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イリウの持論

「サージは今どうなっているのかな。ここまでの道中に俺たちは追い抜かれていないし、教団本部には戻っていないと思うんだけど」


 ターロイが首を傾げると、隣でイリウが眉根を寄せた。


「まさか、まだモネにいんのか? 復興するのに、あんなのにぶらぶらされると困るんだが。守護者もな」


「私はサージの話は聞いていない。しかしもうモネにいても意味が無いだろうし、お前たちを警戒して、東のミシガル経由でなく西のインザークとガント経由で王都に戻ったのかもしれないな。……守護者の方は話を聞く限り、サーヴァレットが無ければ問題ないようだが」


 そう言ってから、ウェルラントが重いため息を吐く。


「……それにしても、まさか村だけでなく街にも守護者が配置されているとは。ミシガルには教会がないから問題ないが、王都も含め他の街の教会も探る必要があるな」


「なあ、守護者って、どうにもなんねえの? 不死だって言うけど本当に死なねえの?」


 イリウの問い掛けに、何故かウェルラントは渋い顔で口を閉ざした。

 代わって、ターロイが口を開く。


「あいつらに掛かってるのは前時代に研究されていた不死の『術』だ。術を破れば殺すことは可能だと俺は思う。この間も言ったが、未開の遺跡にあった研究文献をグレイが読み解いている。そこに何かヒントがあればいけるんじゃないかな」


「不死の術、ねえ……。自我も痛覚も無くなって、ただの道具になってるだけだろ。あれで人間として死んでないって言えるのかね」


「そうだな……。でも守護者になってる奴らは、多分他にも特殊な術を重ね掛けされているんだと思うよ」


 前時代の不死者には、常人と全く違わぬ様子の者もいた。

 ただ、そういう者たちはどうやってか術を解き、ちゃんと死んでいたのだ。

 終わりのない生が逆に死を崇高にし、皮肉にも彼らに強く生の終わりを求めさせたのだろう。


「……自我があったら、あいつらも死にたいと思ってるのかね」


「あんな状態で生きているくらいなら殺して欲しいと思っていそうだけど、どうかな。……まあ、俺はあいつらを殺すことをわざわざ正当化するつもりはない。倒す方法を見付けたら消す、それだけだ」


「確かに、あいつらがどう思ってようが消さないとな。あんな目に遭うのはもうごめんだ。あんなのが居たらモネが復興しても安心できん」


 イリウも同意をして、それから、ずっと黙ったままだったウェルラントを見た。


「ウェルラント、サイ様はモネをどうするつもりだって言ってた? このまま街を廃したりしないよな」


「……生き残った人数も少ないし、私としてはこのままお前たちをミシガルで引き受けても良いが、サイ様は判断をイリウに任せるとおっしゃっていた」


 ウェルラントはそう言って、一枚の書類を応接テーブルの上に置いた。その文章の一番下に、サイの署名がある。


「サイ様からの委任状だ。モネを復興するなら、それに関する全ての権限をイリウに委任するそうだ。費用などはもちろん国費で負担する。……まあ、お前の人脈があればかなりの支出を抑えられると思うが」


「マジか! 自由に復興させてもらえるのはありがたい。金の方は王宮にあんまり負担掛けないようにやるよ。色々ツテがあるからな」


「城壁の修繕なんかはターロイに頼め。こいつは特殊な能力を持ってる」


 ウェルラントがターロイに水を向ける。

 これは、俺を修繕費削減要員に使う気だ。彼の言葉にイリウも思い出したようにこっちを見た。


「あ、そういや、教会の塀なんかをきれいに直してたな」


「……まあ、城壁の再生くらいはいいけど。街中は無理だぞ。木造の建物なんかは焼けて欠損してるから、再生がきかないんだ。次の能力の解放が進めばできないことはないが」


「次の能力の解放って?」


「ああ、ええと、こっちの話」


 本来は、モネのことより能力の解放が主目的だ。復興を少し手伝うくらいはどうということもないが、そんなにかかずらってはいられない。

 そう思ってごまかすと、イリウは何事かを思案した。


「……詳しくは聞かないが、お前がその能力の解放とやらをすれば、焼けた建物を再生できるってことか? だとしたら、それを待った方が費用が抑えられる……」


 あ、何か俺、完全に復興要員に組み込まれようとしている。


「いやちょっと待て、俺には他にやることが……」


「もちろん相応の対価は支払う。よし、復興計画を立てるからつきあってくれ。ウェルラント、子細が決まったら後で助力を仰ぎに来るからな」


「わかった。必要なら左奥の会議室を使っていいぞ」


「おう、助かる」


 俺の意思は完全無視か。

 そのままウェルラントの部屋から連れ出されて、イリウに会議室まで連行された。




「そこに座れよ」


 ターロイを席に着かせたイリウは、書棚から勝手に紙とペンを持ち出してくる。そして向かいに座った。


「心配しなくても、お前に街の建物全部直してくれなんて言わねえよ。住民があれだけ減ったのに、建物ばっかり元通りになっても空しいだけだ」


 ああ、確かに。


「じゃあ、俺には何を直せと?」


「城壁はもちろん直して欲しい。つっても、壊れてんの俺たちが脱出した時の穴くらいだと思うけど。あと直して欲しいのは、一軒の建物だ」


 一軒だけか。そのくらいなら能力が手に入ればすぐだ。


「その建物って?」


「宿屋だ。復興をするには拠点が必要だからな。最低限食事と寝泊まりができれば、ミシガルからモネ経由でインザークに向かう旅人も現れる。山の北にある王都側と違って、南のモネは天気もいいし暖かいから旅がしやすいんだ」


「あ、そうすれば途中の宿駅にもまた客が戻るのか!」


 イリウがあそこの主人に相談を受けていたことを思い出して納得する。しかし、彼は感心したターロイに向かって肩を竦めて見せた。


「客が戻るったって、大した人数じゃない。旅の必要物資が手に入らない不便さがあるしな。だからそれを解消するために俺はあいつにアイデアを十個出させたんだ」


「ああ、そうか。で、何かいいアイデアがあったのか?」


「七つは箸にも棒にも掛からないものだったが、使えるものが三つあった」


 そう言って、イリウはその三つを紙に書いた。



一、 他の場所に新しい宿駅を作る

二、 宿駅からインザークまでの豪華馬車ツアーを組む

三、 いっそ転職



「……転職って」


「出すアイデアの数が少ないと、こういう答えは中々出ないんだよ。厳選して自分が実行可能な都合のいい答えを出そうとするからな。金が掛かる、労力が掛かる、精神的負担が掛かる、そんな答えを外そうとしやがる」


「まあ、確かにそういうものかもしれないけど」


「こうやって出た答えは無理矢理組み合わせてみると化学反応を起こしたりする。無理矢理というのがミソだ。発想が自分の常識を飛び越えるからな」


 イリウは持論を展開して、その三つの項目をまとめて丸を付け、そこから矢印を引いた。


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