五十二話 研究者の〝タイヨウ〟
簡単なあらすじ『双子との戦いが再開された』
今度はログマ、博士の二人と、双子との戦いが仕切り直しを終え漸く再開された。そして、それをキジカは戦場の片隅にて見守る。
しかし、相も変わらず最短距離でその首を跳ねるべく迫り来る、慢心の塊若葉を前に。
「博士!大剣持ちの方をやれば俺達の勝ちだ!俺が隙を作るからアンタはその時に一発お見舞いしてやってくれ!」
「言われなくても!」
ログマと博士は短くそう囁き交わすと、すぐさま攻撃を避けるため二手に分かれた。
そうしてログマはキジカのいる木陰の脇に移動し、毒魔法を使用するつもりなのだろう、そこで両手を忙しなく操り始める。
だが一方で、博士はと言うと……
「あ、あれ?ログマ!?
『俺が隙を作る』って……今すぐじゃないの!?」
「いや、俺だってそうしたかったんだが……チッ、やっぱ転生者用にするには魔法の〝練り〟がどうにも足りない気がするんだよな……
博士悪い!作戦変更だ!今回の魔法は細工にもうちっと時間が掛かりそうでな……その間の時間稼ぎは任せたぜ!!」
「えぇ!?」
先程したはずのやり取りが早々に変更された事を知り、動揺している様子だった。
「……!?ちょっと、大丈夫なの!?
いえ、言ってる場合じゃないわね。
それじゃあ私が……!!」
すると、それを見たキジカが博士を助けようと前に出る……が。
「いやキジカ!退がってな!お前にはもう一度召喚をしてもらいたいからな、それまで魔力を温存しておいてくれ!」
「ダメよ!このままだと博士が!」
「さっきも言っただろう?安心しろって。
大丈夫だよ……博士ならな」
ログマに止められてしまい、召喚までの間再び傍観に徹する事となった彼女は。
覚悟したとて動けぬ自分を不甲斐なく思い。ただ目の前の光景を見つめる事しか出来なかった。
そう、何も出来なかったのだ。
彼の言葉を無視するという、可能であったはずのその選択さえも。
傷付かぬよう、なるだけ矢面に立つ事の無いようにと、自分のためを思いログマはそう言った……いや、そう言ってくれた事に気付いていたからこそ。
だからこそ、動けなかった。
それから少しして。
「…………ったくもう、仕方ないなぁ」
手を貸す者は無く、己がやらねばならない。それを理解し腹を決めたのだろう。
攻撃を躱され、次なる標的を自身に決めた若葉を目の前にして博士は動きを止めた。
「あれ……逃げないの?
もしかして、〝ヘンなの〟さんって壁役だったりする?まさか正面から私の攻撃を受けるつもりなの?
……流石の私も、面食らっちゃったなぁ。
ま、だからって手加減はしないけどね!!」
しかし一方がそうしたとて、もう一方が同調するという確証など何も無く。事実、そうはならず。
若葉の一太刀が止まる気配も見せぬまま博士へと降り掛かってゆく……
だがそれでも、博士は仁王立ちしたままであった。
まさか本当に、その攻撃を受け止める気でいるのだろうか……?
「……!?」
そうして若葉の大剣が博士に命中した次の瞬間。その場にいた者達は皆、唖然とする事となった。
当の本人である博士と。ただ一人それを信じ、尺稼ぎを任せたログマを除いて。
「え…………は、はぁ!?
私の攻撃を受けても傷一つ付かないとか流石にヤバ過ぎでしょ!?アンタ何者!?」
皆が唖然とした理由、それは若葉の言葉通りである。
転生者である彼女の一撃。それを博士が真正面から受け止めたばかりか、無傷ですらあったからだ。むしろそうなるのも当然と言えるだろう。
「ん?アタシかい?
アタシはただの魔法生物だよ。
ただし、ちょっとばかり対人戦向けの……」
だが、当人にとってそれは想定の域を出ない事象でしかなかったらしく。
博士はごく当たり前のような態度、表情で若葉の問いに対して返答を行う。
大剣など、その身に触れさせたままであった。
「若葉!!すぐにソイツから離れて!!」
すると、それを遮る者があった。
双葉だ。今の一部始終を見、このままでは良くない結果を招くと判断した彼女は。
『懸念が現実となる前に存在ごと消してしまえば良い』という結論に至ったのだろう。
そして、そんな双葉の放った魔法は。
本人にとっては杖の無い状態で放つ、不十分なものでしかなかったが。
しかし、それでも尚その威力は凄まじいものであり。
まるで衝撃波のような魔法は、地を抉り木々をも巻き込みながら博士へと襲い掛かるのだった。
だが、全てを削り取るかと思われたそれは。
いとも簡単に、博士によって弾き返されてしまう。
と言うより、今の博士は何一つとして身動きをしなかった……そう、それだけで博士はあの術を防いでしまったのだ。
「…………嘘」
これには流石の双葉も絶句せざるを得なかった。
何しろ不完全だったとは言え、今の魔法を放つのに対して彼女が手に抜いたつもりは一切として無かったのだから。
しかし、双子が言葉を失い呆然としているにも関わらず、戦場に沈黙は訪れなかった。
博士が再び、言葉を紡ぎ始めていたからだ。
まるで何事もなかったかのように。至極当然のように。先程していた、話の続きを。
「それも、人格乗っ取り型のような奴と戦う事に特化しているというだけのね。
だから勿論、転生者の攻撃や魔法にも対応してるんだよ」
……するとその言葉を聞き、今度は双葉が息を吹き返すかのようにして発言する。
「……聞いた事がある」
とは言え、その顔は蒼白であった。
……恐らく、彼女も気付き始めているのだろう。
「呼び出した転生者達が言う事を聞かずに、反乱を起こした時なんかのための防衛手段として。
『対転生者用生物』の製造計画があったって……
まさか、それがアナタだって言うの?
でも、あれは確か製造コストが高いからって理由で中止になったはずじゃ……?」
「国の奴等は色々と細かい部分まで贅沢にし過ぎなんだよ。もっともっと安く作る方法なんて、街にはいくらでも転がってたって言うのにさ……
だから、アタシが一人で作ったんだ。
正式名称、『対人格乗っ取り型転生者用魔法生物』を、このアタシ自身の肉体を材料としてね!」
そして今、双葉の中にあった疑念は確信へと姿を変えた。
タイヨー博士と言う名の、目前のそれが。
私達転生者に災いを齎す者であり、引導を手渡す者でもあり。
何より、天敵であると。
その胸に刻まれた『対………用…… 』という、掠れた文字の正体と共に。
「…………さて、ログマ。
時間稼ぎはこんなもんで良いかい?」
「ああ、充分だ。
ありがとよ博士!!お陰で粘度最大だ!!」
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