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ルークとの対面

 ウェルラントに連れられて来たのは、彼の自室だった。

 その本棚にベタな感じで隠し扉があり、そこを開けると狭い螺旋階段が地下に伸びていた。


「……俺も入っていいのか?」


 あれだけカムイに会わせるのを嫌がっていたウェルラントが、どういう心境の変化だろう。

 つい確認すると、彼は小さく舌打ちした。


「私的には全然よくない。……ただ、ルークが以前からお前に会わせろとうるさかったんだ。ガイナードの試練のことで話したいことがあるからと」


「それって、ルアーナのこととか?」


「……かもしれない」


 だったらもっと前に会わせて欲しかった。そしたらもう少し上手い立ち回りができて、ルアーナを戦力にできたかもしれないのに。

 思わずため息を吐くと、ウェルラントは少しバツが悪そうな顔をした。


「……結果的に後手になってしまったのは悪かったと思っている」


「ま、過ぎたことは仕方ない。とりあえずルークに会いに行こう」


 ターロイに促されて、ウェルラントが螺旋階段を下り始める。

 途中に二つ鉄格子があり、彼はその錠前を外してさらに下へと進んだ。

 ……うーん、完全に監禁状態だ。


 以前聞いたグレイの話からして、ターロイがヤライの村から助けられたその時に、カムイもウェルラントに救い出されていたはず。

 もしかしてそれ以来、彼はずっとここに閉じ込められているんだろうか?


 そんなの、民に慕われるミシガル領主らしからぬ所業だ。

 カムイの体内にルークがいるから? コネクターだから? 無理をしすぎる彼を守るためとはいえ、どうも度が過ぎている。

 一体、何が理由なのだろう。


 そんなことを考えているうちに、先導するウェルラントは階段を下りきったところにある重そうな扉を開いた。


 ようやく少し広めの空間に出る。

 太陽の光が届かず燭台の明かりしかないそこは、ぼんやり薄暗かった。


 その床や壁の、そこかしこに魂方陣が書いてある。

 見れば顔料以外に、明らかに血で書かれたものもあった。

 空間の片隅には大きな本棚と小さいけれど上質な木の机が置いてある。どうやら魂術の研究室のようだ。


「カムイ!」


 ウェルラントが部屋の主の名前を呼ぶ。

 すると向かって左側に見える扉の向こうで、青年が返事をした。


「うむ、こちらに来てくれ。今お茶を淹れておる」


 ……何か、古風なしゃべりだな。カムイはこんな口調じゃない。

 もしかしてルークか?


 ちらとウェルラントを見ると、酷く不愉快そうな顔をしていた。

 どうやらターロイの予感は当たりらしい。


「……呼んでるけど」


「…………分かっている」


 彼は大きく舌打ちをして、ルークのいる扉を開けた。


「やっとターロイを連れてきたか。全く、カムイを隠したがるのもいい加減にしたまえよ」


 どうやら彼はターロイがここに来るのを知っていたようだ。部屋のテーブルにカップがすでに三つ用意してある。

 まあ、この屋敷を丸ごとカムイが結界で見張っているのだから、行動はお見通しだったのか。


「ようこそ、ターロイ。直接僕と会うのは初めてであるな。僕はルーク。君たちの言う前時代の、作られた英雄の欠片である」


 挨拶をしてきたルークは、金色の瞳をしていた。

 本来のカムイの瞳は赤のはずだが……。身体を支配する魂が違うと、表出する色も変わるのだろうか。

 そして、額にはぽちりと白毫のようなものがあった。


「あ、ええと、ターロイです……よろしく」


 どういうスタンスで会話をすればいいのか分からずに、へどもどと挨拶を返す。すると彼は人なつこい笑顔を向けてきた。


「そんなにかしこまらないでくれ。君のことはカムイから聞いているのだ。彼に接するように僕にも接してくれて構わん」


「カムイから俺のことを聞いてる?」


「君がガイナードの能力を継ぐ者だと知っていたからな。……まあとりあえず座りたまえ。腰を据えて話をしよう。……ウェルラント、茶は淹れたが、不愉快な面をしているなら席を外してくれてよいぞ?」


「そうは行くか。貴様がターロイに変な話を吹き込まないとも限らん。しっかり監視はさせてもらう。……余計なことを話すんじゃないぞ」


「その威圧的な態度がカムイを怯えさせるのだ。そんなことではいつまで経ってもこのまま、溝は埋まらぬ」


「……余計なことを話すなと言ったはずだが」


 何だか二人の間にピリピリとした空気が流れている……。

 当人たちはそれでいいかもしれないが、こっちが気を遣うから止めて欲しい。


「えっと……訊いていいかな? ルークはどうしてカムイの中に?」


 ターロイは二人の意識を逸らそうと、ルークに訊ねた。


「ヤライの村で君がガイナードの核を埋め込まれたその日、僕もカムイに埋め込まれたのだ。君とは少し状況が違うがね」


「どうして自分の身体から離れて? あんたの身体、教団にあるんだよな?」


「……まあ、その辺は複雑な話である。ここで話すには少し時間が足りぬしな。今は直近に必要なことだけを語るとしよう」


 ルークはそう言って、お茶を一口啜った。


「さてターロイ、グランルークの封印はいくつ解いたのだ?」


「三つだ。アカツキの祠、ガントの遺跡、アルディアの地下」


「……ということは、もうルアーナには会ってしまったのだな?」


 そう言って、ウェルラントをじろりと睨む。その視線に、彼は無言で眉根を寄せた。自身の失態だと分かっているから、反論はしないようだ。


「あれは悪い人間ではないのだが、少し……いや、大分特殊な思考回路をしているからな……。何か問題はなかったか?」


「問題あったよ。最終的には逃げ果せたけど、俺の仲間の能力を食おうとした」


「それはすまぬことをした。しかし被害がなかったのなら良かった。ルアーナは一度離れてしまえば、敵対したことなどけろりと忘れてしまうから、君たちさえ気にしなければまたルアーナと共闘できるだろう」


 ターロイは特にそんなことを言っていないのに、ルークはルアーナとの共闘を口にした。それはつまり、この先でまた彼女の力を借りるべき事案があるということか。


 得体の知れない人物であるが、不死者を葬れる剣を持つ女、その能力を借りたい場面はきっと今後もあるだろう。


 ……そう言えば、あの剣召喚の魂方陣。あれもグランルークが作ったものでは? だとしたら、彼はあれが何なのか知っているはず。


 そもそも、彼女がどういう人間であるかも、グランルークなら知っているはず。

 キメラで、コネクターで、魔剣の使い手で……。それらをひっくるめて、浮かぶ疑問は一つ。


「なあ、ルアーナって何者?」


 ターロイは単刀直入にルークに訊ねた。

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