五十三話 決着
簡単なあらすじ『博士、時間稼ぎを完遂する』
……無理はない、無理はないのだが。
双子はある事を忘れていた。
だが、本来ならば。
天敵と出会し、それどころではなかったのだとしても。だとしてもそれだけは、それだけは決して失念してはならなかったのだ。
今目の前にいる天敵は、あくまでも尺稼ぎのための存在に過ぎないと言う事を。
「…………さて、ログマ。
時間稼ぎはこんなもんで良いかい?」
「ああ、充分だ。
ありがとよ博士!!お陰で粘度最大だ!!
喰らえ!!断罪の毒塊!!」
失念の罰……いや、天罰。
これはそうとも言えるだろうか。
まさに読んで字の如く、ログマの発言と共に。
突如として若葉の頭上に性悪の作り上げた水球のようなものが姿を現し、そして降り掛かった。
だが双子にとって、それを目にするのは二度目である。
つまりは過去に突破し、とうの昔に見切ったはずの。本人からして見れば、無意味かつ無価値な代物でしかなかったのだ。児戯にも等しいそんな魔法は。
だからなのか、またしても若葉がこれを避ける事は無かった。必要すら感じていなかった。
そうとばかり、思い込んでいた。
「しまった……若葉、避けて!!」
むしろ焦っていたのはまたもや以前と同じく、双葉ただ一人だ。
しかし、最早若葉は片割れへと返答すら寄越さず。
「ははは、わざわざ時間稼ぎしてまで何をするかと思ったら……またなの?
はぁ、ちょっとがっかりしちゃった。
これだったらその博士っていうのに直接戦らせた方が良かったんじゃないかな?
そんなの、私には通用しないよ?」
「馬鹿!!避けなさい!!避けなさいったら若葉!!」
そうして、若葉を再び魔法が覆う。
「大丈夫だって双葉。
こんなのさっきと同じで…………あれ」
だが、それは悪手だった。
若葉が転生者であるという事を加味しても、それでもだ。
何せその魔法は。ログマがこの戦い全てを博士に託してまで作り、練り上げたもの……彼の術中でも、最高峰と呼べるまでに昇華していたからだ。
……そう。例え使用する相手が転生者であろうと見劣りしない、曇る事の無いそれを。
経験の浅い、『ただ強い』だけの若葉が跳ね除ける事など、決して出来はしない。
「何、これ……前よりベタついて……動け、ない……」
彼女がそれに気付いたのは、毒塊を受けたその後であった。粘性の高い毒に纏わり付かれ、身動きを封じられた直後漸く。
「何してるの若葉!早く出て来て!早く!」
一方で外側からは、双葉がその毒塊を引き剥がそうと必死に手を動かすが、最早手遅れ……
彼女達にとっての敵は。
ロク・ログマは、既に動き出していた。
「今だキジカ!!博士を女剣士の真上に召喚するんだ!!」
すぐさまログマの指示が飛んだ。
驚きの事実を知り、今の今まで木陰にてあんぐりと口を開けたままであったキジカへと。
だが、彼女が召喚出来るのは〝モノ〟だけであったはずだ……戦いに焦り、それを失念してしまったのだろうか?
いや、この人に限ってそんなはずはない……そんなはずがないのだ。いつも冷静沈着でいて、尚且つ私を良く知るこの人ならば、絶対に。
「え?でも博士は……」
それを最も良く理解している当人、キジカは困惑の声を上げる。
しかし、ログマはすぐにそれを遮り続けて言った。
「安心しろキジカ!博士は魔法生物だ!
魔物でも人間でもない!広義的に言えばアイツは『モノ』なんだよ!
だからキジカ!!お前ならきっとコイツを召喚出来るはずだ!!
さあ頼む、召喚してくれ!!
アイツが囚われている今だけがチャンスなんだ!!」
……そして、それを聞いたキジカは。
正直な所、納得ではなくログマの気迫に押されたという形で。だが後にそれを信じ。彼を信じ。
「わ、分かったわ……ログマ。
アナタがそう言うなら……えい!!」
兎に角と言った様子で、再度オブジェクト召喚を行う……すると。
「ログマ……流石にその言い方はちょっと傷付いたなぁ……まあ事実だし、別に良いけどさ」
無事、ぶつぶつと何やら唱える博士が若葉の頭上へと姿を現した。
直後より落下を始める岩人形、もとい博士は。
次の瞬間、自重によって毒塊を突き破り。若葉の元にまで到達し。
最後に、何も出来ずにいる彼女を羽交い締めにすると言った。
「さあお嬢ちゃん!!これで終いだ!!
『故意的魔力暴走爆発』!!」
博士が言い終えた直後、途端にその身体は青白い輝きを纏う……そう。
自爆するつもりでいるのだ。博士は。
だが、そうとも知らぬ双子は。
単に『天敵の急接近、それと発光』という事象に対して怯え。そして、その先の未来を初めて恐れ、狼狽し。
「……!?」
若葉は声も出せぬまま毒塊の中でもがき続け。
「きゃ!?こ、これは一体……!?」
双葉は突如として、片割れのいるその中から放たれた閃光に視界を奪われ後退る……
すると、既に彼女の背後へと移動を終え、そこで待ち構えていたのだろう。
ログマが双葉の肩に手を置き、語り出した。
「なんだ?そこまでは知らねえのか?
だったら全部教えてやるよ。
『対転生者用生物』、その中身はなぁ……
…………聖水だ。
それもたっぷりと詰まってやがる。
でだな、博士は爆発して聖水をお前の相棒に浴びせようとしているんだ。しかも超至近距離でな。
何せ人格乗っ取り型の……まあ要するに、『他人の肉体を拝借してる転生者』ってのはほぼ死体みたいなもんらしくてな……
だから、お前達にとってアレは」
だが、ログマの言葉がそれ以上紡がれる事は無かった。
瞬間、その行為の意味を……その脅威を。
その全てを理解した双葉が言の葉を断ち切り、弾かれるかのようにして若葉の元へと駆け出して行ったからだ。
「若葉ぁあああーー!!若葉!!若葉!!若葉!!
早く出て!!早く逃げて!!早く!!早くして!!
何してるの若葉!!
若葉!!若葉ぁあああーー!!」
そうして、双葉と若葉の視線が合わさる…………まさにその時。
双子をより強い光が、直後に爆炎が包み込み。
全てが、まさしく本当に、そこにある何もかもが。
塵芥となって消え失せた。
「……元々、俺達の勝利なんてもんは絶望的だったんだぜ?
双葉も気付き、危惧したように。
自惚れた相方が攻撃を回避しないような性格だと、俺にバレさえしなければな。
そうじゃなければ若葉が俺の罠に嵌る事も、お前が道連れになる事も無かったんだ。
だが……もう遅い。何もかもが遅過ぎたんだ。
散々助言するくらい大切なアイツの元に。
お前はもう、行くしかなかった……両方助からないと分かっていてもな。
……この勝負、俺達の勝ちだ!!」
最後に、ログマはそんな言葉を。
燃え盛る業火へと放り捨てるのであった。
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