七十七話 起死回生の策
簡単なあらすじ『ログマ、それでも行こうとする』
キジカの想いを知っても尚。
博士の話を聞いても尚。
ログマの決意は変わらず、彼が止まる事は無かった。
「……おいおい、ポンコツみてーな姿形したアンタが人間臭え事言うんじゃねえよ!!
とにかく!!そこ退け博士!!
これ以上俺の邪魔をするってんなら、例えアンタでも手加減しないぜ!!」
そうして、彼は毒魔法を放つべく構える……
「アンタの事だ、替えの身体なんていくらでもあるんだろう?だからよ、俺は本気でアンタをガタクタに変えるぜ?
キジカの……アイツのためならな」
ログマは一瞬、顔に悲哀の表情を浮かべる。
だがそれでも、構えを止める事だけはしなかった。
そう……彼は本気なのだ。そう決めたのだから。
しかし、一方でそれを見た博士はと言うと。
「……そっかそっか。
ログマ、お前の考えはよく分かったよ。
なら、アタシにだって考えがあるさ……さて。それじゃあ、選手交代といこうか」
ログマを、その毒魔法を恐れもしないと言った様子で。
淡々とそう言うと脇に移動し。
彼の視界。その正面に続く道を開けた。
「……は?選手交代だと?」
その意味が分からず、数瞬膠着を見せるログマ……すると。
「ん?」
時を同じくして、扉の先にあるのだろう通路からは、まるで地響きのようにも聞こえる程の大量の足音が聞こえて来た。
また、足音の群れはどんどんとこちらへ近付いているようだ……が。
それをログマが知る事となるのは。
無数の兵士達が三人のいる部屋へと雪崩れ込み。
そして、彼を包囲したその後なのであった。
「ま……マジかよ……」
じりじりと詰め寄る兵達。
それを見、唖然とするログマ。
緊迫した状態とは裏腹に、場には沈黙が流れる……いや、まるで狩りのような今だからこそと言うべきだろうか。
しかし、沈黙を破る者があった。
「遅かったね、副隊長。
危うくアタシは、コイツの毒魔法によってドロドロに溶かされてしまう所だったんだよ?」
博士だ。
彼女は扉の脇で佇んだまま、兵中の何処かにいるであろう者へと向けてそう言った。
すると幾人もの兵士達を掻き分け、ある者がログマの前に姿を現す……恐らく、彼が副隊長なのであろう。
「!?」
途端に、それを見たログマは酷く驚愕した。
妙で、異質だったからだ。
何せ、副隊長は鎧を身に付けた他の兵士とは違い。見覚えのある外套を着込み。これまた記憶にあるつば付き帽を目深に被った……例えるならば、そう。
ラコールで出会った、あの男と酷似していたのだから。
「あ、アンタは!?あの時の酔っ払い……!?」
そこで遂に、堪らぬと言った様子でログマは声を上げた。
「は!申し訳ありません隊長!」
だが、男はそれに構いもせず。
博士へと敬礼した後に外套を脱ぎ、帽子を手に取る……その時。
ログマはつい先程覚えた既視感……それとはまた異なる、別の既視感が呼び起こされた事に気付く。
そして、そんなログマへと。
変装を解いた男が、その正体を現して見せるのであった。
「この副隊長ギノック!只今『時間稼ぎ』の任務より帰還致しました!」
……そうして、ログマの中にあった疑念は全て解消された。
の、だが。
「酔っ払い……じゃ、なかったのかよ……」
それでも尚、彼の表情が晴れる事は無かった……とは言え、そうなるのも無理はないであろう。
……とにかく。
こうして、王手は掛けられたのだ。
最早逃げる事も出来なければ、倒す事も不可能。
何せ、兵士達に〝あれ〟喰らわすとなれば。
それはつまり、屠る事と同義……
「……ま、指示通りありったけの兵士を連れて来てくれたんだし。だからギノック、今回だけは特別に君を許してあげよう。
で……どうする、ログマ?いくら君でも生身の人間に毒魔法は使えないでしょ?」
「え!?ど、毒魔法!?」
「まさか隊長、私達を盾にしようと……!?」
……それを聞き、騒つく兵士達はともかくとして。
そう、博士も言ったように。今やログマの毒魔法は、無用の長物と成り果ててしまったのだから。
彼にはもう、降参という選択肢しか残されてはいないのである……
「……おいおい。
キジカ、お前って奴は。
本気の本気で俺を捕まえたいようだな……」
ログマも漸くその事を悟ったのか、困り顔でそう呟く。
そんな彼の背後にて、キジカが白い歯を溢した。
まるで子供のように。悪戯を成功させ、嬉々とする腕白な少女のようにして。
最早、ログマは自身の手中にあると信じ切っているのだろう……だがしかし。
まだ、そこまでには至らなかったようだ。
「……だが、詰めが甘かったようだな!!俺にはまだ〝アレ〟があるんだ!!
博士から貰った、あの袋がな!!」
ログマは起死回生の策として、懐からそれを取り出そうとし始めたのである。
「何……!?ロ、ログマ!!
お、お前、まだアレを持ってたのか!?」
その途端、博士は狼狽え始めた。
それも先程まで優勢にあっただけに、殊更に……が、無理もない。
ログマが取り出そうとしている布製の袋。
博士はそれを生み出した、張本人であるのだから。
その性能を。今だけは脅威と。そう、なり得るのを最も良く理解していからこそ彼女は焦っていたのだ。
「ああ……爆破こそしちまったが、それは内側の話だ!!本体は無傷だったから回収しておいたんだよ!!
こう言う時のためにな!!」
だが、最早どうする事も出来ず。
ログマはあと数秒もすれば、この場から逃げ去ってしまう事だろう……上官の様子を見てか兵士達にも緊張が走る。
「マ、マズいよキジカ!!どうしよう!?」
混乱のあまりか、博士はキジカへとそう叫んだ。
そうした所で、どうなると言う訳でも無いであろうに……と、思いきや。
「……キジカ?」
そのような状況にあるにも関わらず。
それでも尚、キジカは笑っていた。一切の焦りも無しに、彼女は微笑を崩さずにいたのだ。
……どうやら、彼女にはまだ。
そう出来るだけの何かが残されているようだ。
「へへへ、今更焦っても遅いぜ!!
アレをもう少し広げれば、俺なら何とか中に入れるだろうから、後はそこから…………あれ?
おっかしいな、確かここに入れたはずなんだが……」
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