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63話 兄様との特訓

「ここは……ソロさんの図書館ですね」


 ログインしてまず視界に入ってきたのは、無数の本棚とテーブルに椅子でした。そしてソロさんは今はいないようで、ここにいるのは私だけみたいです。


「とりあえず、兄様に今のログインしたと伝えて……第二の街の広場で待ってますか」


 私は兄様にフレンドメッセージを送った後、今いる図書館から出て広場へ向かいます。あ、もちろん焦茶色のクロークを装備して、ですよ!


 図書館から広場に向かって歩いている途中で兄様からの返信も返ってきて、どうやら今はゴルブレン森林で一人狩りをしていたようなので少し遅れる、とメッセージには書いてありました。


 私が来るのが遅れたせいでもあるので、そのくらいは別に問題ありませんしそのまま待つとしましょうか。


「それにしても、装備が強そうになっているプレイヤーも結構増えてきてますね」


 広場に行く途中で結構な数のプレイヤーとすれ違いますが、皆さん鉄だったりオシャレなローブや洋服だったりと結構装備が充実しているみたいです。


「私はこのゴスロリ装備とワンピースがありますし今のところは特に欲しいわけでもないですが、やっぱり色々な服を見ると気になってしまいますね」


 まあ強さ的にはユニーク装備であるゴスロリが一番ですし、これからも基本は変わることはないでしょうけど。


 そんなことを一人呟きながらも歩いていると、広場に着きました。なので私は待っている間は噴水の縁に腰掛け、そこで兄様を待つことにします。


 そうして待つこと数分。周りを視界に入れつつもボーッとしていると、大通りの先から兄様がこちらに向かってきているのが見えました。


「兄様ー!」

「レアか。すまん、待たせた」


 私が兄様に向けて手を振りながら声をあげると、兄様は私の元に近づいてきてそう謝ってきたので、私は全然大丈夫ですよと伝えます。


「よし、じゃあ前と同じように決闘システムで特訓といこうか」

「わかりました!」


 兄様はそんな私に決闘の申請をしてきたので、私はもちろんそれに承諾をすると、お互いの身体が光って決闘エリアへの転移が起こります。




「…着きましたね」


 光が収まると、私と兄様はすでに決闘エリアである広い土で出来た平らな地面のフィールドに移動していました。


「対戦方式は前と同じで、スキル使用不可のHP残り50%で決着のルールで問題ないか?」

「大丈夫です!」

「よし、なら早速始めるか」


 兄様と私は互いに戦闘の準備をしてフィールド場で対面し、兄様の操作したシステムで決闘開始のカウントダウンが始まります。そしてそのタイミングで邪魔になる焦茶色のクロークは外しておきます。


『Ready fight!』


 そんな開始の合図がなったと思ったら、私たちは同時に動き始めます。


「はぁ!」

「ふっ!」


 私は変化させていた細剣と短剣を、兄様はユニークアイテムである銀色の刀を手に持ち、お互いに武器を振るって攻撃を繰り出します。


 私の振るった右手の細剣と兄様の持つ刀がぶつかり合って火花を散らしつつ鍔迫り合いとなりますが、兄様の方が力などは強いからか徐々に押し切られていきます。


 そんな中、私は右手に持つ細剣はそのままに左手の逆手に持った短剣を兄様の右手の手首辺りに振いますが、それは読まれてたようで刀を振り抜いて私の細剣を弾き、後ろに僅かにズレることによって短剣は回避されました。


「ふっ!」

「おっと」


 私は兄様の刀で弾かれた細剣は即座に戻し、持ち直した右手の細剣でフェイントを混ぜつつ兄様の頭、首、胸と連続で刺突を撃ち込みますが、それらは兄様もフェイントを混ぜたような動きで全て回避されます。


「これは、どうだっ!」

「…っ!」


 そして兄様は攻撃をした瞬間の私に生まれた僅かな隙を見て、その手に持つ刀を私の首元狙いで振るってきたので、私は首を逸らすことによってそれを紙一重で回避出来ました。


 が、今度は兄様の攻撃のターンになり、そのまま袈裟斬り、横薙ぎ、刺突と連続して攻撃を放ってきますが、それを私はゆらゆらとした不規則な動きで回避しつつ、当たりそうなものだけは主に左手の短剣で逸らしたり弾いたりしてなんとか被弾を無くせています。


 やはり、近接武器はまだ慣れていないせいか隙も僅かに出来てますし、簡単に読まれてもいますね…!それでも回避や逸らしたりは銃の時と同じような感じなので、そこはまだ出来ているのが救いですね。


 ですが、兄様の攻撃が思いの外重いうえに速いので、これは少しの被弾は覚悟して攻撃に移るしかなさそうに感じますね…


 そんな思考をしながらも、飛んでくる兄様の攻撃を僅かに身体をズラすことで避け、当たりそうなものは弾き、躱すのも弾くのも出来なさそうなものは右手の細剣で捌いてと対応します。


「ここっ!」

「む…!」


 そしてその攻撃と攻撃の間の一瞬の隙を見つけ、そこに右手の細剣で放った鋭い刺突は兄様の身体を掠めるだけではありましたが、僅かに傷をつけることが出来ました。


 兄様はそんな攻撃を受け、一度後方に跳んで距離をとってからこちらに視線を向けてきます。


「思った通り、レアは才能があるな」

「そうですか?」

「ああ、このまま特訓やこの世界の攻略もして成長していけば、俺やカムイなどの相手でもいずれは簡単に倒せそうとは思うな」


 兄様はそう言いますが、そこまででしょうか…?私自身はまだまだ動きに自信がないので、そうは感じませんが…


「….まあ褒められるのは嬉しいですし、素直に受け取っておきますね。ありがとうございます」

「よし、じゃあ続きといくぞ?」

「はい…!」


 そして兄様は地面を蹴って再び私に接近してきます。それを見て私は、少しでも動きを学ぼうと兄様の動きをしっかりと観察しつつ武器を構えます。


「はっ!」


 兄様は私に近づいてきて刀の間合いに入ったと思ったら、右手でしっかりと持った銀色の刀を横薙ぎに振るってきたので、私はそれを僅かに後ろに下がることで回避してから右手の細剣でお返しに胸元目掛けて突きを放ちます。


「はぁ!」

「甘いっ!」


 しかしそれは身体を横にズラされて回避され、兄様は攻撃した瞬間の私の首狙いで瞬時に刀を振り抜いてきました。


 それを見て私は、逆手に持った左手の短剣でその刀による攻撃を受け流してから短剣で兄様の首元を同じように狙いますが、それは姿勢を下げることで回避されました。


 私はそこに、右手の細剣を下から掬い上げるように切り上げると、兄様はそれを横にステップを踏むことで回避しました。


「ふっ!」


 対して兄様は、攻撃した瞬間である私の胸元に向けて刀で鋭い刺突を放ってきたので、私はそれを瞬時に順手に持ち直した左手の短剣で逸らします。


 が、それを読んでいたのか兄様は逸らされたはずの刀を即座に手元に戻し、そこから連続で刀を振るってきました。


 それらは右に左にとステップを踏むことでなんとか紙一重で避け、当たりそうなものについては短剣や細剣で逸らしたりして傷は特に負っていませんが、やはり兄様は強いのでなかなか隙が出来ません。


「ならっ!」

「…っ!」


 なので私は少しの被弾は覚悟して飛んできた刀の攻撃を逸らした瞬間、一気に兄様の懐に踏み込みます。僅かに攻撃を受けてHPゲージが減ってしまいますが、そうでもしないと接近は出来なさそうですしね。


 そして踏み込んでから兄様の首狙いで右手の細剣を振るうかのようにフェイントを入れてから、反対の逆手に持った短剣を振います。しかしそれは直前にフェイントと気づいたようで、回避がなんとか間に合ったのか首を掠めるくらいで僅かなダメージしか与えられませんでした。


 そんな首狙いの攻撃を回避した兄様は即座に手に持つ銀色の刀を私に向けて振り下ろしてきましたが、私はそれを読んでいたので紙一重で回避し、今度は右手の細剣で兄様の左太ももに向けて振るいます。


 が、そちらも後方に一歩下がることで回避されました。


「なかなかやるな。だが、これならどうだ?」

「…!」


 追撃に移ろうとした私を見て、さらにステップを踏んで少しだけ後ろに下がった兄様は、刀をいつのまにか出していた鞘に一度戻し、居合の構えをします。


 それを見て私は警戒を最大限に強めつつも、見てるだけでは特訓にならないので兄様に対して地面を蹴って肉薄します。


「はぁっ!」

「しっ!」


 そして私が接近したことでお互いに武器の間合いに入ったので、私は走りながら顔と水平になるように構えていた右手の細剣を兄様に向けて刺突を放ちますが、対して兄様は鞘に納めていた刀を一気に抜刀し、高速の居合術を放ってきました。


 そんなお互いの攻撃は武器同時で相殺されず、私の刺突は兄様の右肩辺りを、兄様の居合切りは私の左頬を抉るように命中し、両者共に結構なダメージを受けてHPゲージがガクンと減りました。


「っ…結構痛いですね…」

「レアもやるな。今ので倒すつもりだったんだが」

「それでも、結構HPは減っていますけどね」


 私のHPは今までの攻防と今の一撃で残り六割くらいですが、兄様は私よりダメージを負っていないようでまだ七割近くもあります。


 おそらくは私と兄様のDEFの違いがあるせいでダメージの差が出来たのでしょう。私は兄様よりもスピード特化で回避重視のスキル構成なので、当たった場合はその分受けるダメージが多いですからね。


「レアも結構出来るみたいだし、このまま特訓を続けていくか」

「はい、お願いします!」


 そうしてそこからもスキル使用不可で試合を続け、兄様から剣のしっかりとした持ち方や振るい方などの細かいポイントや、教えてくれる剣などの技術も学びつつ特訓を続けていきました。




「…よし、ではリビングに向かいますか」


 兄様との特訓を終わらせた後はすでに七時になっていたので、ゲーム世界からログアウトをして現実に戻ってきました。


 夜ご飯はすでに作り置きをしているのですぐに降りる必要はありませんが、特にやることもないのでとりあえずリビングへ降りておくとします。それに兄様もすぐに来るでしょうしね。


 先にストレッチを済ませてからリビングに降りると兄様はまだ降りてきてはいないようですが、私と一緒に特訓をしてましたしすぐに降りてくると思うので先に夜ご飯の用意を済ませておきます。


「…いい匂いがするな」

「あ、兄様」


 そしてレンジでハンバーグを温めたりしてご飯を用意していると、そのような声を漏らしつつリビングに兄様が降りてきたようです。


「もうすぐで準備が出来るので、少しだけ待っていてくださいね」

「わかった」


 兄様にも言った通りすぐに用意が済んだので、お互いにいただきます、と言って食べ始めます。


「今日の特訓での美幸の動きを見た感じ、ドンドン良くなっていってたし、これならもう俺から教えなくても全然いけそうだな」

「そうですか?自分ではまだまだのように感じますが…」

「銃の時の経験もあるし、自信を持っても大丈夫だぞ?」


 私は兄様の言葉にご飯を食べながらそう返しますが、兄様は普通にベタ褒めで褒めてくれています。まあ褒められるのは嬉しいですが、それでも慢心はせずにしておかないとですね。


「特訓の時にも言ってたが、やっぱり美幸はVRゲームでの才能が凄いな」

「私的には、兄様たちの方が凄いように思いますけど…」

「カムイについては知らんが、俺は昔から刀を使っていて長年の経験があるからそう見えるだけで、才能に関しては圧倒的に美幸の方があるはずだ」


 それにこの少しの特訓だけでも俺たちに近いくらいの成長をしているしな、と続けて兄様は口にします。


 兄様から見たらそう見えるのですか。自信を持っても良いと言われてもこのくらいではまだ自信は持てないですし、これからもしっかりと頑張るとしますか!


「しかも本来の戦闘ではそこにユニークスキルも混ざるし、その場合俺が負ける可能性もあるだろうから、美幸は十分強いと思うぞ」


 そんなことを考えている私に、兄様はさらにそう続けて言ってきました。


 お世辞のようにも聞こえてしまいますが、兄様はそんなことを言うタイプではないので、本心から言っているのでしょう。


 ですがこれで調子に乗ってはいけないので、自信は持ちつつも今のまま気を引き締めつつ行動するとしましょうか。


「…そうだといいんですけどね。それと話は変わるのですけど、明日には悠斗との試合もしてみるのですよね」

「ほう、悠斗とか」


 兄様はご飯を食べつつもキリッとした表情を浮かべ、私に視線を向けてきます。視線の意味はおそらく、俺の自慢の妹に勝てるかな?とでも思っているのでしょう。全く、兄様ったら本当にシスコンなんですからっ!


 そこからもたわいない会話をしているといつのまにかご飯を食べ終わったので、私は使った皿などは流しにおいて、後のことは兄様に任せます。


 その間に私はお風呂や洗濯などを済ませてきて、それらが終わった後は兄様に一言伝えてから自分の部屋に戻り、ベッド横のサイドテーブルの上に置いてあったヘッドギアを頭につけて再びゲーム世界にログインします。


 そしてログイン時は八時近くだったので、寝る時間である九時近くまでは職人都市の職人ギルドでゴルブレン森林を進んでいた時と昨日に採取していた上薬草や上魔草、眠り花とシルサの実を【錬金術】スキルでポーションに作り変えていきました。


 シルサの実を使ったポーションは鑑定の説明通り眠り状態を回復する効果だったので、今のところは出番がないですがいつか必要になると思うのでインベントリに仕舞っておきます。


 錬金術で一通りポーションを作り終わるとすでに九時を超えていたので、私はすぐにログアウトをして現実世界に戻った後、就寝としました。




 今日の朝はいつもと違って早めに目が覚めました。おはようございます、今日は火曜日です。今日も昨日と同じように暑いようで起きたら少し寝汗をかいてしまっているみたいなので、まだいつもよりは早い時間ですし、軽くシャワーでも浴びてきましょうか。


 そう決めた私は、いつも通り朝のストレッチを済ませてから着替えを持ってお風呂に向かいます。シャワーだけなのでそこまで時間はかかりませんし、あとのことは上がってからでいいですね。


「ふぅ……よし、朝の支度でもしますか」


 お風呂から上がってからそのまま制服に着替え、私はキッチンに移動して朝ごはんとお昼用のお弁当を作り始めます。


 まあ内容はいつもと同じなので、そこまで時間もかからずにすぐに終わりました。それに時間もいつもより早いですしね。


 朝ごはんはお弁当を作る途中で軽くつまみ食いをしておいたのでそれでお腹は満たされました。私は全体的に小さいですし、今日は早いからかお腹もあまり空いていなかったのでそこまで量もいらないかったので。


 そしてその後もいつもの洗顔、歯磨き、スキンケア等を済まして洗濯物も畳めば、朝のすることは終わりです。


「時刻は……まだ七時くらいですか」


 起きたのが早かったので結構時間が余ってしまっていますね。まあ行くまではMSOの情報でもスマホで見てますか。


 長い髪を昨日と同じようにポニーテールにした後、椅子に座って適当に情報を流し読みしていると、スマホの画面には北の山の情報が書いてありました。テスト後すぐの時はまだでしたが、いつのまにか倒されていたようで次のエリアについての情報が載っていました。


「そういえば私はまだ北の山のエリアボスは倒してませんでしたね」


 今日は悠斗との試合をする予定がありますし、今度空いている日に私も行ってみますか。


 そうそう、ネットに載っていた北の山から向かえる次のエリアはどうやら高原となっているようで、その入り口付近には転移のポイントもあるらしいのでいちいち山を通らなくても良いそうです。


 その高原で出てくるモンスターは牛や羊、犬に虎のようで、獣系が主みたいです。それと落とす素材はネットには特に書いていなかったので、それは狩った時にですね。


 そこからもスマホで情報を見ていると、何やら足音がしたと思ったら眠そうな表情で兄様がリビングに入ってきました。


「おはようございます、兄様」

「…美幸か、おはよう」

「何やら眠そうですね?」

「ああ、ちょっと俺も美幸に負けないようにとMSO内の師匠に頼んで少し特訓をしてて、それで寝るのが遅くなってしまってな」


 私に負けないように、ですか。兄様も鍛えていくのなら、私が勝てるのは結構先になりそうですね。


 兄様は私に才能があると言ってましたが、それだけで勝てるというわけでもないですし、私もこの先からも頑張っていきましょうか!


 そんなことを考えていると、いつのまにか兄様は朝ごはんの食パンを焼いてから食べているところでした。


「それと今日は悠斗との試合をすると言ってたし、頑張れよ」

「ありがとうございます、兄様。悠斗も強いですし、負けないようにはしたいですね」


 そんな言葉を交わしていると兄様はすぐに食べ終わったようで、学校への準備を始めています。スマホを見ているうちにすでに時間に迫っていたようなので、兄様の準備が済み次第私たちは家を出て、悠斗を迎えにいってから三人で学校へ向かいます。

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