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寄生するもの

 中空で羽ばたくアカツキのひよたんは、鋭いくちばしと鉤爪でこちらを狙っていた。明らかな臨戦態勢だ。


 ターロイはハンマーを構えた。


「この祠の空間が無意味に広いと思っていたら、ひよたんと戦うためだったのか……!」


「ターロイ、ひよたんの強さはマーキングしている主の力に比例するです。つまりこのひよたんはもの凄く強い。気を付けるです」


「気を付けるも何も……今の俺では魔道具は破壊できない。スバル、このひよたんには弱点はないのか?」


「ひよたんは本来、主の意思に添って動くものです。主の気を失わせるか、それこそ壊して依り代としての機能を無くすしかないです」


 どっちも無理だ。

 主であるアカツキは扉の向こう、それも気を失わせるどころかすでに眠っている。

 そして魔道具を壊すには、ターロイの能力が足りない。

 魔道具というのはオリハルコンやミスリルのような、ドワーフ族にしか加工できない魔法金属で作られた道具のことだ。普通の武器と能力では擦り傷一つすら作れないだろう。


 だとすれば、倒すのはあきらめて、今あるリソースでどうにか生き延びる方法を考えないと。


「スバル、こっちのひよたんはあれに対抗できないのか?」


「マーキングができないと使役は無理です。それに、主を選ぶのはひよたんの方で、こちらからは契約できないのです。アカツキ様のような特殊な能力を持った者にしか、ひよたんは従ってくれないですから」


「つまり現状はただ可愛いだけか……。まあ、仕方ないな」


 ウェルラントは可愛いものに寛容なようだ。

 彼はひよたんを戦力から除外して、現状を分析した。


「ターロイの能力は通用しない。スバルのナックルも魔道具としてはひよたんに劣る。だとすると、私の充魂武器が唯一の対抗手段か」


 確かにそうなる。しかし、ひよたんを倒しきれるかと考えるといささか不安だ。さっきから妙に胸がざわざわするのも気になる。

 ……他に、戦力としては狂戦病もあるが、多分最悪の結果しか生まないから却下だ。ウェルラントとスバルまで殺したらどうしようもない。


「とりあえず、私が少しあちらの力を探ってみよう。お前たちは少し離れていてくれ」


「だったら、スバルも」


「スバルは駄目だ!」


 ウェルラントについて行こうとするスバルを、ターロイは急いで引き留める。スバルに何かあったら、狂戦病の発作が起こる可能性があった。


「心配しなくても、ひよたんは普通、獣人族を襲わないから大丈夫ですよ」


「あのひよたんは普通じゃないだろ! 危ないから止めろ!」


 スバルの身体を壁際に押しやって、ターロイはウェルラントと対峙したひよたんの様子を伺った。

 そうだ、あれは普通じゃない。


 いつの間にかスバルの手からこちらに飛び移ってきたひよたんが、肩の上にいる。黒くてつぶらな瞳、主の意思が反映されなければ何の害意も感じない、これが普通の状態なのだろう。


 だとしたら、あの普通じゃない状態をもたらしている元凶は何なのか?


「スバル、あのひよたんを動かしてるのがアカツキじゃないのは間違いないか?」


「間違いないです。アカツキ様はずっと眠っていて、僅かな思念を仲間に送っているだけ。ひよたんに送るような強い意思は発していないです」


「ということは、ひよたんを操る別の意思の出所が分かればいいんだな」


「別の意思……。むう、そもそも、マーキングされたひよたんを思念で操るのは不可能です。中の精霊は自分が認めた者の干渉しか受けないからです。もし思念以外で無理矢理操られているのだとしたら、何かに『寄生』されているのかもしれんです」


「寄生……」


 注意深くひよたんを見る。

 しかし正面から見ただけではよく分からない。

 祠は天井も高く、下からひよたんの背面は見えなかった。


 変身前のひよたんもそう言えば後ろは見ていない。その時点からあの殺気を放っていたことを考えると、背中に何かがあると見ていいだろう。



 ひよたんが三人を確認するように、何度か天井すれすれを旋回しながら、甲高い鳴き声を上げる。そして急降下すると、ウェルラントに対して様子見の攻撃を仕掛けてきた。


 鉤爪による強襲、それをウェルラントは充魂武器で受け、爪と刃が激しく交錯する。

 さすが元騎士団長なだけあって、その太刀筋は的確で迷いがない。そして武器で幾らかのブーストがある上でだが、力でも負けていない。充魂武器による慢心のブレもない。


 この男、かなり強い。


 そうして数度の応酬の後、ひよたんは再び攻撃の届かない天井間際に飛んで行く。

 それを目で追っていたターロイは、その背中にちらりと赤いものを見た気がして、酷く落ち着かない気持ちになった。


「……まずいな、充魂武器なら本来、魔法物質にも幾らかダメージを与えられるはずなんだが」


 そして、上手く攻撃をいなしたはずのウェルラントも、少し困惑気味に呟いた。


「どうした?」


「与えたダメージが一瞬で回復されてしまう」


「ええ? ひよたんにそんな機能ないはずですが」


 と言うことは、それは『寄生』している何かの能力と言うことか。


 ターロイの頭の中で、情報が繋がっていく。

 ひよたんの背中に見えた、赤いもの。そしてダメージの修復能力。再生の力でしか開かない扉。再生師への言葉。


 それを鑑みれば、ターロイには一つの推論しか浮かばなかった。


「……おそらく、あのひよたんには再生能力を封じた『ガイナードの核の欠片』が寄生している」

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