ディクトの采配
さすが、英雄パーティーの一員だった女だ。
ルアーナの戦い方は無駄がなく、狙いを外さない。ターロイやロベルトが力尽くで、ティムやイリウが特殊効果のある武器で、どうにか急所を晒させた守護者を、一撃で葬っていく。
しかし、とにかく数が多くて困った。
一人を相手をしている間に、二つ、三つと棺が開くのだ。さっきルアーナが速攻で一人倒せたのは、まだあの不死者が体勢を整えていなかったからで。起き上がり構えを取った彼らは中々隙を見せてくれず、人数に劣るこちらがどんどん劣勢になってくる。
ならば起き上がる前の守護者から倒して数を減らすべきか。
そう考えて奥の棺に突っ込もうとすると、状況を見ていたディクトに止められた。
「駄目だ、ロベルト、ターロイ! 奥に突っ込まずに引け! ルアーナを前線に連れ出すな!」
「了解。引くぞ、ターロイ、ルアーナ」
それに即座に反応したロベルトが踵を返す。
「え、何で!?」
「ディクトがそう言っている。それ以外に理由は必要ない」
「あらあら、忠犬さんなのねえ」
まあ、今回は彼に采配を任せているのだから従おう。言われた通り後退した三人に、ディクトがさらに指示をしてきた。
「ルアーナは壁際まで戻れ! ターロイはこっちにきて! ロベルトは一度敵を引きつけて、エア・バーストの準備を」
そう言いながら、イリウとティムとも言葉を交わす。何か作戦があるのか、二人はディクトの言葉に頷いていた。
「ルアーナを一番後ろまで下げて、どうするつもりだ?」
駆け寄ってディクトに訊ねる。
すると彼は、いつもは見せない至極真面目な顔で、守護者たちを見回した。
「状況を対応しやすいように整理する。この人数を一度に相手にするのは無謀だ。ターロイの時限破壊の能力も使わせてもらうぞ。詳しい話はティムに聞いてくれ」
ディクトはそう言い置いて、今度はロベルトの方に走っていった。
「ティム、ディクトはどうしろって?」
「この火薬弾に、ターロイに時限破壊をかけてもらえってさ。この火薬をランチャーで飛ばして、あそこにぶちまけたいんだ。俺が普通に撃つと着弾と共に爆発しちゃうからね」
「あそこって?」
話が見えなくて首を捻る。すると横からイリウが補足した。
「ディクトが言ってたんだが、どうやらルアーナの一定の範囲内に入ると、あいつらは動き出すらしいんだ。今、彼女が壁際まで戻ったことで、範囲外になった奴らが動きを止めてるだろ」
「あ、確かに……」
見れば、ルアーナから一定の距離を境に、守護者たちが動かなくなっている。範囲内の者たちは彼女に向かってきているから、その境界がよく分かる。
「あの範囲の境目に火薬を撒くんだ。それを俺が火矢を使って爆発させる」
「火薬を撒いて爆発させるって、下手したら俺たちにも被害が……あ、だからロベルトのエア・バーストか!」
ようやく合点がいって、ターロイはティムの火薬弾を受け取った。
おそらく、ディクトの狙いは敵の分散なのだ。
エア・バーストと火薬の爆風で、守護者を部屋の奥に吹き飛ばしつつ散らし、相対する敵の数を減らすつもりなのだ。
ならば、より拡散しやすい破壊を掛けるべきか。
「ティム、この火薬弾に五秒の時限破壊を掛ける。周囲に飛び散りやすい裂破でいくから、できるだけ弾は中央に落としてくれ」
「はいはい、任せて~」
ターロイは時限の破壊点を叩いた弾をティムに渡した。これで五秒間は何をしても壊れない。
火薬弾を受け取ったティムはランチャーにそれを込めると、すぐに狙いを定めて射出する。この間三秒。
地面に落ちた火薬弾が、弾んで転がって二秒。
そこで火薬弾が破裂して、一気に周囲の空気中に火薬が撒き散らされた。
「よし、上等だ! ロベルト!」
それを見ていたディクトが、ロベルトに合図を送る。するとすぐさまロベルトは、ルアーナに向かって集まって来ていた敵に向かって、技を発動した。
「エア・バースト!」
途端に彼を中心に強い空気の爆発が起こる。その風圧で、守護者たちは思ったよりも易々と飛ばされた。彼らの半分干からびたような身体は軽く、さらに大きいせいで空気の抵抗を受けやすいからだろう。
そこに、さらなる追い打ちを掛ける。
「イリウ!」
「はいよ!」
すでに弓を構えていたイリウが、ディクトに応えて火矢を放つ。
エア・バーストによって空気は部屋の奥へと向かっている。当然、さっき飛散した火薬もだ。
矢はすぐにその粉に追いついて点火した。
ドン! と二度目の大きな爆発が起こる。エア・バーストによって飛ばされた守護者が、重ねて後方まで爆風で飛ばされ、散り散りに落下する。いくらか炎が上がったが、石造りの部屋ではあまり燃えるものがないため、守護者のマントや鎧、一部の棺が焼けただけだった。
もちろんだが、彼らはこんなことでは死なない。
しかし、ルアーナから引き離すことでさらに何人かを行動不能にさせたため、ぐっと対処しやすくなった。
今、ルアーナの影響範囲内に入っているのは四人だけだ。これなら十分に余裕を持って対応できる。
あいつはこれを狙っていたのだ。
ディクトの采配に感心しつつ、ターロイもルアーナたちの方へ加勢に向かった。
敵を引き付けて、ルアーナを突っ込ませずに少しずつおびき寄せて倒していく。
地道だが、ルアーナにしか倒せない不死者相手なのだからこれで正解だ。
それにこうして戦ってみて、彼らが皆相当な腕前の戦士だということが分かった。ロベルト級とは行かないまでも、部隊長クラスと言っていい。
守護者たちをまとめて相手していたら、その点でもきつかったと思う。
「……これでラスト。うふふ、ご苦労様」
最後の守護者を塵にして、ルアーナは召喚した剣をどこかに消した。それと同時にみんながその場に座り込み、大きなため息を吐く。
自分でどうにかできない相手と戦うというのは、酷く精神的に疲れるし、鬱憤が溜まるようだ。
「……怪我をしたやつはいるか?」
とりあえず、事後確認。ディクトがいくらかの小さな傷を負ったのと、ティムがこけて擦り傷を作ったくらいか。
「ロベルト、エア・バーストで怪我しなかったのか?」
「あれは同等の力とぶつからない限りは自分がダメージを食うことはない。今回は吹き飛ばし目的だったからな」
「そうか。ダメージがないなら良かった」
しかし怪我は問題ないとはいえ、これだけ疲れていると次のガイナードの試練に影響が出そうだ。ユニがいれば回復できるのだが、こればっかりはどうしようもない。
少しここで休むか……。




