五十九話 新手
簡単なあらすじ『キジカとログマ、もう一人の敵の存在を知る』
勝利の僅か手前というまさにその時。
ログマは王子の背後より放たれた魔法を受け、キジカのいた辺りにまで後退させられてしまい。
「ログマ!!」
「クソッ……まだ仲間がいやがったのか!!」
「その通り、お前達を始末するには適任の者だ。
さあ、出て来い……………………」
そうして、二人の前には。
新たなる敵が姿を現すのだった……
敵は女のような姿をしていた。
しかしその目に光は無く、また皮膚は所々爛れたように変色しており。それはまるで、アロジェウスと共にいた死霊のようであった。
そして、二人は女のようなそれに覚えがあった。
「「……!?」」
だからこそ無言だった。
と言うより、言葉が出てこなかった。
何故ならば………………ユア。
それは二人にとって忘れられるはずもない、ある存在の名前。
いくら二人の脳が理解を拒もうと、拒絶しようと。
その女を前にしてしまうと、どうしてもその名前だけが脳裏に浮かび上がって来るのだ。
そうだ。とうの昔に死んだはずの、母であり師匠でもある者の名前が……そんなはずは、そんな事はあり得ないと言うのに。
だが、沈黙を破りベスカが放った一言に、二人はある事を確信させられる事となる……
「紹介しておこう、彼女の名はユア。
以前はお前達にとってかけがえのない存在であり。以後はこの国に生きる全ての者達にとって唯一無二である存在の名前だ」
そう、嫌でも脳裏に浮かび上がる。
〝それ〟が真実であると……
それは、真実である。
今、目の前にいる〝あれ〟が彼女だという事も。彼女が利用されてしまったという事も。
だがしかし、これもまた真実の中の一つであろう。
『彼女が望んでそうしたはずがない』という事も。
理解した二人は直後に怒り、だが戦慄もし。そして、彼女等の中を激しくのたうつ感情を吐き出すかのようにして叫んだ。
「…………て、テメェ!!!言え!!言えよベスカ!!テメェは一体、師匠に何をしやがったんだ!!」
まずはログマが。
「そうよ!!話しなさいベスカ!!
さもなければ…………お前を、お前を、地獄に叩き落としてやる!!」
続いてキジカが。
それはまさしく魂の叫びであった。
だが、ベスカは殺意すら見せる二人をまるであしらうかのように淡々と返答する。
「落ち着け二人共。
まず勘違いしないでもらいたいのだが、これは私の一存ではない。
彼女が望んで受け入れた結果なのだ。
転生者の細胞を取り込み、自身が転生者と成り代わろうという実験……彼女は自らの意思でその被検体となる事を受け入れたのだ。
まあ最も、その実験は肉体こそ強化出来たが人格が消え、今は無感情にただ命令のみを遂行する機械と成り果てた、という……成功とも失敗とも呼べぬような結果となってしまったのだがな」
「いい加減な事言ってんじゃねえぞベスカ!!
そもそも、師匠がそんな実験に同意する理由が」
「それが、あったんだよ。
ユアは監獄に放り込まれ、死ぬ運命にあったとある者達の命と引き換えにその身を差し出したのだ……ああ、そう言えば確か。
ロク・ログマ。
彼女が救った者の一人は、そのような名前をしていたような気がするな」
「……………………え」
「……!?ま、まさか……そんな……!?」
そうしてベスカはログマの心を抉り、キジカを強く動揺させた。
事の真相という、今の二人にとっては最も鋭利な武器を使い。
だが、彼の話はそれだけでは終わらなかった。
「お前達、そう悲観するものではないぞ。
むしろログマ、お前にはその事でも礼を言いたいくらいだ。何しろ、彼女の協力もあって研究は大いに進んだのだからな。
あと数年もすれば皆が転生者に並ぶ程の実力と肉体を持ち、我が国の更なる領土拡大と平穏を齎すであろう、人格乗っ取り型転生者のみで構成された部隊、『不死隊』は必ずや完成する事だろう。
ロク・ログマ……これも全て、お前の助力があったお陰だ」
……今度の話はログマの胸を殊更に強く打ち、そしてまた深く、深く傷付ける。
一方で、それはキジカにも降り掛かり。
今の彼女には……どうしても。
傷心したログマの手を取り、支える事がどうしても出来なかった。
(お母様の死の元凶、それこそが……)
等と言う心にこびり付いて離れぬ。決して口に出してはならない、その途端に軋轢を生ずるであろう。
そのような思考、それが邪魔をするせいで。
しかし、それをベスカが見逃すはずもなく。
「紹介は済んだ……さあ行け、ユア。あの二人を始末するのだ」
彼の命によってユアは動き出し。
「…………畜生!!」
否応無しにログマは再戦へと身を投じる……自身の中に渦巻く感情に呑まれたまま。
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