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209話 包丁

「…よし、では午後からは何をしましょうか…」


 あれからお昼ご飯を食べ終えた私は出かける準備を済ませてから買い物に向かい、買い物を終えて帰ってきた後は再びゲーム世界へとログインしてきました。


 今の時刻は十二時を少し超えるくらいであるため、ゲームをしていられる時間は十分にありますし、何をするかは悩んでしまいます。うーむ、先にやっておかないといけないことはないですけど、やりたいことはたくさんあるので悩みますが…


「…そうですね、今の時間は最近はしてなかった【料理人】スキルのレベル上げも兼ねてクリアとセレネに料理を作ることにしますか!」


 最近は戦闘系スキルのレベルしか上がってなかったですし、こうした機会でなくては【料理人】スキルのレベル上げを出来ませんからね。それに、今までに溜め込んできた食材は大量にありますし、ここでそれらを使わせてもらうことにします!


 ということで、まずは装備をシスター服からいつものゴスロリへと変えて、その後はクリアとセレネを呼ばないとですね。そして作る場所は人が少ないところの方が落ち着けるのでいいですし、人気の少ない裏路地に移動してから調理セットを取り出しますか。


「うーん、相変わらずこのセットはしょぼいですねぇ…?」

「……?」

「キュッ?」


 そう決めて港町ルーイの裏路地へと向かった私は、裏路地にて取り出して調理セットを見ながらそう呟きます。まあ前にも思った通り、別にこれがダメというわけではないのでいいですけど、やはり見た目がしょぼいのが気になってしまいます。


 調理に使う道具は十分に揃っているので出来ないことはあまりないですが、それでも、ね…?まあそれはいいとして、早速調理に取り掛かりますか。料理に使う食材たちは売り払ったりもしてなかったので文字通り腐るほどありますし、最初は何から作りましょうか…


「…よし、では前に手に入れていた魚で塩焼きや味噌煮でも作りますか!」


 確かクリアとセレネは魚を食べたことがなかったはずですし、作るものはこれで決まりですね!他にもお肉や野菜、果物等色々とありますし、魚料理を作った後にでもそれらもこの機会に使いましょう!




 バキッ!


「あ!」


 それからも魚料理やサラダ、デザートとして果物を切ったものや〈冷却〉で冷やしたコンポート、そして待ちに待った肉料理であるステーキを作るため、包丁でエリアボスであった〈ドレイク〉のドロップアイテムであるお肉を切っていると、そのような音と共に手に持っていた包丁が真っ二つに折れてしまいました。


 ま、まさか包丁が折れるとは思いませんでした…!?しかもこのお肉、多少表面が切れているだけでしっかりと切断出来ていないので、これまでに使っていた包丁では刃が通らないのでしょうか…?


 うーむ、包丁も真っ二つに折れてポリゴンとなって消えてしまいましたし、新しく用意しないといけませんね…?これまでに使っていた包丁は最初から内包されていたものだったので、ここがその包丁の限界だったようです。


 なら、新しく買って用意しておかないとですね。そのため包丁を揃えたいですけど、どこに売ってますかね?あ、それならムニルさんに聞いてみますか!あの人はトップの料理人ですし、包丁についてもおそらくは知っていますよね?ということで、今もログインしているようですし、早速聞いてみますか!




「ムニルさん、来ましたよ!」

「お、来たか」


 その後は手早く調理セットを片付けながらムニルさんへとメッセージを送った私でしたが、ムニルさんに調理道具の包丁について聞いてみたいと伝えると、何やらムニルさんはそれを売っている人のところまで案内してくれるそうで、今は初期の街にあるムニルさんのお店にクリアとセレネを連れながら来たのです。


「それで、包丁を売っている人のところに案内してくれるのですよね?」

「ああ、ちょうど俺も新調しようと考えていたからちょうどよかったからな」


 ふむふむ、やはり【料理】スキルをメインに育てているだけはあり、定期的に包丁などの道具を買っているのですね。まあ当然ですか。私たちのような戦闘を主にするプレイヤーが武器を買うようなものと同じだと思いますし、生産プレイヤーも私たちとは変わらないのでしょう。


「んじゃ、案内するな」

「はい、お願いします!」

「……!」

「キュゥ!」


 そしてムニルさんの案内に従うように、私はクリアとセレネを連れながら後ろについていきます。


 トップの料理人であるムニルさんが買い揃えている道具でもあるみたいですし、もしかしたら値段もそれ相応の物の可能性はありますが……まあお金は十分にあるので大丈夫ですよね。


 それにムニルさんが愛用している物でもあるみたいなので、性能に関しても信頼出来るとは思えますし、値段が高くてもそれだけの価値はあるはずです!


「そういや、レア。レアはどんな包丁が欲しいんだ?」

「どんな包丁、ですか?」

「ああ、刺身包丁に出刃包丁、筋引包丁や三徳包丁など種類があるからな」


 うーむ、色々と言われましたけど、私的には種類を問わず使える三徳包丁が一番いいでしょうか?ムニルさんとは違って私は料理を専門としているわけではないですし、それぞれ使用する包丁が変わるよりは同じ物でささっと使える方がいいように思えますし。


 ムニルさんのような料理を主にしている人なら種類は大いに越したことはないとは思いますが、私は個人的に使うだけなのでそこまでたくさん買う必要もないですよね。なので、そう答えますか。


「私は三徳包丁にしようと思います」

「あれか。確かにアレなら大抵のものは切れるもんな」


 種類が多いのが悪いわけではないですけど、それを使いこなすことは私には出来ませんし、これが一番ベストなはずです!ムニルさんも私の言葉に頷いていますし、ムニルさんから見てもそれが合っていると感じているようですね。


「っと、着いたぞ。ここだ」

「ここは……お店、なのですか…?」

「……?」

「キュゥ?」


 そのような会話をしながら歩き続けているといつのまにか目的地のお店に着いたらしく、ムニルさんはそう口にしながら一つのお店の前で足を止めました。


 そのお店の外観は、なんだか年季のある古びた一軒家、と言った見た目をしており、少しだけ心配になってしまいます。私のそばにいるクリアとセレネも同じ意見のようですし、そう思ってしまうのも仕方ないくらいフライ見た目なのですよけ。しかし、ムニルさんはそんな私たちを気にせずにお店の中へと入っていくので、私も二人を連れて慌てて後に続きます。


 中に入るとわかりましたが、そのお店の中は外観から感じた古びたイメージとは違って意外にもしっかりと手入れのされた内装となっており、思ったよりも雰囲気が悪くはないようですね?


 それにお店の至る所にたくさんの包丁や鍋、まな板にフライパンなどの多種多様な料理道具が置かれているので、ここはどうや料理系の道具を専門に扱っているお店のようでした。


 これなら、私が欲している包丁に関してもとても期待が出来そうですね…!明らかにただのお店には見えませんし、ムニルさんがここに来るわけです!このお店は大通りから外れた場所にあるうえに外観からはお店には見えないため、ムニルさんの案内がなければ来ることはなかったでしょう。


「いらっしゃい、ムニル。今日は連れがいるのかい?」


 そんな思考を巡らせつつもお店の中を見渡していた私でしたが、ふとムニルさんと私に向けて声がかけられたのでそちらに視線を向けると、そこにはカウンターの奥に一人のお婆さまが座っていました。


 多分、あの人がこのお店の店主なのでしょうね?つまり、これらの道具を作るか仕入れている人物、ということですね。


「ああ、そうだ。こいつはレアといって、俺の友人だ」

「初めまして、レアと申します!この二人はクリアとセレネといって、私のテイムモンスターです!」

「……!」

「キュッ!」

「これはご丁寧にどうも。あたしはサリアって言うんだ。よろしくね、お嬢ちゃん方?」


 私はムニルさんの言葉に続くようにそう自己紹介をすると、店主らしきお婆さま、サリアさんはそのように言葉を返してきました。サリアさんは私の肩と首元にいるクリアとセレネにも視線を移しながら言葉にしてくれたので、この人は優しい人みたいで少しだけほっこりしてしまいます!


「それで、今日はなんのようで来たのかい?」

「実は、そろそろ新しい包丁に変えようと思ってな。それと、レアも包丁が欲しいらしく、連れてきたんだ」

「ふむ、新しい包丁ね。種類は何がいいんだい?」

「俺はいつもので、レアは三徳包丁だ。あるか?」

「もちろんあるさ。今取ってくるから、待ってておくれ」


 ムニルさんと言葉を交わしたサリアさんはそう言ってカウンターの奥へと行ってしまったので、私たちは一旦ここで待つことにします。


 それにしても、ムニルさんはいつのもと言ってましたし、結構ここに通っているのかもしれませんね?なんというか、常連による言葉みたいでカッコよくみえます…!


「待たせたね、これがムニルの分さ。そっちのお嬢ちゃんの分は、これでよかったかい?」


 そんなことを考えながらもムニルさんと共に待っていると、サリアさんが二つの包丁を持ってこちらへと戻ってきました。


 ムニルさんの包丁は、いわゆる牛刀と呼ばれるような長く細い刃が特徴の物であり、対して私の頼んだ三徳包丁は、日本の家庭で最も普及している万能包丁であるため、見慣れた見た目をしていました。それにどちらも


 一応鑑定もしてみましたが、思った通りなかなかの性能をしているようなので、これはとてもよい包丁なのがわかりますね!


「とてもいい包丁ですね!」

「くく、そう言ってくれると嬉しくなるよ。値段は50,000Gと相応の値段だけど、大丈夫かい?」


 むむ、やはり性能が桁違いにいいせいか結構なお値段ですね…!しかし、私はかなりのお金を溜め込んでいますし、このくらいなら全然余裕です!なので、代金はしっかりと払って買わせてもらいますか!


「大丈夫です!はい、これが代金です!」

「…ちょうどだね。よし、これでこの包丁はあんたのものさ」


 よーし、代金もキチンと払って包丁を買うことが出来ましたし、これであの固かったお肉なども切ることが出来るでしょう!これまでの包丁とは比べ物にならない性能をしているので、しばらくはこの包丁が使えなくなることはないですよね?


「んじゃ、俺はこの辺で戻るけど、レアはどうする?」


 私は嬉しさを表すかのようにニコニコとした笑みを浮かべながら包丁をいそいそとインベントリに仕舞っていると、いつのまにか自分の会計を済ませていたムニルさんからそのように問いかけられました。


 どうするか、と聞かれましたが、どうしましょうか?ムニルさんにメッセージを送る前は【料理人】スキルのレベル上げのために料理をしてましたし、この後もそれをしましょうかね?


 包丁も新調しましたし、これ試したい気分もあるのでそうしますか!クリアとセレネにも色々な料理を与えたい気持ちもあるので、それで決まりですね!


「そうですね、私は【料理人】スキルのレベル上げも兼ねて料理をしようと思います!」

「そうか。俺は店に戻っているから、また何かあれば呼んでくれ」

「はい!その時はお願いします!」


 それじゃ、と言ってムニルさんはサリアさんのお店から出て行ったので、私もさっさといきますか!いつまでもここにいては邪魔になりますし、新しい包丁を試したくてうずうずもしているので!では、行きますよ、二人とも!

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