六十三話 奥の手
簡単なあらすじ『博士、アロジェウスに勝利』
博士がアロジェウスに勝利し、彼女はキジカ、ログマ二人の元へと向かい始める。
一方その頃、キジカはと言うと……
彼女は物陰で聞いたログマの話を受け、ある事を決めたまさにその直後なのであった。
「…………………….それなら」
「キジカ?」
「……それなら、私に任せて」
「え……任せるったって、お前……」
戸惑うログマを前に、キジカが懐から取り出して見せたのは。
以前、博士から譲り受けたあの魔力増強剤であった。
「それは、博士の作った……」
ログマもそれに気が付き、ぼそりとそう呟く。
「そうよ、魔力増強剤。
随分と美味しくないみたいだからずっと飲まずにいたんだけど……とうとう、これを使う時が来たみたいね。
これさえ飲めば、私にだって……」
「キジカ、まさかお前……」
「……ログマ、アナタはここに隠れていて。
きっと、私が何とかして見せるから……」
ログマの予感は当たっていた。
そう、彼女はそれを飲んで自身の魔力を強化し。その上でベスカとユアを倒そうと言う腹積りでいたのだ。
全ては、彼を守るために。
今度は彼に代わり、私がこの人を守り抜いて見せるのだと。
だが、そんな事をすればキジカは恐らく……実力差は歴然であり、尚且つ敵は本気で彼女を殺すつもりであるのだから。
「ダメだキジカ!」
ログマもまたそう考え、彼女を止めるべく手を伸ばした……だが、彼女は微笑むばかりだった。
覚悟は決まっていたのだ。
最早、どうする事も出来ないのだ。
……これ以外の方法では。
「……え?ログマ……きゃっ!?
ちょ、ちょっと何するのよ!?」
次の瞬間、ログマが魔力増強剤をキジカの手から奪い取った。
「ま、待ってログマ!お願い待って!ログマ、アナタのその怪我じゃ……!」
そして、焦る彼女へと無言で微笑み返した。
……もしも、もしもこの戦いで二人のうちどちらかが死ななければならないのだとしたら。
それは自分で良い、自分であるべきだと。
ログマもまたそう覚悟し、最後の力を振り絞り立ち上がった。
「待って!待ってログマ!」
彼に縋り付くキジカ。
(多分、この人は死ぬ気だ……)
今の彼女を突き動かすのは、脳裏に浮かぶその思考ただ一つ……ただ一つだった。
すると……そこで初めてログマが言った。
「…………俺は。
俺は、お前の母親をあんな姿にしちまった……その償いをしたいのさ。ただそれだけだ。
キジカ、お前が何を思う必要も無い。これから先に起こる事に対して責任を感じる必要も無い。
ただ、無事でいてくれれば、ただそれだけで……色々とすまなかったな。
キジカ、全てが終わるまでここを動くなよ」
酷く悲哀に満ちた表情をして。
その直後、彼は魔力増強剤を口に含み入れた……が、途端に顔を顰める。
この状況ですらとは、余程不味いのだろう。
……と、その時だった。
「……今、はっきりと分かったわ。
私の気持ち……私は、私は。
例え償わなければならない罪があるのだとしても。
それでも、私はアナタと一緒にいたい。
離れたくない、傷付かないで欲しい、絶対に死んで欲しくなんかない……ずっと、一緒にいたい。
命を賭けてまで私を守り、そして想ってくれた、アナタと……!!」
出し抜けに立ち上がったキジカが。
鬼灯のように顔を赤くし、ログマへと接吻したのは。
そして、それは。
キジカは羞恥心により。
ログマは彼女のした行動、その衝撃によって。
脳裏に浮かぶ、何もかもが一度吹き飛んでしまったというのが最も大きな要因であるのだが……理由はともかくとして。
……そう。共に迷いなど全て捨て、再び歩き出そうと二人が決めたまさにその瞬間なのであった。
数秒後、二人の唇はそこで漸く別れた。
殊更に顔を赤くするキジカと。そして彼女の赤面……それが発する熱までもが離れてゆくのをログマは感じながら。
「…………」
ログマは無言でキジカを見つめる。
何故だか、今の彼女の頬はやや膨れていた……かと思えば、すぐに彼女はそこにある何かを飲み込む。
「う、うぅ…………本ッ当に不味いわねコレ」
……その発言から推察するに。
どうやらそれは、ログマが彼女から奪い取り。
そうして先程まで彼が〝有して〟いたはずの、魔力増強剤だったようだ。
そんな彼女の様子を目の当たりにし、今度こそ何も言えなくなるログマ……心なしか、彼の頬まで朱に染まりつつあるように見える。
だが、彼を気にせずキジカはこう続けた。
「……でも、これでアナタと一緒に戦えるわ。
さあログマ。
お兄……ベスカをぶっ飛ばして、そしてお母様を……アナタの師匠を、助けましょう。
私達、二人で……」
…………すると、自身もまた口に含んでいたものを全て飲み込み、ログマは。
「……良いのか?俺は、お前の母親を……」
「良いの!!」
いや、二人は。
「キジカ……?」
「さっきも言ったでしょう?もう忘れたの?
私は、それでもアナタと一緒にいたいの」
「キジカ………………ありがとう。だが、無茶だけはするなよ」
「フフッ、分かってるわログマ」
互いに互いの目をしっかりと見つめ。
少し笑い、再び手を取るのだった……いや、また取り合う事が出来たようだ。
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