32話 クラフターフェス2
そうして私たちは、私、兄様、カムイさんの三人でテクテクと歩いていきます。
「あ、見てください兄様!可愛いぬいぐるみがあります!」
そんな中、私はふと目についたお店の店頭にあるケースに飾ってあったぬいぐるみを発見したので、そこへテテテッと小走りで向かい兄様を呼びます。
「…あれ、自然……か?」
「…そうだ。……だろ?」
「兄様ー?」
そんな私を見つつもコソコソと話し合う二人に、私は頬を膨らませながら近づきます。
「ああ、悪い悪い。で、なんだって?」
「もう、あのぬいぐるみが可愛いので兄様たちにも見せようと思ったのですよっ!」
そう言って私は、そのぬいぐるみへと指を差します。そのぬいぐるみは、初期の街の近くにもいたラビットを二等身にしてデフォルメしたような見た目をしており、見た限りはとてもフカフカしてそうな感じがします!
「気になるなら、中に入って見てみるか」
「はいっ!では、早速中に行きましょう!」
ルンルン気分で私は兄様とカムイさんを連れ、扉を開いてそのお店の中へ入っていきます。
お店の中は結構ファンシーな雰囲気の様で、中にいるのは女性プレイヤーが殆どです。そしてそれに付き合っているらしき男性プレイヤーも僅かに居ますが、皆少し居心地が悪そうです。
兄様とカムイさんも私に付き添ってくれてはいますが、お二人も他の男性と同じく少し微妙な表情をしています。
まあ、そんな兄様たちは措いておいて、早速見てまわりましょうか!
「店頭に飾ってあったのは兎のぬいぐるみだけでしたが、他にも色々とあるのですね!」
店内には兎だけではなく、同じくデフォルメされた狼や熊、鶏に子豚などのぬいぐるみや、様々な衣装を着ている人形など、多種多様な物が置いてあります。
「うーん、とてもフカフカです!」
触ってみると、とてももちもちフカフカで最高です!これはなかなか可愛くて欲しくなりますねっ!ですが家をまだ持っていないので、飾れるのは手に入れてからですね。
この世界では、街の中にある建物や敷地をお金などで買って自身の好きなようにできるマイホームが手に入れられるのです。レーナさんの買ったお店みたいに、自分だけのお店や家も手に入れられるので、欲しい人は今もコツコツとお金を貯めているのでしょう。
私も欲しいですが、最低限の機能でサイズも小さい建物でも、一番安くて50万Gはかかるので、ベータ時から引き継いでいるレーナさんやクオンくらいでないと、今の段階ではいいのは買えません。なので、マイハウスを手に入れるのはまだまだ先ですね。
そうして目をキラキラさせながら商品を手に取りながら見ていると、ふと視線を感じたのでそちらをみると、黒色の瞳をした女の子と目が合いました。あれ、この女の子って…
「アリスさんですか?」
思わず私はそう聞きます。なんとそのアリスさんらしき人物は、焦茶色のクロークを纏い頭にもフードを被っており、姿を確認出来なかったのです。私の身長がアリスさんよりも低いからか、フードの下から黒い瞳と顔が見えていてアリスさんとわかったのです。
「レアさんもこのお店に来ていたのですね!」
「そうですけど……何故フードを被っているのですか?」
バトルフェスの時は着けていませんでしたのに、と続けて聞くと、少しアリスさんは気まずそうに答えます。
「あー、それはですね、ちょっと目立ちすぎたせいか女性のプレイヤーたちに色々と集られて可愛がられたので、少し面倒くさくなって今持っていたこのクロークを被って逃げてきたのです」
「あー…」
なるほど、納得です。確かにアリスさんは、私よりは大きいとはいえ普通からしたら小さめの体型ですし、その顔も可愛くて守ってあげたくなる様なオーラを出しており、まさに儚げ系の美少女ですしね。
「だからそんなのを被っているんですね」
「なのです!ですが、おかしな点もあります!」
おかしな点ですか?なにか気になることでもあるのでしょうか?
「レアさんは私よりもずっと可愛いですのに、何故私と違って顔を隠していないでいれるのです!?」
アリスさんはジトーっとした瞳で私を見ながら、そう続けます。
「そ、そう言われても……よく言われますが、私自身はそこまで特別に可愛いわけではないと思いますよ?アリスさんの方がよっぽど可愛いとは思いますし…」
「「「それは違う!」」のです!」
アリスさんだけではなく、話を聞いていた兄様とカムイさんも一緒にそう叫んできます。…少しだけビックリしました…
「レア、お前はそこら辺の女性と比べても遥かに上の可愛さを持っているからな?」
「俺はまだ会って少ししか経ってないが、レアが可愛いのはもうわかりきってるぞ?」
「レアさん、自覚がなかったのです?」
それぞれの気持ちを声に込めて、私へとそう言っててきます。そ、そんなにですかね…?
私は自身の顎に指を当てて考えますが、やっぱりあまり理解は出来ませんでした。
「そういうのが可愛いんだよ…」
「自然と出てるのが本当にな…」
「やっぱり自覚がなかったのですね…」
三人ともなにやら呟いてため息を吐きます。…なんだか、ちょっとだけ理解が出来なくて悲しくなります。
「まあ、あれだ。そこまで考えなくてもいいぞ?」
「…そうなのですか?」
「ああ、自然が一番ってことだ」
私が悲しげな表情をしていると、兄様は軽く笑いながらそう発します。…それなら、可愛さというものについて考えるのはもうやめておきますか。理解も追いつけないですし。
「それと話がずれたが、レアが他のプレイヤーたちに声をかけられないのは、おそらく俺たちが一緒にいたからだろうな」
レアに注目しているプレイヤーたちはかなりの数がいたが、俺たちが一応威嚇のようなものをしていたからな、と続けます。え、気づきませんでした!そんなことをしていたのですか…!?
「レアはかなりの美少女だし、それをしてなかったら人に集まられて動けなくなっていただろうし、仕方ないな」
カムイさんもそう言ってますが、そんなになのですか…!?
「だから、レア。一人の時は少し気をつけておけよ?」
「は、はい…!」
兄様の警告に私は素直に頷きます。こんなことを聞くと、ちょっと怖く感じますね……まあ、普段はフードを深く被っておけばいいですね。
「じゃあ、この話はここらで終わりにするか」
「そうですね」
兄様のその言葉に、私たちは了解の意味を込めて声を返します。
「それで、レアさんたちはどうしてこのお店へ入ってきたのです?」
「私は店頭のぬいぐるみを見て、気になって入ってきたのです。そういうアリスさんは?」
そして改めて聞いてくるアリスさんに私はそう返し、こちらからも聞いてみます。
「私はユニークスキルで使うためのぬいぐるみや人形を買いにきたのです」
「ユニークスキルですか。あ、もしかして、バトルフェスの時に出していたやつですか?」
「なのです!私はスキルを使って自分でも作れますが、見てた通りたくさん使うので、コツコツと貯めるためよくこういうお店に来てるのです!」
だから素材などもたくさん買ったりしているのです、とも続けます。ふむふむ、だからですか。確かにあれだけ使っていれば徐々に足りなくなりますもんね。
「私のユニークスキルについてはもう知っているとは思いますが、レアさんのユニークスキルのことも聞いていいですか?」
「いいですよ、私は【時空の姫】という名前で、色々なバフやデバフを与えることが出来るスキルです」
「そうなのですか!だから自分に撃ったりもしていたのですね!」
「私のは自分だけではなく他の人にも与えられそうなので、サポートに特化している風に感じましたね」
へー、そうなのですね!と納得してうんうんと頷いているアリスさん。そこへ私はさらに言葉を続けます。
「こちらのカムイさんは相手をしたから知っているとは思いますが、兄様もユニークスキルを持っているのですよ」
「あ、見てましたよ!惜しくもカムイさんに負けてしまっていましたが、なんか凄い武技を使っていましたよね!」
「ああ、【虹光秘剣】というユニークスキルを持っているんだ」
「私は人形さんたちを操るスキルですし、やっぱりユニークスキルによってかなり能力は変わっているのですね〜」
確かにそうですね。私は様々な弾丸を扱い、兄様は凄い剣技を使い、カムイさんは剣技だけではなく雷を操る能力ですし、それぞれのユニークスキル持ちらしきプレイヤーたちも、全員使う能力は被っていませんよね。
「っと、こんなところで話していると邪魔になりますし、このくらいで切り上げますか」
お店の中にはそこまでたくさんのプレイヤーがいるわけではないですが、本戦に出ていたユニークスキル持ちの私たちが固まっていたからか、少し周りから視線を感じていたのです。なるほど、これが兄様が言っていた気をつけろって言葉の意味だったのですね…
「そうですね!では私は会計をしてくるのです!」
「あ、私もいきます!では兄様、カムイさん、ちょっと行ってくるので少し待っていてください!」
「わかった、そこまで急がなくてもいいからなー」
兄様のそんな声を背中に受けながら、私は会計へと向かいます。
「いやー、なかなかいい買い物でしたね!」
「ですね!」
そう言って私とアリスさんはご機嫌な表情で、先程のお店から出て新たな場所を探しながら歩いています。あ、もちろん、そのすぐそばに兄様とカムイさんもいますよ。
私は会計を済ませた後、アリスさんも一緒に行動をしませんか?と声をかけると、とても喜んで行動を共にしてくれています。なので、今ここには私たち三人にアリスさんが一人増えました。
それと、先程のお店では私は兎のぬいぐるみと狼のぬいぐるみの二つのみを買いましたが、アリスさんはたくさんあったぬいぐるみたちと、何体かの人形も買っていました。さすがに多いとは思いましたが、先程も言っていた通りスキルなどで使うことが多いそうなので、このくらいは普通なのでしょう。
そして私とアリスさんは、かなり目立つからと兄様に言われ、二人してクロークを纏ってフードも深く被っています。この状態なら他人の視線を受けませんが、兄様たちは兄様たちで少し目立っています。まあ兄様もカムイさんもかなりのイケメンですし、仕方ないですね!
「お、レア、アリス、ちょっとあそこにある店によってもいいか?」
そんなことを考えながら歩いていると、兄様がそう声をかけてきました。
「いいですよ、どんなお店ですか?」
「あれだ」
私は了承を口にした後に兄様が指を差した方を見ると、そこには様々な刀剣類が店頭のケースに飾られたお店でした。あー、なるほど、確かにあれは兄様の好きなものですね。
私たちは兄様とカムイさんを先頭にして、そのお店へと向かいます。
兄様が扉を開けて入るのでそこに着いていくと、少し入ったところで止まります。
「さて、早速中を見ていくか!」
「ふふ、ですね」
そしてワクワクした様子で中を見渡している兄様に、私は軽く笑いながら了解をします。そんな兄様の様子に、少しだけ意外そうにしているカムイさんとアリスさん。
「少し不思議そうにしていますね?」
「はい、なんかクールそうな人だと思ってたのです」
「俺もそう思っていたな」
そう反応を返してくるお二人に、私は兄様の代わりに説明をします。
「兄様は普段はクールなのですが、刀剣が関係してくる事にはとても興奮する性格なのですよ」
私のその説明に、なるほどと納得しているお二人。
「おーい!」
そんなことをしていると兄様に呼ばれたので、私たちは揃って兄様の元へ歩いていきます。
「どうしましたか?」
「見てくれ!この刀、かなりの性能だぞ!」
そう言って兄様はケース内の銀色の刀を指差しているので、私たちは近づいてそれについている鑑定の説明を見てみます。
「ATK+20か。確かにこれはかなりの性能だな」
「そうなのです?」
カムイさんの感想にアリスさんはそう問いかけます。私もそれは気になりますね。
私の武器はユニークだからか、INTとDEXが+20でAGIが+15と説明には書いてあったので強いとは思ってましたが、初期武器とその武器しか見てないのであまり他の武器の強さはわからないのですよね。
「ああ、バトルフェスに参加しているプレイヤーたちの武器は基本鉄製だから、大体性能は+10〜15の間になるはずなんだ。それなのにこれはそれを遥かに超えているのだから、ゼロが興奮するのも無理はないな」
俺の武器もこれほどまでの性能ほど高くはないしな、と続けてカムイさんは言います。なるほど、そうなのですか。じゃあ私の武器も、誰がどう見ても凄まじい強さなのですね。攻撃力だけではなく、素早さと器用さも上がりますし。
「いったいこれは誰の製品なのか……って、アイザ作か!通りでこんなに強いわけだ…」
「しかも、これはオークション行きの商品らしいな」
「あ、本当ですね」
よくよく説明を見ると、製作者であるアイザさんの名前とオークションに出されることも書かれていました。
その説明を見て改めて周りの商品を確認してみると、この鍛冶屋らしきお店だと思ってた場所はどうやら鍛冶系で作られたオークション行きの商品を飾ってある場所の様です。
なので、売り物は一つもないみたいです。
「うーん、買える武具はないみたいだな…」
そう言って目に見えてテンションが下がっている兄様。まあ、ここにある全てのアイテムが買えるわけではないですし、仕方ないですね。
「じゃあ見るだけしか出来ないし、ここはもういいかな」
「わかりました。ならここを出て、あてもなくブラブラと歩いていきますか」
「「「わかった」」のです」
各々の返事を返してきて、同意してくれました。よし、じゃあ出ますか。
そうして私たちはこの鍛冶屋の展示室から出て、適当に歩き始めます。
「こうして歩くとわかりますが、小さいとはいえ結構な広さのエリアなのですね」
そして歩いている中、私はそう呟きます。
「確かに、思ったよりも大きいな」
私の言葉に兄様も頷いて同意します。
「このくらい広いと、案内板を見ないとお目当てのお店はわからなそうですね」
「それに売っている店もジャンルはバラバラだから、ちょっと面倒くさいな」
それにアリスさんとカムイさんも同じことを思ってたのか、言葉を発します。
まあ私たちは特に目的地もなく歩いているので、そこまで問題はないですけどね。
そんな会話をしながら歩いていると、今度は何らかの薬を売っているお店を発見しました。
「そういえば、私は自分で作ったの意外は見たことも買ったこともなかったですね」
「え、レアさん、ポーション買ったことがないのです!?」
私がそのお店を見ながら呟くと、アリスさんが思わずといった様子でそう返してきました。
「使ったりしたことはありますけどね。私は自分で作れるので、あまりこういうお店に寄る機会がなかったのです」
「なら、ちょうどいいし少し行ってみるか」
「わかりました」
兄様の言葉に私は了承を返し、そのまま私たちはそのお店へと向かいます。
中に入ってみると、そこには数名やプレイヤーがいましたが、そこまで多くの人がいるわけではない様です。
「こういうお店って、やっぱりポーション系なのですか?」
「そうだな、それと店によっては魔法薬を売っているところもあるな」
そうなのですか、やっぱり薬屋なだけありますね。私はまだポーションしか作ったことがないので、いつかは私も魔法薬を作ってみたいですね!
「名前を聞いたりはしたことありますけど、魔法薬って基本どういう効果を持っているのでしょうか?」
「確か…ステータス上昇と状態異常付与が主だったはずだな」
状態異常系のポーションも魔法薬に属するのですね。なら、ないと思ってましたが作ったことはあった様です。それとステータス上昇なら、結構使えますし買う人は多そうですね。今も数名のプレイヤーがそれを手に取って買いに行ってますし。
「俺も、ちょっと買っておこうかな」
「私は自分で作った物がありますし、今はいいですね」
では待ってますね、と私が言うと、兄様とそれに続いてアリスさんとカムイさんも一緒になってポーション類を買いに行きます。




