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落下する空間

「わーーーーーー!!」


 唐突に、ティムが大声を上げた。

 何か起こったのだろうか。真っ暗で何も見えないから、確認ができない。


「ど、どうした、ティム!?」


「敵に襲われているのか!?」


 ターロイとイリウが慌てて声を掛ける。

 しかし、ティムはすぐにけろりとした声で答えた。


「ん、いや、穴の大きさどのくらいなのかなあと思って。音の反響を確かめようとしただけだよ」


「はああ!? ふざけんな、くっそ紛らわしい!」


「一言ことわってからやれ!」


「おどかすな!」


 ターロイとイリウとロベルトがそれぞれに叱責するが。


「あ、みんなの声が重なると反響で聞き取りづらくなるね。思ったより狭いんだな」


 駄目だ、怒ったところでこの男には全然響かない。さすがグレイをもうんざりさせる男。

 三人が呆れて閉口すると、ディクトがティムに声を掛けた。


「おい、ティム。お前、今どんな体勢で落ちてる?」


「俺? 姿勢正しく直立不動だよ」


「空気抵抗がほぼ無しか。だからずれが出るんだな……。俺は空気抵抗を作るために両手足を広げて、風圧を腹で受ける体勢なんだ」


「へえ! それは面白い!」


 ティムが即座に食いつく。ディクトの言葉で何かを察したようだ。

 そんなティムにディクトは話を続けた。


「今、お前が喚いた時、最初は少し下の方で声がしたのに、すぐに上の方に場所が移った。つまり落下速度の速いお前が、俺より先に空間のねじれによって上にワープしたわけだ。ということは、俺たちはすごく短い距離を無限にループしているってことだな」


「なるほど、体格も重さも体勢も違う俺たちがこれだけ長い時間落ち続けても、それぞれの距離が開かないのはそういうことだったんだね! そもそもが小さな空間での罠なんだ!」


 二人の会話で、この大掛かりだと思っていた罠が思いの外こじんまりしたものだと知る。


 そういやティムが、事を一つずつ解明していけば未知なる罠も解法にたどり着くと言っていたっけ。確かにつかみどころの無い大きな罠ではどこから手を付けていいのか分からないけれど、こうして規模が限定されてしまえば、だんだん手は見えてくる。


 そう、ここはガイナードの試練の場、知恵を絞って考えれば、俺の能力で打開できるはずなのだ。


「みんなでもう少しこの罠の仕様を解明しよう。……俺は暗くて相対的なスピードが分からない自分の落下速度が気になる」


 ターロイはそう言って、さっきから受けている風圧に意識を向けた。ちなみにターロイもティムと同じ、足から下に落ちている体勢だ。ディクトよりも落下速度はかなり速いはず。


 本来ならこれだけ長い時間落ちていれば加速も付いて、息をするのも困難な状況だ。

 しかし、みんな普通に話ができている。

 大して風圧の影響を受けていないのだ。


「アルディア自体がとても高いところにあるから、地上よりは重力の影響が弱いのよ。おのずと落下速度も少し落ちるわね」


 ルアーナが答えると、それにティムが自身の考察を乗せた。


「落下速度が遅い上に、ワープのたびに速度がリセットされているのかもしれないよ。これがどんどん加速していったら、罠をクリアした時にその速度を殺す受け皿が必要になる。それはこんな小さな空間では無理だし、その機構を作ること自体すごく非効率だもの」


「俺も状況から考えて、ティムの意見に同意する。この空間のねじれとやらを利用するなら、運動の連続性も考慮してるだろうし」


 ディクトがそう言って、現状を分析し始めた。

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