78話 港町へ
『次のイベントですが……それは、無人島サバイバルです』
天馬さんのその言葉に、コメント欄の人たちもそのイベントがどんな内容か気になっているようで、先程よりもたくさんのコメントが加速して流れていってます。
『このイベントは七日間の間、このイベント限定のエリアでサバイバルをして生き抜いてもらうという内容です。ああ、もちろん現実世界で七日間ずっとログインしてもらうわけではありませんよ。このイベント内に限り時間加速が入るので、現実世界では三時間しか経ってないことになるので安心して参加してもらって大丈夫です』
そんな天馬さんの説明に、動画を見ているであろうプレイヤーたちからは安心したかのようなコメントが次々に流れていきます。
私も長期間ログインしなくてはいけないように感じましたが、どうやらその心配はないようですね。よかったです!
天馬さんの説明からするとイベントでは時間加速があるようですし、無人島サバイバルということも考えるとおそらくはそこで食料や寝床などを作って生活しないといけないのでしょうかね?
私は料理や錬金で色々と作れるので大丈夫だとは思いますが、兄様や悠斗のパーティメンバーだけだとちょっと大変そうかもしれませんね。
『こちらのイベントの参加条件は特にないので、ゲームを始めたばかりのプレイヤーの方でも問題なく参加を出来るので安心してください』
今回のイベントは前のバトルフェスとは違って誰でも参加を出来るようなので、新しく増えた八千人のプレイヤーたちも合わさって結構な数になる気がしますね。
まあゲームを買ったプレイヤー全員が参加するわけではないでしょうけど、最大で一万人になるのでこうして見ると初期よりは増えていますね。…イベントエリアの無人島に向かったら、人がたくさんいそうなのでちょっとだけ面倒くさそうに感じちゃいますが。
『そしてこのイベントの開始は来週土曜日のお昼から開始するので、それまで楽しみにして待っていてください』
そんなことを考えつつも、動画内の天馬さんはそう言って話を一度区切ります。イベントは天馬さんの言葉からすると来週らしいですし、それまではまだ少しだけ期間があるのでイベントまでにもっとスキルのレベルを上げたりするといいかもしれませんね。
そこからも天馬さんはさらにイベントの内容についての説明を続けてくれました。
天馬さんの語ってくれた説明によると、今回のイベント内には持ち込めるアイテムの制限がかかっており、イベント前に選んだ一つのアイテムしか持って行くことが出来ないみたいです。そして死に戻りについても制限があるようで、二回まで復活することが出来ますが、三回目になると強制的にイベントエリアから出されてしまうらしいです。
それとイベントエリアにはモンスターも出るみたいなので、一応死なないように気をつけながらサバイバルをする必要がありますね。
『伝えるべき情報はこのくらいですね。ここからは軽く質問を答えていきますか』
その言葉と共に再びコメント欄が沸き立ち、天満さんは適当に選んだらしいコメントの質問に次々と答えていきます。
『…この辺りでいい時間ですね。では今日の生放送はここまでにしましょう。それでは、長い間見ていただきありがとうございました』
流れていた質問もあらかた答え終わり、一息ついたそのタイミングで天馬さんはそう発し、それと同時に放送が終了しました。
私は公式サイトの放送が終わったのを確認次第、パソコンの画面を消しました。
「次のイベントはサバイバルなのですね」
「ということは、料理や生産系のスキルを持っているプレイヤーは結構必要になりそうだな」
「俺たちは全員が持ってませんしね」
私の言葉に兄様と悠斗がそう返してきますが、私と同じようにそれらのスキルが必要になると考えたようですね。
今回は戦闘プレイヤーだけではなく生産プレイヤーも重要視されると思うので、レーナさんやアイザさん、ムニルさんなどのトップの生産プレイヤーの方ははきっと色々な人に声をかけられるでしょうね。
「…いい時間ですし、そろそろお昼ご飯の用意でもしますか。悠斗も少しだけ待っていてくださいね?」
「わかった。ありがとな」
「いえいえ、このくらいは手間でもないですしね」
そうして私はパソコンを手早く片付けた後、キッチンへと向かい冷蔵庫の中を確認します。
悠斗が来る前に買い物は済ませてあるので食材はたくさんありますし……そうですね、今日もけっこう暑いのでサッパリしたいですし、バンバンジーにでもしますか!
作るものを決めた私はパパッと調理を進めていき、色々な工程を得て料理が完成します。
「兄様、悠人、ご飯出来ましたよ!」
「わかった、今行く」
「美味そうだな」
二人してリビングで何やら会話をしていたようですが、私の言葉に一度おしゃべりを止めて料理を置いてあるテーブルの元に二人とも来たので、いただきますと言ってかは早速私たちは食べ始めます。
うんうん、今回の料理もなかな美味しく出来てます!やっぱり暑い日にはこうしたサッパリとしたものは手軽に食べられていいですね!
「そういや美幸はこの後はどうするんだ?」
「んむ?」
そんなことを考えながらパクパクとご飯を食べていると、ふと悠斗からそのように聞かれました。なので私は口の中のものを飲み込んでからそれに答えます。
「私はそろそろ港町にでも行こうかなと思ってました!」
「そうか。俺はこの後はフレンドとの予定があるから、また一緒に出来るのは火曜日だな」
「ですね!その日まで楽しみに待っています!」
そこからも兄様も混ざりながら会話を続けながらご飯や食べ続け、食事が終わったら食器洗いなどの片付けは兄様に任せて私たちは会話を続けます。
「そういやイベントは次の土曜日みたいだが、その時はまた誰かと一緒に行くのか?」
「んー、今のところは特に誰かと行くかは決めてませんね。まだ情報が出たばっかですしね」
まだ決めてないといっても、おそらくソロでは行かないとは思いますけどね。
もしソロだとしてもどうせイベントエリア内で兄様や悠斗、フレンドの人と出会ったりもするだろうとは思うのでそこまで細かに決める必要はなさそうですが。
「なら、もし誰も一緒に行く人がいなかったら俺たちと行かないか?」
「…そうですね、その時はお願いしてもいいですか?」
「もちろんいいぞ、まあ人がいなかったらだけどな。…よし、俺はそろそろ帰るとするか」
会話がひと段落したタイミングで悠斗はそんな言葉と共に立ち上がったので、私も一緒に立ち上がり二人で玄関まで向かいます。
「わかりました。では、また会えるのは火曜日ですかね?」
「だな、じゃあまたその日まで」
「はい、またです!」
そうして玄関の扉を開けて自分の家へと帰っていく悠斗を見送った後、私は一度リビングへ戻ります。
夏休みなので出会う日はいつもよりも少なくなりますが、これからも時々会うでしょう。それにゲーム内でも会話をしたり会ったりも出来ますしね。
「悠斗は帰ったのか?」
「はい、先程帰っていきましたよ」
流しで食器の片付けを済ませた後、リビングへ戻ってきた兄様からそのように聞かれたので私は素直にそう答えます。
「では、私も部屋でゲームでもしてますね」
「わかった」
一度兄様に声をかけた私はすぐさま自分の部屋へと戻っていき、置いてあったヘッドギアをいそいそと頭へと付けてゲーム世界へとログインします。
「今の時刻は十一時半くらいなので結構やっていても大丈夫ですし、早速港町を目指していきましょうか!」
今いる場所は職人都市に存在する職人ギルドの本部なので、私はまずこの建物から出ていき街の広場へと向かいます。
今日は土曜日だからか、職人都市ではありますがそこそこのプレイヤーと住人が道を歩いています。
そして歩いている最中でもプレイヤーと思しき人たちからはチラチラと視線をこちらに向けてきてますが、私はそれを無視しつつ歩きます。
やっぱり顔などを隠さないと結構目立ってしまうようですが、声をかけてくるわけでもないので一応このままでも大丈夫そうですかね?まあ前にもあったように、誰かを待っている時には声をかけられる可能性もありますが。
そんなことを考えつつも歩いているとすぐに職人都市の広場に着いたので、私はそこから初期の街へ向けて転移を行います。
転移はすぐに完了し、場所が変わるやいなやたくさんの人たちが私の視界に映ります。やはり初期の街であるので、私と同じ第一陣であるプレイヤーはともかく、初心者らしき第二陣のプレイヤーも結構な数が見受けられますね。
「…人が多いところは嫌なので、さっさと移動しちゃいますか」
そう誰に言うでもなく呟いた私は、人混みを抜けるかのように南に向けて大通りを歩いていきます。
プレイヤーたちからの視線をたくさん受けながらも、大通りを歩きながら初期の街を確認していますが、前よりもプレイヤーが増えたからか活気のようなものが溢れているように感じます。
最近は初期の街を散策することは少なかったですし、また適当にブラブラと街中を歩いていくのも良いかもしれませんね。
…それまでにこのプレイヤーたちからの視線がもう少しなくなれば、散策するにしても快適なのですけどね。
「っと、着きましたね」
初期の街は迷宮都市などと比べて小さめなので、思ったよりも早く南門付近に着きました。まあ迷宮都市と比べると、なので十分な大きさはありますけどね。
確か南からはずっと平原が広がっていて、エリアボスは街の周囲にもいた鶏の大きくなったらバージョン、でしたっけ。
兄様からも一人でも大丈夫だろうとは言われてますし、おそらくは一人でも行けるでしょう。だとしても、油断はしませんけどね!
「ついでにこのタイミングでクリアも呼んでおきましょうか」
私は南門を抜けて平原を歩きながらクリアを呼び出し、そのまま私の肩に乗せます。
「クリア、ここからは海に行きますよ!」
「……?」
私の言葉にクリアは不思議そうにスライムボディを震わしていますが、そんなクリアを見て私はクスッと笑います。
ふふ、きっと海を見ればクリアも驚きますし、その反応を楽しみにしますか!
私は鼻歌を歌いながら肩にいるクリアと共に平原を歩いていきます。クリアも私の歌声にのってプルプルと震えて楽しそうにしており、なんだかゆるい雰囲気が辺りに漂ってしまっています。
ここの平原にいるモンスターは自分から襲ってくるタイプではないので、さもありなんですね。
「あ、ついでにこの間にクリアのステータスも確認しておきますか」
「……!」
クリアもいいよー!というように私の肩で震えているので、早速ステータス画面を開いて確認します。
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名前 クリア
種族 ピュアメタモルスライム
性別 無
スキル
【万物食Lv18】【状態異常耐性Lv3】【物理耐性Lv7】【魔法耐性Lv4】【発見Lv7】【魔力操作Lv10】【魔力察知Lv12】【HP上昇Lv9】【MP上昇Lv9】【HP自動回復Lv8】【MP自動回復Lv8】
固有スキル
【変幻自在】
称号
〈レアのテイムモンスター〉
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最近はあまり呼んでいなかったですが、森での狩りもあってかそこそこ成長はしていますね。それに【魔法耐性】スキルも私を守ったりもしたので少しだけ上がってはいます。
クリアのステータスはこんな感じみたいですね。これから一緒に行動していれば、ここからもさらに上がっていくことでしょう。
「クリアもいい感じに成長出来てますし、この調子で私と一緒に頑張っていきましょうね!」
「……!」
わかったー!とでも言うようにプルプル震えているクリアを、私は微笑を浮かべながら片手でなでなでします。
そんな撫でている手にクリアは擦り寄ってくるので、猫などの小動物的に感じて凄く顔が綻んでしまいます。
うーん、やっぱりクリアは可愛いですね!
そうしてクリアと一緒に平原をしばらく歩いていると、ボスエリアらしき場所が見えてきました。
「ポーションもたくさんありますし、武器も問題ありませんから大丈夫ですね。よし、いきましょう!」
「……!」
クリアも張り切っているようで、私の肩で意気込んでいるのがわかります。
今回はソロですし、クリアにも手伝ってもらいましょうかね?
そんなことを考えながらもボスエリアに踏み込むと、突如空から三メートルくらいはありそうな大きさをした鶏が現れました。
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ハイコッコ ランク F
平原などに生息している大鶏。
その大きな体で空を飛び、敵を威嚇する。
状態:正常
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鑑定ではそう出ましたが、どうやら空を飛ぶことも出来るみたいです。それでも私は銃を扱うので、それについてはそこまで心配することはないですね。
「クリア、いきますよ!」
「……!」
その言葉を聞いてクリアが私の肩から飛び降りたと思ったら、すぐにハイウルフの姿に変身して大鶏に駆けていくので、私もそれに続くようにインベントリから両手へ双銃を取り出します。
そして大鶏へと弾丸を無数に撃ちながら接近していきます。
「コケッ!」
私たちの接近を確認した大鶏はそのような声を上げ、私たちに向けてその強靭な足で蹴りを放ってきました。
ですが、もちろんそんな攻撃に当たるほど私たちは弱くはありません。
クリアはそれを地に深く姿勢を下げることで避け、私は横に僅かにズレることで回避に成功します。
「ガゥ!」
大鶏の攻撃を避けたクリアは、蹴りをしたせいで出来た僅かな隙を見つけて一気に地面を蹴って接近し、そのガラ空きのお腹辺りへとその両腕の爪で切り裂いてダメージを与えます。
「ココッ!」
大縄は受けたダメージに一瞬怯みますが、即座に攻撃をしてきたクリアへと視線を向けて今度はその両腕の翼を振り下ろします。
「〈第三の時〉!」
が、それをさせるわけがありません。私は振り下ろされる片方の翼に向けて弾丸を放ち、それを見事に撃ち抜きます。
「コケッ!?」
それにたまらずと言った様子で先程よりも強く怯み、そこにクリアは連続して両腕の爪で切り裂き、HPを減らしていきます。さらに私も両手の銃で連続して大鶏を撃ち抜いているので、どんどんHPが削れていってます。
「コケッ!」
そんな怯んだ状態から戻った大鶏はそのように大きな声を上げながら、一度翼をバサバサと動かしてクリアを後方へと飛ばします。
そしてそのまま翼を動かして空中へと浮かび始めたので、クリアはそれを見て少しだけ唸っています。
HPがすでに五割ですし、ここからは空中戦なのですかね?まあ狼の姿では攻撃出来なくても、クリアの本当の姿は狼ではないので特に困ることもありませんが。
「クリア、今度は蝙蝠の姿になりましょう」
「ガゥ!」
私の言葉にクリアの姿がグニョグニョと変形し、即座に今の狼の姿から岩のような見た目をした大きめの蝙蝠の姿へと変化しました。
この姿なら空を飛べますし、これでクリアもダメージを与えられるはずですね!
「コケッ!」
クリアの変身が完了したタイミングで大鶏はそのような声を上げつつ、私に向かって飛び込んできたので、それは後方に跳ぶことで避けます。
【跳躍】スキルが【飛躍】スキルへと進化しているおかげか前よりも跳躍力が上がっているようで、思ったよりも大きく跳べました。
これなら空中へ跳んだりするときももっと高くいけそうなので、今みたいな空中戦では重宝しそうです。
っと、そんなことは今はいいですね。地面に着地して隙が出来てますし、クリアと一緒に攻撃をしちゃいましょうか!
動きの速さや力強さも初期エリアのボスなので特に強くなく、この調子なら簡単に倒せそうですね!




