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ゴーレム戦 3

 壊れているなら直したらいい。全くその通りだ。


 敵を倒すことばかりに躍起になって、すっかり頭が凝り固まっていた。


 もちろん、一筋縄でいくことではないし、そんな単純な話ではないのだけれど。

 それでも今の言葉で、考えられる展開はぐんと広がる。


 そう言えば以前グレイが、本来、封印の遺跡は俺の能力と知恵だけで切り抜けられる罠のはずだと言っていたっけ。

 ならば思考を尽くし、持っているソースを全て見直そう。


 この罠を作った者は、すこぶる頭が良く、かなり性格が悪く、そして少し甘い。

 そのわずかな甘さを利用できれば、この状況を打開できるに違いないのだ。


「ひよたん! ユニを回収して上空で待機しろ!」


 とりあえず打開の糸口が見えた今、まずは疲弊した精神と身体の回復が必要だ。ひよたんに命じてユニを近くに呼び寄せる。

 ゴーレムはすでに周囲の岩を自身の周りに集めていた。あれに時限破壊を付けて射出されると、捌ききるまで自由に身動きがとれなくなる。

 今のうちに手を打たないと。


「スバルはどうするがいいです?」


「そうだな……スバルの攻撃は多分あのゴーレムには効かないから、あいつがあの岩を消費しきるまで俺を手伝ってくれ」


「あの岩を消費しきる?」


「おそらくあいつはこれから岩を使って『時限破壊』を仕掛けてくる。『時限破壊』は物が壊れるまでの時間を設定できるんだ」


 破壊点を打突した後にあの岩をこちらに飛ばし、時間をずらして粉砕することで爆発的な勢いで石つぶてをまき散らす。これは時限破壊の本当に基本的な攻撃法だ。単純だがかなりダメージがある。


 それでも一つだけならたいしたことはないのだが、これが周囲に複数ばらまかれると恐ろしいことになるのだ。

 一つを避けてもその先で次の岩が粉砕され、石つぶてが飛び散る。それが連鎖的に繰り返されて、生身の者が食らったら到底無事ではいられない。


「あの岩が全部破壊されるまで、食らわないように避けきるのですか? かなり難易度が高いですね……」


「この閉じられた空間では避けきるのは不可能だ。粉砕された石塊は何メートルも先まで飛ぶ。だからそれが飛び散る前に、スバルに手伝ってほしいんだ」


 この能力にはいくつか制約がある。そこに活路を見出すのだ。


 時限破壊は長くても五秒までしか設定できない。

 そして、一度に同じ時間を二つ以上設定できない。

 つまり同時に発動できる時限破壊の岩は、一秒から五秒までの設定の五個のみ。一回で同時に全てを粉砕させるような芸当はできないのだ。


 おそらく、これは自身で破壊状況を把握しきるための制約。

 時限破壊はキャンセル不可能、正確に管理しきれなければ自分も巻き込まれて死にかねない、諸刃の剣なのだから。


「時限破壊を止めることはできない。それに時限破壊を設定された物は、破壊の時間が来るまで絶対壊れない。だから、こうする」


 ターロイは間隔を置きながら、三つほど部分破壊を使ってハンマーで深めの穴を穿った。ちょうど岩がすっぽり入る大きさだ。


「粉砕して飛び散る前にこの穴に岩を落として、石塊が周囲に飛ばないようにするんだ」


「なるほど! 岩が飛んできたらここに入れればいいのですね!」


 すぐに理解したスバルは大きく頷いた。


「時間に余裕のないものから放り込んでくれ。ここは薄暗いから、よく見れば時限破壊が設定された物が淡く光るのが分かるはずだ。五秒前は青、四秒前が緑、三秒前が黄、二秒前が橙、一秒前が赤に光る。間に合わなければ赤だけは無理せず避けてくれていい」


「了解です」


 そうして示し合わせたところで、上空からひよたんに乗ったユニの癒やしの歌が聞こえてきた。

 みるみる身体に活力が湧き、集中力が戻ってくるのが分かる。

 できればこの歌が聞こえている間に岩の処理を終えたい。


 岩処理の後にはゴーレムとの追いかけっこもあるのだ。余力は残しておきたかった。


 ……いっそ近付いて岩を何個か先に壊してしまおうか。

 そんなことを考えた矢先、ゴーレムを囲っていた一番外側の岩が四色色付いて、大きな弧を描いてこちらに飛んできた。


 二秒・三秒・四秒・五秒設定の岩だ。

 ずしん、と地響きを立てて二人の近くの地面に落ちた時点で、それぞれ一秒消費している。


 残り一秒になった岩はもう間に合わない。急いでハンマーで遠くへ吹き飛ばしたけれど、途中で粉砕し、いくらかの石つぶてを身体に受けてしまった。

 とはいえ、ユニの癒やしの歌ですぐに回復できたから問題はない。


 気にせず急ぎ二秒になった岩をスバルが持ち上げて穴に放り込み、次いで三秒になった岩をターロイがハンマーで穴に打ち込んだ。


 その岩が、地中で振動と共に鈍い音を立てて砕ける。穴の上部から少し石つぶてが飛んだけれど、横にいれば当たりはしない。

 崩落を心配したものの、火薬を使っているわけでもないから地中が崩れるほどの衝撃にはならないようだ。それに安堵して、そこから連続で飛んで来始めた岩を、時間の短い順に穴に落としていく。


 ゴーレムには思考をする自我がないおかげで、こちらが攻撃に完全に対応してしまっても同じ攻撃を繰り返した。

 この点が、ひよたんの時よりずっとやりやすい。


 ほどなくしてユニの歌が終わり、同じ頃に単調な岩の処理も終わった。


 しかし、ここからが本番だ。


 ゴーレムが岩を使い果たし、再び高速で移動を始める。

 ロケットパンチがまた飛んで来るが、今度は炎属性は消えていた。


 まあ、それがあろうがなかろうが、不死属性が付いたゴーレムにはもうどんな攻撃も無意味なのだけれど。


「っとと、ここから、どうするですか、ターロイ?」


 飛んでくる拳をうまくかわしながらスバルが訊ねてくる。


「あのゴーレムを捕まえたい」


「捕まえる?」


「さっきスバルが言っただろう。壊れてるなら直せばいいって。そのためにはあいつを捕まえて壊れた術式と交信しないと」


「確かに言ったですが……。つまりゴーレムを壊れる前の初期状態に戻して、再び倒し直すということですか?」


「それじゃまた同じことになるだけだ。それより直しついでに少し試したいことがある。……そのために、あいつの動きを止めたいんだよ。ただ、あのゴーレム速すぎてな」


 そう、問題はどうやってあのゴーレムを捕まえるかだ。

 ほぼスバルと同じスピード、ということはつまりスバルでも追いつかない。攻撃は大した脅威ではないが、このままでは体力を消耗するだけだし、どうにかしたい。


 ロケットパンチにしがみついて魔法磁力の力を借りてゴーレムの元へ行くかとも考えたけれど、着いた瞬間に至近距離でアダマンタイトの拳で殴られたら、多分死ぬし。


 さて、どうするか。


「スバルの足ならあいつに追いつけるですよ」


 攻撃を避けつつ悩んでいると、スバルがゴーレムを指差した。


「追いつける? あのゴーレム、スバルと同じくらいの速さだぞ」


「それは人型の話です。狼になればスバルは今よりずっと速い。何か策があるなら、スバルの背中に乗るといいですよ」


「そうか、狼なら……!」


 ゴーレムを足止めすることができれば俄然、遺跡攻略の道筋が見えてくる。

 ここの遺跡を造った人間の意図が自分の想像通りなら、ここで見付けられるガイナードの能力の応用の仕方で、彼のこともどうにかなるかもしれない。


 そう、ロベルトのことも。

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