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52話 時を刻み、空は観測する3

「よし、倒せましたね!」


 ポリゴンとなっていった黒兎を尻目に、私は攻撃した姿勢を正して一息つきます。


 黒兎は対人戦と似ていたうえに特に変わった能力も使ってこなかったおかげか、そこまで時間もかからず苦戦もしなかったので白狼程の疲れは残っていません。


 おそらくはあのスピードが白狼の時のような特殊な行動パターンだったのでしょうが、私には殆ど意味がなかったのも関係していそうです。


「しかも、ユニークスキルも多く使わなかったのでMPもかなり残っていますしね」


 まあ白狼戦後と同じくセーフティーエリアになったここで休憩すればすぐに回復するので、それについてはあまり気にしてませんけど。


 私はインベントリに武器を仕舞った後、広場の壁へと視線を向けます。


「ここの壁には特になにも書かれていないのですね」


 白狼のところの広場にはありましたが、ここでは最初のエリアのように神殿風の壁になっており、特に何かが受けられはしないです。


「なら、休憩も終わりにして、最後といきますか!」


 黒兎を倒した後に白狼の時とは違って奥に階段はなく、この広場の中心付近に魔法陣が現れてたのです。


 どうやら、最後である三階層にはこれで向かうようですね。


「では次で最後でしょうし、クリア出来るよう頑張るとしますか…!」


 私はMPが回復しているのを確認した後にその魔法陣の上に乗ると、魔法陣が光り転移が開始されました。




「っと、着きましたか」


 街と街の間の転移のように視界が真っ白になり、気づいたらすでに転移が完了して景色が変わっていました。


「ここはさっきまでと同じく神殿風ではありますが……少しだけ古くてボロボロのように感じますね…?」


 その言葉通り、今視界に映っている風景は先程までいた一階層と二階層のような神殿の見た目ですが、少し薄暗いうえに何らかの攻撃でも受けたのか、壁や地面には無数の傷が付いて血のような赤黒いシミまであり、人がいなくなって手入れもされずに汚れ古びていったように感じとれます。


 そんな壁には何らかの絵が描かれていた痕跡はありますが、傷だらけで判別は不可能ですね…


「とりあえず、この先に行けば良さそうですね」


 私は少し恐怖感を感じるその通路を歩いていきます。そうしてしばらくの距離を歩きましたが、どうやらここの階層にはモンスターが出ないようで、何の障害もなく歩けています。


「…何となくホラーゲームみたいで怖くなりますね」


 べ、別に私はホラーゲームは出来ないわけではありませんよ?ただグロいのやビックリ系が苦手なだけで、普段はプレイもしませんし見ることもないので慣れていないだけです!


 そんな誰に言ったかもわからない考えをしながら歩き続けていると、このエリアの奥まで着いたのか三メートルくらいはありそうなとても大きい扉がありました。


「この先がきっと最終点ですね……武器も特に問題はないですしMPも大丈夫です。…よし、いきますか…!」


 私はその大きな扉を押してみると、思ったよりも簡単に開けることが出来ました。


 開いた扉を潜って中に入ると、そこは先程までの通路よりも激しい戦闘痕の残っている大きめな広場になっていました。


 そしてその広場の奥、そこには黒色をした棺のような物が置かれていました。


「あれは……何でしょうか…?」


 というかボスがいないですが、あれを開ければ良いのでしょうか…?


 そんなことを考えてその棺に近づこうとすると、その棺がカタカタと動き出し、一気に開いて中に入っていた何かが溢れてきました。


 それは全身に黒色をした筋繊維や脂肪などが見え、獣か人か、はたまたスライムかも判断が出来ない全長五メートル近くはありそうな猫背で二足歩行をした大きな見た目をしており、さらに身体中からは無数の触手のようなものとたくさんの瞳が生えていて、その頭らしき部位には同じく無数の瞳と口が存在しています。そしてその両腕も人や獣ではなく触手となっているのも確認出来ました。


 しかもその身体はテカテカと光っており、気持ち悪さが感じ取れます。


「…この見た目、もしかして壁画に描かれてあったモンスターですかね…?」


 おそらくはそうだろうとは思いますが、あれは昔のことではなかったのでしょうか?あ、私がこの本に使ったのは過去の記憶や体験を知る、という効果ですし、多分それのおかげでこれを知ることが出来ているのですね。


 ➖➖➖➖➖

 邪悪なる欠片・記憶 ランク E

 過去に倒された邪悪なる欠片の記憶。

 その力はあらゆるものを破壊し、生命を喰らう。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 そのモンスターの鑑定結果はそう出ました。やはりこのモンスターは過去にいた存在のようです。このモンスターはかなり強そうではありますが、今相手するのは一匹なので一人でも何とかなる…かもしれませんね。


「それにしても、見た目が気持ち悪くて鳥肌がたちますね…」


 そう呟くくらいには見た目がアレですが、これが最後のボスでしょうし早速倒しましょう…!


 私は即座にインベントリから双銃を取り出し、そこから連続してそのモンスター目掛けて弾丸を乱射します。


 その弾丸は初めに頭を狙いましたが、それは身体中に生えている触手に全て弾かれて当たりませんでした。


「触手がなかなか厄介ですね…!」


 触手は数本ではなく無数にあるので、それらを全て破壊していくのは現実的ではなさそうです。


「なら、ユニークスキルとフェイントを混ぜて翻弄しながら撃ちましょうか!」


 私は〈第一の時(アイン)〉を自身に撃ち、動きを加速させてモンスターの周りを跳び回って無数の弾丸を放ちます。


 モンスターはその身体通り動きは速くないのか、私の高速の動きに対して少し遅くその触手たちを振り下ろしてきますが、それらは余裕で回避します。


 触手の攻撃についてはそこまで速くもないので、今のところ〈第二の時(ツヴァイ)〉を撃たなくても簡単に回避が出来ていますね。


 そしてその攻撃を躱しながら、連続して弾丸を頭、胸、身体、足と撃ち込んでみます。


 しかしそれらの殆どは無数の触手で防がれ、僅かに当たった弾丸についても殆どHPは削れていません。


「触手のせいで当てれませんし、当ててもあまり効きませんか……なら、明らかに弱点であろうあの瞳狙いですね」


 誰が見ても弱点だとわかると思う瞳ですが、それらは結構高い位置にある頭と身体中にありますし、そこを狙えという証拠ですね。


 しかし触手が多すぎてなかなか攻撃を当てれませんが、とりあえずは簡単に当てられそうな身体中の瞳を狙いましょう!


 そう決めた後、再び〈第一の時(アイン)〉を自身に撃ってから、振り回される触手たちを紙一重で回避しつつ、今度は身体中にある瞳狙いで弾丸を連続して撃ちます。


 それらはフェイントを混ぜて撃っていますが、殆どはやはり触手で防がれます。ですが、少しだけは触手たちの間をすり抜けて無数にある瞳たちを撃ち抜いていきます。


「グォオオ!!」


 モンスターはそんな私の攻撃に怒ったのか、そのような雄叫びを上げてさらに無数の触手を暴れるかのように振り回して攻撃をしてきますが、そんな大ぶりで遅い攻撃には今更当たるわけがありません。


 それらをゆらりゆらりと回避してから連続で弾丸を撃ちますが、さらに飛んできた無数の触手のせいで、弾丸たちは全て弾かれていきます。


「く、本当に触手が面倒くさいですね…!」


 中距離を保って銃を撃ってますが、その距離でも殆ど触手に弾かれてダメージを与えられていません。


 私は一度仕切り直しとして後方へと跳び、モンスターから距離をとってから少し観察してみます。すると、攻撃を防いだ触手たちは傷が出来てボロボロになっているのがわかりました。


「ですが徐々に再生もしていますし、やはりあれを削り切るのは厳しいですね…」


 触手は数えきれないほどあるうえに再生もしているので、やはりそれらを掻い潜って攻撃を当てる必要がありますね。


「なら、近接戦に持ち込んで銃で攻撃といきますか」


 私はそう判断をしてもう一度〈第一の時(アイン)〉を自身に撃ち込み、即座にモンスターへと肉薄していきます。


 それに対してモンスターは、そんな私に向けて身体中の触手を振り下ろし、薙ぎ払い、突き刺すかのように連続して攻撃をしてきますが、それらは全て紙一重で回避し、お返しとして触手に弾丸をお見舞いします。


 触手への攻撃では、本体であるモンスターのHPゲージは殆ど削れていませんが、その分触手の方にはダメージが入っており、傷ついたその触手はその分動かすのが遅くなっていてさらに接近がしやすくなっています。


「〈第三の時(ドライ)〉!」


 ある程度近づいたので、触手に防がれる前提で防御無視の弾丸である〈第三の時(ドライ)〉を撃ちます。


 それは予想通り防御に使われた触手を容易に貫通し、その背後にあった身体についている瞳を正確に撃ち抜きました。


「グォオ!?」


 モンスターはまさか防御ごと撃ち抜かれるとは思っていなかったのか、そんな悲鳴のような叫び声を上げて一瞬だけ怯みます。今がチャンスですね…!


 私はその一瞬のうちに自身へ〈第七の時(ズィーベン)〉を撃ち込んで分身を生み出し、そこからその分身と一緒にモンスターへとさらに踏み込んで身体中の瞳を狙って弾丸を撃ちまくります。


 それらは狙い通り複数の瞳を撃ち抜いてダメージを与えることに成功します。


 そうしてそこからも分身と共に弾丸を撃ちますが、モンスターはすぐに元に戻ったのか即座に身体中の触手を振り回し、飛んできた全ての弾丸を弾いています。


「〈第三の時(ドライ)〉なら触手ごと貫通させることが出来ましたし、これを主に使っていきましょうか…!」


 消費MPもほとんどないうえにリキャストタイムも五秒で短いですし、称号の効果も相まって連発しても一切問題ないですからね!


 そんな思考をしつつ〈第三の時(ドライ)〉も混ぜながら瞳狙いで撃ち、徐々に身体についている瞳を撃ち抜いていきます。


 その最中で触手による攻撃も飛んできてはいますが、やはり速くはないので簡単に躱せます。もちろん分身も回避して弾丸を撃ち続けています。


 ですが、〈第三の時(ドライ)〉以外の通常攻撃である弾丸はやはり触手によって防がれて上手く当てれません。それでも触手へのダメージにはなっているので無駄ではないですけど…


 それとその途中で分身は時間になったので消えてしまいましたが、それまでにある程度はダメージを与えられたので、リキャストタイムが終わり次第使っていきましょう。


「ゴォオオ!!」


 そして分身が消えた後も両手の銃で徐々に身体の瞳たちを撃ち抜いてHPを八割まで減らすと、急にそのような雄叫びをあげ、私目掛けて無数の触手による攻撃をしてきました。


 それは先程までの触手による攻撃よりも速く、重く、そして硬くなっていました。


「っ、急に攻撃が強くなってきましたね!」


 私は即座に後方へと跳躍し、一瞬だけ息を整えてから両手の銃で飛んでくる触手の攻撃を受け流したり弾丸で相殺しつつ、観察をします。


 離れた位置にいるからか全ての触手が飛んでくるわけではないようなので、距離を取ればそこまで脅威は高くないですね…


 突然動きが変わったのは、おそらくは他のゲームでもあった発狂状態というやつですね。


 ちなみに発狂状態というのは、ボス敵などのモンスターのHPが一定まで減ると特殊な行動を起こすことを言い、そこからはさらに手強くなることが多いのです。


「攻撃は速くて重くもなっていますが、〈第一の時(アイン)〉と〈第二の時(ツヴァイ)〉を付与すれば問題はないでしょう」


 加速と遅延を同時に使えば何とかなるとは思いますし、早速行動といきますか!


 私は自身に〈第一の時(アイン)〉を撃ってからモンスターへ肉薄していき、飛んでくる無数の触手による攻撃が飛んでくる前に〈第二の時(ツヴァイ)〉を撃って動きを遅くします。


 モンスターはそこまで知能が良いわけではないのか、それに対しては特に何の反応もしていません。ですが、しっかりと動きは遅くなっています。


 そして遅くなった触手による攻撃は武器で逸らし、身体を逸らし、動きを読んで紙一重で回避してと続けながら、合間に両手の銃も撃って瞳を撃ち抜きながら接近していきます。


「ガゥオオ!!」


 モンスターはなかなか当たらないことにじれったくなったのか、そんな雄叫びと共に触手を纏めて巨大な一本の触手にし、そのままそれを振り下ろしてきます。


 巨大な触手の攻撃は纏めたせいかスピードは落ちているので、それは右に避けて回避します。


 しかしそんな叩きつけを回避して接近しようと思ったら、地面に叩きつけられたその触手が今度は地面を削るように一気に横からも迫ってきました。


「…っ!」


 結構な速度で薙ぎ払われたその触手による攻撃は、モンスターの動きが遅くなっているのと私自身が加速しているおかげで直前に空中へ跳んで回避が間に合います。


 薙ぎ払われた巨大触手はそのまま私の足下を通り過ぎていき、壁に激突して止まります。その衝撃で壁が少し砕けて石礫などが飛び散りますが、私の位置よりは離れているのでこちらには特に飛んできてはいません。


「ですが、モンスターの触手には結構なダメージになっているようですね」


 そんな私の言葉通り、その巨大触手にはかなりの傷がついてボロボロになっています。


 身体から生えておる触手の殆どはそれに使われていたので、今が攻撃のチャンスですね!


 一瞬のうちにそう考えた私は、この攻防の間にリキャストタイムが終了していた〈第七の時(ズィーベン)〉を自身に撃ち込み、再び分身を作り出します。そしてその分身と共に一気にモンスターへと踏み込み、弾丸を連続で放って攻撃をしていきます。


「ガゥオ!!」


 モンスターは残っている触手で私と分身を相手にしようとしていますが、それだけでは圧倒的に数が足りていません。

 巨大触手をこちらに戻すのは、傷だらけなのでもう少しかかりそうですし、どんどん攻めましょう!


 私と分身はお互いに〈第一の時(アイン)〉を自身に撃って動きを加速させ、残っている身体中の瞳を撃ち抜き続けます。


「これで、最後です!」


 分身と共に撃ちまくっていると身体に残っている瞳は残り一つだけとなり、最後の一つに攻撃を加えようとしたタイミングでモンスターは再生した触手たちで防ごうとしましたが間に合わず、私はそれを撃ち抜きます。


 よし、これであとは頭付近の瞳だけです!


「ガゥアア!!」


 それによってモンスターのHPは残り五割になり、モンスターが再びそのような咆哮を上げたので私は一度後方に跳んで距離をとります。それとその間に分身は消えてしまったので、リキャストタイムが終わったらまた出しましょうか。


 そしてその咆哮の後に、モンスターは何やら危ない効果を持っていそうな黒いオーラのようなものを纏い始めます。あの見た目から、黒いオーラは仮称として瘴気と呼んでおきますか。


 その瘴気は身体だけではなく触手にも纏わりつき、一回り大きくなったかのような見た目になりパワーアップしています。


「あれは絶対に触ってはダメでしょうし、ここからはさらに気をつけていきますか…」


 私は先程よりも警戒を強めつつ、私はまず離れた地点から様子見として弾丸を連続して撃ちます。


「ガァア!!」


 確認のために銃から撃ち出した無数の弾丸たちは、瘴気を纏った触手で全て弾かれ、こちらにも攻撃を飛ばしてきます。


 それらは一応触れないように気をつけながら回避をしつつ弾丸を触手に向けて撃ちますが、瘴気のせいかなかなかダメージも与えられないうえに、攻撃の速度も速いので回避も大変です…!


 瘴気を纏った触手はその瘴気で守られているのか前よりも傷がつかず頑丈に、そして速くもなっているのを感じ取れます。


「多分、触手や身体を強化する力もあるのでしょう。それと状態異常を与える効果も間違いなく持っているでしょうし、ここからは受け流したりするのは避けた方が良いですね」


 私はモンスターの動きを読んでゆらゆらとフェイントを入れながらも回避し続け、さらにはそんなモンスターに向けて攻撃もしつつ様子を見ますが、先程よりも凶暴になっているのか手当たり次第にこちらに攻撃をしてきています。思考能力も低くなってますます獣みたくなっていますね…!


 ですがその分力が強いですし、気を抜いたらそのまま一撃でペチャンコになりそうです…!

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