56話 鉱山
ログインすると、そこは第二の街の東門付近でした。最後にログアウトをしたのがそこだったからでしょうね。
「では、職人都市に転移をして鉱山へ向かいますか!」
私はそう決めた後に今いるところから広場に移動し、職人都市に転移を行います。
そして転移はすぐに完了したので、即座に景色が変わります。っと、注目を浴びるのですぐにクロークを羽織りますか。
「よし、ツルハシなども問題ないですし、早速行きましょう!」
私は焦茶色のクロークを纏い、足早に職人都市の北へと移動していきます。
その歩いている道中でクリアも呼び出し、肩に乗せてからも歩き続けます。
どうやら職人都市の北も東と同じで乾燥した平原の様な地形になっているようで、街周辺にはスライムやダンゴムシ、アリなどが見受けられます。
「…今は狩ったりしませんが、鑑定だけはしておきますか」
まだ鑑定はしていなかったので、向かう途中でしてみることにしました。
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石ダンゴムシ ランク F
岩場や乾燥した場所に生息しているダンゴムシ。
石や岩に擬態して身を隠す。
状態:正常
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スライム ランク F
様々な場所に生息しているスライム。
その身体で様々なものを吸収する。
状態:正常
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鑑定ではそう出ました。石ダンゴムシは擬態をしているようですが、結構わかりやすいので本当に隠れれるのか疑問は湧きましたね。まあ見た限り身体も硬そうなので、それで大丈夫なのでしょう。このエリアにはダンゴムシを狩るモンスターもいないのもありそうですが。
それとスライムは茶色をした見た目で中に灰色の核らしき物を持ち、クリアのかなり下位互換のようで特に強そうには感じませんでした。
そしてこのエリアにいるアリは前に洞窟で鑑定した時と同じモンスターのようで、落とす素材も同じだと思います。
そうしてモンスターたちを観察しながら平原を歩いていると、鉱山が見えてきました。ここから見えるその鉱山は特に植物が生えているわけではないようで、岩などが剥き出しでなにやら入口らしき場所が複数あるのがわかりますね。
「とりあえず、一番近いところの入り口に行くとしましょう」
「……!」
クリアも私の言葉に同意しているのか、プルプルと震えています。クリアは鉱山に入るのは初めてでしょうし、少しだけ反応が楽しみですね!
そんなことを考えつつも、私はここから見える正面に見えている一番近い入り口へ歩きます。
鉱山が見えてからも歩くこと数十分。やっと鉱山の入り口に着きました。
荒地や森よりは大きくはないですが、それでも結構な距離があったので少しだけ着くのに時間がかかってしまいました。
「それでは、採掘をしていきますか!」
「……!」
採掘するために地面に下ろしたクリアは、おー!とでも言うかのようにピョコピョコ跳ねて楽しそうにしています。それに洞窟のようになっている鉱山は、岩や土だらけの荒地や木々の生えている森とはまた違うようで、なんとなく興奮しているのも感じ取れます。
それにこの鉱山のマップを見てみると、どうやらここは『テラマ鉱山』という名前らしいです。まあそこまで気になる情報ではないので、そこまで気にしてはいませんけど。
私とクリアは早速とばかりに鉱山の中に入っていき、私は邪魔になるので焦茶色のクロークはインベントリに仕舞っておきます。
そしてそれと交換するように取り出したツルハシを手に、光っているポイントを採掘していきます。
この鉱山の中は木でできた支柱などが壁側に立っており、成人男性が三人くらいは手を広げて並べるくらいの広さもあるようで、なかなか広めです。
さらに所々に光源のようなものも立てかけてあってか、明るいうえに広めなので動きやすそうです。ここは前に行った北の山の洞窟よりも広いようなので、大人数で来ても全然問題はなさそうですね。
そんな鉱山の中を進んで行き光っているポイントを採掘した感じ、この鉱山は鉄が主で銅が少し、さらに極少量の金や銀などが取れました。どうやらここでは宝石の原石は出ないようなので、獲得出来たのは鉱石類のみでした。
ですが、わずかにではありますが金や銀なども手に入れれたので、これらは高く売れそうで良いですね!
「これらもクロム鉱石と一緒にアイザさんに売りに行くとしましょうか」
私自身はどうせゴーレムくらいにしか使わなそうなので、殆どは売りにいきます。
そのまま私は採掘を続けていると、鉱山内に響いている音に引き寄せられたのか、微かな音と一緒に何らかのモンスターの気配と魔力を感じとりました。
一度採掘の手を止めてそちらに意識を向けると、そこには平原にもいた石蟻たちがこちらに接近してきているところでした。
「このくらいは大丈夫ですが……そうですね、ついでにクリアの戦闘を確認してみますか」
私は近づいてくる石蟻たちへ、インベントリから取り出した双銃で弾丸を無数に撃ち、ある程度数を減らします。
その攻撃で生き残ったのは僅か二匹なので、一体は私が倒すとしてもう一匹はクリアに任せましょう。
「クリア、あの一匹だけ任せてもいいですか?」
「……!」
クリアはいいよー!というかのように意気込んでいるようなので、戦闘行為については問題なさそうですね。
「私の分はさっさと倒しますか。〈パワーショット〉!」
私の放った武技は、回避をしないで突っ込んできた石蟻の頭を正確に撃ち抜き、血の代わりの赤いポリゴンの爆発が起きてそのまま全身もポリゴンに変わっていきました。
「やっぱり、普通のモンスター相手なら苦戦は全くないので楽ですね」
まあ今までにユニーククエストのモンスターやワールドモンスターである大蛇との戦闘を経験していればそうなりますよね。
「クリアの方は……苦戦はしてませんが、有効打に欠けているようですね」
クリアは前にも見た固有スキルの【変幻自在】でストーンスネークの姿に変身し、噛み付いたり尻尾で叩いたりと攻撃をしていますが、その硬い甲殻に阻まれて思いの外ダメージを与えられていません。
クリア自身にはわずかに石蟻の攻撃にはかすったりはしていますが、【物理耐性】と【HP自動回復】のおかげで殆どHPは減っていないので、このままではいつまでも終わらなそうです。
なので私は、クリアに注意がいっている石蟻の影から再び〈パワーショット〉を使用し、その頭へと放ちます。
そんな私の攻撃には気づいていなかったのか躱されず、先程の石蟻のように頭に弾丸が命中し、爆散してポリゴンになりました。
「シュー…」
「クリア、相性が悪かっただけですし、そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ!」
そしてクリアは倒せなかったことに少しだけ落ち込んでいますが、私はそこまで気にしてはいません。
「それにクリアはまだ成長途中なので、これからどんどん強くなっていけば良いのですから!」
「シュー!」
そんな私の言葉に落ち込んだ気持ちが吹き飛んだのか、そのような声をあげてから変身をとき、元の姿に戻って私の足元に擦り寄ってきます。
「二人で頑張っていきましょうね!」
「……!」
クリアも頑張る!とでもというようにピョコピョコ跳ねて意気込んでいるのがわかります。
「では、採掘の続きといきますか!」
「……!」
それからも私とクリアは採掘をしながら鉱山の奥へと進んでいくと、所々で同じく採掘をしているプレイヤーの皆さんともすれ違いました。
その時は邪魔になるので焦茶色のクロークを外していたせいで、毎回『【時空姫】か!?』と反応がされていたので、やはりその名前でプレイヤーたちには知られているようです。
それに皆さん私を可愛がってくるので、そんな反応に少しだけ苦笑しつつも言葉などを返しながら採掘を続けていってます。
それと採掘をしていると、石蟻の他には岩に擬態しているかのような蝙蝠も襲ってきましたが、そちらでは石蟻よりも硬くないおかげでクリアもしっかりと倒せていました。
やはりクリアは硬いモンスター以外ならば全然戦えるようです。しかも、クリアはその蝙蝠を自身に取り込んで蝙蝠の姿に変わることが出来るようになっていました。
どうやらクリアの持つ固有スキルの【変幻自在】は、倒した相手の身体や素材などを吸収することで変身先が増えるようです。なら、これからも倒したモンスターたちは基本的に与えることにしますか。
「…よし、このくらいあれば良さそうですかね」
「……?」
多数のプレイヤーの皆さんとすれ違いつつ、襲ってくるモンスターたちを蹴散らしながらも採掘を続けていると、すでに二時近くになっていました。
採掘もたくさんしたので、レア素材らしき銀や金などもある程度は集まり【採掘士】スキルのレベルも上がったので、なかなか良かった時間だと思います。
それにこの鉱山はここまで進んできた感じとマップをみる限り、もっと奥まで続いているようなので、まだまだエリアは広そうです。
「クリア、そろそろ戻りましょうか」
「……!」
わかった!と表現するようにぴょんぴょん跳ねているクリアに私の頬は少しだけ緩んでしまいます。
「んー!やっぱりクリアは可愛いですねー!」
「……!」
私が思わずクリアを抱き上げてギュッとすると、クリアも嬉しそうな感情を出しながら擦り寄ってきます。
「よし、クリア、このまま行きますよ!」
「……!」
私はクリアを一度地面に下ろしてから一言声をかけ、来た道を二人で戻って行きます。
そしてその道中では採掘はしないで歩き続けます。実は、まだ大丈夫なのですけど鉄のツルハシがもう少しで壊れそうなので、一度採掘をやめているのです。それでもここまでにたくさんの鉱石を手に入れることが出来たので、成果は良いのですけどね。
そうして来た道をしばらく歩いていると、入り口が見えて来ました。採掘をしていなかったからか早めに着きましたね。
「今の時刻は……二時半くらいですね」
さっき確認した時には二時ですが、鉱山の中が長かったので歩いているうちに結構経ってしまっていましたね。
鉱山を出てから私は入り口付近でフレンドリストを確認すると、アイザさんは今はゲーム世界にいるようでログインしていると書いてありました。
「…アイザさんもログインしているみたいですし、ちょうどいいので売りに行きますか」
「……!」
そう決めると、足元にいたクリアもわかった!というように跳ねて感情を表しています。
ついでにここからは外していたクロークを再び羽織っておきましょう。それとクリアも肩に乗せておきますか。
「クリア、おいで」
「……!」
その言葉の後にクリアは私の胸元に飛び込んできたので、それをしっかりと受け止めてから肩へ誘導します。その後はクロークを深く被り、鉱山の入り口付近から職人都市に向かうとします。
私が帰り道についていると、鉱山の中でも出会ったように他のプレイヤーの方とも時々すれ違っていきますが、そのプレイヤーの皆さんは基本的に私と違って金属製らしき装備をしているのが見て取れました。
やはり鉱山ですし、鉄などをよく装備に使うので採掘しに行っているのでしょうね。
「まあ私が珍しいだけで、魔法系のスキル持ち以外は大体金属製の装備なのでしょうけど」
前に会ったクオンやヴァンさん、セントさんも少しですが金属製の装備をしていましたしね。
そんなことを考えつつもどんどん歩いていると、職人都市が見えてきました。
「着くまでの間に、アイザさんにフレンドメッセージを送っておきますか」
私は、今から鉱石類を売りに行ってもいいですか?とアイザさんにメッセージを送っておきました。
「…よし、返信はまだ来ていないですが、とりあえず向かいましょう」
私はそこからもさらに歩き、しばらく歩いていると職人都市に着きました。そしてそのタイミングで、アイザさんからの返信も戻ってきました。
内容は、問題ないからいつでもいいぞ、とのことでしたので、早速向かうとしますか。
まずはこの職人都市の広場に移動し、そこから転移をして初期の街に転移をします。転移が完了したその次は、そのままアイザさんのお店へと歩いて行きます。
「クリアは……別にそのままでもいいですね」
出していても特に問題はないですし【調教】スキルのレベルも上がっていくので、このまま行きましょうか。
それにクロークを深く羽織っているおかげで、特に目立ちもしていないですしね。
「それにしても、新しいプレイヤーがきたからか結構プレイヤーを見かけますね」
アイザさんのお店に向かう道中では、初心者らしき装備をしたたくさんのプレイヤーとすれ違いました。もう第二陣の来る時間になっていますし、人数も初期とは違って八千人と多いみたいですしね。
そうしてプレイヤーたちとすれ違いながらもクリアを抱き上げながらテクテクと歩いていると、アイザさんのお店の前に着きました。
「レアか、待ってたぞ」
私がお店の中に入ると、カウンターにはすでにアイザさんがいたようでそのように声をかけてきました。
「すみません、待たせてしまいましたか?」
「いや、インベントリの整理をしながら待っていたから大丈夫だ。それよりも、クロム鉱石を取ってきてくれたのか?」
「はい。それとついでに鉱山にもよったので金や銀もあります」
「おお、そうなのか!ならそれも一緒に買い取るな」
早速とばかりに取引メニューを出してきたので、私はそこにクロム鉱石、金鉱石、銀鉱石、鉄鉱石、銅鉱石、宝石の原石を載せていきます。
「クロム鉱石は十三個もあるんだな!それに金と銀も意外とあるのか。ん?この上質な鉱石はなんだ?」
「ああ、それは私の【錬金術】スキルで作った素材です。それも売れますかね?」
「見た限り、素材としての質が高いからかなりありがたいな。ぜひ買い取らせてもらおう」
アイザさんは少しだけ興奮しつつもそう口にして、いま載せた全ての鉱石を含めた買取金額を計算しています。
「そうだな……こんだけあるし、色をつけてざっと70,000Gくらいでどうだ?」
「かなりの金額なのですね?」
私が驚いてそう聞き返すと、アイザさんは頷きながら答えてくれます。
「クロム鉱石は前にも言ったがレアだから高いし、金は魔法系の武器に使えるからこれもまた希少なんだ。そして銀は今のところ使う機会はないが、アンデッドへの特攻効果を持つうえにこちらも希少だから、高い素材になるからな。そして少しだけある上質な鉱石も高くつけといたぞ」
それに宝石もアクセサリーなどにはよく使うし、こちらも物によっては高くなるしな、とも続けて教えてくれるアイザさん。
なるほど、宝石はともかく鉱石類は一般的な鉄とは違ってそれぞれ何らかの効能がある鉱石なのですね。
「だからですか…!あ、金額についてはそれで問題ありません」
「よし、なら交換だな」
私とアイザさんは取引メニューを決定して、それぞれお金と素材の交換を完了しました。
今のところそこまで使う予定はありませんが、どんどんお金が増えていくのは嬉しいですね!
「それとさっきから気になっていたが、その肩に乗っているのは何だ?」
取引を完了した後にアイザさんはそのように聞いてきたので、私は素直に答えます。
「この子ですか?この子は私のテイムモンスターのクリアです。可愛いでしょう?」
「……!」
クリアもよろしく!というようにスライムボディを手の代わりとして触手のように伸ばして挨拶を返しています。
「テイムモンスターか。このゲームでもあったんだな」
「【調教】スキルもあるので、それで出来るようですよ」
「そうなのか、俺は鍛冶一筋だから知らなかったな」
アイザさんは自分に関係する鍛冶系のこと以外には無頓着のようですし、知らなくても仕方なさそうですね。
「では売買も済みましたし、私はそろそろ行きますね」
「おう、また上質な鉱石か、レアな鉱石でも手に入れたらぜひ持ってきてくれ!」
「わかりました…!」
そう言って私はアイザさんに別れの挨拶をした後、お店を出ていきます。




