190話 瘴魔
「なら、〈第七の時〉!」
私は膠着状態になってしまっている今の状況を変えるべく、自身に一つの武技を撃ち込むことでもう一人の私である分身を生み出します。
今のままでは悪魔に対して深手を与えることも出来ませんし、ひとまずは数を増やして攻撃をしてみようと思ったのです。
それに中距離から攻撃していてもあまり有効打にはならないようなので、この状況を変えたくもありますしね。
「「〈第一の時〉!」」
そんな思考をしつつも、私は続けて加速効果持ちの武技も自身へと撃ち込み、その加速した状態を活かして前衛をしていたヴァンさんとアルマさんに協力するかのように私自身も分身と共に接近していきます。
さあ、ここからは私も参加させてもらいますよ!あの悪魔は確実に敵ですし、ここで仕留めなくてはいけません!アルマさんの仇でもあるんですし、絶対に倒してみせます…!
「レアさん!」
「レアちゃん!」
「ここからは私も混ざります!皆で必ずこの悪魔を倒しましょう!」
そう言いながら、私と分身は両手の双銃を悪魔に向けて乱射しつつ接近していきます。
タンクの代わりは依然としてヴァンさんとアルマさんに任せはしますが、それのサポート兼遊撃として私は中距離の時と変わらずに動いていきます。
二人の実力は私よりは低めとはいえ十分に有りますし、サポートもしっかりとして戦えば問題はないでしょう…!
幸いなことに敵である悪魔は未だに厄介な能力を使ってきてはいないので、この調子で倒したいですけど……なんらかの能力は間違いなくありますよね。そのため、警戒は怠りません…!
「ふん、数が増えたところで私の敵ではないぞ!」
悪魔はそのように声に出し、周囲に生み出した闇魔法らしき無数の黒色の槍に加え、両手から生やした黒い爪をも自身へと近づいてくるヴァンさんとアルマさんへと振るいますが、実力者でもある二人にはそう簡単に当たるはずがありません。
「甘いぜ!はっ!」
「ふっ!」
ヴァンさんは飛んできた黒色の槍をぬるりとした動きで回避し、続けて振るわれた黒色の爪も手に装備している籠手で軌道を逸らし、反撃としてもう片方の腕で悪魔へと反撃の一撃を放ちます。
対してアルマさんは、相手である悪魔と同様の黒色の爪で飛んでくる無数の攻撃を相殺し、そのままヴァンさんの援護をするかのように的確に爪を振います。
ヴァンさんもそうですけど、やはりアルマさんもなかなかの実力者なため、タンクとしてはかなり優秀ですね!っと、見てないで私もサポートをしないとですね!
「〈第零・第二の時〉!からの〈第一の時〉!」
私は次使う【時空の姫】の効果を範囲化する武技を自身へと撃ち込んだ後、続けて動きを加速させる武技も使用することで、悪魔を除くここにいる全員に対して加速効果を与えます。
効果時間が短いのが欠点ではありますが、この後の少しの間はスピードが上がるので、これならもっと戦いやすくなるはずです…!
なので、効果時間を切らさないように定期的に使い続けておきましょうか!MP消費も装備や称号のおかげで少ないですし、問題もないですしね!
「ぬ、急に動きが…」
「ナイスだぜ、レアちゃん!」
ヴァンさんの放った反撃の一撃を爪で逸らすことで防いだ悪魔でしたが、そのタイミングで私の付与した効果のおかげで、再び放った悪魔による爪の攻撃をヴァンさんは加速した動きを活かすことで姿勢をズラし、容易に回避します。
そして加速した状態とこちらの速度に慣れていない隙を見て、ヴァンさんは立て続けに両拳による連撃を放ちまくります。
しかもそこにアルマさんまで攻撃に加わるのですから、先程までよりもいいダメージを与えられています。
「わたしたちもいくよ、ライト!」
「はい!〈アクアアロー〉!」
それを後方で見ていたメアさんとライトさんまでもが、加速した動きを活かして無数の弓矢と水の矢を飛ばすのですから、悪魔としてはかなり相手がしづらそうですね!
現に今も、黒色の爪と闇魔法らしき黒炎によってなんとか深手を負わないくらいには対応しているようですが、それでも徐々に傷を負っているのでいいペースです!
とはいえ、ヴァンさんやアルマさん、メアさんにライトさんたちは相応の実力者といってもトップ層よりかは落ちてしまうので、有効打には欠けてしまっていますね。それなら…!
「「私もいきます!〈第三の時〉!」」
それを見て、私はいつのまにか消えていた分身を再び〈第七の時〉によって生み出した後、悪魔に向けて攻撃を開始します。
さあ、このまま攻め続けて倒してみせますよ!もう悪さをさせないために、被害を出さないために、そして何よりもアルマさんの両親の仇として、必ず逃しはしませんっ!
「ちっ、貴様らは厄介だな!…ならば!」
「む、皆さん!悪魔が何かをするつもりです!」
そんな状況を見て悪魔は自身が不利となっているのがわかったようで、そのような言葉と共に自身の身体からドス黒い色の瘴気を溢れ出させ、それを私に向けて放ってきました。
って、私ですか…!?さ、流石にあれに当たっては危なそうですし、避けないとですね…!
悪魔によって生み出されたこの瘴気は間違いなく邪神の力の一端でしょうし、明らかに私が今までに相手をしてきた悪魔たちとは次元が違うようにも感じますしね…!
「「〈第一の時〉!」」
なので、私は分身と共に動きを加速させる武技を自身へと撃ち込み、そのスピードを活かしてフェイントを混ぜた不規則な動きで迫ってくる瘴気を躱していきます。
「それは予測済みだ!」
が、先程までの戦闘によって私の動きは読まれていたらしく、回避した先にも瘴気が迫ってきました。
これは、ヤバいですね…!やはりこの悪魔は今までの悪魔とは違い、かなりの実力者のようです…!ですが、私も今までの経験があるんです!そう簡単に当てれるとは思わないでください…!
「「〈第零・第十一の時〉!」」
迫ってくる瘴気に対応するべく、私は分身と共にさらなる加速をするために一つの武技を自身へと撃ち込みます。
その加速した動きを活かして近づいてくる瘴気を紙一重で回避しつつ、私はそれを放ってきた悪魔へと瘴気の隙間を縫うかのように銃弾を放ち、それは瘴気の操作に意識が向いていたらしい悪魔の右肩を見事に撃ち抜きました。
「ぐっ…!だが…!」
それのおかげで瘴気の動きが鈍くなったので、なくなるかと思った次の瞬間。
悪魔が邪神の瘴気らしき黒色のオーラを身に纏うことで、再び私に対して瘴気の波が押し寄せてきます。
ちっ、あれでは阻止することは出来なかったようですね…!しかも、さっきよりも瘴気が強くなっているようで躱し続けるのも厳しそうです…!
このままではいずれ瘴気に飲み込まれてしまうかと思いますが、ここにいるのは私だけと勘違いしていませんか?
「俺たちを忘れているぜ!〈パワースマッシュ〉!」
「〈悪魔の鋭爪〉!」
「わたしたちもいくよ、ライト!〈スナイプショット〉!」
「はい!〈アクアランス〉!」
「ふん、鬱陶しいぞ!」
ヴァンさん、アルマさん、メアさん、ライトさんによる攻撃が瘴気を纏っている悪魔に向けて放たれ、それらは一瞬ではありますが悪魔の気を引くことに成功します。ほんの瞬き一瞬にも満たしませんが、今はそれだけあれば十分です…!
「〈第零・第七の時〉!」
撃ち抜いた者の幻影を無数に生み出す武技を自身へと撃ち込み、それによって私は今もなお迫ってくる瘴気から距離を取り、完全に回避することが出来ました。
ちなみに、この間で分身は消えてしまっており、今は私一人となっています。
「ちっ、貴様さえ支配すればよかったのだがな」
悪魔は瘴気が当たらなかったことに不満を持っているようですけど、呟いたその言葉に私は少しだけ戦慄してしまいます。
支配さえできれば……つまり、エリナさんのように私に対しても精神支配を試みていたということですよね?ということは、あれに当たっていれば今の状況が最悪なものに変わっていたかもしれませんね。
…情報では知っていましたが、この悪魔の精神支配の能力はかなり危険ですね…!今回は回避出来ましたが、次に使われてしまえば回避することは難しいかもしれないですし、再び使われる前に決めないと危なそうです…!
「やはり、貴様らは強いようだ。であれば、これで始末させてもらおうか!」
一段と警戒を強めた私たちを眺めつつ、悪魔は漆黒色をした巨大なヴェールを自身の背後へと出現させました。
…いきなりヴェールを生み出しましたけど、これはなんでしょうか…?明らかに禍々しい雰囲氣を感じるので危険そうに感じますが……アルマさんなら、知ってたりしませんかね?
「…アレはなんでしょうか?」
「私も初めて見たのでわかりませんね…」
ふむ、どうやらアルマさんも知らないらしいですね。ということは、悪魔とは関係ないということでしょうか。
そう呟きつつ私たちがそれへと警戒を強めたその直後、その巨大な黒色のヴェールの向こう側から瘴気が溢れてきて、それと同時に一体のモンスターがヴェールを潜って現れました。
力強さが感じられる強靭な四肢に首元に生えている黒色の触手、鉄塊すら容易に断ち切れそうなほど立派な爪。そして何よりも私たちへの殺意が込められた紅色の瞳を持つ、今まさに目の前に現れたそのモンスターはそれらが特徴的である、まさに翼のないドラゴンと呼んで差し違えないモンスターのようでした。
「くくく、これは私たちが実験の果てに生み出した、我らが神の力の一部を宿した存在であるカオスドラゴンだ!さあ、やれ!」
「っ!きますよ、皆さん!」
そしてそんなドラゴンに対して悪魔が高らかにそう声に出したので、私は即座に声に出して皆さんへと警戒を即します。どう見てもこのドラゴンは強そうですし、警戒しないとやられてしまいそうです…!
が、その警戒は杞憂だったらしく、ヴェールの奥から現れたドラゴンの首元に生えていた黒色の触手が伸び、私たちではなく悪魔に向けて一気に放たれました。
「なっ…!?何故だ、私は生みの親だぞ!それを…!?」
流石の悪魔も突然のことで躱しきれなかったようで、一瞬にして伸ばされた黒色の触手に捕らえられてしまっています。
このドラゴンは邪神の一部が宿ったモンスターらしいですけど、生みの親らしき悪魔を捕らえているのは何故でしょうか?もしかして、作ったのいいですが制御は出来ていなかった、ということですかね?
それならこの行動に納得出来ますけど……悪魔は切り札の一つとして扱っていたようなので違うように感じますが…?
「ガアアアァ!!」
「何故……ガッ!?」
そんな思考をしつつも警戒して遠くから悪魔を見ていた私たちでしたが、触手が絞められることで悪魔のHPが全て消し飛ばされ、そのままポリゴンへと変わっていきました。
HPが結構減っていたとはいえ、その締め上げる一撃だけで倒すとは……この邪神の一部らしきモンスターはかなりの強さのようですね。
…それに、なんというかあの悪魔は少しだけ惨めに感じますね。自分の実験成果に裏切られた後に殺されて消滅という、なんとも呆気ない最期のようですし。
まあ数々の悪さをしていたようですし、この結果は自業自得でしょうけど。というか、悪魔がポリゴンとなって消えたために黒色のヴェールは消えてしまいましたが、未だにドラゴンは健在のため、これは倒さないといけなさそうですかね…?明らかに強そうなので遠慮したいのですけど…
「ガアアアァ!!」
悪魔をその手で倒したにも関わらず咆哮をあげているドラゴンですけど、なんだか様子がおかしいですね…?もしかして、宿っていると思われる邪神の力の一部のせいで精神が狂っていたり…?
悪魔は精神支配が得意のようだったので、その悪魔がいなくなったせいで暴走状態になった可能性もありますね。なら、今のうちに鑑定をしてみますか。
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カオスドラゴン ランク B
空が近い山の山頂に生息している竜……のはずが、何者かによって闇の力に染められたことで特殊な種族となっている。
本来はその強靭な身体によって狩りを行うモンスターだが、この個体は数多の闇に染められたことによって闇の力も操るようになった。
加えて身体の内には未だに取り込まれた無数の生命体もいるらしく、それらが今もなお身体を蝕んでいる。
状態:暴走
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ふむ、鑑定で見たところ、この暴走状態は取り込まれている無数の生命体のせいのようですね。しかもこのドラゴンも例に漏れず闇に染められているため、普通よりも精神が狂っているとみてよさそうです。
なら、敵であった悪魔が支配していたドラゴンとはいえ、このまま苦しそうにしているのを見るのは心苦しいですし、私たちの手で眠らせてあげるとしますか…!それに、このまま放置しておくのも危険ですしね…!
そのうえ身体の中にはまだ生命体がいるということですし、このドラゴンを倒せばそれらは解放されるということだと思うので、倒すことは決まりですね!




