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魔法障壁消滅

 スライムは一つの核と、それを覆う透明でどろどろした流動体だけでできた単純な魔物だ。その身体のゾル部分は種類によって様々な性質があり、酸であったり、毒であったり、時には薬効の成分であったりする。


 倒し方もシンプル。炎で焼き払ってしまうか、その核を壊せばいい。

 ただ、核を剣などで分割してしまうと、その拍子に身体も分割されて個体数が増えることがある。

 そして、同じ個体から派生したスライムは、自在に合体もできるのが面倒だった。


 基本的には、合体される前に核を壊すか焼くのがセオリーだ。合体して大きくなるほど、核に攻撃が届きにくくなるのはもちろん、相当の火力も必要になるし、攻撃の威力も殺されてしまう。


「人工のスライムは基本の能力を踏襲した上で、それを増幅する術式を組み込まれているわ。酸の強さもそうだし、身体を維持する最大値も上がっている」


「身体を維持する最大値というのは?」


 ルアーナの説明にディクトが詳細を求めた。何かを頭の中で整理しているのか、ずっとこめかみに指を当てている。


「スライムには個体によって大きさの上限があるの。流動体だからその身体がとても重い。大きくなりすぎると、重力に負けて身体を維持できないのよ。だから普通のスライムは、最大でも人間の背丈程度までにしかならないわ。……でも人工のスライムは、術式によってそれ以上の大きさでも身体を維持できるというわけ」


「……ってことは、ここにいるスライムが全部合体して一体になる可能性も?」


「当然あり得るわね。元々同一の個体だったのなら、だけど」


 ルアーナの言葉に、ディクトは難しい顔をした。


「あのさ、人工スライムの核が魔法金属でできてるって言ったよな? その魔法金属は、分裂したり合体して一つになったりできるものなのか? 液体金属かとも思ったけど、さっきルアーナは核に術式が『彫り込まれている』って言ってた。固体じゃないとその表現にはならないよな?」


 確かに、彼の疑問はもっともだ。

 ターロイも二人の話に耳を傾けながら考える。


 そもそも魔法金属である核に術式を書かれているとして、核を割られたら本来、術そのものが成立しなくなるはずなのだ。それが分裂し、同じ個体二つになるというのはおかしな話。


 合体も同様に、魔法金属が勝手に融合するとも考えづらい。

 魔法金属の加工は非常に難しく、その成形ができるのは今は滅びしドワーフ族だけだと言われているほどなのに。


「もしかして、肝心なのは核じゃなくて……」


 ディクトが何かを言いかけた時、とうとう天井の格子戸が魔法障壁に接触した。

 魔力によってうっすら白く張っていた膜のようなものが、すうっと天井に吸い込まれていく。


 すると、その向こう側にいた大小さまざまなスライムが、一斉にぬめぬめと動き出した。


「うわあ、気色悪う。全部同じような形と動きしてる。これ絶対同一個体だよね」


「間違いなさそうだ。みんな、とりあえず俺とロベルトの後ろに。……ロベルト、スライムは斬るんじゃなくて、刺突で核を攻撃してくれ」


「分かった」


 頼みの綱はロベルトの充魂武器だけだ。

 ターロイも酸に耐えうるハンマーを持ってはいるが、魔法鉱石でできた核にはダメージを与えられないのだ。一時的に追い払うことくらいしかできない。

 何とも歯がゆい状況だ。


 ゆるゆるとこちらを囲み始めたスライムをハンマーで牽制していると、後ろからディクトが訊いてきた。


「ターロイ、おたくがガイナードの欠片と言ってる石って、見て分かる?」


「分かるはずだ。赤い石で結構目立つからな。……このそわそわする感じ、多分すぐ近くにある」


「そっか。やっぱりスライムのどれかに付いてんのかな。みんな、赤い石が付いたスライム探してくれ。試したいことがあるんだ」


 そう言いながら、ディクトは周囲を見回す。

 彼はロベルトに核を貫かれたはずのスライムが、消滅する前に近くのスライムと合体して大きくなったのを確認した。

 二つあった核はするりと重なるように同化して、ひとつになったように見えた。


「……ロベルト、今合体したスライムを切りつけてみて。核を狙わなくていい。あのどろどろの一部を切り離してみてくれ」


「ディクト? 何をそんな無駄なことを……」


「了解」


 ターロイは怪訝に思ったけれど、さすがロベルト、ディクトに従順だ。すぐに行動に移す。核を外して、スライムの一部を剣で薙いだ。


 そぎ落とすように切り離された流動体は地面にぽとんと落ちる。

 直後、どういうことか、むくりと盛り上がってその中に核を作り、それは小さなスライムになった。


「……分裂した? 何でだ、核が分かれたわけでもないのに」


「俺も細かい原理とかは分かんねえけど、まあ、後で説明する。ルアーナ、このスライムも炎には弱いのか?」


「核には影響ないけど、ゾルの方は炎というか、高温に弱いわね」


「そうか。よし、ティム」


「はいはい。俺の火薬弾の出番?」


 ディクトに呼ばれてティムが鞄を漁る。しかし、ディクトはそれに首を振った。


「こんなとこで火薬弾使ったら、俺たちもダメージ食うし、スライムの酸が飛び散ってえらいことになるぞ。……それよりさ、さっき調味料をカプセルに入れて持ち歩いてるって言ってたろ」


「ああ、うん。いつも色々持ち歩いてる」


「だったら、油の入ってるカプセルあったら出してくれ」


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