五十七話 兄
簡単なあらすじ『博士がアロジェウスと共に姿を消し、キジカ、ログマの前にはベスカが現れた』
キジカ、ログマ、タイヨー博士。彼女等三人の前に突如として現れ、博士を襲ったアロジェウスとその死霊。
……と、もう一人の男、ベスカ王子。
そのような者達の存在を目の当たりにしたキジカは、恐怖こそ感じてはいなかったが……だが、それでも。
それを遥かに上回る驚きと、恐らくは間も無く訪れるであろう俄かには信じ難い……いや、信じたくもない事実。
そんなような風体を取り、並び立つ二対の敵を前に。どうしても、手の震えを抑えられずにいるのだった。
『……お前には酷な話だろうが、はぐらかすのはもっと酷だ。だからはっきり言わせてもらうがな。
……どちらも黒だろうぜ。
それも、ドス黒く染まってやがる』
以前した、ログマとのやり取りを思い出すキジカ。
「お、お兄様……ど、どうして、ここに……?」
気が付けば、声までもが震えていた……だが、そうなのだとしても。
その理由を、兄が黒か白かだけははっきりと本人の口から聞き出さねばならないと思い、彼女は何とか言葉を繋げ、まずはそう紡いだ。
そしてそれに、ベスカはこう答える……
「決まっているだろう?私の所有するこの『廃棄施設』で、秘密裏にお前達を始末するためだ」
「……え?廃棄、施設……?」
「意味が分からんようだな。まあ当然と言えばそうだが。
とは言え、それでは教え甲斐も無い。どの道ここが墓場となるのだ。冥土の土産をくれておいてやろう。
良いかキジカ?
本当は魔王など存在しない。
あれはお前達をここに誘き出すための嘘だ。
最も、この場所に民衆を近付かせないようにするためでもあるがな」
そうして、キジカの前には。
漸く『信じたくもない事実』、その一つが兄を介して姿を現すのだった。
「…………ねえお兄様、どうしてなの?
どうして、どうして……
何故、わざわざそんな嘘を、私に……!!」
キジカの手は未だ震えていた。
ただし、今のそれは湧き上がる怒りからくるものであった。
追憶に見た兄の姿……それは幻想であり。
今ここにいるのは羅刹。またそれが、彼女に刃を向けるという……悲哀など優に超え、最早残虐とすら言えるような結末に。
どうして、どうして行き着いてしまったのだろうと。嘆き、悲しみ……果ては怒り。そして、そう問い掛けずにはいられなかったのだ。
だがしかし、ベスカはあくまでも冷淡を貫き。
冷淡の証である無情に光る赤眼と、まるで機械のようにのみ動かされる口でこう答えた。
「どうして?決まっているだろう。ここでお前は〝表向きには〟魔王と戦い、そして死ぬ。
だが、それは名誉の死であるはずだ……それをお前にくれてやるためだよ。
最期くらいは例え一族の恥だとしても。
その者に名誉の死を渡したいという、私なりにお前を気遣った結果がこれだ。
……ただでさえ、お前の存在には迷惑していたのだ。
今まで私の前に立ち、首を刎ねられなかった事を感謝すると良い。
あの世でな」
「…………最後にもう一つ、教えてもらえる?
どうして、あの子達を……
パベーナとバベーナをあんな風にしたの?
……教えてよ、お兄様も知ってるんでしょう?」
「パベーナとバベーナ?……ああ、あの転生者達の事か。そうか、お前も知ったのだな……良いだろう、ならば話してやる。
あの時は丁度、生体を切らしていてな……かと言って、兵士達を使うのは憚られる……だから私は彼女達を選んだのだ。
ただ、それだけだ」
「…………うっ!」
彼が話し終えると同時に、キジカの目に溜まり始めていた涙はとうとうそこから溢れ落ちた。
ただし、悲哀によって憤怒が掻き消されたという訳ではない。むしろ彼女の中の憤怒は更に勢いを増し、熱く煮えたぎる程のものと化していた。
正直な所、魔王の有無……そんなものは今の彼女にとっては些末な事でしかなく。
それよりも、兄がやはり黒であった事。
彼にそこまで疎まれていたという事。
そんな幾つもの事実に対して再び嘆き、また怒りもした……彼女の目からはそのような感情が涙の形を取って零れ落ちたという、ただそれだけなのだ。
とは言え、全て流れ落ちた訳でもなく。
今も尚、身の内に渦巻く感情に当てられたキジカは強く、強く拳を握り締めそれに耐え続ける……
……と、その時だった。
怒りに打ち震える彼女の拳を、ログマがその上から自身の掌で包み込んだのは。
すぐさま彼を見遣るキジカ……すると、ロク・ログマは。
キジカに感化されたのだろうか、いつしか彼もまたその顔を怒りの形相へと変えていた。
しかもその上、ログマは殊更に強い怒りを覚えているようだ。
何故だか、キジカよりも。
この男は今何を思い、そうしているのだろう……?
だが、答えを探す間も無く。
そんなログマの表情に気付いたベスカがまた口を開いた。
「ロク・ログマ、お前もだ。
お前は国を裏切った身であるにも関わらず、転生者の秘密を知っていると言う唯一の者なのだからな。
いや、もう一人いたか。
ただ随分と見違えたようだが……まあ良い、お前達にも死んでもらうぞ。
あの時は見逃してやったが、今のお前にはもう何の後ろ盾も無い……悪く思うなよ」
最後にベスカは帯刀していた剣を手に取ると、その切先をログマへと向けた。
「……へっ、何言ってやがる。
死ぬのはテメーだ!!
ふざけた研究諸共終わらせてやるよ!!」
ごめんなさい、昨日は諸事情により投稿出来ませんでした(・ω・`)




