六十五話 ユア
簡単なあらすじ『キジカ、誤って博士を戦場に放り出す』
誤爆したキジカの召喚術によって、博士が渦中へと放り込まれてしまった……が。
「いや、こいつはむしろ…………」
それを知ったログマは、焦るキジカとは裏腹に。
冷静さを欠いておらず。それどころか何事かを考え、推し測り……そして、僅かに微笑んで見せるのだった。
……誤解の無いように述べておくと。
ログマの微笑は『彼が性悪だから』等と言った、〝普段通り〟の理由で生じた訳ではない。
まずそもそもとして、今はそのように意地の悪い考えなどしている場合では無い……そう、彼なりの考えがあってこその微笑であるのだ。
そしてそれは、今にはっきりとする事だろう……
「ログマ!ねえログマ!聞いてるの!?
ねえログマ、博士が……」
混乱のあまり、ログマに縋り付くキジカ。
だがしかし、ログマはと言うと。そんな彼女を放置したまま出し抜けに立ち上がり……直後。
ベスカ達の頭上に現れた博士へと向け、声を張り上げて言うのだった。
「聞こえるか博士!!
アンタならもう何となくは分かってるよな!?
これは〝あの時〟と全く同じ状況だ!!チャンスなんだ!!つまり、今のアンタにもあの時と全く同じ事をしてもらいてえんだよ!!
…………頼めるよな!?」
最後に、ログマは博士を見つめる。
すると博士は、そんな彼へと頷いて見せた。
彼女は渦中にありながらも、ログマの意思を汲み取り行動に移したのだ……そうして。
「……はいはい、勿論分かってるよログマ。
アタシが双子の転生者相手に戦った時と同じ事をすれば良いんだろう?……任せな」
博士はまるで猫のように空中で体勢を変え、ベスカへと向けて落下して行くと。
そのまま、彼を羽交い締めにしてしまった。
「しまった!!コイツはあの時の……!!」
流石のベスカもこれには動揺を隠し切れなかった。
彼にも、ログマの声は聞こえていたと言うのに……とは言え、それこそがベスカにとっての不運であり、ログマにとっての幸運であった。
再び響いた敵の声……むしろ、それが数瞬ベスカの足を止めた事によって。
彼は今、こうして博士に捕えられてしまったのだから。
しかし、慌てた所でもう遅い。
「さあいくよ!!
『故意的魔力暴走爆発』!!」
博士は主人を救うべく猛攻を始めたユアの剣を背中に受けつつも、冷静に自爆への準備を始める……
その最中、彼女はキジカへとこう言った。
「……今だよ王女様!!
アタシごとコイツをそこの人形達の中に放り込むんだ!!そうすれば流石のコイツでも無傷ではいられないはずだよ!!
安心して!!代わりの身体はまだあるからさ!!さあ、早く!!」
「で、でも!!ソイツには私の召喚術が……!!」
それを聞いても尚、躊躇するキジカ。
「だからアタシを狙うんだ!!
大丈夫、アタシの魔力増強剤を飲んだ王女様ならきっと出来る!!
さあ早く!!時間が無い!!」
だがそれでも、博士は説得を続け。
「わ、分かったわ!!…………えい!!」
そうして腹を括ったキジカの手より、ベスカは人形達の中に……と、その時だった。
危機に瀕した王子を、あのユアが。
死霊のような……最早それそのもののような彼女が。
突き飛ばして守り、直後に自らが博士の懐へと飛び込んで行ったのは。
「な!?う、嘘だろ……!?」
「ど、どうして!?」
彼にとっては師匠であり、彼女にとっては母である。そんなユアの思わぬ行動に驚愕するログマとキジカ。
だが、驚いていたのは何も彼女等だけではなかった。
ユアに救われ、解放されたベスカもまた。
成れの果てである彼女のした行為に先程以上の衝撃を受け、声も出せずにいたのだ。
だがそれでも、ベスカは絞り出すようにして言った。
彼を狙い現れた死神を自らが連れて行かんとする、ユアへ向けて。
「ユ、ユア……どうして、お前は…………」
しかし、当然ユアからの返答は無く。
彼女は博士と共に姿を消してしまう……
「お母様!!」
すると、今度はキジカが声を上げた。
先程の姿に何かを感じ取ったのだろう。彼女は思わず身を乗り出し、人形達の上に召喚された母親をただじっと見つめていた。
……が、ユアの視線はキジカには無かった。
そんな彼女の眼差しは。
最期と引き換えにして助けたベスカにも、博士にも無く……ただ一つ所。
「師匠……」
ログマへと注がれていたのだ。
そうして残された僅かな時の中で、抵抗もしなければ逃げ出そうともせず……
ただひたすらに彼へと目を向ける事を続けるユアを前にした王子。
「…………ユア」
そんな彼の脳裏には今、とある過去の記憶が蘇りつつあった……
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