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210話 依頼

「…そろそろ、別のことをしますか」


 そうしてサリアさんのお店から出た後、私は初期の街のすぐ外の草原にて【料理人】のレベル上げも兼ねて料理を続けていましたが、数時間近く料理を続けていては流石に疲れますし、飽きもします。


 それにクリアとセレネもお腹がいっぱいらしく、すでに食べることはしていないため、今は出来上がった料理たちのほとんどがインベントリへと直行しています。


 うーむ、私の満腹度も満タンになってますし、作るのにも飽きてきてもいるので、この辺で料理は終わりにしますか。すでに時刻は三時なので、結構な時間調理をしていたとわかりますね。


「では、この後は久しぶりにナンテさんのところにでも顔を出しにいきますか」


 最近は会いに行ってなかったので、少しくらいは顔を見せたほうが良さそうですしね。私、一応暗殺者ギルドには属しているのですけど、全然そこの依頼などは受けてなかったですし、たまには寄って依頼を受けたほうがよかったですね?


 まあ今更後悔しても意味がないですし、これからはもう少し暗殺者ギルドに寄るようにしますか。ということで、早速迷宮都市にあるナンテさんの家へと向かいましょう!依頼を受ける受けないはともかくとして、顔を出すくらいはしておかなくてはいけないですからね!


「目的も決まりましたし、クリア、セレネ、いきますよ!」

「……!」

「キュッ!」


 わかった!とでもいうように反応を返してくれた二人を定位置である肩と首元へと乗せた私は、早速とばかりに今いる場所から初期の街の広場へと向かい、そこから転移で迷宮都市まで向かいます。


 最近は迷宮都市を歩くことは少なかったですけど、こうして改めて周囲に意識を向けると、住人だけではなくたくさんのプレイヤーもいるのがわかります。


 やはり、第三陣が来るまでにクランを作っておこうとしている人が多いのでしょうか?私は今の所作る気はないですけど、クランのメリットを兄様から聞きましたし、プレイヤーはその準備に取り掛かっているのでしょうね。


「まあ、私には関係ないですが」


 そんなことを呟きつつも迷宮都市を歩き続け、数十分が経過した頃にやっとナンテさんの家の前に到着しました。


 さて、ナンテさんは家にいるでしょうか?別にこれといった用事があるわけではないのでいなくても別にいいのですが、いないのはそれはそれで困りますけど…


「ナンテさーん!」


 そのような思考を巡らせつつも家の扉をノックしてナンテさんを呼んでみますが、返事が聞こえることも物音がすることもありません。


 うーむ、この状況的に今は留守のようですね?急ぎの要件があるわけではないですけど、いないのならば仕方ありませんね。なら、また今度改めてナンテさんに会うために来ることにしますか。


「おや、レアじゃないか?」


 そう考えてこの場を去ろうとした私でしたが、そんな私の背後から聞き覚えのある声がかけられたのでそちらへと振り返ると、そこには私が会いにきた人物である黒髪の女性、ナンテさんが立っていました。


 …この様子を見るに、どこかに出かけていて帰ってきたら私が家の前にいた、という感じですかね?まあ何はともあれ、ナンテさんと会うことが出来ましたし、このままお話と洒落込みますか!


「ナンテさん、どこかに出かけていたのですね!」

「まあね。とりあえず立ち話もなんだし、家においで?」

「はい!それではお邪魔させてもらいますね!」


 ナンテさんもそう言ってますし、玄関で話してないでナンテさんの家の中にお邪魔させてもらいますか…!


 何回か入らせてもらってますが、やはり人のお家に誘われるのは少しだけ緊張してしまいます。まあナンテさんから誘ってくれたのです。それなら、遠慮はしてしまいますがお邪魔することにしますよ…!


「そういえばレア。随分とスレート王国で活躍したみたいだねぇ?」


 そしてナンテさんの案内のまま家の中へ招かれた私は、そのまま前にも入ったことのある応接室へとナンテさんと一緒に入り、そこに置いてあったソファに座るのと同時にそのように声をかけられました。


 スレート王国……つまり、私がこの前クオンたちと行った雪原都市ノースが属している国ですね。何故かナンテさんはあそこでの出来事を知っているみたいですけど、おそらく私が暗殺者ギルドを通して解決をしたため、副マスターであるナンテさんにも情報がいっていたのだとわかります。


「協力してくれた人たちが結構いましたし、私だけのおかげではないですけどね」

「それでも、さ。全く、レアの実力は大した物だよ」


 ナンテさんは優しげな表情でそう言ってますが、私的にはまだまだだと感じるのですけどね。確かに、ワールドモンスターの一角をすでに倒せるくらいには成長出来てますけど、それでも一人ではまだ厳しいのです。


 まあワールドモンスターは一人で相手をするモンスターではないのでしょうけど、それでも私の実力はまだまだだと感じるのですよ…!…だとしても、ナンテさんからの褒め言葉は素直に受け取らせてもらいますが。褒められるのは、普通に嬉しいので!


「まあ世間話はこのくらいにして、今日はなんの用で来たのかい?」


 おっと、邪命教についての話題はこれで終わりのようですね。そして、なんの用でここに来たかを聞かれましたが、特に理由があるわけではないのですよね。とりあえず、素直にそれを伝えちゃいますか。


「いえ、特に用があって来たわけではないのですよ。ただ、私も暗殺者ギルドのメンバーなんですし、たまには顔を見せておくべきかと思って寄らせてもらいました」

「なるほど、確かに暗殺者ギルドのメンバーとしてはあまり活躍はしてなかったね」


 ナンテさんも私の言葉を聞いて納得しているようで、そう声に出しながら頷いています。な、なんだかすみません…


 ナンテさんからの誘いで弟子になったのにも関わらず、ここまでほったからしにしてしまえばちょっぴり罪悪感を感じてしまいます…!しかも、忙しくてこれなかった、というわけでもないですし、これからは定期的に寄りに行くことにしないとですね…!


「そこまで申し訳なさそうにしなくてもいいぞ?別に、レアにしか頼めない依頼もないしね」

「…そう言ってくれると、助かります…!」


 当たり前ではありますが、私だけにしか出来ない依頼がないから良いみたいですけど、これからはもう少し暗殺者ギルドとしての仕事を受けるようにしないとですね…!


「そうは言っても、ちょうどレアがやってきたから頼みたい依頼はあるんだけどね」

「あ、そうなのですか?」


 ナンテさんはそう言ってますし、本当にタイミングがいいですね?別に狙ってこの時に来た、というわけではないのにここまで偶然が重なれば、やはり不思議に思ってしまいます。…まあ、どうせ私が常に付けている懐中時計のせいだとはわかりますが。悪いことではないのでいいですけど。


「で、その依頼だが…」


 そんな思考をしているとナンテさんがその依頼について話し出したので、私は気を取り直してしっかりと聞く姿勢に移ります。さて、ちょうど私が来たから頼みたい依頼ということですが、一体どんな依頼なのでしょうかね?


「実は明後日あたりに迷宮都市の城でダンスパーティがあってね。それの護衛をイザベラから頼まれていたのさ」


 ふむ、ダンスパーティですか。そしてそれの護衛、と。つまり、その依頼とはそのダンスパーティの時にイザベラさんを守るもののようですね?


 護衛ということですけど、私なんかにそれが務められるのでしょうか…?ナンテさんは私へとその依頼を頼みたいようですけど、私は前に護衛任務は一度だけ経験しているとはいえ、そんな大事そうなものを私が引き受けても大丈夫なのですかね…?


「…その依頼、私が受けても大丈夫なのですか?」

「ああ、レアなら腕前は確かだし、信頼出来るからね」


 むむ、そこまで言われるのなら、是非とも任せてもらいますか…!ちょっぴり心配はしてしまいますけど、流石にダンスパーティの護衛の任務のようですし、そこまで大変な何かは起こらない、ですよね…?まあもし何かがあっても、依頼を引き受けるんですしきちんと守らせてもらいますけどね!


 というか、イザベラさんは貴族たちがメインであろうダンスパーティの護衛に暗殺者ギルドのメンバーを連れて行くなんて、それほどまでに私たちのことを信頼してくれているようですね。なら、その期待は裏切らないようにしなくては…!


「ああ、そうそう。その依頼を引き受けるにあたって、レアにはこれを着てもらうよ」

「これは……メイド服、ですか?」


 依頼を受けることにした私に向けて、ナンテさんはそう言いながら収納の指輪から何やら洋服を取り出したのですが、取り出されたそれの見た目は私が口にした通り、黒色と白色で構成されているドレスのような、いわゆるメイド服の見た目をしていたのです。しかも、それと一緒に真っ白な仮面も私へと差し出してきてますが、依頼をする時はこれらを着ろ、ということですかね?


 依頼ではこれを着てもらうとも言ってますし、流石に暗殺者として混じるわけではなくメイドに扮して参加するということですか。


 まあ当然ではありますね。普通に考えて、暗殺者がそのまま参加してしまえば何が起きるかわかったものではないうえ、せっかくのダンスパーティが台無しにもなる可能性もありますしね。


「ほれ、受け取りな」

「わ、はい。とりあえず、明後日の予定でいいんですよね?」


 私はこちらへと渡してきたメイド服と仮面を受け取ってインベントリに仕舞いながらそう聞いてみると、ナンテさんは頷きながらそれに答えてくれました。


「ああ。開始時刻はおよそ午後の八時くらいからだから、それの少し前にはここに来ておくれ」

「わかりました!」


 ダンスパーティの開始時刻は結構遅めの八時なのですね?なら、ご飯などもその前には済ませるために早めにしておく必要がありますね。まあすぐにダンスパーティが始まるわけでもないですし、とりあえず頭の隅にでも置いておくことにして、今は気にしなくて良さそうです。


「ひとまずはこれでよしとして、レア。あんたこの後の時間はあるかい?」

「予定は特に入ってないので大丈夫ですけど、何かあるのですか?」


 おそらく、ダンスパーティの護衛以外の依頼も頼みたいのだとは思いますけど、それは違う可能性もありますし、一体なんでしょうか?今の時刻はまだ四時の少し前くらいなので時間に余裕はありますし、もし依頼だとしても大丈夫ではありますが…


「よければもう一つ依頼を頼みたいのだが、いいかい?」

「私は大丈夫ですけど、その依頼とは…?」

「おっと、説明がまだだったね。レアに頼みたい依頼とは、この国の貴族の一人の暗殺依頼なのさ」


 ふむ、ついに暗殺系の依頼ですか…!私がこれまでに依頼でしてきたのは悪事を暴くことや護衛系でしたし、人を暗殺するというのはこれが初めてです。そのため、暗殺をするために動くのはちょっとだけ緊張してしまいます…!


 しかもその相手というのが貴族の一人のようですし、緊張してしまうのも無理はありませんよね?まあこんな依頼が出されるということは。その人も悪事を働いているとわかるので躊躇いはしませんが。


「で、受けてくれるかい?」

「…そうですね、では、是非とも受けさせてもらいます…!」

「そうかい。ありがとね、レア」


 よーし、その依頼も受けることにしましたし、これは気合を入れて取り掛からないとですね!暗殺対象は貴族の一人のようですし、当然護衛もいると予測出来るので、それらにもバレないよう行動しなくては…!


 あ、それと、ナンテさんからその貴族についてとその人がいる場所を聞いておかないとですね。流石にそれらを聞いておかないと、依頼を達成することも出来ないので。情報は大事ですからね。

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