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ユニのいた村

 ティムを送りがてら、グレイに報告をするためにインザークを訪れたのは、夜になってからだった。

 しかしどうせグレイはいつも深夜遅い時間まで起きている。今更ことわりを入れる間柄でもないし、ターロイは気にせず彼の部屋の扉を叩いた。


「無事に能力を解放してきたようですね。今回は何か新しい文献を手に入れてきましたか?」


 部屋に入るとグレイはワクワクとした様子で椅子を勧めてくる。それに腰掛けて、ターロイはとりあえず鞄の中から記録媒体を取り出した。


「文献はなかったんだけど、代わりにこれがあった。映像を記録する装置だ。ただ、これを映し出すものがないと見れないんだよな」


「ほう、記録装置ですか。中々に興味深い。何の映像が収められているんですか?」


「俺が分かっているのはルアーナの研究記録と、虚空の記録アカシックレコードの未来の一部、らしき映像だ」


「虚空の記録!?」


 その名称を聞いただけで、グレイは身を乗り出した。

 この世の真理を追う研究者なら、誰だってこういう反応になる。この世界の創世から終末までを記録してあるという知識の源、究極のデータベース。それに直接触れた者は、流入する膨大な知識に自我が押し流されて、精神が崩壊してしまうと言われている。


 そのデータが一部であるとはいえ、映像としてここにあるというのだから、グレイの興奮も当然と言える。


「未来の一部……あなたはその映像を見たのですか?」


「まあ、一応。本当に虚空の記録の映像かどうかは確かめようがないんだけどさ。映ってた内容も、妙だったし……」


「妙、とは?」


「……俺とサイ様が戦おうとしている映像だったんだ」


「ほう」


 グレイは特に驚くでもなく、ターロイの言葉を受け取った。

 そしてさらにずいっと乗り出してくる。


「もう少し詳しくその映像の状況を教えてもらえますか」


「状況……。ええと、王都に炎が上がって壊滅状態になってた。俺の背中には羽根が生えてて……あれは多分ひよたんとの合体による変化だろうな。俺は王宮の中に侵入して、真っ直ぐ謁見の間に向かって行ったんだ」


「……その間、王宮の人間は?」


「そういや、誰もいなかった。普通に考えると変だな、王都が炎上してるのに、王宮を守るものがいないなんて……」


 そう言ってから、ターロイははたとサイが持っていた得物を思い出した。


「まさか……サイ様が……」


「どうしました?」


「謁見の間で会ったサイ様がサーヴァレットを持っていたんだ。周りには誰も……ハイドすらいなくて……」


「……なるほど。なんとなく何が起きたか想像できてしまいますね」


「その後、俺とサイ様は何かを話していたけど、内容は音声がなくて分からなかった。それから戦闘が始まったところで、映像は終わった」


「それが未来の映像……本当なら、結構ハードな状況ですね。あのサイ様がそのようなことをするとは中々考えられませんが。その時点で正義がどちらにあるのかも不透明だ」


 そう言ってから、グレイは軽く肩を竦めた。


「……まあ、正義なんて後付けですけどね。結局勝った方が正しいという歴史が作られるだけ。……その結末が気になるところですが、今気にしても仕方のないことです。まずはその映像を映し出せる媒体を探すのが先ですね」


「そうだな。ルアーナの研究資料も見たいし。何かアルディアにヒントが残ってないかな……」


「アルディアですって!? モネに行ってきたのではなかったんですか!?」


「あ、ああ、実はモネからテレポートポインターで飛ばされてさ」


「ほう、どんな様子でした? 天人族は居ました?」


 虚空の記録に続き、再びグレイが興奮して身を乗り出してくる。


「見放された天空の島……アルディアには色々謎が残っている。それは私も是非行きたい。今はちょっと他の調査をしている最中なので、それが終わったら連れて行って下さい」


 ものすごく鼻息が荒い。

 今回はグレイを同行者にしなくて良かったかもしれない。あの天人族のいた講堂とか、平気で入っていってしまいそうだ。


「ちょっと落ち着けよ。他にも色々報告あるんだ。グレイの見解も聞かせて欲しい」


 ターロイは興奮するグレイをたしなめて、今回の封印解放の子細を報告した。

 ルアーナのこと、罠のこと、スライムのこと、竜人族のこと、守護者のこと、魔剣のこと……とにかく伝えることがたくさんある。それを興味深そうに聞いていたグレイは、ターロイの話が終わるとしばし思考をまとめるために黙り込んだ。


 自身の知識と、今聞いた話のすりあわせをしているのだろう。

 彼は顎を擦りながら、口の中でぶつぶつと何かを言葉にしているようだった。


 それから、ようやく口を開く。


「……まずはあなたの解放された能力の確認なのですが、欠損再生でしたよね?」


「ああ。そうだ」


「それは物だけでなく、人体にも有効ですか?」


 今更グレイに能力について聞かれると思わなかった。


「有効だ。ただ、生きている者、魂のある者に限るけどな。ここまでの再生能力は液体を戻すことができなかったから、血なんかは失われたもの扱いだったんだ。だから人体の再生ができなかった。でもここからは欠損した血液や体液をまとめて再生できるようになる」


「即死以外はどうにかなるということですね」


「他にも魔法による呪いや毒などの継続ダメージには対応できない。基本は物理的なダメージによる欠損しか再生できないってことだ」


「ふむ。なるほど」


 グレイはそれに軽く頷いて、話を変えた。


「ところでターロイ、次の試練に行く前に、少し私に付き合ってくれませんか。今、インザークとモネの間にある外れの村を調査しているのですが、あなたの力を借りたいことがあるんです」


「俺の力? インザークとモネの間にある村って、以前ユニがいたっていうところだよな……。再生師の能力がないと開かない遺跡でもあるのか?」


「……遺跡というわけではないのですが。しかし謎があるのは確かですね。それこそが、村が教団に廃棄されなかった理由だと思います」


 そう言ってから、グレイが少しだけ逡巡する。


「ちょっと酷かもしれませんが、できればユニも同行して欲しいですね……。おそらく彼女もあの村の謎を解く鍵になる人物。もしかすると、ユニの首輪の封印のことも何か分かるかもしれない」


「ユニの……。それは気になる話だが……まずは本人に訊いてみないと。無理矢理連れて行くのは俺は反対だからな」


「私も、ああいう子に無理強いする気はありませんよ。ただ、説得はさせて下さい。納得すれば彼女も同行してくれるかもしれません」


 ユニがいた村は、特別な力を持つ彼女を長年迫害していたという。そして、あげくは人買いに売り渡した。そんな村に、ユニが足を踏み入れたがるとは思えない。

 しかし、彼女の秘密を解明するには避けて通れない場所でもある。


 グレイが説得をするというのなら任せてみよう。


「……ユニが関係するってことは、村にある謎というのはエルフ関係のことなのか?」


「そうです。……村に誰も住んでいない家があるのですが、そこの二階で見付けたエルフ語の書物も謎の一つです。村の者はそれが誰の家か口を割らないのですが、私はユニのいた家だと確信しています」


「エルフ語の書物……読んでみたのか?」


「いいえ。勝手に入ったので村人に見付かって追い出されてしまって。処分されないように、とっさに隠してはきましたけど」


 そうか、そこがユニの家なら、本人がいれば自由に探索できる。他にもエルフに関する情報があるかもしれないし、彼女がいればグレイが言う謎も解けるのかもしれない。


「都合が良ければ早めにユニを説得させて下さい。話を聞いた限り、あまり時間的に余裕はなさそうです。……それにルアーナだけでなく、そろそろサージが始動するかもしれません。彼の父親の罪が確定したんです。モネに関する非道は全てダーレ司教の仕業になった。教団はそれをネタにサージを使役し始めるでしょう」


「……やはり、ダーレ司教はサージの罪をかぶることになったか……。それは急がないといけないかもな。イリウとモネの建物を再生する約束をしてるから、それが終わったら行こう。また今度迎えに来る。準備だけしておいてくれ」


「分かりました。しばらくはインザークの中だけで活動していますから、来る時は連絡を入れてくれればすぐ行けますよ」


 ターロイはグレイの返事に頷くと、椅子から立ち上がった。

 今日はもう遅い。明日になったら早速ミシガルでイリウに会い、段取りを立てることにしよう。


4章はここで終わりです。次回から5章に入ります。

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