六十六話 呆気ない幕切れ
簡単なあらすじ『ユア、ベスカを守るため自らを犠牲とする』
ユアを被検体とした実験。
それは彼女が力を得ると引き換えに感情を失うと言う、成功とも失敗とも言えぬような形で幕を閉じた。
結果的に、実験の代償として彼女は死んだ。そう言っても過言では無いような状態と成り果ててしまったのだ。
そんな彼女を国は持て余し、反逆の恐れがあると言って消そうとした。
だが、それを私が引き取った。
何とか周囲を説得し、頭を床に擦り付け。
くれてやれる物は全て擲ってでも。
それでも彼女を……ユアを我が物とし、自らの手駒とした。
……そうまでして彼女を手に入れたのは。自身の手元に置いておきたいと、そう思ったからだ。例え会話すら出来ぬのだとしても。
正直、ただそれだけで良かった。
実験の成功など、不死隊などどうでも良い。
私の目的はあの時既に達成されていたのだ。
ユアは……あの人は。
幼少の折、突然にもキジカと引き離され。
勉学と剣術に明け暮れる日々を強要され。
そして、国を統べる者とは何たるか……そればかりを私に叩き込もうとする周囲の者達とは何もかもが違った。
彼女は私にとって、もう一人の母のような存在だったのだ。
抑圧され、苛立っていた当時の私の前に、〝表向き〟は剣術指南役として連れて来られたのがユアであった。
聞く所によれば、彼女は孤児だったのだと言う。
勿論私は反発した。
そのような者が私に何を教えると言うのかと。そのような者の教えなど聞くつもりは無いと。
だが、彼女は私の反抗を真正面から受け止め。
そしてその上で真正面から捩じ伏せた。
まさかこの私が、頭を思い切り殴られるとは夢にも思わなかった……初めての体験だった。
しかし今思えば、そこには愛があったのだろう。
彼女はその後に、私を理解しようと努力してくれたのだから。
……そのような者は初めてだった。
いや、最初で最後であった。彼女しかいなかった。
それから、私は彼女と行動を共にする事が増えた。
彼女は時折、まるで子供のような顔をして笑った。
私の努力、成功、失敗……その度に彼女は笑顔を私へと向けた。
しかし、王族の中で初めて触れた〝その感覚〟に私は戸惑った。下々のそれと憎み嫌い、反抗を続けた。
だが、徐々に反発は影を潜めていった……彼女の愛と、優しさというものに触れ、少しずつ私の中の何かが解けていったのだ。
……いや、正直に言おう。
そのくらいの頃には、私は既に理解していた。
自分の中にある感情……母であって欲しいと願ったはずの女性にいつしか、恋心を抱いていた事を。
だが、彼女の視線はずっと。
あの騎士見習いだと言う男、ロク・ログマにあった。
とは言え、決して私に注がれていないと言う訳ではないが……それでも、許せなかった。
……だからなのか。
被検体となるのを受け入れた彼女が、ユアが……あのような結末を迎えた事。
その様を見、何処か安堵している自分がいた。
安心、してしまっていた……彼女はもう、私のためだけに動き、私の指示にしか従わず。
そして、私の事だけを見ていてくれるのだから。
そうだ、だからこそ私は……私は。
失敗作となった彼女を、私は手に入れたのだ。
もう、彼女はそこにいないというのに。
ユアの抜け殻に、無理矢理に彼女を見出すただそれだけのために。
「……だと、言うのに。だと言うのに。
それでもまだ、私は勝てぬと言うのか……フッ」
ベスカは回想を終えたようだ……かと思えば。
彼は自嘲するかのような微笑を浮かべた後、突然にも。
爆発寸前であろう博士と、そしてユアの元へと飛び込んで行った……彼もまた、ユアがそうしたのと同じように。
「えっ…!?」
「アイツ、何を…?」
一方でその意図が分からず、声を上げる二人。
すると、その声を聞いてかそこで初めてユアがキジカの方に視線を向けた。
しかもそれだけではなく、彼女は娘へと微笑んで見せたのだ。
「……!!お母、様……!!」
これにはキジカも動揺を隠せなかった……一方で、ベスカもまた。
だがベスカは驚きつつも、ユアを力強く抱き締め。
次にキジカ、ログマへと向けて言った。
「悪いな、お前達……この女は私のものだ」
……そう、この時にはもう。
自身と、自身の愛する者の最期を悟った彼は。
言葉を紡ぐという、ただそれだけの行為で最期を飾ろうと、そう決めていたのだ。
二人へと、見せつけるようにして。
……そうして、次の瞬間。
博士は自身を起爆し、続いて人形が誘爆し。
周囲には凄まじい程の爆風と爆炎が巻き起こった。
「お母様!!お母様ー!!」
「ダメだ、離れろキジカ!!お前も巻き込まれるぞ!!」
そこで僅かに手を伸ばしかけたキジカであったが。
彼女を連れてすぐさまに逃げ出そうとするログマに止められてしまい、それが叶う事は無かった。
「お母様も、アイツ…………お兄様も。
一体何だって言うの……もう、訳が分からないわ……」
だが、その代わりとしてなのかキジカはぽつりと呟く。
とは言え、事実として彼女には分からなかったのだ。
母の視線も。兄の言葉も。
そして、自身の目から涙が溢れ出る理由も。
博士を起爆剤として巻き起こった爆発は。
周囲を、人形達を、キジカの母を、兄を……
全てを焼き払い、その後に漸く勢いを止めた。
……それからまた数分後。
瓦礫の中からは博士が這い出て来る。
「ふぅ……何とか乗っ取り成功だ。
良かった良かった、無傷の人形を見つけられたお陰で予備を取りに行く手間が省けたな……」
どうやら、身体は現地にて調達されたもののようだ……彼女の呟きが何よりの証拠である。
そして、瓦礫から抜け出た博士は次に。
二人を探しているのだろう、周囲をきょろきょろとしながら歩き出した。
「…………おや」
だがそれも数分で終わり、彼女は足を止めこう続ける。
「これは魔力切れ……かな。
二人揃ってぐっすり眠ってるし……」
そんな博士の目前には、ログマとキジカの姿があった。
二人は今手を取り合い、壁にもたれかかるようにして静かに寝息を立てて眠っていた。
……と、その時。
キジカの瞑られた瞳から一筋の涙が流れ出、そして頬を伝うのを彼女は見た。
すると、博士は彼女を起こさぬよう、ゆっくりとした動作でその雫を拭いこう言う……
「……頑張ったね、王女様……いや、キジカ。
もう泣かなくても良い、キミは勝ったんだよ。
いや……キミ達、か…………」
それから暫くの間、彼女は二人をそのままにしておくのだった。
五章 完
『六章 涙のAubade』に続く
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