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特に会話のないまま森に入っていく。
私は気にしてないと言えば嘘になるけどルナは気にし過ぎて落ち着かないみたい。
シュティナさんは…。
先頭を歩いていて振り向かないからちょっとわからない。
前回来た時は私を撮りながら移動してただけに様子が違うのは嫌でもわかる。
このままだとダメだと思うから何とかしたいとは思うけど…。
『私の事気になりますか?』
急にそう言って振り返るシュティナさん。
その表情はどこか寂しそうに見える。
街ではずっと恐れられているような印象があった。
もしくは何をやるのかと面白がって見られていた。
親しそうに話していたのは調さんしか知らない。
私とルナは殆ど同時に頷いていた。
『私も最初は普通に遊んでいたんですよ。初めましてって挨拶して、PT組んで一緒にクエストこなしたり…。あの頃は楽しかった』
そう言いながら懐かしむように目を細める。
すぐに感情があまりでていない普段の表情に戻ってしまう。
『私このゲームを始める前は対人がメインのゲームばかりしてたんです。色んな人に挑んでは戦っていましたがしつこく特定の相手を狙ったりしてなかったし受けて立ってくれる相手だけを選んでました。それでもやり過ぎたのか目の敵にされることが増えていき日に日にやる気がなくなっていきました』
横目でルナを見ると初めて聞いた話だったのか動揺してるみたい。
『このゲームを見つけたのはそんな時期で始めてからはのんびり遊んでみようかと思ってプレイスタイルをガラッと変えて対人は止めてPTプレイを中心に楽しんでたんです。でも偶然なのかは理由はわかりませんけど以前のゲームで恨みを持っていた相手だとは思うんですけど私に対してしつこくPKして来る様になったんです。襲われる様になって組んでたメンバーも巻き込んでしまってからは揉めてPTは解散してしまいました。
それからはPTも組めずに孤立して狩りの途中でも襲われるし、まともに遊べなくなったんです。それでも止めきれずにコソコソと遊んでたある時、習得可能スキルが増えてることに気づいたんです。確認すると対人スキルだったんです。皮肉ですよね、対人をやめて普通に遊ぼうとした結果手に入ったのが対人スキルなんて』
私には想像もできないけど辛かったんじゃないかと思った。
私が見ていると顔を伏せてしまった。
シュティナさんが宙を操作すると共有ウインドウが表示された。
復讐者
・アーツ:強制決闘
自らが望んだ条件で相手と強制的に決闘を行う。
・決闘をする場合一部の条件が設定できなくなる。
・戦う相手によってステータスに補正が掛かる。
復讐対象:150% 罪人:120% 敵:90% 一般の異人:60% 住人:30%
対人に関しては事前にちょっとだけ調べた程度の知識しか無いんだけど。
狩り場や街の外で襲えばPKになるけど街中やセーフティーエリアでは決闘という機能を使って対戦することができてそれなら倒してHPが0になってもPKにはならないそうだ。
決闘は特殊フィールドが作られてお互い納得した条件を設定する事で勝敗条件を満たすまで戦える。
もちろん降参すれば特殊フィールドから元のエリアに戻れる。
装備やスキルだけじゃなくてステータスを対等にすることもできるらしい。
シュティナさんのアーツは好きなルールで決闘を強制的にする事ができるみたいだけど装備やスキル、ステータスを対等にはできないらしい。
これはスキルの効果で設定できなくなってるそうだ。
ステータスもスキルの効果が優先されるそうで弱体化してることの方が多いそうだ。
罪人って言うのはプレイヤーである異人とNPCの住人、関係なく罪を犯している人物が対象になるみたい。
罪に問われるのは基本的に街にある法律を破ったらダメみたい。
当然殺人は罪になるみたいでPKはこれに当たるそうだ。
それにしてもシュティナさんはスキルでモンスターが敵の場合だとステータスが下がるんだね。
硬くなったメープルベア切ってたのに。
『これを習得してからはプレイスタイルをこのゲームを始める前に戻してやられた分お返しをしました。ついでにPKをするプレイヤーを襲って死に戻った相手にスキルで追い打ちしているうちに魔剣の悪魔なんて呼ばれるようになってたんです』
俯いたままそう言って締めくくった。
私が口出ししていい事じゃないのかもしれないけど。
『シュティナさんがどんな思いをしたのかわからないし想像もできない。でも今は私達とPT組んでるし、これから仲間だって増えていくよ。だから付いてしまったイメージは変えれないけどみんなで楽しむためにプレイしよ?』
そう言うと驚いた顔で私を見ていた。
『対人をしたい時はちゃんと相手の同意を得てルール決めてやれば良いと思う』
『そうだね、お姉ちゃんの言う通りだよ!シュティナさんは大切なPTメンバーだもん』
『二人とも…』
シュティナさんはポロポロと涙を流しながら頷いた。
こんな時なのにちょっと思った事はゲームで涙も流れるんだね。
流石に口にはしないけど。
街からあまり離れてないけど一旦落ち着く為に、道から少し離れて森の中を進んでいき早すぎる休憩。
まだ敵が多いエリアには入ってないみたいで滅多に敵が来ることはないそうだ。
二人はまだ持っていた丸太を椅子代わりに座る。
私は二人の顔の位置ぐらいにある枝に腰掛けた。
『そういえば破壊者って二つ名は何で付いたんですか?』
ルナはふと思ったのかそんな事を聞いた。
何でもシュティナさんと会ったときは破壊者とは呼ばれて無かったそうだ。
PKに襲われそうになっていた所を助けて貰ってしばらくは面倒を見てくれていたそう。
ルナはこのゲームを始めてそんなに経っていなかったからシュティナさんとPTを組みたくてお願いをしたそうだ。
その時の答えはシュティナさんを倒せたらと言うモノだったそうで無謀にも挑み惨敗。
別れてからは強くなるためにずっとソロか野良PTで頑張ってて掲示板等はあまり見てなかったらしく最近知って不思議に思ってたらしい。
当のシュティナさんは気まずそうに目をそらしている。
触れられたくない話題だったのかな?
『それはですね…』
私達はシュティの言葉をジッと待つ。
言い淀むシュティナさんはの表情は言い訳を考えて焦ってるように見えた。
『えっと、言いにくいなら無理に言わなくても…』
ルナがそう言うと肩を落として首を振った。
『私も二人と一緒に遊びたいから隠し事はあまりしたくないので…。私は御爺様に身を守る術として剣術を習っているんです。最初の頃は辛いばかりだったのですがちょっとした事があってから夢中になったんです』
ぽつぽつと話し始めたシュティナさん。
正直何故お爺さんは剣術を教えれるんだろうとか身を守る術に剣術ってどうなのかなとか疑問が浮かぶ。
そもそも話し方からしてもしかしてシュティナさんって良いところのお嬢様?
でももしそうなら何で剣術を教えてるの。
『しかし現実では身を守る為とは言え習得した技術も使いどころがありませんでした…』
そうだよね!
実際に剣なんて持ってたら捕まっちゃうし、そもそも襲われるような事がそうそうないと思う。
『そこで私は剣を振れる環境を探したんです。そして見つけたのがVRゲームでした』
確かに覚えた技術とかって使ってみたくなる気持ちはわかる気がする。
それにしてもゲームを始めた理由が剣を振りたいからだとは思わなかったよ…。
『このゲームでPK狩りをしていたある日、御爺様から相手を無力化する方法の一つとして武器破壊を習ったんです』
ぁ、何か二つ名の理由が理解できた気がする。
ルナの方をちらっと見ると何とも微妙な表情だ。
『武器破壊と言っても鉄を切るとかじゃなくて如何に武器を使えなくするかって事です。武器だって欠けたり傷でも付けば脆くなります。そこに強い衝撃が加われば壊れるんですよ!』
何か説明に熱が籠もってきてる気がする。
私達の反応を見て冷静になったのか深呼吸し落ち着いた様子。
『私に勝ったら相手のPTに入ると言ってたから挑戦してくれる人が多かったんですが、つい武器破壊を試してしまいまして…。実際に狙った事ができたとき楽しくなって練習して色々試したりしてるうちにですね…』
『二つ名が付いちゃってたんですね…』
『はい…』
ルナも納得できたようで何とも言いづらそうな表情をしている。
武器を作るのには素材が必要だし時間とお金もかかるそうだ。
上を目指せばそれに比例して素材やお金も必要になってくる。
多分シュティナさんはどんな武器でも壊しちゃった。
やられた人は耐えられない事だったと思うけどそれを見た周りの反応は恐れるか面白がるかだったんだろう。
実際やられたらきっとショックは大きいだろうし、その武器に思い入れがあれば尚更だろう。
調さんが言ってた一番の問題プレイヤーの由来は間違いなくこれだろう。
『とりあえず武器破壊は今後しない方向で』
『はい』
私がそう言うとすぐに頷いてくれた。
やってるときは夢中になってて後で失敗に気づいたんじゃないかな。
そんな気がするから今は大丈夫じゃないかと思う。
シュティナさんは言い辛い事を言ってくれたんだよね。
『私はシュティナさんに感謝してるんです』
そう言うと二人はこっちを見た。
私を見てルナは言おうとしている事を察してくれたようで仕方ないと観念した表情をする。
『シュティナさんに初めて会ったとき私はゲームやらない方がよかったとか止めようって思ってたんです』
そう言うとシュティナさんじゃなくてルナも驚いた顔になった。
そういえばどう思ってたかなんて言ってなかったな。
ちょっと失敗したかなと思いつつ。
『あの時私のせいでルナは遊ぶ予定だった人と仲違いをして相手方にも迷惑を掛けてたからそう思っちゃったんです。元々ルナが誘ってくれなければやる事もなかったゲームでしたし』
そう言うとルナが顔をしかめている。
言いたい事はあるんだろうけど我慢してくれている。
『シュティナさんが連れて行ってくれてデメリットを殆ど気にしなくても良くなって思ったんです。この身体はハンデを持ってるけど克服して前に進む事ができてる。もしかしたら現実でハンデがあっても何かできる事があるんじゃないかって思ったんです』
そう言うとシュティナさんは少し迷った末に言葉を紡ぐ。
『どこか悪いんですか…?』
『下半身不随なんです。でもVRゲームって凄いですよね。ゲームの中でなら私も普通に歩いたりできるんですよ?』
ずっと向き合いたくなくて癇癪を起こしていた事を知ってるルナは今の私を見てどう思うだろう。
私がおどけるように言いながら空中で歩く動作をする。
『ゲームと現実の私を一致させてくれたラギさんとネガティブになっていた私を救い上げてくれたシュティナさん。ゲームに誘ってくれたルナには感謝してるんです。ありがとう』
『お姉ちゃん…』『妖精さん…』
私が思っていた事を伝えると二人とも涙を堪えるようにしていた。
何て言うかちょっとしんみりした雰囲気になってしまったかな。
『せっかく一緒にやっていくんだしシュティナさんは調さんに話すみたいに気軽に話してくれると嬉しいな』
そう言うとシュティナさんは目をパチパチと瞬くと少し思案した後頷いて。
『恐れ多いです』
そう言った。
え?
恐れ多いってどういう事!?
私が固まっているとルナがシュティナさんに声を掛ける。
『シュティナさんのことシュティって呼んでいい?』
『はい、私はルナと呼ばせて貰いますね』
『ぁー、じゃぁ二人とも私の事はユキと…』
『嫌です』『嫌』
妖精さんとかお姉ちゃんと言われ続けるのもアレだったのでそう言いかけたんだけど…。
すぐに断られましたよ。
二人はさらに仲良くなってる気がするのに何だろうこの疎外感。
『妖精さんもシュティって呼んでください』
『ユキって呼んでくれるなら』
そう言うとシュンと気を落とした様子で残念ですと言われた。
どうしてそこまで名前呼びたくないのかな!?
諦めるしか無さそう。
『はぁ、わかったよ。シュティ』
そう言うと表情こそあまり変わってないように見えるが嬉しそうにしてる気がする。
演技だったのかな…。
持ってきた飲み物を飲み終える。
私用のはルナが小さい容器に移してくれたモノだ。
『そろそろ進みましょう』
休憩は終わりと立ち上がったシュティにそう言われ私は飛びルナも立ち上がった。
その表情はとても楽しそう。
それに抑揚のない話し方だったのが少しだけ変わった様な気がした。
シュティに急かされる様に私達は歩き出す。
元の道に戻って歩き始める。
ゲーム内ではまだ昼前だし何があるか楽しみだね。




