61話 迷宮都市
『ゴルブレン森林のエリアボス〈ゴブリンキング〉を討伐しました』
『ゴルブレン森林のボスを討伐した事により、次のエリアが開放されました』
ボスゴブリンが倒れたのと同時にそのようなシステムメッセージも流れましたが、どうやら初期エリアから先のボスからは特に称号をもらえたりはしないようです。まあただの記念称号でしたし、構いませんけどね。
「よし、倒し終わったな」
「ふぅ、意外と疲れたな!」
ポリゴンとなって消えていくボスゴブリンをチラリと見つつ、兄様とセントさんはインベントリに武器を仕舞ってそう発します。
「結構強かったですね」
「だね!ジンもお疲れ!」
「ああ、マーシャも回復ありがとうな」
「それが私のポジションだからね!」
私たちもそう言葉を交わしながら使っていた武器をインベントリに仕舞います。そのタイミングでクリアも狼の姿から元のスライムボディに戻り、私の肩に跳んできてそこに着地しています。
そんなクリアを軽く撫でつつもチラリと見渡してみると、皆さん少しだけ疲れているように感じます。
私自身は兄様たちとのパーティを組んで戦ったおかげで特にユニークスキルも使わなかったので、そこまで疲れは残っていませんがね。
それにこのくらいのボスなら、近接武器の特訓もしっかりとしてユニークスキルもたくさん使えば一人でも勝てる可能性はありそう、ですかね?
「じゃあ、ドロップアイテムの確認は後でするとして、とりあえずはこのままこの先にある街へ向かうか」
「わかりました!」
そんなことを私が考えていると兄様がそう口にしたので、私たちは兄様の言葉に各々の返事を返し、皆で集まってボスエリアの奥へと進んでいきます。
それとボスエリアの奥に続いている森も、先程までと同じような見た目の森となっており、そこまで変化はありません。
「さっきの戦闘で見たけど、前よりもレアちゃん、さらにスピードが速くなっていたね!」
そうして奥にもまだ続いている森を歩いていると、セントさんからそのように声をかけられました。
「新しく覚えたユニークスキルを使ったので、今までよりも速い動きを出来たのですよ」
「やっぱりユニークスキルは強いんだね!あたしも欲しくなるよ〜」
「まあ簡単に手に入るものでもないし、手に入れれなくても仕方ないわね〜…」
マーシャさんとサレナさんともそんな会話をしてますが、やはり使っているところを見るとユニークスキルは欲しくなりますよね。
「レアちゃんは近接武器の腕前も凄いし、見てた感じなかなか強いよなー!」
「それに戦闘のサポートも的確だったから、助かったぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
セントさんとジンさんも続けてそう言ってくるので、私は素直に感謝の気持ちを伝えます。
そこからもたわいない会話を続けつつ、その道中で再び出てきたゴブリンや狼、蛇などを蹴散らしながらも森の中を歩いていると、視界の先に森の出口らしき場所が見えてきました。
「お、やっと出口か」
「初期のエリアと比べるとやっぱり長いわね」
セントさんとマーシャさんがそう声を上げますが、そう呟くくらいにはボスエリアからの距離があったので仕方ありません。
そしてさらに歩くこと数分。ついに森から出ることができ、森の外には第二の街と同じようにこれまた草原が広がっていました。
草原の見た目については、初期の街や第二の街の近くにあった草原などと殆ど違いはないので、特に言うことはありませんね。
ここからは結構遠いですが新しい街も見えているので、このまま街まで行くとしましょう!
「ここの草原にいるモンスターも、兎や子豚に鶏などと特に変化はないようだな」
「ですが、鑑定してみると前よりも強い個体になっているみたいですよ」
兄様はそう言ってますが、私が【鑑定士】スキルで見たところでは兎はヴォーパルラビット、ファイティングピッグ、レッグコッコという名前をしています。
戦闘方法については、ヴォーパルラビットはその鋭い足を使って首狙いで蹴りをしてきたり、ファイティングピッグはその小さな見た目に反してしっかりとした格闘戦をしてきます。
そして最後のレッグコッコについては前に出会ったバトルコッコと同じく強靭な足で蹴り攻撃をしてくる、と鑑定の説明では書いてありました。
ついでとして、今見えている街に向かうまでの道中でそれらを狩ったりしてドロップアイテムを確認してみると、落とすアイテムは今まで狩った下位互換のモンスターよりは上位の素材のようですが、アイテムについては殆ど同じようでした。
対して兎のみはその鋭い刃のような脚部もドロップして、それは鑑定してみるとどうやら魔法薬に使えるようでした。
「うーん、俺たちみたいな戦闘系プレイヤーでは売る以外の使い道はなさそうだな」
「基本は食材系のアイテムのようだし、使わないもんな」
「それでもムニルとかの料理を主にしているプレイヤーには売れるし、無駄ではないわね」
兄様たちはそんな会話をしていますが、やはり生産スキルを取っていないプレイヤーにはあまり旨味はないのですね。まあ装備に使える他の素材と比べたら値段も低くなりますし、仕方ないでしょうけど。
そうした会話をしつつもモンスターたちを狩りながら歩いていると、やっと見えていた街まで辿り着きました。
その街は初期の街や第二の町、職人都市と比べてもかなりの大きさをしているようで、入り口である南門についても一度でたくさんの人たちが行き来できるくらいの大きさをしています。
そんな門の付近には他の街にはいなかった門番らしき住人もいるようで、怪しい人物がいないか目を光らせています。
私たちは特に悪いことをしたりもしてはいないので、門番の住人を一瞥してから気にせずに門を潜って街中に入っていきます。
「この街は、なんだか他の街よりもたくさんの人がいますね」
「それに活気もあるね!」
「……!」
逸れないように皆で固まって移動しつつ、私とサレナさんはそう口にします。私の肩にいるクリアも新しい場所に来たのがわかったのか、プルプル震えて興奮しているのがわかります。
この街は全体的に石や煉瓦、木などの様々な材料で出来たりしている建物が多く広がっており、何やら統一感もあってか雑多に感じそうですがそんな風には見えず、しっかりと設計されているかのような街並みが広がっています。
そして街の奥には何やらお城のようなものもあるようなので、そこに初期の街のようにこの街を管理している住人がいるのでしょうね。
それとマップを見るに、この都市は迷宮都市ラビュラスというようです。
「というか、何故この街は迷宮都市と言うのでしょうか?」
「それについては前にネットで見た限り、この街の北東、北西、南西、南東の四箇所にダンジョンがあるようでそれが由来だとは思うな」
「ダンジョンがあるのですね!あ、そういえばこのゲームでのダンジョンはどんな感じなのでしょうか…?」
「ああ、それはな…」
そう続けて兄様が説明してくれるこのゲームにおけるダンジョンとは、洞窟や森などのその地形に合わせて魔力などのなんらかの力が加わり生まれたりするもののようで、それを自然迷宮と呼ぶそうです。
そしてそれらのダンジョンの中には人工的に生み出されたものもあるようで、そちらは区別するために人造迷宮と言います。そんな人造迷宮は普通の迷宮とは違って壊れたエリアの再生機能も、さらにはモンスターや宝箱などが湧いてくることもないので主に城や遺跡に存在することが多いとのことでした。
そんな二つの種類がある迷宮ですが、さらに兄様が語ってくれた説明では、この迷宮都市にある四つの迷宮はなんとその全てが自然迷宮のようで、それぞれ複数の地形があるみたいです。
兄様はそのまま四つのダンジョンについても説明をしてくれましたが、それについてはまた迷宮に潜った時にでも語るとしましょう。
「っと、話しているうちに着いたな」
そうした会話をしながら大きくて広い大通りを歩いていると、いつのまにか街の中心らしき広場に着いてました。
そこには形は違いますが、他の街と同じような水晶で出来た石碑があったので、私はそれに右手をついて触れるとこの街の転移ポイントの登録が完了しました。
「よし、これで一応の目的は済んだな」
「無事倒せたことだし、打ち上げとしてみんなでどこかに食べにいかないか?」
「あ、いいわね!私ももっと一緒にいたいわ!」
「あたしもさんせーい!」
「俺もいいと思う」
そんな言葉を交わしながら皆でこちらを見てくるので、私は苦笑しつつも答えます。
「今はまだ四時くらいですし、特に予定もないので構いませんよ」
「よし!なら決まりだな!」
私の言葉に皆さん少しだけ嬉しそうな反応をしていますが、私はそれに対して少しだけモヤモヤした気持ちが心の中で湧きました。
「行き先はどうする?前と同じでムニルのところでいいか?」
「そこでいいわ。特に食べたいものもないしね」
「じゃあそこにしようか。レアもいいか?」
「……あ、はい、大丈夫です」
兄様たちがそうした会話をしつつこちらにも振ってきたので、我に返った私は少し遅れてではありますが返事を返します。
その後は皆で転移ポイントから初期の街に移動して、そのままムニルさんのお店へと向かいます。
「…夜ご飯の準備もこれで終わりですね」
兄様パーティの皆さんと色々とお話をしつつも料理を食べ、その後は早い時間でしたが先にゲームからログアウトをして夜ご飯の用意に移りました。
「今の時間は……五時半ですか」
色々としていたので結構時間は経っていますが、ご飯まではまだ少し時間があるのでまたログインをして狩りでもしましょうか。
「…いえ、いいタイミングですし、前々から調べたかったワールドモンスターと精霊についての情報をソロさんに聞いてみますか」
やることを決めた私は、作った料理を冷蔵庫に仕舞ってから片付けなども済ませ、自分の部屋へと戻った後にヘッドギアを頭に着けて再びゲーム世界にログインします。
ログインしてすぐ視界に入ったのは、大雨が降る初期の街の広場でした。
「…雨が降っているのは初めて見ましたね」
雨粒に髪や服などを濡らされながらも、私はそう一人呟きます。というか、ご飯や食べるために焦茶色のクロークを外したままだったので、こうしている合間にもどんどん濡れていってます。
おっと、そんなことを考えてないでさっさとソロさんの図書館に向かいましょう。クリアも今呼ぶと濡れてしまうので、着いてからですね。
私はすぐに焦茶色のクロークを装備し、広場から第二の街へと転移を行います。転移が完了した後は雨も降っているので足早にソロさんの図書館へ向かいます。
「ついでに行くまでにステータスも確認しておきますか」
私はソロさんの図書館に向かう途中でそう呟き、歩きながらステータスとボスゴブリンのドロップアイテムを確認します。
➖➖➖➖➖
名前 レア
種族 狼人族
性別 女
スキル
【双銃Lv10】【鑑定士Lv5】【錬金術Lv6】【採取士Lv8】【気配感知Lv10】【隠密Lv9】【鷹の目Lv9】【ATK上昇+Lv10】【AGI上昇+Lv10】【DEX上昇+Lv10】【体術Lv40】【気配希釈Lv9】【採掘士Lv4】【INT上昇+Lv7】【第六感Lv5】【跳躍Lv27】【夜目Lv29】【言語学Lv25】【魔力制御Lv3】【魔力察知Lv30MAX】【魔力隠蔽Lv28】【MP上昇Lv25】【HP自動回復Lv21】【MP自動回復Lv21】【栽培Lv3】【調教Lv8】【STR上昇Lv7】【料理Lv3】【刀剣Lv10】
ユニークスキル
【時空の姫】
所持SP 37
称号
〈東の森のボスを倒し者〉
〈時空神の祝福〉
〈第一回バトルフェス準優勝〉
〈深森の興味〉
〈西の湿地のボスを倒し者〉
〈火霊旅騎士の魔印〉
〈時駆ける少女〉
➖➖➖➖➖
スキルも全体的にかなり成長もしているようで、なかなか良い感じです。それと【魔力察知】スキルはMAXまで上がっていたので、SPを二使って【魔力感知】スキルに進化もさせました。
そして【双銃】スキルと新しく取った【刀剣】スキルはレベルアップしたおかげで、【双銃】は〈ステップ〉を、【刀剣】は〈スラッシュ〉と〈スタブ〉の武技を新規に覚えました。
〈ステップ〉は高速でステップして移動するという技なので、主に回避などに使えそうです。
次に〈スラッシュ〉と〈スタブ〉はそれぞれ強力な斬撃と刺突を放つ技のようで、基本的に使いやすい攻撃技なのでこれからも使用することはありそうです。
ステータスはこのくらいで、最後はボスゴブリンのドロップアイテムですが、そちらは普通よりも大きめの魔石とゴブリンキングの眼球の二つでした。魔石はともかく、ゴブリンキングの眼球は鑑定を見るにどうやら魔法薬に使えるようなので、機会があれば作ってみるとしましょうか。
「それにしても、ボスとの戦闘時やそこまでの道中で剣の状態を試しましたが、今のままでも意外とやれましたね」
まあそれでも兄様やカムイさんなどの強い人を相手にしたら技量の差で負けてしまうかもしれませんし、しっかりと特訓はしますけどね。
そんなことを一人で口にしつつも雨の降る街中を歩いていると、確認が済んだ頃にはすでにソロさんの図書館の前まで着いていました。
私は図書館の扉を開けて中に入り、入り口付近で一度雨粒を落としておきます。
「…ある程度濡れているのは仕方ありませんね。タオルなどもないので、軽く落とすくらいにしましょうか」
私は装備を外した焦茶色のクロークをインベントリに仕舞い、足早に図書館の奥へ向かいます。
ついでにこのタイミングでクリアも呼んでおき、そのまま私の肩に乗せておきます。そういえばクリアのステータスは確認してませんでしたし、この間に確認もしておきますか。
➖➖➖➖➖
名前 クリア
種族 ピュアメタモルスライム
性別 無
スキル
【万物食Lv14】【状態異常耐性Lv3】【物理耐性Lv7】【魔法耐性Lv1】【発見Lv4】【魔力操作Lv8】【魔力察知Lv9】【HP上昇Lv5】【MP上昇Lv5】【HP自動回復Lv4】【MP自動回復Lv4】
固有スキル
【変幻自在】
称号
〈レアのテイムモンスター〉
➖➖➖➖➖ ➖
クリアのステータスも軽く確認した感じ、私と同じようにスキルのレベルが順調に上がっているようなので、いい感じに成長しているのがわかります。
それとクリアには特に使える戦闘系スキルがないですが、森での戦闘を見るに代わりとしてある固有スキルのおかげで十分みたいですね。
「誰かと思えば、レアではないですか」
「あ、ソロさん」
「……!」
そうしてステータスの確認をしていると、先程と同じように気がついたら奥に着いていたようで、奥の椅子に座って本を読んでいたらしいソロさんからそう声をかけられました。
肩にいるクリアもソロさんにこんにちは!とでもいうようにスライムボディで挨拶をしているのも感じ取れます。
「今日はどうしましたか?」
「実は、ソロさんに聞きたいことがあったので来たのです」
「聞きたいこと、ですか?」
ソロさんは一度読んでいた本をテーブルに置いてから、続きを即すように私へと視線を向けてきました。
「聞きたいことというのは、精霊とワールドモンスターについてなのです」
「精霊はともかく、ワールドモンスターですか……そう聞くと言うことは、レアは会ったことがあるのですね?」
ソロさんが確信を持ってそのように問いかけてきたので、私は素直にそれに答えます。
「はい、私が会ったのは獲得した称号を見るに、深森というらしい大蛇です」
「そういえば最初に出会った時から詳しく見てませんでしたが、神の加護以外にも新たに称号を獲得していたのですね」
それに今見た限り、レアが言っていたようにワールドモンスター関係の称号もいつのまにか手に入れてたのですね、とも続けて口にしたと思ったら、私を見ながら口をポカーンとあけ、何やら目を疑うかのように凝視してくるソロさん。
「ど、どうしましたか…?」
「……レア、あなた神から受けている加護が進化していたのですね」
「あ、言ってませんでしたね。実は前に神様と会話をしてから気に入られたようで、加護が進化したのですよ」
それとその時に一瞬に装備を貰って、それがこれです、とも言ってからソロさんに見せてみると、ソロさんは頭に手を当てて少し考えています。
「神と対話をするうえに加護がこんな短期間で進化するなんて、普通はありえないですよね…?私だってそんなに早くはなかったですのに…」
「そ、ソロさん…?大丈夫ですか…?」
「……?」
そんなソロさんが心配になったので私はそう声をかけ、クリアもソロさんを心配そうに私の肩で震えています。それに対してソロさんはハッとしてこちらに視線を戻してきました。
「…ええ、大丈夫ですよ。まあ神の加護についてはいいですね。えっと、精霊とワールドモンスターについて、でしたよね?」
「はい、ソロさんは知っているのですか?」
「精霊については結構詳しいつもりですし、ワールドモンスターについてもある程度は知っているので教えることは出来ますよ。では、早速それらについて教えるとしますね」




