。
小部屋って書いてあったから6畳ぐらいの部屋だと思ってたけど、これマンションの1戸ぐらいあるんじゃないかな?
確かに大部屋と比べれば小さいけど仕切りとか用意すれば一家族で普通に住めるよね。
反対の小部屋はルナ達が行ってたみたいで広さは同じだったみたい。
正直私達だけでは持て余す広さだよね。
「広いね」「広すぎです」「入居者募集する?」
私、シュティ、ルナと意見は同じようで広すぎる。
とりあえず大部屋に集まってるけどモノがないから寂しい。
「妖精さん」
「どうしたの?」
ちょっとシュティが言いにくそうな顔をしている。
何だろう。
「勝手に用意したのは悪いとは思うのですがこれを使ってくれませんか?」
そう言ってウインドウが開く。
アイテムのトレード画面だ。
表示されているアイテムは転移の魔道具のようだ。
「シュティ!」
思わず大きな声が出てしまったみたいでファエリとルナがこっちを驚いた表情で見ていた。
トレードを持ちかけてきた本人は予想をしていたのかいつもの無表情だ。
「妖精さんが言いたい事はわかりますが此所を拠点とする以上、真っ先に必要な物です」
言いたい事はわかる。
現状だと街との往復するだけでかなりの時間が掛かってしまう。
それに街から来るのにボスを倒さないと来れないというのは不便だ。
けどルガードさんはこれが五百万Gすると言っていた。
私も必要だと思って設置は考えていたけど値段を聞いてすぐには無理だと断念していた。
シュティはエンチャントに耐えれる武器の事もある以上お金は節約しないといけないはず。
「ちなみに私の手持ちはまだ1億Gを超えてます」
節約しないと…。
節約…。
シュティは節約する必要がなかったようだ。
自分の手持ちのGを確認して泣きそうになる。
桁が違いすぎるのだ。
「お姉ちゃん。私も二千万Gはあるから何かあったら頼ってね?」
もう一人お金持ちがいたよ!?
これがβテストプレイヤーの力なのか。
切ない。
此所を拠点にって言うのは私だけの問題じゃないし街にすぐ戻れるのは必須だ。
意地を張って受け取らないのは私だけの問題じゃなくて二人にも迷惑が掛かる。
泣く泣く受け取る事にした。
「妖精さん、こんなモノですけど普段の御礼です」
そう言われて首を傾げてしまう。
だって。
「私御礼を言われるような事してないよ」
「いいえ。オープン初日の夜に私はまた友達と呼べる相手が二人もできました。それ以外にも同志と言って良い相手が沢山できたんです」
「それは私じゃなくてシュティが自分の力で得たモノだよ」
そう言うもシュティは首を振って否定する。
「私はいずれ二人から離れてソロに戻るつもりでした。けどあの日、ユキさんに言われてβを始めたときの気持ちを思い出せたんです。ありがとう」
「今私の名前!」
「もう言いません」
シュティが私の名前呼んでくれた!
けどそれを指摘したらもう言わないって言われた悲しみ。
顔を赤くして照れているのかそっぽを向いているシュティは可愛いと思った。
でも名前で呼んで欲しいのにー。
「チームの事を言ったのも?」
いじけているとルナが質問する。
確かにチームの事を言われたのはあの日の街に帰る時だった気がする。
「はい。恥ずかしながら当時の私はいつも一人でしたので…」
「勧誘は受けてたって言う噂はあったけど?」
「正直に言うと誰も信じれませんでした」
「なるほどー」
チームかぁ…。
「ならチームを結成する時は此所に誘える人が増えてからだね」
そう言うと二人がしまったっと言うような顔をする。
そういえば始めはお金は出すし人はファンクラブから引っ張ってきて結成しようって言ってたっけ。
やっぱり実際に会って話してから一緒にやって行けそうな相手が良いかな。
何はともあれまずは転移の魔道具設置しちゃおうかな。
「チームの事は後回しにして転移の魔道具どこに設置しようか?」
「形状はどうするんですか?」
そう言われて管理権限の管理設定で転移の魔道具を登録すると設置可能数が1になった。
形状も複数種類があって選択できるみたいだ。
街と同じ噴水から女神像、鳥居や機械的な門など色々ある。
ちなみに噴水の水は魔力で生成され飲み水にできるらしい。
此所をエントランスにするなら噴水があっても良さそうだよね。
場所は大部屋の中央に決定っと。
と言うわけでポチッとな。
「噴水かー」
「触れば跳べるのでしょうか?」
ルナは予想出来てたのか何か考えてる様子だ。
シュティは転移がどうやったらできるのかぺたぺたと触って試そうとしている。
結界珠は噴水の上部に統合された様で噴水から自由に管理権限が使えるようになった。
今は管理設定を開いた時に気になった項目を確認している。
利用許可。
選択すると現在は限定公開になっている。
拠点内プレイヤーの項目に二人の名前が表示されている。
ファエリはシュティの契約対象だというのもコレで確認できた。
二人は現在ゲスト表記になっている。
これはこの拠点の機能を使う権利がないのではないだろうか。
ルナの名前を選択すると拠点の利用を許可するか確認された。
Yesを選択してみる。
表示がゲストからユーザーに。
「うわっ、急に拠点機能の利用許可が下りましたって出て転移するか確認がでた」
正解だったみたいだからシュティも許可する。
「これは…。管理権限ですか?」
「そうみたい。利用許可設定があったんだよ」
「なるほど-。許可が下りてなかったから使えなかったんだね」
「公開設定は限定公開になってました?」
シュティの質問に肯定のために頷く。
「試してみないとわかりませんがもしかしたら許可が下りてる人と一緒なら此所へ転移出来るかもしれませんね」
「試すなら調さんに頼めば?お姉ちゃんもそれなら良いよね?」
「うーん、調さんは大丈夫かな?とりあえず今日はもう街に戻っておく?」
「調はちょっと不安ですね…。戻っておきましょう」「ベッドとか家具を用意しないとね!」
反対はないようなので帰ろうと考えていると。
「私はこっちに残っててもいい?」
「どうしたんですか?」
「あのね…、もしユキ様が許可くれるなら主様の所に戻ってこっちに引っ越ししたい子がいるか確認取ってきたいなって…」
なるほど。
妖精としてもマナが濃い?此所の方が過ごしやすいのかな。
それなら…。
「心配かけちゃったし私も挨拶に行きたいからワジオジェ様の所にちょっと行ってから戻ってきて街に転移しようか」
二人が頷いてくれたので善は急げと移動を開始する。
ワジオジェ様の所に着くとあっという間に沢山の妖精に囲まれた。
みんな心配してくれてたみたいだ。
心配をかけた事に謝罪をして寝ているらしいワジオジェ様にも伝えて欲しいと伝言を頼む。
ファエリは世界樹の事を話して移りたい希望者がいたら後日一緒に行かないか誘っている。
一応ワジオジェ様にも伝えて貰ってその上でどうするか話し合って決めて欲しいと伝えておいた。
街で見たいモノが色々あったので急いでお暇する。
拠点に戻ると噴水の所へ移動する。
転移の為にアクセスするとPTで転移するか個人で転移するかの確認ウインドウがでた。
シュティやルナにも同じウインドウがでたみたいだけど操作はできないようだ。
拠点設備の利用にも優先度があるのかな?
今回はみんなで移動するからPTを選択する。
次第に噴水の水が淡く光り、周囲に光りが漂い始めていく。
その光が勢いを増して私達を包み込む。
一瞬の浮遊感の後私達は街の噴水前に転移してた。




