表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/232

194話 温泉

「…っ、と」


 その記憶を最後に、私の意識は元の世界へと戻ってきました。ふむ、この本には私たちが戦った悪魔とそれに力を入れて渡していたであろう眷属と呼ばれる人の記憶だったようですね。


 しかも、その眷属の記憶を見るに、悪魔が今の状態に変わった原因は邪神のせいだったみたいです。邪神の魔力に染められたことによって変わったらしいですし、道理でアルマさんのような人は悪に染まっていないわけです。


 悪魔に関しての情報を知れるとは思いませんでしたが、これは運がいいですね。悪魔の性質が変わった原因も把握出来ましたし、これは結構重要なことなので心に留めておきますか。


 そしてそんな悪魔に力を渡していた眷属の人ですけど、その人の行方は流石にわからないのでこちらは放置するしかないですね。まあ見つけることが出来たら倒すために動きますけど、今のところは行方がわからないのでそれも難しいでしょう。


「ひとまず、これで確認は終わりですね」


 やろうと思っていた本の記憶を読み取るのも済みましたし、これでやらなくてはいけないことは終わりました。今の時刻はまだそこまで経っておらず、まだ八時くらいです。そのため、まだルルアさんのところに行くには早いのですよね…


「…なら、この時間はこの街の散策でもしてみますかね?」


 街中を何度か歩きはしましたが、それは全部目的地に向かうためだったのであまり詳しくはありません。なので、このタイミングを逃さずに街中を練り歩くのも悪くはなさそうです。


 それに、ルルアさんのところに行くのはお昼前くらいが良さそうと思うので時間にも余裕がありますし、それが良さそうですかね…!よし、では行くとしましょうか!


「んお?お前、来てたんだな」


 そう決めた私は早速動き出そうとすると、そのタイミングでふと私に対して声をかけられたのでそちらに視線を向けると、そこには昨日も出会った暗殺者ギルドのメンバーである鬼人の男性がこちらへ歩いてきているところでした。


 さっきまではいなかったですけど、私が記憶を読み取っている間にこちらまで来ていたのですか。…そういえば、この男性の名前は聞いてませんでしたね?別に聞かないといけないことでもないですし、今は一旦置いておきますか。


「昨日の内にアルマから聞いたが、あの組織を潰すのが出来たらしいな?」

「あ、もう知っていましたか。そうなんですよ、皆の協力もあって無事に解決出来ました!」


 すでにアルマさんから聞いていたみたいですが、あの組織は無事に潰すことが出来たので本当に解決出来てよかったです…!それにアルマさんは仇であった悪魔も倒せていますし、私なんかよりもとても嬉しいのでしょう…!


 それにしても、アルマさんはすでにここに報告をしていたのですね。私はすぐにログアウトをしてしまったのでしてませんでしたけど、報告は大事でした…!


「この街に住む者として、俺からも感謝をさせてもらうな。本当にありがとな!」

「ふふ、このくらいはへっちゃらですよ!まあ感謝は素直に受け取らせてもらいますがね!」


 この男性からも感謝をされましたが、ここまで言われると少しだけ恥ずかしくなってしまいますね…!この街に住んでいるこの男性にとってはそれほどまでにありがたいのでしょうけど、そこまで感謝をされるほどではありませんよ…!


「んで、お前さんはこの後はどうするんだ?」

「そうですね、ちょっとだけこの街の散策でもしてみようかと思ってました」


 この街はまだ詳しくはないですし、ルルアさんのところに行くには時間が早くもあるので、今の時間は散策をしようと思っているのですよね。


 それに、新しい街に来たのなら見て回るのは大切でもあるので、この機会がちょうどよくもありますしね!


「そうか。なら、このお店に寄ってみるといいぞ。俺のオススメだ」


 そう言って私のマップに一つの目印をつけてくれた男性ですけど、そのお店とは何のお店なのでしょうか?オススメということなので変なお店ではないと思いますけど、少しだけ心配になってしまいますが…


 まあいけばわかりますか。わざわざオススメされたんですし、行かないという選択肢はありませんしね。


「では、早速そこに行ってみます!」

「おう、気をつけるんだぞ」


 よーし、まずはオススメされたところへ向かいながら、街を散策する感じでいきますか!これまでは街中をマジマジとは見てなかったですし、オススメされたもの以外にも何か面白いものを見つけられるといいですね!


 この街は雪国のようですし、それにちなんだものとかが多そうなので少しだけワクワクしてしまいます…!では、こんなところで喋ってないでそろそろ向かいますか!




「…ここが、あの人が言っていたオススメ、ですかね…?」


 あれから街を練り歩き出した私でしたが、この街では特産品らしき雪や氷をイメージしたアクセサリーや防寒具、様々な小道具を売っていたりするお店を見かけたくらいでそこまで特筆するものはありませんでした。あ、でも屋台には雪国らしい温かいシチューが売っていたので、それを買って食べたりはしましたが。


 そして今は、マップに記されていた目的地を目指して歩いていたのですけど、いつのまにかその目的地の目の前に着いていたところです。


 暗殺者ギルドのメンバーであるあの男性からオススメされ、今も私の視界に映っているお店は、かなりの大きさをした宿のような見た目をしています。


 うーむ、これがオススメのお店、なのでしょうか…?どう見てもとても立派な旅館のように見えますけど…?しかも、このファンタジーな世界観にはあまり合わない日本らしい見た目の宿ですし、流石にちょっとだけ困惑してしまいます。


 …ここで突っ立って悩んでいても仕方ないですし、とりあえず中に入ってみますか。そうすればこのお店がどんなものなのはかわかるでしょうしね。


「おや、いらっしゃいませ、お嬢さん」


 そう考えて私は早速とばかりに扉を開いて中に入ると、入ってすぐに見えていた受付らしきところにいた一人のお姉さんからそのように声をかけられました。


 声をかけてきたそのお姉さんは淡い紫色に花柄の帯をした、いわゆる着物と呼べるものを着ており、やはり外見通り日本風のお店のようですね?しかし黒髪ではなく金色の髪をしているため、日本の着物を体験している外国人、といったように見えてしまいます。


 それに建物を見た時にも思った通り、洋風ファンタジーな世界観にも関わらず日本味を感じるため、少しだけ違和感を覚えてしまうのは仕方ないですよね…?


「お嬢さんは、どうしたのです?ここは旅館ですけど、お母さんかお父さんなどはいらっしゃらないのですか?」


 おっと、考え事をしているとお姉さんからそう問いかけられましたね。それとお姉さんは旅館と言ってますし、思った通りあっていたみたいです。


 加えて両親がそばにいないのを心配しているということは、どう考えても子供と思われていますね…?まあこの身長ですしそう思われるのも仕方ないですけど、少しだけムッとしてしまいます…!


 というか、私は異邦人なのでこの世界に親はいませんし、きちんと答えないとですね…!


「私は異邦人なので親はいません。それと、ここに来た理由はこの町の人にオススメされたからです」

「オススメですか……なら、アレですかね?」


 どうやらお姉さんはここをオススメされた理由について知っているようですけど、もしかしてこの街ではかなり有名なものなのでしょうか?それならばこの旅館をオススメされたのにも納得出来そうですが、いったい何があるのですかね…?


「アレとはなんですか?」

「ああ、お嬢さんは知りませんでしたか。実は、この旅館には雪景色を見ながら入れる温泉があるのですよ。それが有名であるため、それがオススメされたものだとは思います」


 おお、ここには温泉があるのですか…!確かに、それならあの人がオススメするだけはありますね…!私はこの世界では温泉などには入ったことがありませんし、これは入ってみたいですね…!しかも雪景色を見ながらとは、とても興味が惹かれてしまいます…!


 というか、お姉さんが言うにはこのお店は旅館らしいですし、温泉があるのには少しだけ驚きましたが納得は出来ますね!現実でも、旅館といったら広々としたお風呂と相場は決まっているので、この世界でもそれは同じなのかもしれません。


 なら、早い時間ではありますけど、是非とも入りたいので今は大丈夫か聞いてみますか…!もし断られても、また今度に来ればいいですしね!


「…よければ、私も入らせてもらってもいいですか!?」

「ふふ、大丈夫ですよ。ただ、宿泊者ではないのなら代金である100Gをいただくことになっているのですけど、お願い出来ますか?」


 おっと、流石に代金は必要ですよね。ですが、宿泊者なら代金はいらないということは、この旅館はかなり人気そうな旅館に見えますね?


 私たちのようなプレイヤーは宿系を使うことはほとんどありませんし、その恩恵を受けることは少なそうですけど、これなら宿に泊まるのも悪くはないかもしれませんね?


 っと、それはさておき代金を払っちゃいますか。代金もとても安いので問題ないですし、早く入りたいですしね!


「問題ありません!はい、これ代金です!」

「…はい、確かに頂戴しました。あちらが温泉に繋がっているので、気をつけてくださいね」


 よーし、これで温泉に行けますね!雪景色を見れながら入れるみたいですし、一体どんな感じの温泉なのか今からワクワクしてしまいます…!期待が高まりますし、早速向かいましょうか!いざ、雪の温泉へ!




「んむ?」


 そうして脱衣所まで向かった私でしたが、脱衣所に入った瞬間に先程まで着ていた赤いケープと黒色のワンピースが、突如バスタオルに変化しました。


 バスタオルはしっかりと身体に付いている感じなので、温泉に入るにはこの状態でないと入れないのでしょうか?まあこのゲームは全年齢向けのものなのでこれには納得出来ますが、いきなり変わると流石にビックリしちゃいますよ…


 それはさておき、服装もこれのおかげで脱ぐ必要もないみたいですし、さっさと温泉に入るとしますか。今の時間はやはりまだ早い時間だからか人はいませんし、その間にゆっくりと楽しむとしましょう…!


「おおー…!」


 そんなことを考えつつも脱衣所を進んでいき、扉を開けて流し場へと足を踏み入れた私でしたが、入るや否や目に入った光景に思わず声を漏らしてしまいます。


 何故なら、流し場は完全に屋外となっているようで、奥に湯船があるのは当然ですけど、その周りには岩や木などで飾られた広大な雪景色が広がっていたからです。しかも湯船に張られたお湯も透明ではなく白色をしているので、これは期待が出来ますね…!


「これは、とても良いものですね…!」


 雪景色を見ながら温泉に浸かれるとは言ってましたが、ここまで胸が高まるほどとは思いませんでした…!これなら、有名であるのと同時に人気なのも納得出来ますっ!初めて見た私ですらこうなのですから、この町の人にとってはとても自慢出来るものでしょうしね!


「とりあえず身体を洗いたいですけど、このバスタオルは剥がれないので軽く流すだけでいいでしょうか?」


 裸になれないせいで身体を洗うというのは出来ないですし、これは仕方ないですよね?


 ということなので、私は手始めに置いてあった桶で湯船からお湯を救って自身の身体を流した後、湯船へと向かって張られているお湯の中へと身体を浸けます。


「んー…気持ちいいですねぇ…」


 この世界で温泉に浸かるのは初めてですけど、やはりお風呂は気持ちよくていいですね…!


 現実でも温泉に行くことはあまりありませんでしたし、ここまで気持ちいいのなら行ってみるのも悪くはないかもしれません。


「ふふ、気持ちよさそうだね」

「…ん?」


 頬を緩ませながら湯船に浸かっていた私でしたが、ふと声をかけられたのでそちらに視線を向けると、そこには上品な雰囲気を醸し出しているスタイル抜群のエルフである女性が湯船に浸かっていました。


 お、温泉に意識が向いていて気がつきませんでした…!見たところこの人は貴族のようなイメージを感じますけど、ここにいるということは違うのでしょうか…?っと、それはさておき、声をかけられたのですから返事をしないとですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ