193話 コアと本
「…とりあえず、これで終わりか?」
「…みたいだな。ふぅ、疲れたー!」
「お二人ともお疲れ様です。アルマさんとルルアさんも、協力ありがとうございました」
「ふふ、このくらいは大丈夫ですよ」
「私もアルマと同じだ」
ポリゴンとなっていくドラゴンをチラリと確認しつつも、私たちは長かった戦闘がやっと終わったことでそう声に出しながら一息つきます。
クオンとヴァンさん、そしてアルマさんとルルアさんの四人がいたおかげで私たちは特に被害はなかったですけど、前衛であった皆さんは少なくない疲れは残っていないみたいです。まあ当然ですね。
中距離で攻撃をしていた私や、後方から攻撃をしていたメアさんとライトさんとは精神的な疲れはどう考えても違いますし、結構な疲れがあるのは当たり前ですしね。
「よし、これでこの街で蔓延っていた邪命教の脅威は去ったと見て良さそうだな」
「ですね。…しかし、このお屋敷の生き残りはいないのでしょうか?」
アルマさんも言ってますが、コアを撃ち抜いても出てこなかったですし、鑑定では身体の中に残っていると思しき説明が書いてありましたが、すでに取り込まれてしまっていたのですかね…?
うーむ、ドラゴンからは特にドロップアイテムもないうえに倒しても出てこなかったので、残念ではありますがすでに亡くなってしまったということなのかもしれませんね…?
「…ん?ねえ、レアちゃん。何かあそこに落ちてない?」
「え、どこですか?」
「あそこあそこ」
私がそう悲しんでしまっていると、ふといつのまにかに近くまで来ていたメアさんからそのように声をかけられました。
何だろうかと不思議に思いつつも、私はメアさんに示されて場所へと視線を向けると、そこには何やら黒色をした丸い形の水晶玉らしきものが落ちていました。
これは、なんでしょうか…?見たところただの水晶玉には見えませんけど……ドラゴンのいた場所に落ちていたものですし、ドラゴンのドロップアイテムですかね…?まあとにかく、鑑定をしてみますか。それを使えばこれの正体もわかるでしょうしね。
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生命のコア ランク S レア度 固有品
カオスドラゴンの体内に残っていた生命を司るコア。これに魔力を流して使用すれば取り込まれていた生命体が出てくるだろう。使用すると、このコアは消滅する。
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おお、このコアが取り込まれていた人たちを元に戻すためのアイテムだったのですね…!なるほど、これがあるならすでに亡くなってしまったと思った人たちは戻せる、と…!
なら、早速使うとしますか!すでに悪さをしていた人たちは退治しましたし、今この場にはルルアさんもいるのでその人たちのことを任せることも出来ますしね!
「ルルアさん、これを使えばおそらくドラゴンに取り込まれていたこのお屋敷の人たちが出てくるので、その方たちを頼んでもいいですか?」
「ふむ、了解した。任せておけ」
よし、ルルアさんも良いみたいですし、ここで使わせてもらいますか!取り込まれていた生命体が出てくると書いてありましたし、出てくる人たちに怪我がないといいのですけど…
そう少しだけ不安になりつつも、私は早速とばかりに手に取っているコアに魔力を流してみます。すると、コアから白色の光が溢れてきたと思った次の瞬間、いきなり私の正面の空いていた空間に複数の人たちが出てきました。
「っ、ここは…?」
「身体が動くぞ!?」
「エリナ様のお屋敷、ですかね?」
突如出てきた人たちは各々の言葉を呟きつつも周りを確認していますが、見たところ怪我などは特にないみたいですね。それに人数も思ったよりも多いようで、およそ十人近くはいます。
ここまでの人数がドラゴンのコアに取り込まれていたということは、それだけあの悪魔がやばかったのですね……まあその悪魔はすでにやられていますし、気にしなくても良さそうですが。
っと、それはさておきこの人たちに今の状況を伝えるとしますか。いきなり戻ったせいで混乱しているようですし、そのままで放置しとくのはアレですしね。
「…なるほど、貴方方があの悪魔を倒してくれたというわけですか」
「お嬢さん方、すまないな!」
「いえ、私たちもあの悪魔を倒すために動いていただけですから、大丈夫ですよ」
そうして説明をしっかりと済ませた私は、そのように反応を返してきた人たちに向けてそう言葉を続けます。
私たちはこの街に来る時に出会った闇に染まったモンスターを見つけてから、こうしてそれを行っていた組織を潰しに動きました。…しかし、最初に見た時はここまで深い問題だとは思いませんでしたけど。
そのうえ悪魔を狙っていたアルマさん、組織を問題視していたルルアさんなどの協力もあって無事に解決出来ましたし、この人たちを助けられたのだって運がよかっただけでもありますしね。
「…失礼、エリナ様はご無事なのでしょうか?」
「ああ、あいつは私の部下に連れさせて屋敷で寝かせているが、おそらくは大丈夫なはずだ」
おっと、思考を巡らせている間に何やらエリナさんの話題になっていましたね。エリナさんは確かクオンがルルアさんの元へと連れていってましたが、その後はそうなっていたのですね。
私はその場面を見てなかったのでわかりませんでしたけど、どうやら無事らしいのでこちらも安心しました。エリナさんは悪魔に操られていたと思われるため少しだけ心配しましたが、今はもうその悪魔もいないので起きた時には元に戻っているはず……ですよね?
「…よし、ひとまずこれで全てが終わったと見て良さそうか?」
「あ、そうですね。原因である悪魔とドラゴンも倒しましたし、他の幹部も全て捕まえています。なら、これで解決したとみて間違いないと思います」
アルマさんの仇であった悪魔を問題なく倒し、それが生み出したドラゴンも倒しているのでこれで邪命教による悪事は解決したとみて良いはずです。
いやぁ、最初にその組織を潰すと思った時はここまでの話になるとは思いませんでしたが、何とか無事に解決出来たのでよかったですね!
「なら、これにて私は戻るとするな。それとレア、明日にでも再び屋敷へと来てくれないか?アルマも来て欲しいのだが、どうだ?」
「私は大丈夫ですよ。レアさんは?」
「私ですか?んー…特に予定もありませんし、私も多分大丈夫なはずです」
今回はたまたまクオンたちと一緒に行動をしただけなので、いつもの状態に戻るならこれといった用事もないので大丈夫でしょう。…というか、私を呼ぶということは悪魔に操られていたエリナさんや解決したと組織についてですかね?まあ行くのは問題ないですし、その時に聞けばいいですね。
「それでは、私たちは行くぞ。お前たちも、来てくれるか?」
「かしこまりました。では皆さん、改めて救出感謝します。後日お礼はさせていただくので、是非とも待っていてください」
「レアさん、また会いましょうね」
『ユニーククエスト【闇に蠢くは邪悪なる魔】をクリアしました』
そう言ってルルアさんとアルマさん、ドラゴンに取り込まれていた人たちは揃ってお屋敷へと向かい、それと同時にクエストクリアのメッセージが流れました。ふむふむ、この邪命教の問題はシークレットクエストだったようですね。これが流れるということは、きちんと解決したと見て良さそうです。
まあそれはさておき、今はこの後をどうするか、ですね。そう決めた私はルルアさんたちを見送った後、お屋敷の敷地から外に向かいつつ、この後をどうするかを話し合います。
「とりあえず、これで問題は解決したが……この後はどうする?」
「俺は、この街の付近で狩りでもしてこようかなと思ってたな」
「わたしは流石にログアウトかなぁ。時間もいい具合だしね!」
「僕もメアさんと同じですね。良い加減眠くなってきてますしね」
「私もログアウトをしようかと思ってます。いつもの寝る時間をだいぶ超えていますし、集中が切れたら眠くなってきたので」
今の時刻はすでに十時を超えており、いつもの寝る時間である九時を大幅に超えています。そのため、すごく眠いのです。それに問題も無事に解決したせいでドーパミンも切れていますし、そろそろログアウトしないと寝落ちしてしまいそうでもあるのですよね。
「なら、今日はこの辺で解散とするか」
「それがいいな。んじゃ、お疲れ様!」
「お疲れ様ー!」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、皆さん。また機会があれば一緒に狩「に行きましょうね!」
「おう。それじゃ、またな」
私たちはそう言葉を交わした後、いつのまにかお屋敷の敷地から出ていたようなので、そのタイミングですぐにメニューを開いてログアウトを選択します。今日はこれで終わりですけど、明日はルルアさんから個人的に呼ばれているので、それに向けて早く寝ておかないとですね!
そうして次の日である木曜日まで時間は進み、今は朝のやることを全て終わらせた後にゲーム世界へとログインしてきたところです。
「さて、今の時刻は七時半くらいですし、ルルアさんのところに行くのは早いですよね」
…なら、この時間は先にユニーククエストの報酬を確認することにしますか。実はクエストクリアと同時に報酬がインベントリへと送られていたようで、私のインベントリには一つのアイテムが入っていたのですよ。
その報酬であるアイテムとは、またもや何かが書かれているらしい本でした。…私がクリアするクエストの報酬は基本的に本系が多いのですけど、これは何故なのでしょうか?私のユニークスキルが関係していそうですけど……ここまで多いと少しだけ疑問が生じてしまいます。
まあそれはともかく、鑑定で見た情報はこんな感じでした。
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邪悪なる魔力の魔本 ランク S レア度 固有品
邪神の力の一端が秘められている魔法の本。その身に宿すことなかれ。
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どうやらこの本には悪魔も使っていた邪神の力が秘められているらしく、かなり危険なものだとわかります。しかも禍々しい魔力のようなものもひしひしと感じるため、明らかにただの本ではないと判断出来ますね。
うーむ、やはりこの本も私のユニークスキルで記憶を読み取るのが良いでしょうか?この本には何らかの記憶があるのかわかりませんけど、それを使えばある程度はわかるとは思いますが…
…よし、ここはきちんと使ってみますか!流石に記憶を読むだけで邪神の力に染められることもないとは思いますし、もし危険そうならその時点で抜ければいいですよね。
「…なら、ひとまず人気の少ないところで確認としますか」
今私がいる場所は貴族街らしき場所であるため、流石にここで行うわけにはいきません。そのため、ここよりも人気が少なくて一息つける場所でやるのが良いと思います。
なので、早速向かうとしますか!目指す場所は暗殺者ギルドで良いですよね。あそこなら人も少ないですし、そうそう来るものでもないのでそこを借りるのが良さそうでしょう!
「人は……一人もいませんね」
そうして暗殺者ギルドまで向かった私でしたが、中に入るや否やギルド内を見渡しましたが、人の気配も一切感じない寂しい空間となっていました。
ふむ、人の気配も一切しませんし、今は誰もいないようですね?それなら、ちょっとだけここを使わせてもらいますか。別に私が今からすることは暴れたりするわけでもないですし、いちいち許可を取らなくても大丈夫ですよね。
ということで、早速行動に移るとしましょうか!まずはインベントリから本を取り出して、それに向かってユニークスキルを、ですね。
「では、〈第四の時〉」
記憶を読み取る効果を持つ武技をインベントリから取り出した本へと放ち、それは見事に効果を発揮して私は本の記憶へと飲み込まれていきます。
「これが、我らが神の力だ」
「おお、これが…!」
私は目の前にいる悪魔、上位悪魔に対して我らが神の力を宿したコアを手渡した。このコアは実験の結果として生まれたものではあるのだが、これはその失敗結果のアイテムだ。
まあこいつにはそれがわからないだろうから問題視ないが、それで嬉しがっているのには嘲笑しか生まれない。
しかもこいつはこちらに従順な態度を見せているが、その裏では何を考えているかもわからない。まあ十中八九こちらを蹴落とすことしか頭にはないだろうな。
「この力があれば、我らが神のお力になれますぞ!」
「ふん、期待しているぞ」
そんな思考をしているうちに、悪魔がそう言って我らの力添えになると口にしている。私は口では期待しているとは言ったが、心の内では一切の期待はしていない。
何故なら、悪魔の本来の性質は善であるからだ。今の悪魔は我らが神の魔力によってこのように変化しており、当然それは闇に染まったことによるものなので悪になっている。しかし、その代わりとして自身の欲のために裏切ることも多くなっているので、まず信頼は出来ない。
そのため期待することはないが、その動きには意識を向けておくのが良いだろう。目を離せば何をされるかわかったものではないしな。
「では、私は早速行動に移るとします!」
「わかった」
そんな言葉を最後に悪魔は去っていくので、私もそれを確認しつつ自分の目的のために動きだす。私はあのお方の眷属であるため、そこら辺の悪魔とは違って忙しいのでな。




