六十九話 敵襲
簡単なあらすじ『キジカとログマ、新たな旅を始める』
そして、遂に旅立ちを決めた彼女達は。
宿を引き払い、街とその東より続く『ハバリー街道』との境に並び立った。
「それじゃあ、いきましょうか!」
そう、出発の時だ。
…………かと思いきや。
先陣を切るはずのキジカが振り返りこう言う。
「と、その前に……博士。最後にもう一度聞いておきたいのだけれど、本当に来ないの?」
それは博士へと向けられた言葉だった。
どうやら、彼女だけが二人とは別の道を行こうというつもりでいるらしい。
「うん、悪いけど遠慮させてもらうよ。
キミ達を見ていたら、アタシも何だか久々に友人達の顔を見たくなってきてしまってね……だから故郷に戻ろうと思うんだ。
それに、家も壊されてしまった事だし……ね?ログマ?」
そんな博士の返事はこのようなものであった。
ちなみに、彼女から視線を向けられたログマは、頑なに目を逸らしたままだ……すると、再びキジカが口を開く。
「そう……分かったわ。
貴女もいてくれたら、心強いと思っていたのだけれど……そう言う事なら仕方ないわね。
それじゃあ、ここでお別れね……
今までありがとう博士、本当に助かったわ」
「礼を言いたいのはアタシの方さ、キジカ。
キミ達との旅は、なかなか楽しいものだったよ」
最後にキジカと博士は握手し、そうして別れの挨拶を終えたようだ……
次に博士は、再びログマへと視線を戻し言った。
「ログマ、キミと会うのもこれきりになるかもしれないね……そんな風に目を逸らしていないで、最後くらいアタシにその憎らしい顔をもっとよく見せておくれよ」
それを聞いた途端、ログマは弾かれたように振り向く。
「何だとテメ……って。おいおい博士、アンタ何て辛気臭い面してるんだよ。
俺達は腐れ縁じゃねえか、別れなんてもっと気楽で良いんだよ、そうだろ?」
「フフ、そうかもしれないね。
それじゃあログマ、キミも元気で……」
「…………アンタもな」
そして漸く、どちらともやり取りを終えた博士を背に。
キジカとログマの二人は。
今度こそ、新たな旅路への一歩を踏み出す。
はず、だったのだが。
新たなる旅路へと向けられた二人の爪先、その一歩。
それを止めたのは、突如として現れた大量の兵士達であった……三人は瞬く間に囲まれてしまう。
「な、何だ!?」
「わ、分からないわ!!……けど!!」
「やるしかないようだね……二人共!!
もう少しばかり一緒にいさせてもらうよ!!」
その訳も分からぬまま、とにかくと戦いに身を投じるべく構える三人……で、あったのだが。
彼女等を前に大量の兵士達は。
突然にも、そこにいた全員が跪いて見せたのだ。
「…………え?」
これには戦闘態勢となりかけたキジカ達も、唖然とするばかりであった。
……すると。
そんな兵士を掻き分け、隊の長らしき人物が三人の前へと現れ。
そして、すぐにこう言うのだった。
「キジカ王女!突然の無礼をお許し下さい!
ですが事は一刻を争うのです!今すぐこの馬車にお乗り下さい!ささ、御二方もご一緒に!」
その馬車はまるで風のように駆けた。
八つの蹄鉄から成る速度は、今にも景色どころか後方の四人をも置き去りにしてしまいそうにすら思えてくる……
一応言っておくと、その馬車とは当然ながらキジカ、ログマ、博士を乗せたものだ。残る四人目は馬の操り手、兵隊長である。
「本当に、どう言う事なんだよ……」
その馬車の中で、不意にログマが呟いた。
それに反応し、博士もまた口を開く。
「アタシに言われても、ねぇ……ねえ、隊長さん。
もう一度聞くけど、それは本当の話なんだよね?」
それは兵隊長へと向けられたものであった。
すると、鞭を振るいつつ兵隊長は言った。
「ええ、その通りです。
ベスカ王子が行方知れずとなってしまったのを聞き、王は一週間程前からその衝撃で体調を崩し、床に伏していたのですが……
看病虚しく、つい三日程前に息を引き取られてしまったのです」
オルストランド国王の訃報という、驚天動地の事実を。
そして、それはつまり……キジカが、この国の。
「それで、キジカが……」
「はい。王は逝去され、ベスカ様は行方不明……ですので、それからと言うもの。
我々は次期国王となるキジカ様をずっと探し続けていたのです……ああキジカ様、貴女様が見つかって本当に良かった……」
だが、当の本人が最もそれを信じられずにいるらしく、キジカはまるで反抗するかのように言った。
「で、でも!!私の身の上を考えたらよ!?
それだけで王になるなんて言うのは流石に……!!」
「キジカ王女!決してそんな事はございません!
実はベスカ様が城を発つ際、ある言伝を残していかれたのです。
それは……『私が行方知れずとなった折には、キジカを次期国王候補として保護せよ』というものでした。
そして、王もこの逝去なされた今。
貴女はもう、正式に女王となられるお人と言っても過言ではない……いえ、女王その人なのです!
さあキジカ王女、一刻も早く城へと戻りましょう!
すぐにでも新たな王を知らせる観兵式を開かねばなりませんから!」
しかし、そんな彼女も捲し立てるように兵隊長からそう告げられると、途端に勢いを失い呆然とし始める……すると。
兵隊長が今度は皆の方を向いて再び口を開き。
「おっと、そういえば自己紹介がまだでしたね!大変失礼致しました!
私はオルストランド王国、王都第五小隊体長の…………」
そして兜を持ち上げ、三人へとその面を露わにしようとする……
直後、キジカとログマは叫ぶように言った。
「……え、えぇ!?」
「あ、アンタは……!?」
だが、それもそのはず……現れた男は。
「ギノックと申します!……キジカ様、ログマ様、お久し振りですね」
あの抜け殻のようであったはずの男、ギノックであったからだ。
それを見たログマまでもが口をあんぐりと開け、そうして呆けたような顔をした者は馬車内に二人となった。
ちなみに、残された博士はと言うと。
「え、何?何なの?二人共、知り合い?」
暫くの間訳も分からず、ぼんやりとしたまま答えぬ二人へとそう呟き続けていたのだった……
「ねえ、ログマ……ギノックさんってもしかして」
「ああ……あの時は生気を失っていただけで、本来は腕の立つ野郎だったんだろうな……じゃなきゃこの短期間で隊長になんかなれやしねえよ」
「人は見かけによらないものね……まあでも、元気になったみたいで良かったわ」




