六十八話 もどかしいやり取り
簡単なあらすじ『キジカ、ログマを自室に誘う』
キジカとログマ。
彼女等は以前そうしたように、キジカがベッドに腰掛け、ログマが椅子に座り彼女と対面する……と言う形で、それぞれがその場に腰を据える。
「で?何だよ?話があるんだろ?」
直後、ログマが言った。
すると、それを皮切りとしてキジカは語り始める……
「……これからの事なんだけれど。
ログマ、私ね。ここからずっと東にある国の、『ザキ地方』って所に行こうと思っているのよ」
「……どうして?」
「そこにも魔王城って呼ばれているお城があるらしいからよ。そこにいる魔王を倒せば、今度こそ……」
だが突拍子も無いようなその話を聞いたログマは、是が非でも口を挟まずにはいられなかった。
「何!?魔王城だと!?
急に何言ってんだお前は!?
だって魔王はもう、俺達が…………ああ、そういや倒してはいなかったな」
しかし、そこには納得出来る理由があると言う事に気が付いたらしく、腑に落ちた彼は自ずと口を閉じる……キジカは話を続けた。
「ええ、だから私は追放同然のままだし、アナタも指名手配のまま……このまま王都へ戻っても、何かが変わるなんて事は絶対に無いと言い切れるわ。
だからこそ、そこで魔王を倒して私達は今度こそ英雄にならなくちゃいけないのよ……」
だが、何故だろう。
逡巡しているのだろうか。そこでキジカは話すのを止め、二人の間には暫しの沈黙が訪れる。
それから少しして、ログマが沈黙を破り言った。
「それで?まだ、言いたい事は残ってるんだろう?」
すると、彼の発言により漸く決心が付いたのか、キジカはこう返事をした。
「え、ええ…………ええと、その、だからね。
ログマ。アナタも、一緒に来てくれないかなぁ……って……」
酒にでは無く、目の前にした男に酔っているのか。言い終えた彼女の顔はいつの間にやら随分と赤く染まっていた……一方。
そんな彼女を見、それを聞いたログマはと言うと。キジカの頭にぽんと手を置き、ゆっくりと諭すように撫ぜながらこう言うのだった。
「……はぁ。
今更何言ってんだ、行くに決まってんだろ?
俺は何としてでも、指名手配を取り消してもらわなくちゃあならないんだからな。お前に途中で死なれたりでもしたら困るんだ。
それに、俺だってお前の事……」
だが突然にも、そこでログマは話すのを止めた。
それを訝しみ、キジカが顔を上げると……そこには。
恐らくは、キジカと同じく『目の前のもの』に酔っているのだろう。それを必死に隠そうとするも、彼女と同様顔を真っ赤にしてしまっているログマがそこにいた。
(それって、つまり……)
今度の沈黙にはどうしても抗えず、殊更に顔を赤くし見つめ合ったまま押し黙る二人。
それを破ろうと動くのは高鳴りを止めぬ互いの鼓動、ただそれだけであった。
……会話が再開されたのは。
それから、数分もの時を費したその後。
キジカが何とか、どうにかと言った様子で声を発したのだ。まるで心の臓が口から出そうになるのを、抑え切れずそうしてしまったかのようにして。
「な、なあに?続けてよ?
私の事がどうしたって言うのよ?」
だがしかし、ログマは。
「…………な、何でもない!
とにかく、仕方ねえからまた付いて行ってやる!
じゃ、じゃあまた明日な!!」
有耶無耶な返答、それだけを寄越すと。
そのまま、部屋を出て行こうと立ち上がった。
「わ、私だって!!アナタの事…………」
だがキジカもまた立ち上がり、声を上げ……は、したが。
それを防ごうとした勢い余ってか、はたまた先程彼が漏らしかけた想いに感化されたのか。
それは分からないが……その流れに任せ舌を動かしては、身の内全てを曝け出す結果になると悟ったのだろう。
「た、大切な……あ、相棒だと思ってるから!!」
以降は、本心とやや異なるそのような発言のみに留め。ばつの悪そうにして立ち去る彼の背をただ見送るのだった。
相も変わらず、赤面したまま。
そして、これは余談ではあるが。
キジカは勿論として、あのログマでさえも。
キジカの自室、その通路脇にてこっそりと聞き耳を立てていた博士に気が付く事は無かった。
とは言え、それが動揺のせいであるのは明白であろう……いや、もしくは。
酩酊のせい、だろうか。
「やれやれ、大の大人がこれじゃあまるで少年少女みたいじゃないか。
……ま、良いや。
それじゃあお邪魔虫は、頃合いを見て退散するとしようかな……」
それから三人は二週間程その街に滞在した。
次なる旅路へと向け、装備を、食料を、資金を……そのようなものを調るために、それだけの時を費やしたのだ。
そして、遂に旅立ちを決めた彼女達は。
宿を引き払い、街とその東より続く『ハバリー街道』との境に並び立った。
「それじゃあ、いきましょうか!」
そう、出発の時だ。
・ハバリー街道
キジカ達の住まうオルストランド王国と他国とを結ぶ街道、かつてその付近にある森に存在したと言う、巨大な猪のような魔物がその名の由来となっている。(だがしかし、現在は行方不明となっているようだ)




