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遺跡の中

 洞窟のために持ってきていたたいまつが、ここで役に立った。


 下っていく階段を炎で照らしながら行くと、壁面のところどころに燭台があり、そこにたいまつから火を移していく。


 先頭は、少し集中力を欠いたターロイに変わってスバルが引き受けてくれた。目も耳も鼻も人間よりもずっと優れた彼女は、暗い遺跡の中では一際ありがたい。


 慎重に罠を見極め、降りていくスバルの後ろをユニとついて行く。

 ここまで来れるのは再生師しかいないのだから罠なんてもう必要ないだろうと思うのだが、万が一を想定しているのか、ここに来てもまだこちらの力量を試しているのか。


「ターロイ、下るのはここまでのようです。この先に大きな空間があるですよ」


「空間? ……また何かと戦うステージが用意されてるのか」


 ひよたんと戦った時のことを思い出して辟易する。やはり、力量を試されているのが正解か。

 今回は戦う準備は整えているものの、できることならスバルとユニを巻き込みたくない。ターロイは階段を降りきったところで足を止めた。


「この先は俺一人で行く。お前たちはここで待っててくれ」


「……仕方ないですね、最初の約束ですから。スバルはここでユニを守っているです」


 共にひよたんと戦ったから、この空間にも同じように敵がいることを察しているのだろう。スバルは素直に了解した。


「危険だと判断したら離脱してくれ。俺は一人で何とかするつもりだが、もし戻らなかったらグレイに連絡して」


「緊急事態の時は臨機応変に行くです。スバルたちはターロイを手助けするためにここに来たのですよ」


「……言ったはずだ、俺は狂戦病持ちだと。お前たちに何かあると、俺が皆殺ししてしまうかもしれないんだぞ。……とにかく、今はここから入ってくるな」


 困ったことにスバルは助けに入ってくる気満々のようだ。……しかしまあ、戦闘が始まればおそらくアカツキの祠と同じように魔法の檻が発動するだろう。ここの階段手前で仕切られるなら、自動的に彼女たちは戦闘から除外される。


 そう算段して、ターロイはそれ以上は何も言わず、ひよたんだけを連れて空間に足を踏み入れた。


 暗いせいで全貌は見えないが、そこはアカツキの祠と違い、部屋と言うよりは地中をくりぬいただけの空間で、あちこちにごろごろと大きな岩が転がっていた。


 少し歩いてみたけれど、どうやら何か特別なアクションを起こさない限り、襲われることはなさそうだ。


 ターロイは外周をぐるりと回って、途中にある燭台に火を灯す。

 遺跡内の燭台全部に火を灯すと仕掛けが作動するなんていうのもよくある罠だ。それも考慮しながら、周囲を観察した。


 そうして奥まで行くと、その一角に作業場のようなものを見付け、ターロイは立ち止まった。

 作業台の上に何冊かの文献が置いてある。

 一冊目はドワーフ族に関するもの、その下に鍛冶の指南書、宝石と魔力の本、そして前時代の研究書類。


 そして横には火の入っていない溶鉱炉とふいご、金床、火床ほどがあった。どうやらここは鍛冶工房のようだ。


 武器棚らしきものに気がついて溶鉱炉の裏に回ると、何本ものハンマーが置いてあった。作業用が主だが、中には戦闘用のものもある。

 不思議に思ってたいまつをかざして眺めたその中に、ひときわ目を引く一本を見付けた。


 特殊鉱石でできたハンマーだ。

 ターロイは思わず息を飲んだ。


 このハンマーには見覚えがある。

 いや、覚えがあると言うのは少し違うか。このハンマーを知っている。

 ……ガイナードが生前に使っていたハンマーの一つだ。


 アダマンタイト製のもので、魔力は乗っていないが、固い敵に対して無類の強さを誇る。

 こんなものがここにある、その意味は。


 ターロイはそれを手にし、推論を立てて周囲に転がっている岩を見た。


 ここの相手は、きっと例の固いやつだ。……スバルの苦手な、ゴーレム系の魔法生物。

 未だに魔道具や魔法生物を破壊する能力はないけれど、どうにかそれを打破しなければいけない。


 これが試練なら、必ず今持っている力で打開できる策があるはずなのだ。


 ターロイは一旦自分のハンマーを置いて、代わりにアダマンタイトのハンマーを背負った。普段使いにするにはちょっと重すぎるが、性能は上鋼のハンマーより遙かに上だ。

 ゴーレム破壊はできなくとも、怯ませることは十分できる。

 ありがたく使わせてもらおう。


 そこから再び外周を回ったが、他にめぼしい物は見付からなかった。となれば、アカツキの祠の時と同じように、敵がガイナードの核の欠片を身につけているのだろう。


 後はそれを呼び出すだけ。

 ターロイが他に点けるべき燭台を探して空間を横断すると、その中央あたりに最後の燭台を見付けた。そこには石でできたプレートが貼られていて、一言だけ文言が書かれている。


「『覚悟せよ』か。やっぱりこれがスイッチになってるんだな」


 そこに火を灯す前に、ターロイは身を隠せる場所や障害物の場所を確認した。

 この遺跡で取り戻せる能力は『時限破壊』。

 破壊点を打突してから実際破壊されるまでの時間を、意図的にずらすことができる能力だ。


 敵がそれを使ってくるとなると、この転がっている岩が盾にも時限爆弾にもなる。

 気を抜くことはできない。

 さっき摩耗した集中力を何とか掻き集めよう。


 ターロイは三度ほど深呼吸をしてから、ゆっくりとたいまつの炎を燭台に移した。


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