六十四話 奥の手 2
簡単なあらすじ『キジカとログマ、魔力増強剤を〝二分する〟』
一方、ベスカとユアはその頃。
未だ王女が姿を消したその場で動かず、ただじっと時が過ぎるのを待ち続けていた。
だが暫くすると、ユアが動きを見せた。
彼女は一歩、また一歩と探るようにして歩き始める。
今となってはもう、戦闘のための人形と成り果てた彼女だが……だからこそ、そうしなければならない。
何としても標的二人を見つけ出し、戦わねばならない、倒さねばならないと、そう感じたのだろうか。
もしくはその身に刻まれた行動、それしか出来ないから……なのだろうか。
しかし、ベスカがそれを止める。
「待てユア、深追いはするな。
手負と言えど相手は実力者だ。加えてもう一人は、実力こそ足らぬがその術は小細工に向いている……下手に動けば思わぬ奇襲を受けるかもしれん、出て来るのを待った方が良い」
どうやら、ベスカはそう考えた上で静止を続けていたようだ。
彼はそのような自身の思考を、指示通り止まりはすれど、相も変わらず無表情でいる彼女へと告げた。
とは言え、彼自身も命令以上、つまりは説明の必要が無い事自体は良く理解していた。
ただそれでも、〝少し前の彼女〟を見たベスカは、どうしてもそうせずにはいられなかったのだ。
……すると。
彼の予測は正しかったと分かった。
『下手に動けば思わぬ奇襲を受ける可能性がある』と言う所までは。
数秒後、ユアの目の前には……博士と良く似たあの人形、それが突如として出現し、そして降り掛かったのだ。
間一髪でそれを躱すユア。
しかし、その人形は何かしらの液体によって犯されているようであり。
また落下の衝撃も相まってか、それは今すぐにでも破裂してしまいそうな、そのように何処か剣呑な気配を放っていた。
「これは、毒……?
…………ロク・ログマの操る毒魔法と召喚術とで、これを爆薬代わりにするつもりか。
ユア!すぐに離れるぞ!」
ベスカもそれを感じ取ったのか、彼はすぐさまユアを引き連れその場を立ち去る……
直後、人形は読み通り爆破し。
それを皮切りとしてまた幾つもの人形が中空より現れ、先程まで彼等のいた場所には岩と聖水の雨が降り注いだ。
そして雨師となったログマ、キジカの二人は。
「成功……したみたいね。
あの二人逃げ回っているわ。
それにしてもログマ。
アナタこんな方法をよく思い付いたわね……」
「ま、消去法みたいなもんだがな。
俺達の魔法が効かねえってんなら、対象を別にすれば良い……って感じでな」
移動を終えた先、つまりは人形の片隅にて。
次々に人形へと細工しながら、その様を観察しているのだった。
ベスカ、ユアへと注がれる人形の雨は、未だ止む気配が無い……と、その時。
「失望したぞ、お前達!!
私を正面から討ち取るのではなかったのか!?」
不意にベスカが虚空へと向け言った。
しかし、その顔に焦りの色は見当たらない。
恐らくは相手の位置を探ろうと敢えてそのように発したのだろう。
……すると、直後であった。
彼が待ち望んでいたであろう、ログマからの返答があったのは。
「勿論そのつもりだったさ。
だが、考えが変わったんだよ……俺達は、卑怯の方が性に合ってるからな!!
……な?お前もそう思うだろ、キジカ?」
「だから何で私まで……ああもう!吹っ切れたわ!
ええそうよ!!これが卑怯だろうが何だろうが、どうでも良いわ!!この戦いに勝てるのなら、それだけでね!!」
そうして、やや投げやり気味なキジカの発言も聞こえたその後。
再び、ベスカの頭上には幾つもの人形が出現する……それも、今度のものは殊更に量を増していた。
そのために敵の居場所を知るも、近付く事は出来ずにいるベスカ。そんな彼は眉根を寄せ、敵のいるであろう方へと舌打ちする。
……が、すぐにその顔には驚きの色が垣間見えた。
彼等のいるであろう場所、その後方に。瓦礫をよじ登りこちらへと向かい来る博士の姿があったからだ。
そして、そんな博士はと言うと……
目の前に突如として現れた異様な光景。
つまりは途端に中空へと人形が姿を現したかと思えば、それが鉄砲雨の如く降り注ぐその様……
二人が作り出したそのような様を見るも理解が追い付かず、ベスカになどまるで意識が向いていないと言った様子であった。
「……でも、まあ。
あそこまで召喚術を乱発しているとなると、恐らくは……王女様はあの魔力増強剤を飲んだって事なんだろう。
それでああやって……でも、何だかなぁ。
何か思っていたよりもやり方が豪快と言うか、荒々しいと言うか、雑と言うか……」
だかしかし、流石博士と名乗るだけはある……の、だろうか。
存外的を射た推測によって、彼女は現状を段々と把握しつつあった。
…………が。
理解を終えぬうちに、博士はまた混乱の渦中へと放り込まれてしまう事となる……
それは数秒後の出来事であった。
目前にて巻き起こる、珍妙な現象とも言えるような何か。それを何とか見定めようと、博士が周囲を見回していた時だ。
未だ掃いて捨てる程の数が残る、立ち並ぶ人形達。彼女はそこにキジカとログマの姿を見出した。
直後、すぐさま二人へと手を振って見せる博士…………
しかし、それが間違いだった。
「おや、あれは……王女様!
それにログマもいるじゃないか!
お〜い二人共!!お〜い!!」
「ん?……ありゃあ、博士じゃねえか?」
「あら、博士!!」
彼女の声を聞くと共に、そちらへと視線を向ける二人……だが。
キジカの掌に描かれた魔法陣は。
自らが意識を向けた博士を対象物と判断してしまい。
「良かった!貴女も無事だったの…………って、あっ!?」
「あれ?……何だか身体に、前と似たような感覚が……」
そうして、キジカの意思とは無関係に。
「わぁあああああ!?」
彼女の召喚術は銃弾の一つとして、博士を戦場へと放り出してしまったのである……
「や、やっちゃった……た、大変だわ!!
ロ、ログマ!!ログマ!!どうしましょう!?
こう言う時ってどうしたら良いのかしら!?」
数瞬後、自らの過ちを理解し慌てふためくキジカ。
しかし、そんな彼女とは裏腹に。
「いや、こいつはむしろ…………」
ログマは冷静さを欠いておらず。
むしろ何事かを考え、推し測り……そして。
僅かに微笑んで見せた。
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