七十三話 誘われた男
簡単なあらすじ『ログマ、キジカの前から姿を消す』
ログマが姿を消し、キジカが女王となったあの日。
あれから丁度二年の時が経った。
場所は王都レブレスの外れ。
そこで見張りをする兵士との会話を終え、王の膝元へと一歩を踏み出した、ある男がいた。
男は太陽の下にも関わらず黒いローブで身を、顔を覆い。大きくは無いが小さいとも言えぬ程の背嚢を背負っている。
恐らく、商人であろう。
ただ、それにしてはやや軽装であるようだが。
男はまるで懐かしむように、王都のあらゆる場所を眺め、一歩一歩を踏み締めるように歩いた。
城を遠望し。次は街へと足を運び。
そこで見た活気溢れる市場、人々の笑顔、そこからも窺える〝豊かさ〟を目の当たりにし、彼は口元を僅かに綻ばせる。
すると、男は不意に懐へと手を差し入れた。
数瞬の後、彼の手にあったのは新聞……そして、そこにある記事には大見出しとしてこう書かれていた。
『泣き虫女王様ことキジカ女王、遂に結婚か』
男は散策を続けた。
そうして彼は大通りにまでやって来ると、ある店の前で足を止める。
店の看板には『ラコール』と書かれていた。どうやら、それが店名であるらしい……すると。
立ち止まっていた男は数瞬考えるような仕草をした後、その店へと吸い込まれてゆくのだった。
もしかすると、長時間の散策に疲労を覚えたのだろうか?……それは分からないが。
ラコールへと立ち寄った男は、大通りが最も良く見渡せるであろう席に腰を下ろした。
「いらっしゃい、何にしましょう?」
そんな彼の元へとやって来た、店名が刻まれた前掛けのようなものをした男がそう言う。
恐らく、店主であるのだろう。
その問いに対し、男はこう答えた。
「マスター……確か、ここには酒に近い色をした果汁があったよな?それを一つ欲しいんだが」
それを聞いた途端、店主の眉がぴくりと動く。
だがそれ以外には何の変化も無く……いや、正しくはそう装い。
「……はいよ、少々お待ちを」
店主はごく自然な風を、作り上げた様子を崩さずに返答をし、奥へと戻って行った。
何かしらの情を抑え切れぬのかやや早足で。
かつ不自然にも、〝偶然〟厨房の前にいた数人の兵士達に目で何かしらの合図を送りながら。
一体、店主は何をしようと言うつもりなのだろうか……?
その答えは、厨房の奥に貼られた一枚の紙切れにあった。
「やった……やったぞ……ほ、本当に現れた……
あの席で、しかも〝例のアレ〟を頼んだんだ……!!ああ、間違い無い!!あの男は……!!」
興奮する店主が真っ直ぐに見つめる先には、一枚の紙切れ。
「ロク・ログマ、アイツだ……!!
やった、やったぞ!!
これで女王様から報奨金が……!!」
……そう。
そこには以前の新聞から切り出された、ログマの人相書きが貼られていたのだ。
場面は移り、ここはとある一室。
薄暗く、静かなその部屋には今。
一人の女の声だけが響いていた。
「……そう、分かったわ。
なら予定通り、アナタはすぐ店に向かって頂戴。
ああそれと、マスターへの報奨金も忘れずにね。
こんな事に付き合わせてしまって申し訳ないけれど、頼んだわよ。
…………よし。
それじゃあ、始めるとしましょうか」
何かが、動き始めた。
などとは知る由も無い男…………いや。
ロク・ログマは今。
丁度店主から例の果汁を受け取った、まさにその時なのであった。
「お待ちどうさん、ご注文通りの果汁だよ」
「ああ……」
彼はそれを片手に取るも口にはせず、暫くの間は大通りに目をやる。
だが、今の大通りからは自身へと放たれる嫉妬の視線が無いと気が付くや否や。
ログマはやや不満そうにし、それを一息に飲み干そうとする……が、出来なかった。
彼を止めたのは、突然にも自身の隣へと座った。
外套を着込み、つば付き帽を目深に被ったある一人の男だった。
まるで脱力したかのようにどかっと腰を下ろし。他にも席は空いていると言うのに、何故かわざわざそのような場所に……ログマの顔が僅かに曇る。
「よう兄ちゃん!アンタも朝から呑んでるのかい?」
すると、男がログマへと声を掛けた。
どうやら酔客のようである。恐らくは果汁を持つ彼を同士と早合点し、それで接触して来たと言う事なのであろう。
それをログマも悟ったのか、彼は既にうんざりとした様子である。
だが諍いを起こすよりはと考えたのか、とにかくとログマは返事をした。ただし、大分面倒そうにではあるが。
「いや、俺はそう言うワケじゃなくてだな……ん?アンタ、どっかで見覚えがあるような……??」
しかし男に、既視にも似たようなものを覚えたログマはその顔を確認しようと彼を凝視し始めた……が。
「え、あ…………ハ、ハハハ!!
何も隠さなくたって良いじゃないか!!」
「いや、何か隠してそうなのはアンタの方」
「朝から酒の一杯や二杯、いや十杯だって呑んでも構いやしないさ!!皆もうお祭り気分なんだから咎める奴なんて誰もいねえよ!!」
男はそんなログマの肩をばしばしと叩いた。
察するに、彼はそれだけで全てを誤魔化そうと言うつもりでいるらしい。
しかし、そんなものがあの性悪に通用するはずもない……と、言う事も無かった。
「……!それって、やっぱ〝アレ〟があるからか?」
何故ならば、その話にログマが食い付いたからだ。
「勿論!!そうに決まってるだろう!!
何たって、今週末には女王陛下の結婚式が開かれるんだからな!!」
そうして、ログマの疑念は徐々に薄れてゆくのだった。
「場所は、分かってるから……
後は魔法陣を書いて……ここは、こうして……
……あ、間違えちゃった!
もう、早くしないといけないのに……!」
いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)




