84話 懐かしい顔ぶれ
その後は料理を作っている途中で兄様も降りてきたので、軽くゲーム内のことを話しつつ出来上がった料理を食べた後、私は再びゲームにログインしました。
「今の時刻は十二時と少しですね」
ログアウトしてた間は特にルミナリアからのメッセージも届いていないみたいですし、多分あちらは大丈夫でしょう。
まあまだお昼を食べていて狩りなどには行っていない可能性はありますが、ルミナリアは私と同等くらいの腕前は持っていますし、そこまで心配することはないので気にしなくても良いですかね?
では、そんな私は今からしないといけない予定もないですし、何をしましょうか…….あ、クオンとのダンジョン攻略の前に軽く視察でもしておきましょうか?
「なら、早速……っと、誰かからメッセージが届きましたね?」
いざダンジョンへ!と意気込んで今いる初期の街から迷宮都市へと移動をしようとするタイミングで、突然メッセージが届いた音が聞こえました。
もしかして、ルミナリアとマキさんからでしょうか?
そう思いメッセージを確認すると、どうやら私の想像とは違って送り主はアリスさんでした。
アリスさんとはイベントの時にフレンドになってはいましたが、あれから特にメッセージのやりとりなどもしてませんでした。
ですが内容を見るに、私に何か頼みたいらしく、よければメッセージを返してくれると助かります、と書いてありました。
なので私は今やるべき予定もないので大丈夫ですよ、と返事を書いて送ると、即座にアリスさんからメッセージが返ってきて、ではよければ迷宮都市の転移ポイントである広場に来てもらってもいいですか?とも聞いてきました。
もちろん私は早速いきますね!と返事を送ってすぐに今いる初期の街の広場へと移動して、迷宮都市に転移を行います。
「あ、レアさーん!」
転移が完了してすぐにそのようなアリスさんの声が聞こえたので、そちらに視線を向けるとそこにはアリスさんが私に向けて手を振って近づいてきているところでした。
「アリスさん!お久しぶりですね!」
「お久しぶりなのです!レアさんが来てくれて助かったのです…!」
アリスさんは前に見たのと同様に焦茶色のクロークを深く被っていてその姿は隠されていますが、私の方が身長は低いのでフードの下の顔が見えています。
前と変わらずに元気なようですが、先程言葉にした通り何やら少しだけ困っていそうな表情をしており、私が来たことに安堵しているのも確認出来ました。
それと装備についても、チラリと見えている範囲では前と変わらずに白色のワンピースで変わってはいないみたいです。
「私をわざわざ呼ぶなんて、何かあったのですか?」
「そうですね、とりあえずここでは目立ちますし、一旦人気の少ないカフェにでも行きませんか?」
「いいですよ、では早速行きましょうか」
「はいです!ではこちらです!」
そう言って案内をしつつ歩いていくアリスさんの隣に続くように、私も一緒に歩いていきます。
「そういえば最初に見た時にも思いましたが、アリスさんはまだクロークで顔を隠しているのですね?」
アリスさんの案内するカフェに行く道中で、私はふと気になったことをアリスさんへ聞いてみます。すると、アリスさんは歩きつつもこちらに視線を向けて話し出します。
「そんな私のことよりもレアさんですよ!なんで顔を隠していないのです!?」
「そ、そう言われても、視線は集まりますが特に声をかけてはこないので大丈夫かな、と…」
「…そういえば、掲示板で時空姫親衛隊とかのスレが出来てましたね。それのおかげでレアさんには声をかけられないのでしょうか…?でも、それはそれで面倒くさそうではありますね…」
私の言葉に、アリスさんは何かを思い出したの小声で何やらぶつぶつと呟いていますが、小声のせいで何を口にしているかは良く聞こえません。
何だか呆れた表情をしていますが、それは私に向けてではなさそうですけど何を口にしているのでしょうか?
「アリスさん?」
「…はっ!な、何でもないのです、レアさん!そ、それよりもほら、着きましたよ!」
アリスさんはそんな話題を誤魔化すかのようにそう声を上げましたが、私はそれに不思議そうにしつつも一旦置いておきます。
アリスさんの反応的に特に私が知る必要はなさそうですし、気にしないでおいても良さそうですしね。
っと、それはいいですね。まずはそのお店に視線を向けますか。
そのお店は、前に私が行ったことのある第二の街にもあったカフェと結構似ており、外装は少しだけ違いますが木材と石で出来て、壁の一面がガラス張りとなったオシャレな見た目となっていました。
周りの店に合わせるためか第二の街のカフェとは少々違っていますが、それでも結構似寄った見た目なのは同じカフェだからですかね?
それでもこんないいお店なら人も集まってきそうではありますが、アリスさんの様子からしてそこまで人はいないのでしょうね。目立たないところに来たみたいですし。
「では、入りましょうか!」
「あ、そうですね」
アリスさんはいつのまにか羽織っていたクロークを外していたみたいでそのように声をかけてきたので、私は観察をしていた思考を一度止め、そのままアリスさんと一緒にカフェの中へと入っていきます。
するとこちらでも同じようにチリンチリンというベルの音が聞こえ、奥にいた店員さんらしき落ち着いた雰囲気を醸し出しているイケメンの男性からも、いらっしゃいませ、という声がかかりました。
「…あれ?あの人ってソフィアさんじゃないですか?」
「え?あ、ほんとなのです!」
そして中に入ってすぐに席を探すと、なんとガラス張りになっている窓際の席にソフィアさんとプラチナブロンドの髪をしたプレイヤーの二人が座っていました。
「あれ?レアちゃんじゃん!」
「…レア?」
私たちの声が聞こえたのか、ソフィアさんが入口付近で立っていた私たちに気付いたようで、そのように声をかけてきます。
ソフィアさんと対面するように座っていたプラチナブロンドの髪に蒼い瞳をした女性プレイヤーも、ソフィアさんの反応を見てこちらを向いてきましたが、その目には警戒心のようなものが見て取れます。
少しだけ警戒をされているみたいですが、私とアリスさんはそんな二人がいる席へと近づいていきます。
「お久しぶりです、ソフィアさん」
「レアちゃんもおひさー!元気にしていた?」
「はい。ソフィアさんも、その様子だと元気そうですね?」
「もちろん!それが私の取り柄だしね!」
私はソフィアさんたちの座っている席に近づいてからそう言うと、ソフィアさんはそう言って元気が溢れんばかりに言葉を返してきました。
「ソフィア、その子は?」
「レアさん、私にも紹介をしてほしいのです」
挨拶を済ませたタイミングでお互いにいた同伴者であるアリスさんとプラチナブロンドの髪の女性プレイヤーがそう口にしたので、私たちは互いに自己紹介を始めます。
「じゃあまずは私から!私はソフィアっていうの!ユニークスキル【狂魂の獣爪】を持ってもいるよ!」
「私はネーヴェ、ユニークスキル【氷結の魔女】持ちよ。まあ、会話くらいはしてあげるわ」
ソフィアさんはいいとして、プラチナブロンドの髪の女性プレイヤーはネーヴェさんと言うみたいですね。
あ、そういえば公式イベントであるバトルフェスの時にも確かいましたよね?こうして面と向かって話すのは初めてですが、名前を聞いて思い出しました。
あの時は氷魔法と氷系のユニークスキルを使ってはいたみたいですが、ユニークスキル名からもそうだとわかりますね。
そして装備についてもイベント時にも見たのと同じようで、氷を思わせる青白い色のドレスを着ていてとても綺麗な美人さんのように感じます。
ちなみにソフィアさんも特に装備は変わっていないようで、前と同じ見た目をしています。
おっと、考えるのはいいとして、こちらも自己紹介をしちゃいましょうか。
「私はレアと申します。ユニークスキルは【時空の姫】です」
「私はアリスと言うのです!私も【不思議な館の人形群】というユニークスキル持ちです!」
私たちもソフィアさんたちの挨拶に続いてそう口にします。
「レアちゃんとは知り合いだったけど、レアちゃんはアリスちゃん?とも知り合いだっんだね!」
「ソフィアさんこそ、戦った相手であるネーヴェさんと一緒にお茶をしているなんて少しだけ驚きましたよ」
「あの後にフレンドになってね〜。まあそれはいいとして、レアちゃんとアリスちゃんもここにきてどうしたの?ただお茶でもしにきたのー?」
「私はアリスさんからの頼みを聞くため、人の少ない場所まで来たのです」
「頼み?」
ソフィアさんはアリスさんに視線を向けて少しだけ気にしていますが……ここで言っても大丈夫なのでしょうか?
私はアリスさんへチラリと視線を向けると、アリスさんは別にソフィアさんたちなら聞かれても問題ないようで、何やら話し出します。
「実は、私に向けて特殊なユニーククエストが起きたのですが、私一人では難しそうだったのでレアさんに協力を頼みにきたのです」
なんと、アリスさんの頼み事とはユニーククエストだったようです。
自分に発生したユニーククエストなどは何度かしたことはありますが、他の人のクエストに誘われたのは初めてですけど私なんかで大丈夫なのでしょうか?
「…そんな特殊なクエストに私なんかで大丈夫なのですか?」
「レアさんはイベントの時に見た限りでは十分強いですし、とても心強いとは感じますから大丈夫です!それに、このクエストは女性しか受けれない特殊なものなのでレアさんにしか頼めなかったのですよ」
女性だけ、ですか。確かにその場合は、おそらくアリスさんのフレンドには私しか女性はいないでしょうし、頼むのは必然的に私になりますね。
なら、アリスさんの力になれるように頑張るとしましょうか!これでも私はイベント後に特訓もしてますし、足を引っ張ることはないはずのでアリスさんの力にはなれるとは思いますしね!
「じゃあ今からレアちゃんたちはそのクエストに行くんだね!」
「なのです!あ、もしよければお二人もどうですか?」
もし時間があるのならと聞いたアリスさんの言葉に、ソフィアさんは少しだけ考えた後に声に出します。
「んー…そうだね。これから何をするか決めていたところだし、よければいいかな?ネーヴェもいいでしょ?」
「…私、そこまで軽く引き受けはしないわよ?」
「でも暇でしょ?今も何かないかしら、って言ってたじゃん」
ソフィアさんの歯に衣を着せぬ言葉にネーヴェさんは図星なのか、うっ、と少しだけ怯みつつも、すぐに大きくため息をついてから返事をします。
「…………はぁ、わかったわよ。私も行くわ」
「じゃあそういうことで!レアちゃん、アリスちゃん、よろしくね!」
「…まあこの期間だけは一緒に行ってあげるわ。別に仲良くはしないわよ」
「よろしくお願いします、ソフィアさん、ネーヴェさん!」
「こんなに強い人が一緒に来てくれれば、これは間違いなくクリア出来そうなのです!」
アリスさんを含めた私たち四人は全員がユニークスキルを持ってますし、公式イベントであるバトルフェスの時にも本戦に出場した経験もあるのでアリスさんの口にした通り、これはよほどのことがなければクリアは間違いなさそうですね。
では案内するのです!と言ってアリスさんはお店を出て行こうとしたので、ソフィアさんとネーヴェさんは少しだけ慌てて会計に向かったのには少しだけ笑ってしまいました。
するとネーヴェさんは頬を少しだけ染めながらもジロリと睨んできたので、私はそれに怯んで顔を逸らすとネーヴェさんはまたもやため息をつきます。
ソフィアさんも私たちの反応に少しだけ苦笑はしてますが、特に何かを言ってはこないでスルーするかのようにアリスさんの後を着いていったので、私たちもそれに続きます。
「そういえばアリスさん、そのユニーククエストの目的地はどこなのですか?」
四人でパーティを組み、アリスさんの案内で街中を歩いている最中に私はそう聞いてみると、アリスさんは特に隠すことでもないようですし普通に答えてくれました。
「今行っている目的地は、この迷宮都市の裏通りに存在する建物なのです。その場所はここからは少しだけ距離があるのでまだ歩くことになりますし、結構入り組んでいるのでしっかりと着いてください!」
「わかりました、案内お願いしますね」
「任せてください!」
そこからもアリスさんの案内で街中を歩いていきますが、前にナンテさんと出会った時のようにドンドンと裏通りに逸れていき、少しだけすれ違ったりしていた人たちなども一切いなくなっていきます。
アリスさんは先導して案内をしてくれていますが、人の気配すら私たち以外に感じなくなっていったので少しだけ心配になります。
それでもチラリとアリスさんの表情を見る限りはふんふんと鼻歌を歌いながら歩いているので、多分大丈夫でしょう。
私が前にナンテさんの弟子になった時や、今回のアリスさんが受けたクエストのように、やはり特殊なクエストなどは大通りなどよりも裏通りなどに多く存在しているのでしょうか?
まあ裏通りなどは人が行くことは少ないから、あまり見つかっていないだけなのもあるかもしれませんね。
「そういや最初に会った時から気になっていたけど、レアちゃん新しい装備なんだね?」
「あ、それ私も思いました!レアさんにはとても似合っていますよね!」
そんな目的地に向かうまでの途中でふとそう言葉にしたソフィアさんへ、アリスさんも同意するかのように声をあげます。
「ありがとうございます。これはユニーク装備でもありますし、強いので気に入っているのですよ!」
私は微笑を浮かべながらそう答えると、アリスさんとソフィアさんは羨ましそうな表情でこちらの装備をじっくりと見つめてきます。
…そうじっくりと見つめられると、なんだか少しだけ恥ずかしくなってしまいますね…!
ネーヴェさんも私の装備に少しだけ気になっているのかチラチラと見てきますが、特に言葉にはしないようで無言でこちらを見つつも着いてきています。
「あ、目的地が見えてきましたよ!」
そうして案内されるがままに裏通りをしばらく歩いていると、アリスさんがふとそのように声をあげました。
アリスさんが示す目的地は一軒の建物のようで、その建物は前に私が見たソロさんの図書館のように大きく、かなりの広さがあるのがわかります。
「アリスさん、あの建物が目的地なのですか?」
「なのです!あそこで特殊なクエストを受けたのですよ!」
なるほど、あの建物が目的地で間違いないようですね。
そして案内に従って徐々に近づいていき、建物の目の前に立って見るとわかりましたが、これはおそらくなんらかの道場のような外観をしており、結構歴史のありそうな雰囲気を醸し出していますね。




