七十五話 彼女の本気
簡単なあらすじ『ログマ、ラコールにて乱闘か』
「何も言わねえって事は、やっぱりアンタらグルになって俺に何かするつもりだったんだな……?
ふーん、そうかそうか。
なら、こっちにだって考えがあるぜ……!!」
遂に怒りを爆発させ、短剣を手にしたログマは。
「ひぇええ……」
「じょ、女王様お早く!これ以上は、流石に……!」
怯え後退る店主と、冷汗を垂らしながら何事か呟く酔客へと短剣を向ける……
勿論、怒りの中にありつつも、彼は二人の命を奪うつもりなど微塵も無かった。
多少〝可愛がり〟の必要はあると考えてはいたものの、その後に胸中の一物を曝け出すのならばそれだけで充分だったのだ。
とは言え、他者からして見れば。
いや、どこをどう見たとしても、それは。
今にも人に切り掛かろうと迫る、狂気の男と映った事であろう……
「よし!今度こそ準備完了ね!
それじゃあ…………いくわよ!!
『オブジェクト召喚・改』!!」
「さあ、痛め付けられたくなきゃさっさと全部吐いて……」
ログマがそう言いかけた、まさにその時であった。
突如として彼は光に包まれた。
足元に現れた魔法陣がログマを照らしているのだ。
そして、次の瞬間には。
ログマの姿はそこから跡形も無く消え去った。
「……ふ、ふぅ。
助かった、危うく殺されるかと思った……」
「どうやら、間に合ったようだな……女王様のオブジェクト召喚は」
「もらお…………ん?
え……はぁ!?……こ、ここは何処だ!?」
踏み出した一歩の下。
そこに絨毯がある事に違和を覚え、ログマが周囲を見回すと。
ここは先程までいたラコールではなく、ある一つの部屋と気付く。また、その部屋は薄暗くはあったが、それでもはっきりと分かった。
その場にある品々がどれも高貴である事、質の良い事……最低でも、この部屋は貴族のものと見て間違いは無いだろう。
とは言え、それがどのようなものであったとしても。そんな事はどうでも良かった。
それ以上に、『今そこに己がいる意味』。
それがこそが今のログマを悩ませ続ける一番の問題であるのだから。
だから正確に言えば、彼にこの部屋が誰のものかを考える余裕などありはしなかったのだ。
「久し振りね、ログマ」
するとそこで、女の声が部屋内に響いた。
どうやらこの場所には、ログマ以外にも何者かがいたらしい……突然にも聞こえたそれに、彼は動揺する。
「え……?」
「会いたかったわ」
その時、部屋に明かりが灯された。恐らくは女がやったのであろう。
そうして、姿を現したのは……王女。
いや、現在は女王となったキジカなのであった。
「……は、はぁ!?
キ、キジカ!?何でお前が……!?」
「…………」
唐突に居場所が変わり。
目の前にはキジカが現れた。
そんな突然の連続にログマはすっかりと混乱してしまったらしく、彼は無言のまま立ち尽くすばかりだった。
だが佇むログマとは裏腹に、キジカは足早に彼へと近付いて行くと。
勢いも殺さぬままログマに思い切り抱き付き、そして抱き締めた。彼の手からは短剣が滑り落ちる。
「ふふふ……嬉しいわログマ。
アナタはあの約束をずっと守り続けてくれていたのね……『遠くから見守っている』って言う、あの時してくれた約束を……」
しかし、それでもログマは何も言わず。
彼が漸く動きを見せたのは、それから数秒後の事であった。
「…………って、ちょ!ちょっと待てキジカ!!
ここは何処だ!?お前一体、俺に何をしたんだ!?」
ログマは突然思い出したかのようにして声を上げると、自身に纏わり付くキジカの手を引き剥がすようにしながら後退りを始める。
すると、割りにすんなりと彼から離れたキジカは、淡々とこう答え出した。
「ここは私の自室よ。私の『オブジェクト召喚・改』でアナタをここに連れて来たの。
……どう?これで分かったかしら?」
「いやいやいや!全然分からねえよ!
そもそも、お前の召喚術は確か……」
「ええ、そうね。確かに今までの私は物くらいしか召喚出来なかったわ。
でもね……対象の位置がはっきりとしていて。魔法陣をしっかりと描いて。
最後に、博士の作った魔力増強剤を飲めば。
私にだって通常の召喚は可能なのよ!!」
言い終えた直後、先程まで泰然としていたはずのキジカの口元が僅かに綻ぶ。
どうやら、得意げになる内心が、そこで遂に外へと漏れ出てしまったと言う事なのだろう。
……が、そんなログマはそんな彼女を無視し。それどころか後退りをも止め硬直していた。
ある事に、気が付いてしまったのだから。
(対象の位置がはっきりとしていて……じゃあやっぱ、アイツらあの場所に俺を引き留めておこうとグルになってやがったんだな……
いや、コイツもか……わざわざこうして、俺を召喚するためだけに……)
あの店で起きた不自然な展開は、全てこのために講じられていたのだと。そしてその周到さに、とは言え大分粗くもあった計画に。
気が付いてしまったのだから、むしろそうせずにはいられなかったのだ。
そのために数瞬訪れた沈黙を破ったのは、やはりと言うべきかキジカなのであった。
「……まあ、でも。
魔力量も少ないし、素質も無い私はこれを会得するのにすらかなりの時間が掛かったんだけどね……
だけど、諦めたりはしなかったわ。
アナタを手に入れるためならどんな事だってする。そう誓ったんだから」
すると……そこで漸くログマが動きを見せる。
「お前、まだそんな事を……」
彼は苦虫を噛み潰したような顔で呟き、拳を握り締めた。
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