七十八話 勝負の行方は
簡単なあらすじ『ログマ、〝アレ〟から脱出しようと企む』
起死回生の手段として、博士から譲り受けた例の袋を取り出そうとするログマ。
それに対し、博士は焦るばかりだった……最早どうする事も出来ず、優勢であっただけに、殊更に。
だが、その中で唯一。
キジカだけは微笑を浮かべていた。
……どうやら、彼女にはまだ。
そう出来るだけの何かが残されているようだ。
「へへへ、今更焦っても遅いぜ!!
アレをもう少し広げれば、俺なら何とか中に入れるだろうから、後はそこから…………あれ?
おっかしいな、確かここに入れたはずなんだが……」
しかし、そんなログマに変化があった。
どうやら懐にあるはずの小袋が見当たらないらしく、彼は尚も必死に手を動かし続ける……
だが、それでも探り当てる事が出来なかったようで、次第に彼の顔にあったはずの余裕は失われていった。
……すると、そこで漸くキジカが口を開く。
またその間、彼女は懐中を探り。まるでログマを真似るかのような仕草をしていた。
「ねえ、ログマ……アナタの探し物って、もしかしてこれかしら?」
いや、訂正しよう。
それは単なる真似事などではなく。
事実、そうしていたと言うだけであったようだ。
何故ならば、そうして彼女は。
ログマが持っていたはずの小袋。それを自身の懐から取り出して見せたのだから。
「なっ!?お、お前いつの間に……!?」
キジカの手にある小袋を見、再び唖然とするログマ。
「……まさか」
だが暫くすると、彼も気が付いたようだ。
キジカはあの時、自分からあれを掠め取ったのだと……そして。
「ええ、アナタに抱き付いた時よ。あの時に抜き取らせてもらったわ。
掏摸の方も、きちんとアナタから学ばせてもらったからね」
キジカからの返答を聞き、それを確信したログマは。
「ク、クソ!!俺とした事が!!マジかよ、畜生……!!」
「ねえログマ。次はどうするの……?」
「う……ぐ…………ったく。
分かった!!分かったよ!!
降参だ降参!!俺の負けだ!!」
遂に降参を叫び、自身の負けを認めるのだった。
つまり……この勝負。
キジカの勝利に終わったのである。
……いや。
勝負、だったのだろうか……??
とにかく。
遂にログマとの勝負(?)に見事勝利したキジカは。
「……遂に、遂にこの時が来たのね。
ログマ!!嬉しいわ!!
これでアナタとずっと一緒にいられるのね!!」
「お、おい!!いきなり抱き付くなって!!」
まさに大歓喜と言った様子でログマへと駆け出して行き、そして彼を思い切り抱き締めた。
ただ一方で、残された兵士達はと言うと……どうして良いのか分からないのであろう。
何故だか二人へと拍手を送り、何とも言えぬような空気のまま彼女達を讃える……すると、博士がギノックの肩に手を置きこう言った。
「ギノック、アタシ達はそろそろ部屋を出て行くとしようか。このままここにいるって言うのは野暮だと思うしさ」
そんな彼女の瞳にはもう、怒りの炎など無く。
むしろ瞳の奥には喜びの色が垣間見えた。
「……はっ!兵士達、解散!」
そして、それはギノックも同じであった。
彼もまた口元を綻ばせており、それは祝言を唱えるかのようにして歪んでいる……いや、その表情、様子からも分かるように。
事実として祝言は発せられていたのだろう。ただ聞こえぬと言うだけで。
とにかく。そうして皆は部屋を出て行き。
後にはキジカと、ログマの二人だけが残された。
しかし、彼女は抱き付いたまま何も言わず。
彼もまた、キジカの好きにさせているばかりで無言であり、場には沈黙が流れる……
それから少しして、落ち着いたのかキジカはぽつぽつと語り出した。
「…………でもね、ログマ」
彼女は今までログマの胸に埋めていた顔を上げ、彼の目を真っ直ぐに見つめ呟くように話す。
「ん?」
「ここまでしておいて言うのも何だけれど。
アナタがもし本当に嫌だって言うのなら、私は今すぐにでもアナタを解放するつもりよ」
王女はいつしか、すっかりと普段の調子に戻っていた……いや、それどころか何処か気後れしているようにも見える。
「確かに、会いたかったのは事実だけれど。
アナタの気持ちを無視してまで、連れ戻したいとは思ってないから……」
そこで遂に、彼女は表情にさえ曇りを見せた。
どうやらキジカは自身の発言。その後に続くログマの返答がどのようなものかと不安で、かつ恐れてもいたようだ。
そう、彼女は怯えていたのだ。
先のような表情、様子もそのためであったのだろう。
そして、そのようにして待つキジカへと。
寄越されたログマの返事は……
一つの溜め息から始まった。
「……はぁ。
それはまた、本当に今更な話だな」
彼がそう言った途端、キジカは顔に影を落とし俯く。
しかし、ログマがそれを止めた。
彼は右手をキジカの顎に当て、無理矢理に彼女の視線を自身へと固定したのだ。
「ロ、ログマ……?」
「キジカ……そんな顔するなよ。お前は俺に勝ったんだ。もう俺はお前のモノだ。
だから、何処にも行くつもりはねえよ。お前がそれを望むまではな」
そうして、ログマの答えを。
彼女の中にあった不安を乗り越え、恐怖をも打ち破ってくれた、彼のその返答を聞いたキジカは。
「ロ、ログマ……な、何言ってるのよ!!私がそんな事望むはずないじゃない!!
むしろ、ずっと側に置いてこき使うつもりなんだから今のうちに覚悟しておきなさいよね!!」
今度こそ、普段の調子へと戻り。
彼女はそう言い放ち、ログマへと溢れんばかりの笑みを向けた……
彼が、そう言ってくれたから。
支えが側にいてくれたからこそ。
だからこそ、漸くそう出来たのだ。
「………フッ、そりゃあ楽しみだ。それじゃあ、改めてよろしくな。キジカ……いや、女王様」
言い終えた後、ログマは王女の手の甲に口付けした。
するとその瞬間から、キジカの顔はみるみるうちに真っ赤に染まり始め。
彼女は焦るようにして再び彼を抱き締めた。
恐らくは、朱に染まる頬を隠したかったのだろう……
いや、違ったようだ。
彼女が真に隠したかったそれは。
嬉しさのあまり頬を伝った、一筋の涙であった。
場面は変わり。
そこには城内の廊下を進む、異質な影が一つ……それは博士だった。
「二人共、不器用だったけど……とにかく、これで安心出来そうだね」
兵士達とは別れたのであろう彼女は、一人ぶつぶつと呟き廊下を歩き行く。
「さて、それじゃあアタシは役目を終えた訳だし。いい加減故郷に帰るとするかな……もう少ししたら、キジカに伝えるとしようか」
だが、そんな博士の歩みを止める者があった。
「大変です隊長ー!!大変ですー!!」
「ん?あの子達は……」
彼女へと向けて直走るそれは。
年頃は二十を越えてはいないだろう。
どちらもが白い肌と、くりくりとした薄墨色の瞳を持つ双子らしき男女であった。
彼女等の声を耳にした博士は、そちらへと向き直り口を開く。
「ええと、確か君達は、騎士見習いのカイリとカイヤ……だったよね?一体どうしたんだい?
と言うか、見習いの君達が何でこんな所に」
しかし、双子は彼女の言葉を遮り。
まるで叫ぶように言った。
「そんな事言ってる場合ではないんです!!大変なんですよ!!」
「…………?」
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