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七十話 前夜

簡単なあらすじ『キジカ一行、王都へと連れ戻される』




激流のように三人へと押し寄せた衝撃の事実、それと大量の兵士達。


彼女等は理解する間も無くそれに流され、押し戻され……たちまちのうちに王都へ、そこにある城へと舞い戻り。


そして一行は、それぞれがあてがわれた一室にて。

明日に控えた観兵式パレードのため、そこで夜を明かす事となるのであった。


ちなみに、その際……皆が皆、終始信じられぬと言った表情を崩す事は無かった。


と言うより、出来なかったのだ。



「う〜ん…………何だか言い出し辛い雰囲気になってきちゃったなぁ。


アタシは故郷に帰りたいんだけど……」


寝台の上で天を仰ぎ、そう呟く博士。


……の、奥の一室にいるキジカは。


現在部屋に招いたログマと共に、同じく寝台にて横並びに座っていた。


ただし相も変わらず、表情はそのままだ。

二人揃ってぽかんとしている……すると、キジカが虚空へと向けて言った。


「私、本当に女王になるのね……でも。

色々と予想外が過ぎて何だか実感が湧いてこないわ……」


彼女はやはりと言うべきか、ぼんやりとしているようだ。


「俺もだ。今朝までは魔王を倒すつもりでいたって言うのに、結局何もしないまま指名手配は取り消しだからな……何か調子狂っちまうぜ」


次に声を発したログマもまた、彼女と同じような表情をしている……


つまりは二人共、未だ現状を把握し切れずにいるのだ。理解そうしたくとも、どうにも信じられないのだ。


目の前に怒涛のように、かつ突如として現れた。

衝撃のその事実が、展開が。


そうして、暫くは無言の時が流れる。

漸くそれを破ったのは数分後、声を発したのはキジカだった。


「……ねえ、ログマ」


「ん?」


「魔王討伐は無しになっちゃったけれど、これからも、私と……一緒に、いてくれたり、とか……


って、な、何!?

ちょ、ちょっと!?何なのよ!?」


予兆も無しにキジカが騒ぎ始めたのは、隣にいたログマがいつの間にやら自身へと顔を近付けていたからだ。


それは彼女の顔に、しかも息のかかる程度の距離であった。キジカが狼狽え、顔を赤くするのはむしろ自然な事だと言えよう。


……だが、間近にあった性悪の顔が随分と真面目であるのを知ったキジカは。


何処か違和感を覚え、彼へと問い掛ける。


「ど、どうかしたの?」


「…………いや、何でもない」


ログマからの返答はそれだけだった。


しかし、当然彼女の違和感がそれで消えると言う事は無く、むしろ……また、新たな違和感それが生じる。


言い終え、目を逸らす彼の横顔が。

一瞬悲哀のようなもので覆われたような、そんな気がしたのだ。


一体、この人は何を思ったのだろう……キジカはそう考えるも。ログマからの答えは無く、またそれを問いただす間も無く。


「じゃ、俺はそろそろお暇させてもらうとするか」


彼は部屋を出て行ってしまう……


それから、数分後の事であった。


何処か悲哀に満ちたような、覚悟を決めたような、ログマのあの横顔が忘れられず。


彼の後を追うため、キジカが立ち上がったのは。



「…………さて」


一方その頃、ログマはと言うと……彼は何がためにそうしているのだろう。


ロク・ログマ。この男は今。

自室の窓枠に片足を乗せたまま、目下に広がる景色を眺めていた。


…………どうやら、彼は城から抜け出すつもりのようだ。


「ログマ!!」


するとその時、突然にも扉が開け放たれ、そこから焦った様子のキジカが飛び込んで来た。


「キ、キジカ……!!」


思わぬ来客にログマもまた僅かに狼狽え、その動きを止める……そんな彼の服の袖を、キジカが掴んだ。


いつの間にやらキジカは涙を流していた。

だが、彼女は止めどなく流れ出るそれに構う事無くログマへとこう言う。


「ログマ、ここを抜け出そうとしていたのね!?

どうして!?どうしてなの!?私について来てくれるって言ったじゃない!!」


しかしログマは顔を曇らせたまま、ただ黙っていた。キジカはこう続ける。


「もしかして……私の事が嫌いになったの?」


「違う!!」


そこで初めて彼は声を発し、彼女から投げられた問いを強く否定した。


……そして、次にログマは。


「だったら、どうして……」


「その逆だからだよ!!」


「……え?」


「キジカ、照れ臭くてずっと言えなかったが……正直に言うよ。俺はお前の事が好きになっちまったみたいなんだ。


……だからこそ、俺はここを出て行く。

そんな奴がお前の隣いたら王配を決める時の邪魔にしかならないだろうし。


それに、俺は……まず第一として、元々は指名手配されてた野郎だって事には変わりないんだ」


彼女への愛を唱え。


また、それが彼女の障壁になるからこそ離れるのだと、そう語った。


……今度こそ、キジカにもはっきりと分かった。


彼の横顔に、そして今も。貼り付いていたのが悲哀であると、そう確信したのだ。


「なあキジカ、お前にも分かるだろう?


そんなモンが女王の側にいるってのが、民衆にバレたりでもしたら、お前は……」


それを知った今だからこそ、よりはっきりとキジカの目には映る……本当に、酷く悲しみに満ちたような表情をした、ログマのその面が……


すると、その時だった。


ログマの言葉を遮るようにして、キジカが彼を抱き締めたのは。

いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)

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