六十話 一方、博士は
簡単なあらすじ『キジカ、ログマの前にはユアが現れた』
場面は移り変わり。
同刻、ここはキジカとログマの遥か後方。
そこには博士とアロジェウスの繰り広げる、もう一つの戦いがあった……
しかし、最早戦闘は戦いと言う形を成していなかった。
アロジェウスの命によって動く死霊だけが鈴を鳴らし、攻撃を続け。一方で博士は逃げ回っているのだから。これはもう狩りと呼んだ方が正しいかもしれない。
「う〜ん……流石に、元後輩と戦うのは気が引けるんだよなぁ……」
とは言え、博士にも何やら事情があるようだ。
本人の呟きによって僅かではあるがその理由が明かされた……が、だからと言って死霊の大槍が止まるはずもなく。
博士は逃走を続ける……
「おいおい先輩、さっきから逃げ回ってばかりじゃねえか!」
一方、そんな様子を眺めていたアロジェウスだったが暫くすると遂に口を開き、呆れたようにそう言った。
そこから推察するに、恐らくだがこの状況を彼は実力差が要因と考えているらしい……彼は言葉を続ける。
「まあでも、そりゃそうか。
死霊は転生者の魂を入れて作ったんだ。
いくらアンタが強かろうが、コイツには遠く及ばねぇ……
しかもその上、後に控えてる俺自身も転生者の細胞を取り込んでるんだからな、そりゃあ逃げ回るしかねえよなぁ……でもな、先輩。
〝それ〟はベスカ様も同じなんだぜ?
ついでに言えば『アレ』もそうだから、さっさと助けに行かねぇとやられちまうかもな!」
「…………」
すると、その話を聞いた博士は直後に足を止めた。
「へっ、動きが止まったな……チャンスだ!
どけ!!ソイツを殺るのは俺だ!!」
停止を動揺と、隙と捉えたその瞬間を。
アロジェウスは見逃さなかった。
彼はすぐさま死霊と代わり、博士へと飛び掛かって行く……それからの彼女には、彼によって齎された拳の雨が降り注いだ。
「なあ先輩、俺の作った死霊は強かったか?俺の拳は痛いか?……いや、聞くまでもないか!
分かったかよ先輩!
これが研究の成果だ!俺の全てだ!
室長がアンタじゃここまでの高みには来れなかっただろうが……俺には出来た!!出来たんだ!!
そうだ!!俺はもうあの時とは違うんだ!!
アンタよりもずっと強いんだ!!優秀なんだよ!!」
しかし篠突く雨の中からも、何者かの声が聞こえて来る……
両腕を盾にし、耐えるばかりかと思われていた博士がアロジェウスに返答を寄越したのだ。
「さっきから本当によく喋る奴だと思っていたけど……なるほど、そう言う事か。
ギーラ、いやアロジェウス。
君の得意としていた研究は確か、死霊術師ならではの魔術とか、召喚術の類いだったね。
そしてそれは、アタシが主に行っていた研究とは相対するものだ。
そこから導き出される答えは……そう。
君はずっと、待っていたんだね?
君にとって目の上のたんこぶであるアタシが、研究室を立ち去るのを」
その途端にアロジェウスが攻撃の手を止め、雨が滞る……博士はその一瞬を突いて瓦礫の中に転がり込むと、そこに身を隠した。
だが、アロジェウスは彼女を追わなかった。
面には歪めた顔を貼り付け、ただそこで拳を握り締める彼は。どうやら、怒りによってそうさせられているようであった。
「…………ああ、そうだよ!!
俺はずっとアンタを邪魔に思ってたんだ!!
アンタさえ、アンタさえいなければ……!!
俺の好きに研究が出来たはずなのに……なのに、アンタの方がデキると上の奴らは……クソッ!!
……でも、もう良いんだ。
俺は無事に室長の座を手に入れられたし。
それに、今こうしてアンタを無遠慮にぶっ飛ばせるんだからな!!」
しかし、次第に憤怒は原動力と変わり。
それによって再び動き出したアロジェウスの拳が。
付近の瓦礫を破壊し、飛散し。
今度は礫の雨として、博士へと降り注いだ。
「全く、性格は幼稚なままだな……でも、実力は本物だ。アイツがここまでとなると、王子はもしかして…………
ログマと王女様は大丈夫かなぁ……?」
博士はそう呟く……
博士の懸念は的中していた。
彼女とアロジェウスが戦うその一方で、こちらもまた王子、ユアと交戦するログマとキジカの二人は。
先の話による戸惑いと、本腰を入れたベスカとに押されてしまい、劣勢に陥っていたのだ。
特にログマの負傷は酷く、服と髪は乱れ、その隙間からは鮮血が滴り落ちているのが見える。
そしてそれは、今の今まで強者二人を相手にキジカを守りながら戦っていた事によるものでもある……しかし、それも限界に近付きつつあった。
とは言え、キジカもただ守られていた訳ではない。
彼女もまた、召喚術によってログマを補助し続けていたのだが……だがそれでも、彼を勝利へと導くには至らなかった。相手が強過ぎたのだ。
すっかりと弱々しくなってしまった彼の背を前に、キジカは顔を歪める。
彼女は今、補助しか出来ぬ自身に憎悪していた。もっと自分に力があればと、そう思っていたのだ。
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