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第二小隊について

「なるほど……。まあ、ディクトは仲間を守ることが一番だからな。初めて俺が山賊のあいつと会った時も、そのための見極めは早かった」


 あの時もディクトは自分の部隊を守るために、半狂乱だった副長を躊躇いなく切り捨て、さらに自分の剣と命を差しだそうとした。

 そこが全くぶれないから、部下たちに慕われるのだろう。


「状況判断や力量差の見極めも大したものだが、その素早く連携の取れた撤退の仕方も見事だった。……ほら、あそこは窪地になっているだろう? 窪みの入り口の部分を私が塞いでしまえば、普通は逃げられずにこちらに向かってくるしかないのだ。少なくとも私と第一小隊はそう思っていた」


「確かに、あそこの窪地の山との段差はスバル並のジャンプ力がないと上れないですよ。壁もほぼ直角ですし」


 ウェルラントの言葉にスバルも頷く。


「でもディクトたちは逃げ切ったのか……。どうやって?」


「あそこに魂言の石碑があっただろう。一人があの台座を足場にして天辺まで登り、絶妙なコントロールで一番近い木にロープを掛けた。多分あれがハヤテだったんだろうな。あんな逃げ道があるとは驚きだった。そしてそれを残りの隊員が守っていたんだが、隊長の指示で完全に連携の取れた防御態勢をしかれて、手が出せなかった」


「へえ、第一小隊を壊滅させたあんたが手を出せなかったっていうのか」


「個々の戦闘力を合わせただけの数値ならきっと第一小隊が上だろうが、部隊としては第二小隊の方が遙かに上だ。第一小隊の戦力は足し算で、第二小隊の戦力は掛け算と言えば分かるか? その上、第二小隊には一人飛び抜けて強い男がいてな。そいつが充魂武器持ちで、私の攻撃をほとんどいなしてしまった」


 充魂武器持ちか。あれを持っていながら攻撃に行かず、他人の指示に従える冷静さがあるということは、かなりの手練れだろう。

 ウェルラントの攻撃をいなしきったというなら相当だ。


 ここまで聞いて、ようやく納得する。


 つまりウェルラントは、それを使役して仲間を守り切ったディクトを防衛のスペシャリストと称し、なおかつ困難な状況でも逃げ道を見つけたハヤテに警備の穴を見つけて欲しいと言っていたわけだ。


「残念ながらその飛び抜けて強いという男はいないがな。帰するところは、教団員に忍び込まれないようにハヤテに警備の穴を見つけてもらい、ディクトにその防衛案を出して欲しいということか」


「そうだ。頼めるか?」


「構わないよ。後であいつらに言っておく。王宮がしっかり守られてないと、俺たちも困るからな」


「そう言ってもらえると助かる。私は今日はずっとサイ様と謁見の間にいるから、報告はそちらまで頼むよ。現場を見た方がいい場合は共鳴石で呼び出してくれてもいいからな」


 忙しいウェルラントはそこで話を締めて、手早く食事を済ませる。

 ターロイとスバルも食事を終え、三人は共に大食堂を出て別れた。




「ディクトって、結構すごい奴だったですか?」


「そうみたいだ。まあ、元々使える奴だとは思ってたけど、想像以上にエリートだったよ」


 隣を歩くスバルの問いかけに、ターロイは苦笑する。

 あの男はそんな地位にいたくせに、よく平民で年下の俺の指示に従っていられるなあ。本当に変な奴だ。


「でも、戦闘力はいまいちです」


「まあな」


「なのに何で、戦闘力重視の教団で第二小隊の隊長になれたのですかね?」


「……それもそうだな」


 スバルの質問に、ターロイも不思議に思う。

 確かに、純粋に当人の戦闘力だけで考えれば、ディクトは何十番小隊かになるはずだ。隊長になること自体難しいかもしれない。もし何かの配属ミスで第二小隊になったとしても、他に飛び抜けて強い男がいたと考えると、そいつが隊長になるのが筋だ。


 ……今はそいつが隊長になって、ディクトは追い出されたとか?

 いや、それとも、隊自体がなくなっている?


 そう考えて、先日、王都の一般墓地でディクトが花を手向け、ハヤテが毎日のように酒を捧げていた四つの墓を思い出す。

 あそこが想像通り、ディクトの隊の仲間の墓だったとしたら、過去の事件とやらで、もう完全に隊がなくなっていると考えた方が自然だろう。それも最悪の形でだ。


 教団の第一から第五までの上位小隊はそれぞれ基本的に六人で構成されている。

 ディクトとハヤテ、そして墓の四人と考えれば、それで一小隊。

 つまりはそういうことだ。


 ……何があったのか気にはなるけれど、それを知った上で、過去を語りたがらないディクトに隊の顛末を訊ねるのは酷だろう。

 スバルにも釘を刺しておかねば。


「……スバル、さっきウェルラントに聞いたディクトの話はみんなに内緒にしておいてくれ。もちろん、直接ディクトに訊いたりしちゃ駄目だぞ」


「む、了解です。機密情報というやつですね。スバルが尻尾と耳を知られてはいけないことと同じです。ディクトの正体は知られてはいけないのです」


 彼女の解釈が少しズレてるが、まあいい。

 ターロイも今のウェルラントの話は警備と防衛を彼らに依頼するためだったと割り切った。


 だってこれからの戦いに必要なのは現在の彼らであって、推測されるディクトの諸々の過去を、わざわざ確認する必要性などないのだから。


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