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223話 襲撃者

「アルバート様、そろそろ」

「ん、もうかい?仕方ないね」


 アルバートさんは私を気に入ったのか、その後も私を混ぜながらイザベラさんと取り止めのない会話をしていたのですが、ちょうどその頃合いで執事らしき人がそのように声をかけてきました。


 …どうやら、アルバートさんは王様の息子なだけはあって忙しいみたいですね。今回のダンスパーティにおいて、王族であるアルバートさんたちは貴族やプレイヤーたちの相手をするらしく、ここで話し続けてないでそちらにも行かなくてはいけないらしいです。


 そのため、アルバートさんには失礼かもしれませんけど、私的にはとても助かりました…!今の私はメイドなうえにイザベラさんの護衛としてそばにおり、加えて王族であるアルバートさんに失礼がないように意識をしていたせいで、会話をしている最中も一切気が抜けずに結構疲れてしまったのです…!


「それじゃ、またね?クロちゃんも、また話そうね」

「ええ、頑張りなさいよ」

「またお会いしましょう」


 私たちの言葉を聞いたアルバートさんは、呼びに来た執事に連れられて私たち以外の貴族やプレイヤーの元へ歩いていきました。


 ふぅ、少しだけ緊張しましたが、何とかなりましたね…!流石に王族が相手となると、肉体的には何ともなくても精神的に結構疲れが出てきてしまいます…!


 というか、私はイザベラさんの護衛として来ているだけなのに、何故か私も貴族や王族と会話をすることになっていますね…?ま、まあ私に悪いことは起きてないのですから、気にしないでおきますか…!気にしすぎていては疲れるだけなので…!


「…それにしても、クロ以外にも異邦人はたくさんいるのね?」

「異邦人の数は合計で一万人いるみたいですし、ここに来ているのはそれより少ないとはいえ、数は意外といますよ…!」


 ダンスをしている貴族とプレイヤーたちを眺めつつそう呟いたイザベラさんの言葉に、私はそのように反応を返します。


 私がこの会場を見渡して確認した限りでは、このダンスパーティに参加しているのはおよそ百名近くだと思うので、イザベラさんが言う通りプレイヤーの数は結構なものとはわかります。


 それに、イザベラさんは他のプレイヤーに対しては関心がないようで気にしてはいませんが、私たち以外の貴族たちはそれぞれがプレイヤーの皆さんへと話しかけてダンスをしているので、プレイヤーの人数がそれだけいるのも見て取れます。


 その様子をみるに、裏の理由であった異邦人たちの力をそう易々と利用させないようにという目的は、あまり意味をなしていないように見えますね…?まあ、単にダンスをして表向きの理由である交友を深めているだけかもしれませんし、別にいいですか。


 もしそれで何か問題が起きたのなら、王様やプレイヤーたち自身で対応すればいいことです!…そうは言っても、イザベラさんなどから依頼として頼まれれば私も動きますけど、そんなホイホイと頼まれることはない……ですよね?


「くく、いいねぇ、実にいい状況だ」


 そんなダンスパーティの風景をのんびりと眺めていた私とイザベラさんでしたが、そのタイミングでふと聞こえてきた声の方へ意識を向けると、そこには全身を真っ黒なローブで隠している人物が立っていました。


 …何だか怪しげな風体の人ですけど、あの人は何なのでしょうか…?何やら呟いてもいるのが聞こえてきましたが、動きなどからもちょっとだけ不審に感じます。明らかに姿も隠していて怪しい人物なので、警戒を強めた方が良いかもしれませんね…?


 とりあえず、マーカーを確認して……って、真っ赤です…!?ということは、PKなどの悪事をしているプレイヤー、ですか…!?なら、イザベラさんを守るために動かなくては…!


「さあ、宴の時間だ!」


 私がその人物への警戒を強めて動き出そうとしたその瞬間、黒いローブを纏っていた人物が纏っていたローブを脱ぎ捨て、そのまま両手に漆黒色をした二本の短剣を構えます。


 やはり、何らかの悪さをするためにこのダンスパーティに紛れ込んでいたみたいですね…!プレイヤーから見ればマーカーのおかげで容易にわかりますが、この世界の住人ではマーカーを見ることが出来ないため、容易く紛れ込めたのでしょう。


 しかも、その人が出て来たのを皮切りに、プレイヤーたちの中からも複数の同じ姿のプレイヤーが現れ、プレイヤーと貴族たちへと襲いかかっているため、ダンスパーティの会場が阿鼻叫喚となっています。うーむ、言っては何ですが、逃げ惑っている貴族などが邪魔で少々動きづらいですね…?


 というか、貴族たちには私と同じように護衛がいるので被害は出ていませんが、これは見てないで私も助けに動いたほうがよいのでしょうか?私はイザベラさんの護衛として来ているため、そう易々と動くわけにはいきませんが……とりあえず、逃げるかどうかだけは聞いてみますか。


「…イザベラさん、私たちも逃げますか?」

「そうね……いえ、私たちはここであの襲撃者を倒しましょうか。クロなら、簡単でしょ?」


 ふむ、イザベラさんは周りの貴族とは違ってそう簡単に逃げるつもりはないのですね?確かに、貴族の中でもトップの立場であるイザベラさんがそのような行動を取ってしまえば、周りに示しがつきませんか。


 なら、イザベラさんからも信頼されているみたいですし、それに答えるために動くとしましょう!ひとまず、戦いに参加するための武器はどうしましょうか。


 いつもの双銃はもちろんですけど、私が他に持つのは細剣と狙撃銃くらいですけど……いえ、ここは魔法で戦うことにしますか。それに私が付けているこの仮面、ノー・フェイスの効果で特殊な能力もあるのでそれを使えば正体もバレることなく戦えるはずです…!


「任せてください!では、ここは分身に向かわせますね」

「わかったわ。気をつけるのよ?」


 私はそれに頷きを返した後、メイド服についている分身を生み出すスキルである〈影芝居(シュピール)〉を使用して、それによって生まれた分身を操作して今も戦っている人たちの方へと向かわせます。さて、今のところはこちらまで被害は出てませんけど、この状況はなんとかしないとですね。


「おいおい、ちょうどいいくらいの奴がいるじゃねぇか?」


 そうして本体である私はイザベラさんのすぐそばで待機しつつ、分身を操作してプレイヤーたちと一緒に襲撃者と戦わせていると、いきなり聞こえてきた男性の声が聞こえてきたのでそちらへと視線を向けます。


 すると、そこにはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら大斧を担いだ男性がこちらへと歩いてきていたところでした。その姿から察するに、この人も襲撃者の仲間とみて間違いなさそうですね?なら、今ここで倒すのが正解ですか。


 今の私には使える武器がないとはいえ、魔法に加えて特殊能力もあるのですから、苦戦はしないでしょう。なんにせよ、敵のようですし、サクッと倒させてもらいますよ!


「…〈蒼狐火〉」


 そう瞬時に判断した私は、すぐさまその男性目掛けて青白い火の玉を放ちます。この魔法のようなスキルは、ノー・フェイスによって変わった狐獣人である今の姿で使える特殊能力であり、その名の通り青白い炎による攻撃が出来るものなのです。


 本来の私では【暗黒魔法】しか使えませんけど、これによって今の私はある程度のスキルは使えるというわけなのですよ!さあ、そのまま燃え尽きてください!


「なっ!?」


 思いの外飛んでくるスピードが速かったからか、あるいは小さな女の子である私を見て油断していたのか、はたまた効かないとでも思ったのにか。理由はわかりませんが、私の放ったその青白い火の玉は躱されることもなくその男性に命中し、そのまま一瞬にして燃やし尽くしました。


 …何というか、実にあっさりと倒せましたね?まあ私が今までに戦ってきたモンスターとただのプレイヤーを比べるのは酷というものですか。とりあえず、無事に倒せるようなので、後は分身に任せて倒し切ることにしますかね。


「…全く、あいつらは役に立たないですねぇ」


 それからも、この広場にいるプレイヤーたちや貴族の護衛の手によって襲撃者であるPKプレイヤーたちが次々と倒されているタイミングで、ふとこの空間内に響くかのような女性の声が聞こえてきました。


 私はまたか、と思いながらもそちらに視線を向けると、そこには身体を覆うように黒色のローブを纏った黒髪黒目をした一人の女性が空中に浮かぶように存在していました。…今の発言からして、プレイヤーたちによる襲撃はこの人が原因なのでしょうか?


 襲撃者であるPKプレイヤーは特にこちらへと被害を出させずに片付けれましたけど、それの大元である人がここに出てきたのです。であれば、襲撃の本番はここからのようですね…!PKプレイヤーはすでに倒し切れているので、あの人さえ倒せれば問題は解決するでしょう!


「あなたは何者かしら?」

「私は、イクスペリメント。彼の方の眷属であり、今ここで貴方たちを喰らうものです」


 皆を代表するかのようなイザベラさんの問いかけにそう答えた女性……イクスペリメントさんは、それと同時に自身の両手に何やら黒色の瘴気のようなものを集め出しました。


 どう見ても何かをしようとしているのがわかりますし、あの人は彼の方の眷属とも言っていたのです。おそらくは邪神の眷属か何かだとはわかるので、間違いなくこのまま放置していてはこちらが不利になるのは間違いないです!なので、ここで見てないで阻止させてもらいますよ!


「〈狐火・突〉!」

「そこのメイドに続くぞ!〈秘剣・風断〉!」

「人形さんたち、〈マナランス〉なのです!」

「俺もいく!〈飛び立つ星光シューティング・スター〉!」


 そんな私を筆頭に、ここに集まっていたプレイヤーたちや護衛の人たちによる無数の攻撃がイクスペリメントさんへと放たれますが、それらの全ては突如その間に現れた一体の巨大なモンスターによって防がれてしまいました。


 ーーそのモンスターの姿は、全身が黒色に染まっているぐちゃぐちゃに混ざり合った肉塊の如きスライムのような見た目をしており、それがイクスペリメントさんを守るかのように空中で蠢いているようで、明らかにただのモンスターには見えません。


 …というか、いくら何でも気持ち悪すぎませんか…!?モンスターなので倒す必要があるとはいえ、流石に生理的に気持ち悪くて鳥肌が立ってしまいますよ…!?しかも大きさに関してもかなりのもので、およそ五メートルくらいはありそうです。


「私は相手をしないですよ。貴方たちの相手は、これにしてもらいます」

「……!」


 イクスペリメントさんの言葉を合図に、スライムは雄叫びをあげながらこちらへと襲いかかってきます。


 私たちの攻撃をその身に受けているにも関わらず、これと言ったダメージにはなっていないようなので、これはかなり手強そうですね…!ここにいるのは私だけではなく、兄様たちなどのプレイヤーも数多くいるので、皆の力を合わせる必要があるとわかります。なら、あのスライムを倒すために動くとしましょうか…!

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