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ゴーレム戦 4

 高速で動き回るゴーレムが、不死属性まで付けながらも何故遠距離攻撃にこだわってこちらの接近を避け続けるのか。


 その理由に気が付いて、ターロイはゴーレムを捕らえる算段を立てた。しかしそれには一度あの巨体に近付く必要がある。

 一人ならかなり苦労するところだ。


 けれど、今はスバルとユニがいる。


 仲間が近くにいると狂戦病のことが気になってやっていられないと思っていたけれど、この閉塞した空間で、もはや二人は救いの女神、ターロイの心の支えと言っても良かった。


 彼女たちの力を借りれば、必ずここを突破できる。

 ターロイは確信に近い思いで一度周囲を見回した。




「スバル、俺を乗せたままゴーレムの背後に回ることはできるか?」


「もちろんです。でも、あいつの目は三六〇度追尾してくるですよ?」


「見られてるのは構わない。俺たちが向こう側に回って、距離を取るゴーレムが逆にこの穴の側に来たとき、一気に間合いを詰めてここに突き落とすのが目的だ」


「穴に落とすですか?」


「そうだ。さっきスバルがあいつは上に目が向かないって言ってただろ? 同じように、下にも向かない。一つ目ゴーレムは遠距離に特化しているせいで、真上や足元に死角ができてるんだ。だから敵に接近されることを避けている」


「なるほど。足元の見えないゴーレムなら足を滑らせて落ちそうです」


「ここに穴があることはすでに視認してるから簡単には落ちないだろうが、そこをハンマーで突き落とす。穴の直径はゴーレムがはまれば動けなくなるサイズだし、仮にあいつが周囲の地面を崩しに掛かってもそれなりの時間が確保できるはずだ」


 そこからは、自分の出番だ。

 魔道具・魔法生物の再生はただの物の再生よりも神経を使う。しかし無駄な時間を掛けている暇はない。

 優先して再生させる事柄を絞り込まなくては。


「やることは分かったです。じゃあ変身するですから、背中に乗るといいですよ」


 ターロイの策を聞いたスバルはその場ですぐに獣化した。


 骨格も身体の質量も変わって、大型の獣になる。

 子供の頃以来、久しぶりに見た銀の狼は、ターロイが乗るに十分な体躯だった。

 そして何より、精悍な顔つきで、毛並みも肢体も綺麗だ。


 それについ一瞬見とれてしまったけれど、慌ててその背中に乗った。


 途端にスバルが駆け出す。

 最初からめっちゃ速い。振り落とされないようにしがみついている間に、狼はゴーレムの背後に回った。


 思惑通り、こちらを避けるゴーレムは、さっきまでターロイたちがいた穴の開いている場所へ移動する。

 それを確認して、飛んでくるロケットパンチをかわしつつ、前傾姿勢のままハンマーを構えた。


「スバル、突っ込め!」


 声を掛けた瞬間に、スバルが一段ギアを上げる。ぐんと一気にゴーレムとの距離が詰まり、彼女の宣言通りすぐに手の届くところまで追いついた。


 そのタイミングを逃さずに、ハンマーをゴーレムの胴体部分に打ち込む。

 本来のアダマンタイトのゴーレムならこんなことくらいではびくともしないが、速さと防御力をパラメータ交換されているおかげでこの一撃でバランスを失った。


 ぐらりと傾いだところでスバルから降りて足元の死角に走り込み、もう一発ハンマーを食らわせる。そうして体勢を崩されたゴーレムは、よろめいて穴の一つにはまった。


「よし、やった!」


 ずしんと地響きを立てて落ちる。その頭の上まですっぽりと穴にはまったゴーレム、こうなってしまえばもう脅威でも何でもない。


 ゴーレムは自身の肩より上に腕が上がらないため、真上への攻撃ができないし、そもそもこの穴には腕を上げるだけの隙間がない。そして三六〇度見回せる目は横方向にしか動かないため、こちらを捉えられない。


 このゴーレムの死角こそが、今回の罠に少しだけ入れ込まれた甘さなのだろう。


 ターロイは穴の縁からゴーレムの頭の上に飛び乗った。

 見付からないし、攻撃も届かない。ここが一番の安全地帯だ。


 そしてここからが己の能力の使いどころ。

 再生を、別のアプローチから試みてみることにする。


 ターロイはゴーレムの頭の上でしゃがみ込み、手のひらをそのてっぺんに当てた。


「そのゴーレム、どうするんです?」


 獣化を解除したスバルが訊ねてくる。

 攻撃が止んだことで、ひよたんも地上に降りてきて、ユニもまた近くにやってきた。


「俺は今まで再生を、『壊れた物を元に戻す』ことだと思ってた。でも、このゴーレムを戻したところで同じことの繰り返しで、何の解決もしない。だとしたら、こいつを倒すにはどうしたらいいかって話なんだよ」


 ターロイは自分の考えを整理するべく、それを言葉にする。

 別に相づちや意見が欲しいわけじゃない。二人を気にせずターロイは話を続けた。


「ゴーレムがここに動いて存在する限り、この遺跡はクリアできない。なら、ゴーレムをどうにか破壊するんじゃなく、戻して戻して、そもそもゴーレムでなくアダマンタイトの塊だったところまで戻してしまえば、存在は消えるんじゃないか?」


 自分自身に対する問いかけに、スバルが反応した。


「ゴーレムを、生成術式が刻まれる前まで戻すということですか」


「そういうことだ」


 自分のするべきことを端的に言葉にしてくれたスバルに首肯する。


「しかしこれは普通の再生よりもさらに内部の情報に入り込まないといけない。どれだけの時間と労力が掛かるかわからない」


「だったら、ボクの出番? 塔を直した時みたいに、歌、歌えるよ」


 ターロイの言葉に、横からユニが入ってきた。自分にできることを見付けて、俄然やる気のようだ。それに苦笑する。


「そうだな、ユニの歌……『ブースト』があれば、大分早く終わる。頼めるか」


「もちろん!」


 嬉しそうに笑ったユニが、すぐに歌い始めた。

 途端に爪と牙が現れる身体変化。そして、ガイナードの核とゴーレムのデータのバイパスが大きく開く。


 今回のゴーレムは物理的破損はないから、術式だけを探っていくことになる。初めての試みだが、ユニの歌によって能力がかなり底上げされているのだ、どうにかなるだろう。


 流れ込んでくるデータの中から、必要な術式を探す。

 属性やら耐性やらはどうでもいい。欲しいのはゴーレムをゴーレムたらしめている生成術式と、それに行動指示を与えている使役術式。

 それからガイナードの核の欠片を組み込んでいる術式だ。


 吸い出した情報をソートして、関連のある魂言で検索していく。

 根気はいるが、一度術式の文言を覚えてしまえば今後が楽になるはずだ。ターロイは集中した。




「……見付けた! 使役術式だ」


 最初に見付かったのは、遺跡を造った罠の主のものだろう使役術式だった。

 使役者不在でも機能する、自動使役の術式。これも永久機関のため、世界であまり推奨されていない術式だ。ここを造った者は、あまりモラルとかを考えない人間なのかもしれない。


 とりあえずようやく発見したそれを、再生の力で何もなかった状態まで戻す。使役の術式を失ったゴーレムは、さっきまでは狭い穴で身じろぎしていたのに、途端に目的を失ってじっと動かなくなった。


 次いで、ガイナードの核の欠片を組み込んだ術式を見付けて消す。


 最後に、ゴーレムの生成術式を発見した。


「生成術式はさすがに長いな……」


 魔法生物を作り出すには膨大な術式を書く知識が必要になる。だから普通はこういうものは国の研究機関などで多人数で作られるものなのだが。


「この術式、めちゃくちゃ長いのに一文で書き切ってる……。もしかしてこのゴーレム、一人で造ったのか……?」


 ターロイは流れ込んできたデータに唖然とした。まあ、いまさらこのゴーレムがどういう経緯で造られたのかなんて、関係ないのだけれど……。


 ともあれ、これを初めからなかった状態に戻さなくてはいけない。

 本来ならこれだけの文言を消すにはかなりの時間と精神力が要るところだけれど、今はユニのブーストがある。歌の効力があるうちに、急いでゴーレムとしての存在を消さなければ。


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