86話 色を求めるは侵略の園1
「あらあら、愛情もわからないのかしら?」
そう言ってアリスさんに向けて嘲笑の表情を浮かべるシキさんですが、そこへソフィアさんとネーヴェさんの放った攻撃も飛んでいきますが、またもや周囲にいた人形に防がれます。
「なら、貴方たちにも愛をわからせてあげるわ?」
そしてシキさんは手に持っていた鞭を最初に見たときのように地面に当て、そのまま無数の人形たちを生み出します。
さらに今生み出した人形と周囲に残っていた人形たちにも鞭を当てると、その人形がなにやらピンク色のオーラのようなものを纏い、先程までよりも強くなっているように感じます。
「〈テンプテーションオーラ〉!」
そこへシキさんは一つのスキルを使ったようで、シキさん自身もピンク色のオーラを身に纏い、指揮をとるかのように後方から人形たちを操ってこちらに人形の群を向かわせてきます。
しかも人形たちの纏っているピンク色のオーラのせいか、先程よりも強く甘い匂いがして集中力が少しだけ切れ注意が散漫になってしまいます。
もしかして、これがゴンゾウさんの言っていた魅了の力なのでしょうか?
アリスさんたちをチラリと見た感じでは、私と同じで集中力が欠けているようですが、別に魅了の状態にされてはいないみたいです。
やっぱり女性だけだからでしょうか?まあ特に効いてはいないようですしそれは一旦置いておくとして、とりあえずはこの人形の群れを倒していきましょうか。
「〈第七の時〉、〈第一の時〉〉!」
私は分身を生み出す武技を自身に撃ち込み、その後は分身と共に動きを加速させてから人形の群れへ無数の弾丸を放ちます。
乱射した弾丸たちは人形たちに命中してどんどんダメージを与えていきますが、倒すまでにはいけていません。
「〈吹雪の夜〉!」
「〈狂獣の叫砲〉!」
ですが、私と分身の攻撃によってHPが削れた人形たちをソフィアさんとネーヴェさんの範囲攻撃で倒していってくれているので、結構余裕がある感じで倒せているのでなんとかなっています。
これを見る限り、やはり私のユニークスキルは攻撃系が少ないせいで無数の敵が相手の場合はちょっと力不足に感じてしまいますね…
それにさっきからする甘い匂いがすごい邪魔で集中力が欠けてしまいます…!魅了はされていないので問題はないのですが、それでも気が散ってしまいます!
「あら、貴方たちは愛を受け入れてくれないの?」
「それは愛ではなく、自己中心的な感情なだけでしょ?」
「……あらあら、そんなことを言うなんて、本当に野蛮ねぇ?なら、その感情を愛で塗りつぶしてあげる?」
ネーヴェさんの言葉を聞いたシキさんは、先程まで浮かべていた笑みをなくして一気に鞭を振るい、人形たちをこちらに突撃させてきます。
しかも、今度は人形だけではなく自身も一緒に接近してきています。
なら、シキさんの相手は近接戦闘を主とするソフィアさんに頼み、その間に周りの人形たちを倒していきますか。
「ソフィアさん、あの人の相手を任せてもいいですか?」
「任せて!倒すのは無理でも、邪魔はさせないようにするから!」
「お願いします。…では私たちは周りの人形を片付けていきましょう」
「なのです!」
「わかったわ」
その言葉を聞いたソフィアさんは即座にユニークスキルを使って魔力で出来た獣の部位を顕現させ、そのままシキさんに向かって急加速して突進していきます。
それを見送りつつも、私たちはそれぞれの武技などを使用して周りの人形たちを倒していきます。
「これで、終わりです!」
途中で分身は消えてしまいましたが、私は最後まで残っていた杖を持っている人形の頭を撃ち抜いてポリゴンに変えた後、一度周りを確認します。
周りを見る限り、どうやらアリスさんとネーヴェさんも人形は全て倒し終わっていたようで、残りはいまだにソフィアさんが戦っていたシキさんとその周りにいる数体だけのようです。
「ソフィアさん!こちらは倒し終わりました!」
「了解!なら、あとはこいつだけだね!」
そんな私の言葉に、ソフィアさんは一旦攻撃の手を止めて私たちのいる後方へと跳んで戻ってきました。
ソフィアさんと戦っていたシキさんは、今見た限り特に傷は負っていないようで余裕そうな表情でこちらをじっと見ています。
「ソフィアさん、あの人はどんな感じでしたか?」
「そうだね、何回か攻撃は当てれてたんだけど、すぐに再生をして決定打にかけてしまっているね」
なるほど、再生ですか。流石に無限に回復し続けるということではないでしょうし、何か仕掛けのようなものがあるのでしょうか?
それに残っていた人形たちは全て倒しましたが、この話している間にも後方に下がったシキさんがまたもや鞭を使って人形たちを生み出していますし、ソロではないとはいえ結構面倒くさい相手ですね…
「…レアさん、人形たちの群れは私とネーヴェさんで相手をするので、レアさんはあの人の相手に向かってもらってもいいですか?」
「…そうですね、では私もソフィアさんと一緒にあの人と戦って仕掛けなども調べてみますね」
「任せてください!ネーヴェさんも、頼みますね!」
「…はぁ、めんどくさいけど、それが一番的確な配置ね。…わかったわ、ならアリス、足を引っ張らないでよ?」
「ネーヴェさんこそ、そんな顔をしてないでキチンと働いてくださいよ!」
アリスさんとネーヴェさんはそう軽口を叩きながらも、自分たちの武器を構えて人形たちへ視線を向けるので、私とソフィアさんもそれに倣って人形の群れの奥にいるシキさんを視界にいれて武器を構えます。
すでに人形たちは結構な数が生まれているので、シキさんのところに行く前にまずはアリスさんたちに道を作ってもらわないとですね。
「では、行くのです!〈人形の呼び声〉!」
「活路を開くわ。〈凍える花弁〉!」
そんな声と共に二人が放った人形たちも加えた魔法や武技によって相手側の人形たちがポリゴンとなっていき、その影響でシキさんがいる場所までの道が生まれました。
では、あの人を倒しに行きましょう!
「いきますよ、ソフィアさん!〈第一の時〉!」
「そうだね!〈狂気の獣装〉!」
私とソフィアさんはそれぞれの武技で再び自身を強化した後、開けて道を通って一気にシキさんへと向かいます。
シキさんはそんな私たちを見て、地面を叩いて人形を増やしていた手を止め、こちらに向かって武器である鞭による横薙ぎの叩きつけをしてきましたが、私は加速した状態だったのでそれを活かして素早い動きで姿勢を低くすることで特に当てられることもなく避けれました。
ソフィアさんの方は顕現していた獣の翼によって空中に飛ぶことで、こちらも難なく回避出来てます。
「あらあら、二人して来てくれるなんて、お姉さん嬉しいわ?」
「今度こそ、その顔を驚きに染めてあげるよ!」
お互いの位置が攻撃範囲に入り次第、まず先に動いたのはソフィアさんです。
ソフィアさんは空中に飛んだその姿勢のままシキさんへと突撃し、顕現している尻尾による攻撃を空中で回転を加えてからシキさんに叩きつけます。
しかし、それに対してシキさんは近くにいた人形を鞭で瞬時に掴んだと思ったら、そのまま人形をソフィアさんに投げつけることで攻撃を防ぎます。
尻尾による攻撃は文字通り人形を肉盾にすることで防がれましたが、ソフィアさんはそれには特に驚いてはいないようで、続けて両手の爪による攻撃を連続して加えていきます。
そこに私も中距離から弾丸を乱射しますが、それらのほとんどは回避されますが何発かはその体に命中していますし、ソフィアさんの攻撃も何発かはしっかりと当たってもいます。
「あらあら、そんなに攻撃をしてくるなんて、物騒ねぇ?」
ですが、HPは一切減っておらずシキさんは余裕そうな表情で私を嘲笑うかのように近くの人形を鞭で掴んでこちらに投げ飛ばしてきました。
それに当たるほど私は弱くはないですし、加速状態を維持しているので余裕で回避は出来ています。
そうして少しの間は観察をしながらも二人で攻撃を加えていきますが、やはりHPは全くといっていいほど削れません。
ここまでの戦闘を見るに、シキさんは特に戦闘の技術が高いわけではないようで、私とソフィアさんの二人による攻撃は結構当てれています。
しかし、ソフィアさんが先程言っていた通りすぐさま再生をするせいでHPが減らず、ダメージを与えられていません。
「…ソフィアさん、すみません、一度私は観察に回ります!」
「そうだね、このままでは無意味だろうし、任せるね!」
ソフィアさんに一声かけた私は一旦攻撃の手を止め、少しだけ離れた位置から集中してシキさんの周囲とシキさん本体をじっくりと観察します。
すると、なにやら【魔力感知】スキルに反応があったのでそれを活かして魔力の流れを深く観察してみると、なんと周りの人形たちからの魔力がシキさんへと流れているのがわかりました。
もしかして、これが再生の仕組みなのですかね?ということは、今も作り出している人形たちを全て片付ければ再生は止まるのでしょうか?
「貴方がこの中で一番危険そうねぇ?」
「…っ!」
確認してわかったことを皆さんに伝えようとした瞬間、そのような声が私の頭上から聞こえてきました。
「レアちゃん!ごめんっ!」
そのようなソフィアさんの声が聞こえた瞬間、いつのまにか私の頭上にいたシキさんから、私の頭目掛けて振り下ろされた鞭による攻撃が飛んできました。
「… 〈舞い散る華〉!」
「あら?」
甘い匂いがあるのもあってか集中力が欠けていて反応が間に合わず、攻撃を避けるのが間に合わないも思った私は即座にスキルを使用し、全身を花びらに変えることでその攻撃を躱します。
そして寄ってきていたソフィアさんの元へとすぐさま移動し、そのタイミングでスキルの効果時間が切れて普通の身体に戻りました。
「レアちゃん、ごめん!攻撃を無視されてそっちにいっちゃった!」
「いえ、攻撃はなんとか回避出来ましたし、大丈夫ですよ。それに、おそらく再生の仕組みもわかりました」
「レアさん、わかったのです?」
そうして話し出そうとした時にそのようなアリスさんの声が聞こえてきました。
そちらを振り向くと、どうやら残っていた人形たちも全て倒し終わっていたようでアリスさんとネーヴェさんがこちらに向かってきているところでした。
「アリスさんたちも倒し終わったのですね」
「なのです!それで、再生の仕組みはなんなのです?」
「それはですね、おそらくは周りの人形たちから流れている魔力によって無限に回復していたのだと思います」
「周りの人形、かー…」
「…なら、全力で全てを叩き潰すしかなきってことかしら?」
ネーヴェさんは面倒くさそうな表情を浮かべてそう言ってきますが、多分そうでしょうね。
「なので、周りの人形を倒すのは範囲攻撃が出来るアリスさんとネーヴェさんに頼みたいのですが……よいですか?」
「私は問題ないのです!」
「…そうしないと倒せないんでしょ?なら、仕方ないからやってあげるわ」
「じゃあそっちはアリスちゃんとネーヴェでやるし、私とレアちゃんであの人の相手をするんだね?」
「そうですね、そうなります」
私は範囲攻撃の武技は一つも覚えていないのでこういう場合ではどうしても足を引っ張ってしまっていますが、それは仕方ないとは思うので罪悪感は感じても頼める人に頼みはします。
それに、私の場合は単体のボス相手が一番力を発揮出来るスキル構成ですしね。
「…お話は終わりかしら?」
「ええ、もう大丈夫です。では、今から貴方を倒させてもらいますよ!」
「あらあら、愛を知らない貴方たちに倒せーー」
「〈氷製の大地〉!」
なにやら喋っている途中のシキさんでしたが、言い終わる前に問答無用でネーヴェさんの放った氷の波がいつのまにか生み出していた無数の人形とシキさんへ迫ります。
それをシキさんは空中に跳んで回避はしましたが、人形たちは躱せなかったようで足元を凍らされ、そのまま縫い止められます。ですが、まだHPは残っていて倒せてはいません。
「人形さんたち、突撃です!そして〈破裂する人形〉!」
しかしそこに続けてアリスさんによる人形たちが相手側の人形たちに迫り、その次の瞬間で起きた爆発による範囲攻撃で、足を縫い止められていた全ての人形たちが一気に砕け散ってポリゴンへと変わっていきました。
「レアさん、ソフィアさん、今です!」
「レアちゃん、いくよ!」
「はい!」
人形たちがシキさんを除いて全ていなくなったのを確認次第、私とソフィアさんは自身に強化系のユニークスキルを使用して一気にシキさんに向けて駆け出します。
「ちっ、やっぱりあの白髪の女の子に仕組みがバレたみたいね?」
シキさん本人もそんな私たちの動きに勘づかれたのがわかったようで、近づかれる前にと鞭でまたもや人形を生み出そうとします。
「〈第一の時〉、〈第零・第十一の時〉!」
私はその動きを見て、即座に二つの加速武技を自身に撃ち込み双銃を剣に変えてソフィアさんすら追い抜き、シキさんが私を認識した時にはすでに鞭を持っていた腕を切り裂かれ、動きを止められてたところでした。
「っ!?」
そこで初めてシキさんは驚きの感情を顔に浮かばせます。しかも今度は人形がもういないせいで推測通り再生はしておらず、その腕に傷跡が残っています。
「やはり、これでHPは減らせていますね!」
「なら、ここからは私たちの出番だよ!」
攻撃を受けて一瞬怯んだシキさんへ、私に追いついてきたソフィアさんは顕現させていた翼をはためかせることで勢いをつけ、そのままシキさん目掛けて両手の爪で武技を使用して振るいます。
「くっ…!なら〈パワーウィップ〉!」
シキさんはソフィアさんからの攻撃を発動させた武技でなんとか防ぎ、そのまま切り裂かれたはずの腕を無理やり動かすことで鞭を手当たり次第に振り回し、私たちを一旦引き剥がそうとします。
ですが、そんな単純な動きで距離を取らされる私たちではありません。
私とソフィアさんはシキさんによる鞭による攻撃をギリギリで回避しつつ、自身の武器で徐々にHPを削っていきます。
私は剣から再び銃に戻して中距離から攻撃をしてますが、やはり剣よりは銃の方が慣れているのでこちらの方が私にはあってますね。
「少しだけ離れなさい!〈落ちる氷河〉!」
「私も!〈人形たちの行進〉!」
そんな思考の中でも、続けてアリスさんとネーヴェさんの攻撃も加わることでシキさんのHPがどんどん削れていき、残りは二割近くになりました。
「このままじゃやられるわね…!なら!」
そのタイミングでシキさんは突如防御を捨て、与えられる攻撃を全て無視して私目掛けて強引に飛び込んできます。
そしてそのまま私に向けて抱きつこうとしてきたので、私はそれに対して軽く跳んでの膝蹴りをシキさんのお腹へと放ちます。
「かはっ!?」
シキさんは私による蹴りをお腹に受け、そのまま勢いを殺さずに私から少しだけ離れた位置まで飛んでいきました。
現実では私なんかの蹴りだけでここまで飛ぶはずがないですし、やはりステータスも上がっているおかげで蹴りでもなかなかダメージを与えられますね。
「さ、最後に貴方に抱きつきたかったのに…!」
「敵である貴方にわざわざ抱きつかせると思いますか?」
「…まあいいわ、どうせこの身体は作り物だしね。じゃあ、また会えるのを待っているわよ?」
HPも今の私による蹴りとそこまでの攻撃によって全て削れているので、その言葉を最後にシキさんの身体はボロボロと崩れつつポリゴンとなって消えていきました。




