76話 ポーションと魔法薬
「あ、見えてきたよ!」
ふと上げたカグヤさんの声に、私はそちらに視線を送ります。
カグヤさんが示したその建物は焦茶色の壁と赤い屋根が目立つ、なんというか落ち着いた雰囲気を醸し出しているお店でした。
このお店は他の建物とは違って石や煉瓦などではないですが、木をメインに使っているようで結構オシャレにも見えますね。
大きさについても、現実であるコンビニと同じくらいでそこまで大きくないみたいですが、それでも十分な広さはあるように感じます。
そんなお店の入り口付近には、兄様たちが立って私が来るのを待っていました。
「兄様と皆さん!待たせてしまってすみませんでした!」
「お、レアか。そこまで待っていたわけではないから大丈夫だぞ」
「そうそう!それにレアちゃんが無事でよかったよ!」
私の謝罪の言葉に、皆さんは特に気にしていないようで軽い感じで返してくれました。うーん、優しい人で助かりました…!
「それと、その人が案内をしてくれた人か」
「あ、そうです!紹介しますね、こちらはカグヤさんです!カグヤさん、この人たちが私のパーティメンバーである、兄のゼロ、セントさん、ジンさん、マーシャさん、サレナさんです!」
「紹介に与ったゼロだ。レアを案内してくれて助かった」
「いえいえ、私も特に予定はなかったですし、このくらいは問題ありませんよ!」
そこから他のメンバーとも挨拶を交わしたカグヤさんは、それじゃあ私はいきますね、と言って私たちへ手を振りながら去っていったので、私は肩にあるクリアと共に手を振って見送りました。
「…よし、レアも無事に来たことだし、早速中に入ろうか」
「わかりました!」
兄様の言葉に、私たちはお店の扉を開けて中へ入っていきます。
このお店の中はポーションのお店といういうだけはあり、たくさんの棚に無数のポーションに魔法薬、珍しいものでは塗り薬や粉末状の薬などが置いてありました。
「お、きたね」
「待たせてすまんな」
そしてお店に入り次第、お店の奥にあったカウンターに座っていた一人の人間らしき男性プレイヤーが私たちを見つつそのように声を上げました。
私たちはその男性プレイヤーの元へ近づいていきます。近づいてみた感じ、その男性プレイヤーは座っているので正確な身長は分かりませんが、髪と目の色については両方とも爽やかな緑色をしており、落ち着いた性格をしてそうに見えますね。
「そっちの子が、ゼロが紹介をしたいって言ってた子かい?」
「そうだ。こいつは俺の妹で…」
「レアと申します。ポーションは自分でも作れるので今までは寄ることがなかったので、兄様に頼んで紹介をしてもらったのです」
「これはご丁寧にどうも。私はヴァルトというんだ。よろしくね、レアちゃん?」
その男性プレイヤー、ヴァルトさんはそう言って軽く微笑んできます。正面からマジマジと見ると、ヴァルトさんも兄様とは違うタイプのイケメンですね。兄様とは違ってクール系ではなく、爽やかイケメンでしょうか。
まあ、兄様のほうがカッコいいですけどね!
「それとレアちゃんは自分でも作ると言ってたけど、レアちゃんも【調合】スキルを持っているのかい?」
「いえ、私は【錬金術】スキルですね」
「【錬金術】スキルか。それは使いづらいと聞いたことがあるけど、実際はどんな感じなんだい?」
私の言葉にヴァルトさんは少しだけ微妙そうな表情をしてそう続けきましたが、私は苦笑しつつもそれに答えます。
「【調合】スキルとかとは違って作ったアイテムのランクを上げることが出来ないので、そこが一番の問題ですね。その問題を除けば、作るのに時間もかからないのでそれだけはメリットでもあります」
「なるほど、ランクを取るか時間を取るかなんだね」
ヴァルトさんもそれを聞いて【錬金術】スキルの理解が出来たようで、そのように言葉を呟きます。
「じゃあ、そんなレアちゃんにも私の作ったポーションと魔法薬はオススメだよ。ランクも高く出来ているから、ポーション中毒になる前にHPやMPを回復出来るしね」
「ポーション中毒ですか?」
「そういえば、レアはポーションを使うことが少なかったから知らなかったな。ポーション中毒とはな…」
そんな私の疑問に、ちょうど近くにいた兄様がそれについて教えてくれます。
兄様の説明を聞いたところによると、あまり使う機会がなかったせいで私は知りませんでしたが、実はポーションを飲みすぎると中毒の状態になって回復しなくなるようなのです。
なので、今ヴァルトさんが言った通りポーション系はランクが高ければ高いほど回復量が上がるので、それでなんとか中毒になる前に抑える必要があるらしいです。
「…というわけだ。だからレアも自分で作れるとはいえ、ランクの高いポーションは少しだけでも買っておいた方がいいぞ」
「なるほど、確かにそんな仕組みがあるのなら、私も少しだけ買っておきましょうかね!」
自分でもポーションは作れますが、それらは最低ランクのFしか作れませんし、急ぎで使う必要がこれから出てくる可能性もあるので兄様の言う通り数個は買っておきますか。お金についても特に心配はないですしね!
「それにヴァルトの店は多数の魔法薬も売っているから、俺たちのように自分で作れないプレイヤーからしたらとてもありがたいんだよな」
「そういえば一直線にヴァルトさんの元に向かったので、まだこのお店に置いてある商品は見てませんでした!」
「なら、世間話はこのくらいで見てくるといいよ。私の自慢の品だからね」
「では、私はちょっと見てきますね!」
一度ヴァルトさんと兄様に声をかけてから、私はカウンターから離れてお店の中を歩き、商品であるポーションや魔法薬を見ていきます。
「ふむふむ、やっぱり魔法薬は前に見たのと同じで、基本はステータス上昇や状態異常の付与と回復などのようですね」
ポーションについても、私が錬金で作ったのとは違ってランクが上なので効能が高くなっています。
それに瓶に詰まった液体タイプのポーション以外にもこのお店に入った時にも見た塗り薬や粉末状なども置いてあり、それらも説明を見た限り効能はHPやMPの回復効果と同じようではあります。
ですがポーションとは違って即時回復ではなく徐々に回復するもののようなので、これはポーションとは違う使い方になりそうですね。
しかも最初に見た時には気づきませんでしたが、タブレット系のものもあるようで、そちらはポーションよりもすぐに使える即座回復のアイテムらしいです。
まあすぐに使える分、普通のポーションよりは少しだけ効能が低いみたいですが。
「…あ、こんなのもあるのですね!」
そんなポーション類を品定めをしている中、ふと気になった魔法薬を発見しました。
それは特殊なバフである水属性に耐性を付与する効果のようで、これを飲めば一時的に水属性の攻撃から受けるダメージを減らすことが出来るみたいです。
「…これはもしかして、海の魔物の素材から作ったものなのでしょうか…?」
水属性の魔物なんて今の段階では海にしかいないでしょうしね。
他にも魔法薬が置いてある棚には、闇属性への耐性を上げる魔法薬や跳躍力を上げる魔法薬などもあったので、やはりそれに合った魔物の素材を使えば普通とは違った魔法薬が作れるのでしょうね。
うーん、こうして色々と見ていると私も作ってみたくなりますね!素材も結構集まってはいますし、近々にポーション以外にも魔法薬も使ってみましょうか!
「…よし、とりあえずは見本としてこの水属性の耐性を上げるアクアポーションを一つと、こちらの中級ポーションと中級MPポーションをそれぞれ五個ずつ買っておきましょう」
今手に取った中級ポーションはおそらくノルワルド黒森で取れた特薬草に特魔草などから作れるのでしょうし、素材はすでに獲得しているので今度私も作るとしますか。
そうしてカウンターにいたヴァルトさんのところへいってポーション類の会計を済ませ、ついでとばかりにフレンド交換もしておきました。
ヴァルトさんはポーションや魔法薬について聞きたくなったらいつでもメッセージを飛ばしてくるといいよ、とも言ってくれたので、これから困ることがあればぜひ相談させていただこうと思います!
「レアも会計は済んだのか?」
フレンド交換も済ませていい買い物をしたとホクホク顔をしていると、いつのまにか背後にいた兄様からそう声をかけられました。
「兄様!はい、私も買いたいものは買ったので、終わりです!」
「そうか、じゃあポーションの補充も済んだからまた近くのエリアで狩りに行こうと思っていたが、レアはどうする?」
どうやら兄様たちはまたもや狩りに行こうとしているみたいで、私にもどうするか聞いてきました。
うーん……特に疲れも残ってはいませんが、このお店を見たおかげで刺激を受けて私もポーションや魔法薬を作ってみたくなったので、今日はそれを優先するとしましょうか。
「すみません、今日は私もポーション系を作ってみたくなったので、そちらをしてもいいですか?」
「了解、ならまたいつか一緒に狩りに行こうか」
「はい、ではまた!」
兄様たちへそう告げた後、私は背後から受ける別れの声を聞きつつ肩にいるクリアと共に職人都市に移動するため、今いる場所から初期の街の広場へと向かいます。
そしてその道中では、第二陣らしき何人かのプレイヤーから声をかけられました。声をかけてきた目的は公式サイトが出していたPVを見て気になったのと、初めて本物を見たうえ肩にいるスライムであるクリアと一緒でとても可愛いからつい声をかけてしまった、とのことでした。
というか本物って……偽物でも出ているのでしょうか?それと声をかけてきたプレイヤーたちからは肩にいるクリアと共にたくさん可愛いと言われましたが、そこまで言われる程ですかね?一応見た目には気を遣ってはいますが、自信は待てませんね。
あ、クリアについては当然可愛いので、それだけは自信はあります!
そうしてすれ違うプレイヤーたちと軽く言葉を交わしながら歩いていると、迷宮都市よりかは広くないからかすぐに広場へと到着しました。
「ではクリア、職人都市へ向かいますよ」
「……!」
クリアもわかった!というように私の肩でプルプルと震えて気持ちを伝えてくるので、それに軽く微笑を浮かべつつクリアを軽く撫でてから、職人都市へと転移を行います。
転移が完了するとすぐに場所が変わり、石造りらしき街並みが視界に映ります。この街にはまだ第二陣のプレイヤーはあまりいないようで、先程までいた初期の街と比べて人が多くないので人混みがなくて広々としているように感じますね。
「っと、そんなことはいいですね。それよりも職人ギルドに行ってポーション作りとしましょう!」
「……!」
クリアも賛同するように私の肩でプルプルと震えているので、早速向かいますか!
そこからもプレイヤーたちとすれ違いながらも職人ギルドへと歩いていき、数十分が経つ頃には目的地である職人ギルドの前まで着きました。
クリアは職人ギルドを見るのは初めてのようだからか、少しだけ楽しそうにしています。初めてここに来た時にはまだクリアはテイムしてなかったですし、こんな立派な建物に入るのも初めてでもありますしね。
若干時間興奮気味のクリアを肩に乗せたまま、私はギルド内へと扉を開けて入っていきます。
中に入ると、そこには何名かの生産プレイヤーたちが椅子に座りながらテーブルを囲んで何やら話しており、対してギルド内のカウンターには前にも会ったことのある副マスターのミリアさんと他の職員である女性が座っていました。
プレイヤーたちはいいとして、とりあえずはミリアさんのところに向かいますか。
「ミリアさん」
「おや、レアちゃんではないですか。今日はどうされましたか?」
「ちょっと【錬金術】スキルでポーションとかを作ろうと思いましてね。今日は個室は空いてますか?」
「大丈夫ですよ。では早速使いますか?」
「いえ、その前に素材とレシピを買うことって出来ますか?」
薬草系統はまあまあ集まってはいますが、それに使うであろうガラス瓶は特に買っていないため持ってないので、個室で作りに行く前に買おうと思ったのです。
それにポーションはともかく他の魔法薬などのレシピも私はわからないですし、ついでにこれも買って置いた方が良さそうなのでミリアさんに聞いてみました。
「もちろんそちらも大丈夫ですよ。それならこちらで購入を済ませてしまいましょうか」
「はい」
ミリアさんはそう言ってカウンターから出た後に私に着いてくるように案内をしつつ、一つの部屋へ向かいます。
その中は前にも見たのと同じく、ソファやテーブルなどが置かれていてオシャレな部屋でした。そんなオシャレな空間を見て、クリアは私の肩で少しだけ楽しそうにしています。クリアからすれば少しだけつまらないかもと思ってましたが、楽しそうでよかったですね!
「これが商品一覧表です。ここに書いてあるものなら基本はあるので、自由に選んでくださいね」
「わかりました」
楽しそうにしているクリアをチラリと見ながら案内されるがままにソファに座ると、ミリアさんはそう言って紙の束を手渡して来たので、私はそれをめくっていって書いてある素材を確認してしていきます。
その紙にはどうやらレシピについてもあるようで、そのアイテム名だけが書いてありました。例えば私の作りたいもの思っていた中級ポーションや、ヴァルトさんのお店でもあった魔法薬であるアクアポーションなど、実に多様な種類のレシピも載っていました。
「…とりあえず、中級ポーションのレシピとステータス上昇効果のある魔法薬全般のレシピを買わせてもらいます」
「わかりました。ではお会計は5,000Gです」
「結構安いのですね?はい、これ5,000Gです」
「…はい、確認しました。続けて今買ったレシピに載っている素材も買っていきますか?」
確かに、レシピだけ買っても私が持っていない素材もあるでしょうし、一緒に素材も買う方がよさそうです。
「そうですね、一度レシピを確認してからでもいいですか?」
「大丈夫ですよ。では待ってますね」
ミリアさんは待っていてくれるようなので、手早くレシピの確認を済ませましょうか。
まず中級ポーションについては、兄様たちとの狩りの時に採取していた特薬草に特魔草を使うようで、これは予想通りでした。
ですが、HPとMPのポーションは両方とも同様に触媒草というものを使う必要があるみたいなので、こちらはこの後に買う必要が出ましたね。
そしてステータス上昇系の魔法薬については基本魔物の素材をMPポーションと合わせれば作れるようなので、特に買う必要のものはありませんね。それと魔物によって上がるステータスは変わったりするようですが、これは何度か作っていけば自ずとわかるようにはなるでしょう。
「…よし、では触媒草を十個とガラス瓶も五十個買わせてもらってもいいですか?」
「分かりました、ただいま用意しますね」
その言葉と共にミリアさんはベルを取り出し、それを鳴らしてから少しすると扉をノックする音が聞こえてきました。
ミリアさんは入ってきた男性の職員さんに何やら伝えると、男性の職員さんはすぐに部屋を出ていきました。
そしてそこから生産についてのたわいない会話をしていると、扉をノックする音と共に先程の男性の職員さんが入ってきました。
その男性の職員さんは、何やら木で出来たトレイに灰色がかった草みたいなのを載せていましたが、おそらくあれが触媒草なのでしょうね。
「レアちゃん、これが触媒草とガラス瓶です」
そう言ってミリアさんはどうぞと言ってそれらを渡してきたので、私はそれと交換するかのように男性の職員さんが来る前に聞いていた代金を払った後にインベントリへ仕舞います。
「…はい、ちょうどです。レアちゃんはこの後錬金をするのですよね?」
「はい、今日も一時間だけ借りさせてもらってもいいですか?」
「大丈夫ですよ。ではその代金も今もらってしまいますね」
「わかりました」
私は代金である100Gも一緒に払い、ミリアさんと共に今いる部屋から出てから、ミリアさんに見送られながら階段を登って開いていた近くの個室へと入ります。




