四十九話 逆襲 3
簡単なあらすじ『ログマ、若葉の一撃によって脱落』
「ログマ……ログマ!!」
膝から崩れ落ち、ただひたすらに彼の名を叫ぶキジカ。
最早、耳に届いたとて振り向く者はいないその名を。
そう。今この瞬間に戦いは終わったのだ。
呆気無くも訪れた、性悪の瞬殺という結末によって。
そうして一人の演者が減り、二人の希望が潰えた戦場には静寂が訪れる……と、ばかり思われたが。
それをすぐに破る者があった。
そして、その者とは。
「へへ……やっぱ、いくら転生者だっつっても。
次の手さえ分かってれば対処は出来るな」
軽口を叩く、亡者のその声である。
「……ロ、ログマ!?ログマなの!?
ねえログマ!!ログマ!!返事をしてよ!!何処にいるの!?」
それを耳にしたキジカは涙も忘れて再び驚愕し。
若葉はすぐさま、暗中に光る得物の切先を見つめる。
だがしかし、そこにあるはずの死者の血痕が深紫である事を知り。ぽつりとこう呟いた。
「そう言う小賢しいのは、あんまり好きじゃないんだけどなぁ……」
すると、ログマからはこのような返答があった。
「毒人形はお嫌いと……そりゃあ、悪い事しちまったな」
彼が言い終えると殆ど同時に双子とキジカは振り返り、彼の亡骸がある方へと視線を向ける。
すると、最早それは骸の形すらも成しておらず。
そこには若葉の切先にある深紫と同色をした、水とも泥とも言えぬような塊がただ存在するのみであった。
恐らくそれは毒で作り上げた何かであり、ログマはあれを盾にして身を守ったのであろう。
それかもしくは、何処かの辺りで入れ替わっていたか……とにかく、無事でいるのだ。
そう確信し、キジカは安堵の溜め息を吐き出した。
「でも……はぁ。全く、一言伝えるくらいしておきなさいよね……」
が、同時に僅かばかりの怒りも覚えたようで、彼女の眉間には皺が寄せられる。
そしてそんなキジカの言葉は、呟きであるにも関わらずあの性悪に届いていたらしく。
「ははは、悪いなお嬢ちゃん。
それに……若葉だったか?お前にも謝っておくよ。
小賢しいのは好みじゃないそうだからな……なら、お詫びにこんなのはどうだ?」
次にログマがそう言うと。
数瞬の後、若葉の頭上には彼女を包み込める程大きな水球のようなものが現れた。
しかし、若葉は動かなかった。
彼女は自身へと向けて飛来する、水球のようなそれを見つめたまま棒立ちしている。
それもまた、慢心から来る自信がそうさせたのであろう。焦っていたのはむしろ、その片割れである双葉の方であった。
「若葉!」
「大丈夫、こんなので私が死ぬわけないってのは双葉だって分かってるでしょ?」
だがそれでも若葉は不動を決め込み。遂に水球は彼女へと降り掛かった。
「若葉!!」
そのまま彼女は姿を消し、片割れを失った双葉は彼女を喰らった元凶を屠るべく前に出る。
……が、その必要は無かった。
すぐに若葉が大剣を振り回し、自らを覆うそれら全てを薙ぎ払ったのだ。
「……はぁ、アンタは本当に」
「だから、大丈夫だって言ったじゃん!
それより……さあお兄さん!!勝負はこれからだよ!!」
そうして自由の身となった彼女は次に木々の間、あらぬ方向へと剣先を向けて言った。
「勝負はこれから……か。本当にそう思うか?
俺は今のアンタを見てはっきりと分かったぜ……この勝負、勝ち星は俺達にあるって事がな」
すると、そこからは木々の間を縫うようにして。
漸くログマが真の姿を露わすのだった。
「はぁ?今ので?だったらお兄さんの目は節穴なんてレベルじゃないね!!」
彼の言葉を鼻で笑い飛ばし、次こそはその首をも飛ばしてやろうと再三の突撃を仕掛ける若葉。
「今の……アンタを見て……?」
一方、それとは裏腹に双葉は気掛かりなようで、彼女は暫くの間何か考え込むような様子でいた。
「……!!分かった。
アイツ、若葉の〝あれ〟を調べてたんだ。
これは、さっさと勝負を決めないと……」
だが、それもすぐに終わりを告げ。
ログマの狙いに気付いた双葉はすぐに杖へと魔力を込め始める。
「……アイツ、良い勘してるな。
だが、その行動は悪手だぜ。
そこまで予想済みなんだからな…!!」
それを見たログマは双葉に目をやりそう言うも。
直後、再び性悪を若葉の大剣が襲い、彼の首から上は再度宙を舞う事となった。
……しかし。
彼が現した真の姿は、それすらも作り物であったようだ。
「きゃっ!?何、何!?
もしかして、またニセモノ!?」
頭部は中空高く舞い上がると同時にまるで水のようになり、ぼたぼたと音を鳴らし若葉の身を濡らした。
「待たせたなキジカ!!漸くお前の出番だぜ!!」
その直後、また彼が声を発した。それも今回は殆ど傍観者と成りかけていたキジカの背後でだ。
当然、彼女は予想もしていなかったようで、やや若葉と似たような軽い叫びを上げる。
「ひゃっ!?ロ、ログマ!?
アナタ……こ、今度こそ本物よね?」
そんなキジカは、数秒後ログマに手を払い除けられるその時まで。
それが本物か、本当に慕うあの者なのかと訝しむように。彼の頬を突いたり、引っ張ったり等を繰り返した。
「さあな、この勝負に勝ったら教えてやるよ。とにかく〝アレ〟、頼むぜ!!」
「え、ええ!!分かってるわ!!
でも本当に出来るかしら……いいえ。
ほ、本当に、良いのかしら…………??」
「大丈夫だ、気にするな!!
さあ!!思いっきりやってくれ!!
目に見える場所なら、何処にでも召喚出来るんだろう?」
そう言って、ログマが懐から取り出したのは。
博士から譲り受けた、あの布製の袋であった。
「……ま、まあ良いわ!
ここで負けたら後がないものね!
それに、私も覚悟を決めてるんだもの。
やれるだけの事はやってやるわ……!!
さあ!『オブジェクト召喚』よ!!」
そうして、〝ある物〟の位置は移り変わる……
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