五十四話 涙
簡単なあらすじ『キジカとログマ、転生者との戦いに勝利する』
双子の最期を飾った爆炎を。
ただ物静かに、しみじみと眺め続けるログマ。
それからまた暫くすると、彼は爆炎に背を向け、キジカのいる木陰へと歩き出して行った。
「ロ、ログマ……博士が、博士が……
私のせいよ……博士……
そんな……どうして、そこまでして……倒すためとは言え……自分の、命まで……」
ログマの辿り着いたその場所で、キジカは泣いていた。
溢れ出る言の葉を秩序無く吐き出し。流れ落ちる雫を両の手で覆い隠すかのようにしながら。
「お前のせいなんかじゃねえよ」
そんなキジカにログマはそう声を掛けると、彼女の頭をゆっくりと撫でる。
しかし、キジカはすぐにその手を振り払った。
「どうして……どうしてよログマ!!
どうして博士をここに呼んだのよ!!アナタなら博士がこうするって分かっていたんじゃないの!?」
昂る感情の手綱を自身でさえも上手く握り、操る事が出来ないのだろう。
彼女は憤怒していたかと思うと再び泣き始め、その次は萎れ、最後にはその場で崩れ落ちる……直前、ログマが素早く彼女を抱き留めた。
そうして訪れた僅かな沈黙の後、彼は悲観する王女の耳元である話を始める。
「……キジカ、博士はな。
俺と初めて出会った時はまだ、一目で女だと分かるような姿をしていたんだ」
「え……?」
「だが、文書の存在を知った後からだ。
博士は解雇されたってのに、あの隠れ家でまた研究に没頭し始めてな。
で、暫く経ったらあんな姿になっちまってた。
一応訳は話してくれたが……それでも、アイツがそこまでする理由だけは、さっぱり理解出来なかったけどな。
……アイツはさ。
意外と正義感の強い奴だったんだぜ。
『何の努力も、汗も血も涙も流さず。
悪戯に人を使い動かす……そんな奴等が力を持っていたとしたら、どうなると思う?
言わなくても分かるよね……必ずその力は悪用され、国は徐々にソイツらに蝕まれてゆく。
そんなの、アタシはまっぴらごめんなんだ。堪らなく嫌なんだよ。それで苦しむのはいつも、何の罪もない者達なんだからさ』
博士の言葉さ……分かったか?
アイツは自らを兵器にして、その時が来るのをずっと待ってたんだ。そう言った奴等が現れた時にそれを倒して、弱い者達を守れるようにってな……だから俺は何も言わなかった。
いや、むしろ必ず呼び出してやるってくらいの気持ちでいたさ。アイツ自身がそれを望んでいたんだからな。
だからキジカ……ここは一つ、笑顔で見送ってやろうぜ?
自分の命まで賭けて転生者を倒した、立派な一人の研究者をさ……」
「…………そう、だったのね。
ごめんなさいログマ、アナタを悪者みたいに言ってしまって……
ならせめて、博士の冥福を祈りましょう……」
「ああ……」
漸く、キジカは感情を乗りこなす事が出来たようだ。
冷静となり、ログマと抱擁を交わした彼女の目にはもう、悲観の色は無かった。
身を寄せ合い、ただじっと事の終幕を噛み締めるように見つめる二人。
だが、その直後……観客は三人であると気が付く。
恐らくは橋が落ちるよりも以前から、そこに身を潜めていたのだろう。真向かいの木陰から突如としてギノックが姿を現したのだ。
「おや、アイツは……」
「ギノック……」
彼は何も言わず、未だ燃え盛る業火を。
業火越しの双子の姿を眺め続けていた。
……すると、その時。
二人ははっきりとその目で見た。
ギノック。
抜け殻のような彼の。
頬を一筋の涙が伝う、その様を……いや。
『そう言えば……何だっけ、アイツ。
確かギノックとか言ったっけ?
アイツ、別の部隊に移動させられないかな?
嫌いなんだよね……だってアイツがいると、覚えのない記憶が頭にちらつくんだもん。気持ち悪くて仕方ないよ』
『……若葉、泣いてるの?』
『うん……本当、ワケ分かんないよ……って、双葉もじゃん』
……どうやら彼が業火越しに見ていたのは、転生者だけではなかったようだ。
天幕の隅で聞いた転生者の話を、そして過去を……愛しき妹達の最期を。
そんな何もかもを受け止め、見届けた。
一人の男が溢した雫の行方を、二人は目にしたのだ。
ギノックはいつまでも、いつまでも見つめていた。
炎が勢いを落とし、やがて天へと昇るその時まで、ずっと。
キジカ、ログマの二人もまた、彼と同様にそうしていた。
散って行った博士の冥福を祈るために、そして。
「……ねえ、ログマ」
「ああ、分かってるさ。
俺達ももう一度祈ってやろうぜ。
パベーナと、バベーナの分もな……」
ギノックが愛した妹達のために。
キジカはまた涙し、ログマはそんな彼女の肩を今一度抱き寄せ目を瞑った。
「君達…………ありがとう。本当に……ありがとう……」
それから暫くした後ギノックがそう言った。
いつの間にやら彼は、しっかりとその瞳で二人を見つめていたのだ。
そして、その目には光が戻っていた。
それどころか笑っていた……だがしかし、涙を流したまま。
それから、どれだけの時間が流れただろう。
だがそれでも、二人は目を閉じ、互いの鼓動が伝わる距離にいた。
どれ程経とうとキジカが離れようとはせず。ログマは時は過ぎれど尚彼女の目から流れ落ちる、涙の終わりをただじっと待ち続けていたからだ。
「王女様、ログマ。二人共いつまでそうしてるんだい?あの男はもう行ってしまったよ?」
すると、そんな時だった。
抱き合う二人の耳に、博士のものと良く似た声が入り込んで来たのは。
「私、どうかしちゃったのかしら?何だか、博士の声が聞こえるような気がするわ……」
「どうしたもんかな……実は俺もだ。
もしかするとアイツ、ふざけた研究のやり過ぎで天国に行けずにこの世に留まってるのかもな……」
互いに幻聴を耳にしたと知り、囁き合う二人。
「アホか!!そんなわけないでしょ!!
て言うか死んでもないからね!?勝手に殺さないでくれる!?」
だが、再び聞こえる声と。
それが何故だか、間近で発せられているように思えたキジカは。
「また聞こえたわ……でも、気のせいかしら?
今の、何だか随分と近くから聞こえたような……?」
「いやいや、そんなはずないだろう?目を開けてみればすぐに分かるさ。
ほら、博士の姿なんて何処にも……」
ログマを伴い、同時に瞼を開く……と、そこに。
亡霊の姿がある事を知った二人は。
殊更に強く抱き合い、そして震え上がるのだった。
「ぎゃあああ!!出た!!化けて出やがった!!」
「ログマ十字架よ十字架!!十字架は持ってないの!?
あら?塩だったかしら……?とにかくログマ!!大蒜を早く持って来るのよ!!』
「いや、だから死んでないって……」
いいね、感想等受け付けておりますので頂けたらとても嬉しいです、もし気に入ったら…で全然構いませんので(´ー`)




