七十二話 泣き虫女王様
簡単なあらすじ『キジカ、ログマの手紙を読み部屋を飛び出す』
通路を、城内を疾走し。階段を駆け降り。
キジカは漸く外部へと通じる城門にまで辿り着いた。
最中、自身へと声掛け、手を伸ばそうとする従者が幾人もいたが、彼女は見向きすらしなかった。全て振り払った。
その身をもって障壁となるべく、彼女の前に立ち塞がった兵士達も大勢いた。しかしキジカの剣幕を見、皆が退いた。彼女を誰一人として止める事は出来なかったのだ。
後は門をこじ開けさえすれば、外へ出れる。
とは言え、問題はそこからなのだが……手掛かりも何も無い今、とにかく走り続けるしかない。
そうしなければ、ここで足を止めては。
恐らく、彼とは二度と会えないのだから。
キジカは唇をきゅっと噛み締め、城門へと近付いて行った。
すると、そこに立つ人影がある事に気付く。
ただし、本来とは形状のやや異なる人影は…………博士だ。
城門の前。彼女が立ちはだかるようにしてそこに仁王立ちしていたのだ。
だがそれでも、キジカが足を止める事は無かった。
「退いて博士!!私行かなきゃならないの!!」
彼女は速度を保ったまま博士へとそう言う。まるで叫ぶかのようにして。
とは言え、例えそれで博士が退かずとも、キジカは走るのを止めはしないだろう……むしろそんな博士を押し除けてでも、彼女は駆けるつもりだった。
覚悟はもう、出来ていたのだ。
「ダメだキジカ!!城に戻るんだ!!」
しかし、博士の返答はただそれだけだった。
だがそれでキジカが止まるはずもなく、彼女は滑り込むようにして博士の傍を通り抜ける……直前、キジカの腕を博士が捕えた。
「キジカ!!アイツはもう」
「いいえ!!まだ諦めないわ!!……ごめんなさい博士!!」
「えっ!?……って、うわぁ!?」
その瞬間、博士は途端に姿を消した。
キジカが召喚術を彼女へと使用したからだ。
そうして博士はあらぬ場所へと召喚され、門前にはキジカただ一人となる。
そう、これで彼女の行手を阻むものは、何一つ無くなったのだ……キジカはまた、走り出した。
後は門を開ければ、それで……彼女はそうとばかり思っていた。
「やっぱりこうきたね、キジカ……頼むぞ兵士達!!」
付近にあった花壇へと墜落し、その身に土埃纏う博士がそう声を上げるまでは。
博士の号令が早いか、途端に大量の兵士達が門前に姿を現した。
そうして現れた兵士達は、ある者は門に錠をし。ある者は博士の救助へと回り。そしてまたある者はキジカの周囲へと迫り、瞬く間に彼女を取り囲んでしまうのであった。
すると、キジカの正面に立つ一人の兵が言った。
それは兵隊長、ギノックだ。
「いけませんキジカ王女!!貴女様がいな」
「退いて!!怪我しても知らないわよ!!」
しかし、キジカはすぐさまにそれを遮り。
次に魔法陣の描かれた方の掌を門前へ向ける。
彼女はまだ、諦めてはいなかったのだ。
そんな彼女はいつしか、大変な剣幕をもってそこにいた。こんな状況にも関わらず、一切として怯まず。
それはまるで、戦場に立つ戦士のような、修羅のような……とにかく、それはそれはもう、物凄い剣幕であった。
「……っ!!」
あまりの剣幕に、流石の兵士達も数瞬たじろぐ。
だが、見過ごす訳にはいかない。
そうしてしまえば、この国の王は……等と考え、気を改めたのだろう。
兵士達は再びキジカへと迫り、そして。
遂に彼女の動きを封じてしまうのだった。
「くっ……お願い離して!!離してよ!!
早くしないとログマがいなくなっちゃうのよ!!」
数秒後、キジカが叫んだ。
未だ兵士達を振り払おうと、必死にもがき続けるその最中に。
「それで良いのです!!
それこそがログマ様の望みなのですから!!
私やサモンズ様も、ログマ様に事情を聞きました!!
ですから貴女様を止めるため、兵と共にこの場所に待機していたのです!!
キジカ王女!!どうか堪えて下さい!!
これも貴女様のためなのです!!」
「嫌よ!!そんなの絶対に嫌!!お願い離して!!お願いだから離して!!離してよ!!
ログマ!!……ログマ!!
ログマ────!!」
籠の中の小鳥が最後に叫んだのは、自身の想い人の名前だった。
兵達の助けを借り、博士が漸く花壇から這い出た時。
その時にはもう全てが終わっており。
何も出来ずにいる兵士達の中で一人、ただ大声を上げて泣きじゃくるキジカ……今にも張り裂けそうな、彼女の背中だけがそこにはあった。
それを見、無言で博士は懐の手紙を取り出す。
「ログマ……確かに君の判断は、この国の未来を考えれば決して間違いではなかったと言えるだろうね。
だけど……それでも言わせてもらうよ。ログマ、お前は馬鹿だ。大馬鹿野郎だ……!!」
そして、彼女はその手紙をぐしゃりと握り締めた。
キジカが皆に連れられ城へと戻る途中。
兵士達は何故だか、門へと掛けたはずの錠が一人でに外れるその音を聞いたのだと言う。
だが、今にして思えば。
それは恐らく、小鳥の最後の〝あがき〟だったのだろう。
そんなキジカも観念し、何とか観兵式には顔を出した……の、だが。
案の定、顔を泣き腫らしたまま参加する事となり。
そのような顔の王女を見た人々は酷く驚いたそうだ。
その日から、民は彼女を『泣き虫女王様』と呼んだ。
六章 完
『終曲』に続く
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