六十二話 研究者の〝太陽〟
簡単なあらすじ『博士、アロジェウスが人道を逸れていた事を知る』
アロジェウスの手によって吹き消されたという、元部下達の命の灯火。
だが、それを代償にして新たに灯されるものがあった……そしてそれは、博士の胸にある怒りと言う名の炎。
憤怒は素早く燃え盛り、時が経つ程に勢いを増していった。
「何て、何て惨い事を……!!
アロジェウス……いや、ギーラ!!
君は……お前は!!嫉妬なんてものに踊らされて、そこまで堕ちたと言うのか!!」
しかし、アロジェウスは動じなかった。
彼の中の炎も、妬みを種として発火した心もまた。時が過ぎた今ですら、博士の中にあるものに劣らない程の熱を有していたからだ。
……少なくとも、本人はそう思っていた。
だから一歩も引く事は無かった。
今更、引き下がれなかった。
「黙れ!!それだって全てアンタのせいだ!!」
そうして彼の怒りは自身の拳へと移り。
暴れ狂う拳は瓦礫を、もっと言えば博士の隠れていた瓦礫を叩き。
壊し。弾き飛ばし。
たちまちのうちに博士を丸裸にした。
「さあ、フィロール先輩!!
そろそろ終わりにさせてもらうぜ!!」
だが……博士はもう、逃げ出そうとはしなかった。
隠れようともすらしなければ、敵に背中を向ける事も無かった。
そうしてただ、アロジェウスを目前に博士は身を震わせていた。
それは恐れなのか、はたまた怒りなのか……
しかし、答えが訪れるよりも先に。
アロジェウスの拳が無防備となった博士へと迫る……その時、驚くべき事が起こった。
何と博士がその拳を真正面から受け止めて見せたのだ。
あの逃げ隠ればかりしていた、実力差に怯えているとばかり思われた、博士が……
「何!?今までずっと逃げ回っていたアンタに、どうしてそこまでの力が……!?」
目を見開くアロジェウス。
彼はそう問い掛けずにはいられなかった。
すると、博士からはこのような返答があった。
「それはお前と戦う事に戸惑いを感じていたからだよ。
アタシの記憶の中にあるギーラ、お前は。
確かにアタシに反発ばかりしてこそいたが、それでもきちんと仕事はこなす真面目で勤勉な研究員だったからね……
でも、もう遠慮はいらないと判断した。
ギーラ!!
人の道を外れたお前には、アタシの本気をもって制裁を下してやろう!!」
そうして博士の怒号が周囲に響き渡るが早いか。
彼女がアロジェウスの襟首を片手で掴むと、数瞬後にはもう。
彼の両足は……宙にあった。
「……!?
い、いや、キレた所で実力は変わらねえはずだ!!
おい!!さっさと俺を助けろ!!」
途端に動揺を隠し切れなくなるアロジェウス。
だがそれでも彼はそう叫び、博士には鈴を鳴らし死霊が迫る。
「そうだ!!どの道二対一だ!!
さあ先輩!!やれるもんならやってみろよ!!」
……が、その目論見は早くも崩れ去る事となった。
「……模造・究極剣!!」
途端に博士の空いたもう片方の手の中に、剣に似た形の発光体のようなものが出現すると。
彼女はすぐさまそれを用い、死霊を刺し貫いたのだ。
すると、いとも簡単に。たったの一撃で死霊は影形も無く消え去っていった……博士も言ったように、それを可能としたのは究極剣。
それは神話に伝わる伝説の剣。
例え紛い物とて、それが彼女の手の中にあるのは。
もっと言えば、それを使えるのは……
これには流石のアロジェウスも驚きのあまり、ただ喚く事しか出来なかった。
「う、嘘だろ……!?あり得ねえ!!だって……だって、それは……!!」
彼の言った直後、博士の手からは光源のような剣がまるで照明を落とすかのようにして姿を消し。
そして、彼女は語り出した。
まるで当然のように、しかしアロジェウスにとっては衝撃の事実となる……ある話を。
「いいや、お前の想像通りだよ。
今の剣を扱うのも、仮初のそれを生み出せるのもみな『聖騎士』の専売特許さ。
属性で言えば文字通り『聖』……人格乗っ取り型転生者との戦いで優位となるのは勿論。
それが死霊とかだったら、殆どの奴を一撃で葬り去る事が出来るだろうね……今さっきやって見せたようにさ」
「うわっ!?」
そこで博士は掴み上げていたアロジェウスを放り、地に落ちた彼は強かに尻を打った。
だが、それだけで終わらなかった。
続けて博士は、空いた両掌の中で何やら黒い塊のようなものを作り上げると、それをアロジェウスに投げ付けたのだ。
そして、それは……何処かあの、性悪の毒魔法と良く似ていた。
しかもそれだけでなく、黒塊は性質すらも毒魔法と同様のものを有していたようだ。
それによって周囲に立ち込めた紫煙、それを吸い込んだ途端にアロジェウスは咳き込み、悶え始める……
にも関わらず、博士は話を続けた。
その場でただ一人、平然とした様子で。
「それと、こんな事も出来るよ。
これは毒魔法……本来、魔法使いが得意とする技の一つで、聖騎士には不可能な芸当だね。
ま、ログマのを真似てみただけなんだけど……」
するとそれを聞き、アロジェウスが横槍を入れた。
相も変わらず、咳き込みながらも……とは言え、彼にとってそれが何よりも大事であったのだ。
そう、確認だけはやらねばならなかったのだ。だから、口を開いた。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!!…………だから!!
だから……!!だから、なんでアンタが!!
聖騎士や魔法使いのスキルが無いと使えないような技を使えんだよ……!!」
そうして博士は再びこう続けた。
アロジェウスに背を向け、まるで自身の勝利を確信したかのようにして。
「……ねえ、ギーラ。
お前は転生者に詳しい。
だからこそ彼等の細胞を自身に取り込み、己を強化した……そうだろう?
なら、〝その上〟がある事だって知ってるでしょ?
お前も受けただろう儀式……スキルを手に入れるという儀式の、その先をさ」
「……ま、まさか」
「そう……その根っこだけとは言え、それを考案したアタシ自身が実行してないはずがない。そうは思わないかい?」
「……だがそれでも、二つ以上のスキルは入手出来ないはずだ。
儀式の時以上に転生者の細胞を取り込んじまったら、それこそあの死霊みたいに……いや、例えならなくても、それに近い存在になっちまうってだけなんじゃ……」
「うん、なるよ。
お前やベスカのような、『生身の人間』ならね。
だからアタシはこの身体を手に入れたのさ。
いくら弄り倒しても死なず、壊れず、活動を続けられる魔法生物という名の機械もどきに脳だけを移植して作り上げた、この身体を……
お前もそうしていたら、アタシに勝てたかもしれないね。まあ最も、そう出来ればの話だけど」
「ゴホッ、ゴホッ!!…………畜生。化け物が。
実力も、技術も上だってのに……そこに、狂気まで持ち合わせてるような奴になんか……
生身の人間が、勝てるワケねえだろ……うぅ!!」
そこで遂に、アロジェウスは地に頭を付けただ身を震わすのみの木偶と化した。
恐らく先程の毒が身体に回り、そうしている事しか出来なくなったのだろう……
「……確かにその通りだ。
アタシの所有するスキルはもう、両手だけじゃ数え切れない……この勝負、最初からお前の負けだったんだよ。
ギーラ、自分の実力を過信したお前のね」
すると、そんな彼を背に博士は歩き出した……
「その身体、無駄に頑丈なはずだ。死にはしないだろう……だけどその分、毒魔法もかなり強力なものにしてあるから、いつまでもそこで楽しんでいると良いよ。
アタシの元部下達の命を奪ったんだ。
それくらいの罰は受けてもらわないとね。
さて、それじゃあ二人を助けに行こうか……」
一瞬見せた悲哀の表情。
それを誰にも見られたくないがために。
『サモンズ・セレモニー』
・『サモンズの儀』とも呼ばれるスキル授与の儀式。
・二十歳になった者が王都にある慰霊碑の前で行う事が出来るという。
・またその儀式の際、それを受けている者は少しばかりのちくりとした痛みを感じるらしく、それは特殊能力を受け取る瞬間肉体に変化が起こるからだと言われているそうだ。
・ただし、それを受ける事が出来る者は優秀な冒険者、貴族、王族等に限られている。
※(ただ、口外はされていないが……ある程度良い身分の者が金を積みさえすれば、その限りでは無いようだ)
その実は慰霊碑の地下に眠る転生者達の骨髄を注入するというもの。スキルを入手し、ちくりとした痛みを感じる。それこそがサモンズ・セレモニーの実態である。




