七十六話 扉の番人
簡単なあらすじ「キジカ、ログマと再会する」
キジカの言葉を聞き、その胸の内を知ったログマ。
「お前、まだそんな事を……」
彼は苦虫を噛み潰したような顔で呟き、拳を握り締めた。
だが、それもそのはず。
キジカは……今や女王となった彼女は。
後ろ暗い過去を持ち、尚且つ必ずや女王の妨げとなるであろうはずの自身を未だに求めていたと。
そう、言うのだから。
「安心したわ、その様子なら忘れてはいないようね。
手紙の最後にあった、アナタからの言葉……あれのお陰で、私は作戦を決行する今日この日まで頑張れたのよ」
キジカは言葉を続ける。
だがしかし、これもまた彼の想いとは相対するものであった。
だからなのか、ログマは苦々しい顔付きのままだ……が、またある事に気付き彼は口を開いた。
「……ん?お、おい待て!
『作戦を決行する今日この日』だと……?
ま、まさかお前、結婚の話は」
すると……キジカは笑い、そしてこう答えた。
「ふふふ……気が付いたようね。
ええ、そうですとも。
それは私の広めた真っ赤な嘘よ。
アナタをこの国に誘き寄せるためのね」
そこでまたログマの顔が曇る。
今や自身が幸福であると隠し切れず、顔や様子で彼へと表して見せるキジカとは真逆に。
「…………ったく。
いい加減、自分の立場ってもんを理解しろよな」
「え?何か言った?……まあ良いわ。
とにかく、よ。
さあログマ、これで私の言う事を……」
「いや、そいつは出来ない相談だな」
「え?」
そして、次の瞬間。
ログマは動き出す……彼は再び自身に伸ばされたキジカの手を躱し、その勢いのまま後方にある扉へと駆け出して行ってしまったのだ。
「生憎、まだ俺は捕まっちゃいねえ!ここに召喚されたってだけだ!だから行かせてもらう!
あばよキジカ!
俺の事はさっさと忘れろ!
次はもっと良い男を捕まえるんだな!」
「ま、待ってログマ!!」
あしらうように言いつつも、彼の横顔には覚悟の色が滲んでいた。
行かなくては。
自分はここにいてはならない。
彼女の側にいてはならない。
横顔は、そのような想いによって彩られていた。
だが。
そんな彼を見、俯くキジカは。
微笑みを浮かべたままであった。
そう、ログマの拒絶……それだけで彼女の笑みが途絶える事は無かったのだ。
「…………なんてね。
全く、どれだけ一緒にいたと思っているの?
アナタがそうするのなんて既に予想済みよ」
しかし、その微笑は、思惑は……何がためであったのだろう?
結果として、ログマは何事も無く扉へと辿り着いたのだ……キジカの発言を聞いた今となっては、その結果には肩透かしを喰らったような気分とさせられてしまう。
まさか予測はすれども、対処するだけの余力は残されていなかった。と、いう事だろうか?
そして、ログマはそこに錠があるのを知ると。
「な!?……ったく、俺を逃すつもりは無いってか?
こっちはただ祝いに来てやっただけだっつーのによ!!」
自身の毒魔法によってそれを溶かし、扉を開けてしまった。
「よし、後はこのまま……痛ッ!!」
だが、キジカの言葉の意味はそこで漸く判明する。
何故ならば、ログマはそれ以上進む事が出来なかったからだ。
それどころか、正面から現れた〝何か〟によって不意に頬を殴られた彼は驚きのあまり、受け身も取れず床に尻餅を付いた。
「な!?あ、アンタは……うぐっ!!」
しかしその〝何か〟は間髪を容れず、追撃のもう一発をログマへと加える。
「い、痛え……一体、何だってんだよ……」
そうして二箇所を痛めたらしきログマは。
左手を頬に、右手を腰にやり、不憫な事にもそのまま暫くの間動けなくなってしまうのだった……
逃げ出した先で二発を喰らい、床に倒れ込むログマ。
すると、それを見たキジカは面を上げ、ゆっくりと彼に近付いて行った。
いや。
正しくは扉の前に立つ、ある人物の元へと。
そして、そんなある者とは…………
「ふふふ、流石の働きぶりね。
オルストランド国王近衛兵隊長兼、国立研究所長…………フィロール・サモンズ博士!!」
そう、博士だ。
ログマの逃走を食い止めて見せたのは、今やそのような肩書を持つ彼女であったのだ。
「〝臨時〟を付け忘れてるよ、キジカ。
それと、フルネームで呼ばれるのはちょっと……普通に博士で良いって、いつも言ってるじゃないか……」
キジカに名を呼ばれ、博士はそう言う。
次に彼女はログマへと視線を向け、性悪との再会を喜んで……いるかは分からないが、話し出した。
「やあ、久し振りだねログマ。
聞いての通り、アタシはまた城で働き始めたんだ。
でもまあ、今に限って言えば『壊れた錠の代わり』をしてると言った方が正しいかもしれないね」
「知るかそんなもん!!それより博士……手前、二発も殴りやがって!!
一体、俺に何の恨みが」
しかしログマの話を聞いた途端、博士は興奮し始め。
「ログマ……恨みは無いが、殴る理由は二発共ある!!
一発はお前がいなくなったせいでアタシがその穴埋めをしなきゃならなかった分!!
もう一発は、うら若き乙女を泣かせた分だ!!」
「な、何だと!?……こっちの気も知らずに勝手な事言いやがって!!
いいからそこ退け博士!!アンタだって俺がここまでする理由は知ってるはずだろ!?」
「まあ、手紙は読んだからね。
それは……いや、そこだけはアタシだって理解してるさ。
でもね、ログマ……理屈だけじゃどうにもならないのが愛なんだよ!!
だからいい加減逃げるのは止めて、真正面から愛を受け止めるんだ!!
あの子の分も、お前自身の分もさ!!
キジカは、それを待っていたんだ。
ずっと、ずっと……あの子はお前を待っていたんだよ!?」
最後には叫ぶようにしてそう言い放つのだった。
そんな彼女の瞳にはいつしか、怒りの炎が宿っていた。
……そう。博士はログマとの再会に感喜などしてはおらず、むしろ憤怒をその身に隠していたのだ。
だが決して敵意などからきたものではなく。長きに渡り、女王の側にいたからこそ灯された。
女王の彼を想う心。
愛故の、怒りの炎を。
だが、それでも。
いや……だからこそ。
ログマの決意が変わる事は無かった。
「……おいおい、ポンコツみてーな姿形したアンタが人間臭え事言うんじゃねえよ!!
とにかく!!そこ退け博士!!
これ以上俺の邪魔をするってんなら、例えアンタでも手加減しないぜ!!」
そうして、彼は毒魔法を放つべく構える……
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