218話 ソロとアリ
「…よし、今日の予定であるサーカスとダンスパーティまでは時間がたくさんありますし、それまではソロさんのところに行って顔を見せてから、本でも読むとしますか!」
あの後からは特に何か特殊なことも起きずに時間が経過していき、今は次の日である月曜日です。時刻に関しても、これまたいつも通り七時半となっているため、またもや朝からゲームをしているのがわかりますよね?
今日の予定はお昼くらいにあの女性が参加するというサーカスを見るのに加えて、夜の八時からはイザベラさんの護衛依頼であるダンスパーティがあります。
夜までは当然ですけど、お昼までも朝早くからログインをしてきたため時間には大いに余裕があるため、今の時間は先程口にした通りソロさんの図書館へと向かいます!昨日のうちには行けませんでしたから、今日こそは行かせてもらいますよ!あ、もちろんクリアとセレネも連れて、です!
「では、行きますよ!」
「……!」
「キュゥ!」
そうして早速とばかりに二人を呼んだ私は、そのまま今いる第二の街にあるソロさんの図書館を目指して歩き始めます。
さて、ソロさんと最後に会ったの結構前だったと思いますけど、今はどんな感じになっているでしょうか?別にこれといった変化などはないでしょうけど、しばらく会ってなかったので気になるところです…!
プレイヤーとは違って装備などが変わっていることはないと思いますから、別に前と変わらずでしょうけど。なんにせよ、会いに行くのに変わりはないですけどね!
「…よし、着きましたね!」
「……!」
「キュッ!」
そんなことを考えながらも歩き続けること数十分。結構な時間はかかりましたが、私は問題なくソロさんの図書館の正面まで到着しました。
ソロさんから前に渡された図書館カードがあるのでこの図書館はに入るのに困ることはありませんけど、今この時間にいるかどうかはわからないですが、入らせてもらいます!ソロさんからはいつでも来てもらってもいいと言われているので!
「ソロさーん、いますかー?」
ソロさんがここにいるかわからないため、私はそのように声に出しながら図書館の奥へと歩いていきます。最近は来ることがなかったですけど、図書館内は相変わらず無数の本に囲まれた空間となっているので、この本の匂いや雰囲気が私には合っていてとても落ち着きます!
っと、それはいいとして、反応も返ってこないですし、どうやら今は留守のようですね?なら、この時間はちょっとだけ本を読ませてもらいますか!私には【言語学】スキルもありますし、そのスキルはこうした機会でないとレベル上げも出来ないですからね!
「まずは……これにしますか」
図書館内を歩いて読みたい本を探していた私は、そう言って本棚にあった一冊の本を手に取ります。その本のタイトルは錬金の歴史というものらしく、読んでみたところ、その本には文字通り私も扱っている【錬金術】の歴史について書かれていた本のようで、なかなか興味深いことが書かれていたのです。
なんでも、この世界で【錬金術】のスキルが生まれたのはとある人間の女性が初めてらしく、そこから徐々に世界に広まるのと同時に数々の魔女と呼べる人たちが台頭してきたとのことで、それによってこの世界に【錬金術】が広まったらしいです。
他の生産スキルについては書いていないのでわかりませんが、錬金術にはこのような歴史があったのですね…!初期スキルとして使っていたので、ここまでの歴史がこのスキルにあるとは思わなかったです…!
もしかすると、他の生産スキルやその他の特殊なスキルにも何か歴史のようなものがあるのかもしれませんね?これは、ちょっとだけ好奇心が疼いてしまいます…!まあ今すぐに知れるものでもないですし、このことは頭の隅にでも置いておきますか。
「おや、レアじゃないか」
「あ、ソロさん!っと、アリさんもいるのですね!」
「久しぶりだね、レア!」
本を読み終わってパタンと閉じたちょうどそのタイミングで、背後からソロさんの声がかけられたので返事をしながら振り向くと、そこにはソロさんに加えてアリさんが一緒にこちらへと歩いてきていたところでした。
ソロさんはこの図書館の主人なのでわかりますけど、そこにアリさんもいるとは少しだけ驚きました…!まあアリさんとソロさんは友人関係みたいだったので、たまたまアリさんがここに来た、ということなのでしょう。
それにしても、ソロさんはまだしもアリさんとも会えるなんてタイミングがいいですね…!最後に会ったのは確か、ゲームを開始して少しした辺りの時でしたよね?あれから結構な日数が経っていますし、アリさんも元気そうでよかったです!
ソロさんとはたまに会ってましたけど、アリさんとはあれ以降顔を合わせていませんでしたし、こうして会えたのは少しだけ嬉しくなっちゃいます…!
「レア、また一段と強くなったみたいだな?」
「まあワールドモンスターの一人も倒してますし、これだけの日数が経てば強くなりますよ!」
アリさんからそう声をかけられたので、私はそのように言葉を返します。
アリさんと最後に会ってからかなりの日数が経っていますし、それだけ成長しているのがアリさんも感じ取れたのでしょうね。あれから様々なユニーク装備も手に入れ、ユニークスキルに留まらずEXスキルというものまで獲得出来ているので、前に会った私とは違います!ふふん、もっと褒めてくれてもいいのですよ!
アリさんの言葉に対して胸を張りながらドヤ顔をしていた私でしたが、そんな私を見てアリさんは何故だかワクワクした様子をしたと思ったら、言葉を続けてきました。
「レアも前より一段と成長したみたいだし、またあたしと模擬戦をしようぜ!」
むむ、アリさんはまたもや私と模擬戦をしたいのですね?前に会った時もやりましたけど、やはりアリさん戦闘狂か何かなのでしょうか…?まあ時間に余裕もあるので私は構いませんけど、ちょっとだけ苦笑してしまいます…!
それにソロさんもそんなアリさんを見て苦笑いを漏らしていますし、同じ気持ちなんでしょうね。
それはともかくとして、私的には特に問題もないですし、そのお誘いは受けることにしますか。私から見ても実力者であるアリさんとの模擬戦はいい経験になりますし、今すぐにやらなくてはいけない予定もないですからね!
「いいですよ!では、前と同じところで、ですか?」
「そうだな!んじゃ、行くぞ!ソロも来いよ!」
「はいはい、わかったよ」
模擬戦をする場所について聞いてみると、思った通り前にもやったことのある場所と同じらしいので、私たちは早速とばかりに今いる図書館から歩いてそちらに向かいます。
さて、アリさんとの模擬戦はかなり久しぶりですけど、今の実力でどこまでも喰らいつけるでしょうか…?前よりも私は成長しているとは思うので、あの時のように一瞬でやられることはないでしょうけど、少しだけ心配してしまいます…!
「んし、準備はいいか?」
そんな思考をしながらも歩き続け、前にも来たことのある白色の無数の本棚に囲まれた場所へと着いた私はアリさんからそのように声をかけられました。
相変わらずここの空間は広々としているので模擬戦にはもってこいですし、本当にちょうどいい場所ですよね!っと、それは置いといて、今はアリさんに返事をしないとですね!私も準備は完了しているので、問題ないと答えなくては…!
ちなみに、先程までは空気だったクリアとセレネについては、一旦ソロさんに預けていますよ!二人がいては模擬戦が出来ませんからね。
「問題ありません!」
「んじゃ、ソロ!開始の合図は頼むな!」
「わかったよ」
よーし、武器などの装備も全て準備万端ですし、アリさんの相手を出来るように張り切っていきますよ!流石に勝つことは難しいとは思いますが、前よりも喰らいつけるように頑張りましょうか!
「では……始め!」
「〈第一の時〉!」
ソロさんによる開始の合図が聞こえたのと同時に、私は最初から本気で行くために普段から愛用して使っている動きを加速させる武技を自身へと使用し、加速効果を与えます。
これは前にもアリさんに見せていますが、だからといって阻止出来るものでもないため、これは常に維持するように使いますか!加速効果がなくては、アリさんへの有効打を与えるのは厳しいと思えますしね!
「全力でいきますよ!」
「はは、いいねぇ!さあ、こい!」
私はアリさんへと声をかけた後、加速した動きのまま〈飛翔する翼〉を織り交ぜつつアリさんの周囲を飛び交い、両手に持つ双銃から連続して弾丸を放ちます。
アリさんの実力はかなりのものとは把握しているのでこれが有効打になるとは思ってませんけど、まずは様子見ですからね。今の加速した状態による動きもあれば、わずかとはいえアリさんの動きを見れるとは思いますし、どう動くか…!
「こんなもの、効かないぜ!」
「…まさか、そのように対応されるとは思わなかったですよ…!」
なんとアリさんは、自身の腰元から抜いた二本の短剣をその場で高速で振るい、次から次へと飛んでくる無数の弾丸を全て切り捨てたのです!
間違いなく対応はされると予想はしてましたけど、流石にその場から一歩も動かずに四方から飛んでくる弾丸を捌かれるとは思わなかったですよ…!?やはりそれだけの実力があるということなのでしょうけど、これはかなり手強い相手ですね…!
「それじゃ、今度はあたしからも行かせてもらうぜ!」
「…っ、来ますか!」
四方から飛んでくる弾丸を全て切り捨てたアリさんは、今度は自分から攻めてくるようでそのように声に出してこちらへの近づいてきます。
アリさんはこれまでに見た限りではスピードタイプであるため、ここからは単なる的として攻撃を放つのは難しそうですね?まあそれでも攻撃は当てれてなかったので別にいいですけど、アリさんからの攻撃に対応するために私も動かないとですね!なら、まずはあの武技を使いますか!
私は瞬時にそう決め、それに対応するために一つの武技を使用します。その武技とは、分身を生み出す効果のある〈第七の時〉です。この武技も私はよく使っており、とても信頼が出来るもののため、ここで使わせてもらいますよ…!
「「さあ、ここからは二人でお相手しますよ!」」
「くく、いいねぇ!さあ、行くぞ!」
私はそばに生まれた分身と共に、アリさんから一定の距離を保ちながら合計四丁の銃による攻撃を放ちますが、それらをアリさんは両手に持つ短剣で切り捨て、弾き、逸らし、あるいは身体をズラすことによってわずかに傷がつくくらいで捌きながらドンドンこちらへと迫ってきます。
むぅ、やはりそう簡単にダメージを与えるのは難しいみたいですね…!分身とともに放っているのですけど、ほとんどの攻撃は捌かれていて決定的には欠けてしまっています…!
〈第一の時〉によって加速した動きもあって現段階ではなんとか距離はとれていますけど、このままではジリ貧ですね。…なら、ここはさらなる武技を使用することで対応しましょうか…!アリさん自身も一切傷を負っていないわけではないので、攻撃は通るみたいですからね!
「「ここからはさらに加速していきますよ!〈第五の時〉、そして〈第零・第十一の時〉!」」
「む、さらに速くなるのか!」
私はさらなる加速効果を与えるべく、分身と共に〈第五の時〉で強化させた加速効果持ちの武技を自身へと撃ち込み、続けて〈第六の時〉も同時に使用することで加速効果の効果時間を引き伸ばします。
通常だと〈第零・第十一の時〉は五秒しか持たないため、これなら少しの間は加速を維持し続けれますからね!
それにしても、〈第五の時〉も同時に使ったことによってMPが結構減ってしまったので、MPの残量には少しくらい意識しておかないとですね。私のMP総量はかなりなものなうえに自動回復もあるので大丈夫とは思いますが、意識しておくことは必要です。
なんにせよ、これらによっていつもよりもさらに速く動けますし、一気に攻めさせてもらいますよ!アリさん、覚悟…!




